チャイの横で冷めてもおいしい、旅に強い平焼きパン
朝の台所で粉をこねるとき、パンのように大きく膨らませる気配はありません。小麦粉に刻んだメティを混ぜ、ヨーグルトと油でしっとりまとめ、めん棒で薄くのばしてフライパンにのせる。片面が乾き、小さな泡が浮き、茶色い斑点がぽつぽつ出るころ、青い葉の香りとクミンの香りが立ってきます。
テープラ(Thepla / થેપલા)は、インド西部グジャラートで親しまれる平焼きパンです。よく知られるのはメティ、つまりフェヌグリークリーフを練り込むメティ・テープラ。ロティやチャパティに近い見た目ですが、ヨーグルト、油、スパイスが生地に入るので、冷めても硬くなりにくく、弁当や旅行の携帯食にも向きます。
日本で作るときの難所は、メティの入手、全粒粉の扱い、焼きすぎによる硬さです。生のメティが手に入れば一番現地に寄りますが、輸入食材店で見つからない日も多い。この記事では、生メティ版を基本にしつつ、ほうれん草とカスリメティで香りを補う配合も載せます。粉はインドのアタ粉が理想ですが、国産全粒粉と薄力粉を混ぜる作り方でも、薄くしなやかなテープラに近づけます。
グジャラート語では થેપલા と書き、英語圏では thepla、methi thepla と表記されます。本記事では日本語の読みやすさを優先して「テープラ」を主表記にし、メティ入りの基本形を扱います。
作り方:薄く伸ばして、短く焼く
作り方は6ステップです。材料の分量表は次のセクションにまとめています。硬くなる原因の多くは、水分不足、厚すぎる成形、焼きすぎです。生地を強く押しすぎず、焼き時間を短くすることを意識してください。
所要時間8分
生メティ80gは太い茎を外し、水で洗ってから布巾で水気を押さえます。葉は2〜3mm幅に細かく刻みます。ほうれん草を使う場合は、葉を2〜3mm幅に刻み、手でぎゅっと握って余分な水分を出してから60gにします。水気が多いまま入れると生地がべたつき、後で打ち粉が増えて硬くなります。

- 粉とスパイスを混ぜる
所要時間6分
大きなボウルに全粒粉220g、ベサン20g、塩5g、クミンシード3g、白ごま8g、ターメリック1g、チリパウダー1g、アムチュール2gを入れて手で混ぜます。粉の色が均一になり、クミンとごまが一か所に固まらない状態にします。刻んだメティ、すりおろししょうが8g、青唐辛子のみじん切りを加え、葉が粉を薄くまとってさらっとするまで混ぜます。

- ヨーグルトと水でこねる
所要時間9分
ヨーグルト70g、サラダ油25ml、水35mlを加え、指先で押すようにまとめます。粉っぽさが残る場合だけ水を5mlずつ足し、合計55mlを上限にします。3分ほどこねて、表面がなめらかになり、指で押すとゆっくり戻る柔らかさにします。手に少し付く程度なら正常です。台から持ち上げられないほどべたつく場合は、全粒粉を小さじ1ずつ足します。

- 休ませて薄く伸ばす
所要時間18分
生地に油を薄く塗り、布巾をかけて10分休ませます。8等分して1個約48〜52gに丸め、打ち粉を軽く振った台に置きます。めん棒で直径16〜18cm、厚さ1.5〜2mmの円形に伸ばします。完全な丸でなくて構いません。大事なのは厚みを均一にすることです。縁が厚いと、中心だけ先に乾いて外側が粉っぽく残ります。

- 片面を乾焼きする
所要時間8分
鉄のフライパンまたは厚手のフライパンを中火で2分予熱し、表面温度180〜200℃を目安にします。水を1滴落としてすぐ蒸発するくらいになったら、伸ばした生地を1枚のせます。油はまだ入れません。30〜45秒で表面が少し乾き、小さな泡が浮き、裏に薄い焼き色が出たら返します。ここで長く焼くと水分が抜けすぎます。

- 油を薄く塗って仕上げる
所要時間10分
返した面に焼き油を小さじ1/2弱、スプーンの背で薄く広げます。弱めの中火に落とし、30〜45秒焼いたら再度返し、反対側にも油を小さじ1/2弱塗ります。両面に茶色い斑点が出て、縁が乾ききる前に取り出します。焼き上がったら布に包んで重ね、蒸気でしっとりさせます。8枚すべて同じように焼き、フライパンが熱くなりすぎたら一度火を止めて30秒休ませます。

油を多く入れるとパリッとしますが、テープラらしいしなやかさは失われます。目安は1枚あたり合計小さじ1弱です。フライパンに油がたまる状態になったら、キッチンペーパーで軽く拭いてから次を焼きます。
買い出しで迷う材料:最初はアムチュール、クミン、めん棒

テープラは、粉やヨーグルトよりも、酸味と香りで差が出ます。近所のスーパーで買える小麦粉、ヨーグルト、油は商品カードにせず、インド料理を続けると使い回しやすい材料だけを選びます。
アムチュールは乾燥マンゴーの粉です。レモン汁でも酸味は出せますが、アムチュールは水分を増やさず、生地の中に乾いた酸味を入れられます。チャナマサラやパニプリにも回せるので、インド料理を続けるなら持っておく価値があります。
クミンシードは粉ではなく粒で入れると、生地の中で噛んだときに香りが立ちます。ダル・タドカやアロゴビでも使うので、最初のホールスパイスとして無駄になりにくいです。
テープラは薄く均一に伸ばすほど、短時間でしなやかに焼けます。ワインボトルでも代用できますが、油を含む生地は意外と台に付きやすいので、軽い木製めん棒があると作業が安定します。
栄養の目安
8枚に分けた場合の1枚あたりの目安です。ヨーグルト、油、焼き油を含めた家庭計算なので、粉の種類や焼き油の量で変わります。
| 項目 | 1枚あたり |
|---|---|
| エネルギー | 約154kcal |
| たんぱく質 | 約4.6g |
| 脂質 | 約5.4g |
| 炭水化物 | 約23.0g |
| 食物繊維 | 約3.2g |
| 食塩相当量 | 約0.7g |
テープラは平焼きパンなので軽く見えますが、油とヨーグルトが入るぶん、チャパティより満足感があります。夕食で食べるなら、2枚にダル・タドカか野菜のおかずを添えると主食としてまとまります。
この料理の背景:グジャラートの家庭と旅支度

グジャラート料理は、豆、穀物、乳製品、野菜を組み合わせる菜食の料理が厚い地域です。甘み、酸味、辛みを同じ食卓で重ねることも多く、テープラにもその性格が少し見えます。生地にヨーグルトで酸味を入れ、アムチュールで乾いた酸味を足し、青唐辛子やチリで軽く辛みを置く。シンプルな平焼きパンですが、ただの小麦粉の焼きものでは終わりません。
WikipediaのThepla項目では、テープラはグジャラートの平焼きパンとして紹介され、メティ、スパイス、ヨーグルトなどを加えて作られる料理として整理されています。Dassana's Veg RecipesやEpicuriousの調理記事でも、テープラは朝食、軽食、旅行用の携帯食として扱われています。ここが日本の台所で理解しておきたいところです。焼きたてだけを狙うパンではなく、冷めた後も割れにくく、ヨーグルトや漬物と一緒に食べられる家庭の保存食に近い。
メティはフェヌグリークの葉です。種のフェヌグリークはカレー粉にも使われますが、葉はより青く、少しほろ苦い香りがあります。生の葉は日本では常時手に入りません。だからといって香りを完全に諦める必要はなく、ほうれん草や小松菜で葉の水分と色を補い、乾燥カスリメティを少量混ぜると、かなり雰囲気が近づきます。
現地らしさを守るなら、薄さと保存性を意識します。厚く焼くと中が重く、冷めたときに粉っぽくなります。水を入れすぎると伸ばしやすい代わりに破れやすく、焼き時間が長くなって硬くなる。生地は「やわらかいけれど、台から持ち上げられる」くらいが目安です。
日本の台所で本場に寄せる分岐表
テープラを一度作ると、次に迷うのは「どこまで材料を現地寄せにするか」です。全部を輸入食材にする必要はありません。ただし、葉の香り、粉の薄さ、冷めても割れない水分だけは押さえると、ただの野菜入り薄焼きパンになりません。
| 迷うところ | 現地寄せ | 日本での落とし所 | 味への影響 |
|---|---|---|---|
| 葉 | 生メティ | ほうれん草+カスリメティ3g | 色は出る。ほろ苦い香りは乾燥葉で補う |
| 粉 | アタ粉 | 全粒粉+薄力粉 | 薄力粉を混ぜると伸ばしやすく、冷めても割れにくい |
| 酸味 | アムチュール | レモン汁を焼き上がりに少量 | 生地の中の酸味は弱くなるが重さは減る |
| 油脂 | 生地にも焼きにも油 | 生地油は守り、焼き油を薄くする | 保存性と柔らかさは生地油が支える |
| 道具 | タワ、チャクラ、ベラン | 厚手フライパン、木製めん棒 | 予熱と薄さを守れば家庭道具で十分 |
| 食べ方 | ヨーグルト、アチャール、チャイ | ライタ、漬物、豆カレー | 酸味と乳製品を添えると食べ飽きにくい |
生地にヨーグルトを入れるのは、味だけでなく柔らかさのためでもあります。水だけでこねると、焼きたては軽くても冷めると割れやすい。ヨーグルトと油を入れると、少ししっとりして、翌朝でも布に包んで温め直せます。
青唐辛子を抜く場合は、チリパウダー0.5gだけ残すと香りが平らになりません。子ども向けに完全に辛みを抜くなら、しょうがを10gに増やし、クミンを4gにします。辛さではなく、香りの逃げ道を作る感覚です。
固くなる原因と直し方

テープラの失敗は、焦げるよりも硬くなるほうが多いです。見た目は焼けているのに、冷めると割れる。これは水分、厚さ、焼き時間のどれかがずれています。
| 失敗 | 起きやすい原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 冷めると割れる | 水分不足、粉の足しすぎ | 次回は水を5〜10ml増やし、打ち粉を減らす |
| 中が粉っぽい | 厚い、火が強すぎて表面だけ焼けた | 直径16〜18cmまで伸ばし、中火で短く乾焼きする |
| 葉の苦みが強い | メティやカスリメティの入れすぎ | 生メティは80g、乾燥葉は3gから始める |
| 油っぽい | 焼き油を多く入れた | フライパンに油をためず、スプーンの背で薄く塗る |
| 香りが弱い | クミンを粉だけにした、酸味がない | クミンシードとアムチュールを少量使う |
焼きすぎたテープラは、そのまま食べるより、細く切ってヨーグルトに添えると食べやすくなります。翌日に硬くなった場合は、濡らして固く絞ったキッチンペーパーで包み、電子レンジ600Wで20〜30秒温めます。そのあと乾いた布で包むと、少ししなやかさが戻ります。
食べ方と保存:ヨーグルト、漬物、豆料理につなげる
焼きたてのテープラは、そのままでも香りがあります。けれど現地の食卓に寄せるなら、ヨーグルトかライタ、アチャール、チャイを添えると急に輪郭が出ます。辛い漬物の塩気、ヨーグルトの酸味、メティのほろ苦さが合わさると、薄い平焼きパンが軽食ではなく一皿の食事になります。
夕食にするなら、ダル・タドカやキチュリの横に置くと、主食と副菜の間をうまく埋めます。スパイスをもう少し強くしたい日はチャナマサラと合わせる。揚げ物の横に軽い平焼きパンが欲しいときは、サモサやタンドリーチキンの付け合わせにもつながります。
保存する場合は、粗熱が取れたら1枚ずつ軽くずらして重ね、布またはキッチンペーパーで包みます。室温は半日、冷蔵は2日が目安です。冷凍するなら1枚ずつラップで挟み、保存袋で2週間。温め直しは、フライパンなら弱火で片面20〜30秒ずつ、電子レンジなら600Wで20〜30秒。温めすぎると水分が飛ぶので、短く戻すのがコツです。
作り置き向けにするなら、焼き色は少し浅めで止めます。食べる直前にフライパンで再加熱すると、そこで焼き色が足されるからです。最初から濃く焼くと、翌日の再加熱で乾きすぎます。
FAQ
Q. テープラとチャパティの違いは何ですか?
チャパティは基本的に粉、水、塩で作る日常の平焼きパンです。テープラは、メティ、ヨーグルト、油、スパイスを生地に入れるため、香りが強く、冷めても食べやすいのが特徴です。食事の主食にも、旅や弁当の軽食にもなります。
Q. 生メティが手に入りません。ほうれん草だけで作れますか?
作れます。ただし、ほうれん草だけだとメティ特有の香りは弱くなります。ほうれん草60gに乾燥カスリメティ3gを足すと、葉の量と香りの両方を補いやすいです。小松菜でも作れますが、水分が多いので刻んだ後にしっかり絞ってください。
Q. アムチュールなしでも作れますか?
作れます。生地には入れず、焼き上がった後にレモン汁5mlを少量ずつ垂らすと、重さが抜けます。ただしアムチュールは水分を増やさず酸味を入れられるので、生地の扱いやすさでは有利です。
Q. 生地がべたついて伸ばせません。
水を一度に入れすぎた可能性があります。全粒粉を小さじ1ずつ足し、5分休ませてから伸ばしてください。休ませると粉が水分を吸い、扱いやすくなります。打ち粉だけで解決しようとすると表面が乾いて、焼いた後に硬くなります。
Q. フライパンは何を使えばよいですか?
鉄フライパンや厚手のフライパンが向きます。薄いフッ素加工フライパンでも作れますが、温度が上がりすぎると表面だけ焦げるので、中火で予熱し、焼いている途中で弱めの中火へ落としてください。油を多く入れて揚げ焼きにしないことが大事です。
Q. 翌朝の弁当に入れても大丈夫ですか?
粗熱を取ってから布またはキッチンペーパーで包み、冷蔵保存したものを朝に軽く温め直すと扱いやすいです。湿気がこもると表面がべたつくので、熱いまま密閉しないでください。ヨーグルトやライタを添える場合は、別容器に分けます。






