青い香りが立つと、台所が少しだけタイになる
夕方の台所で、缶の上に固まったココナッツクリームを鍋へ落とします。白い泡がふつふつし始めたところへグリーンカレーペーストを入れると、最初は少し青臭く、次第に唐辛子、レモングラス、こぶみかんの皮の香りが丸くなります。木べらで鍋底をなでるたびに薄い緑の油が点々と浮く。その瞬間が、家庭のグリーンカレーを一段おいしくする合図です。

グリーンカレーはタイ語でแกงเขียวหวาน、ローマ字ではkaeng khiao wanと書きます。直訳すると「甘い緑の汁物」に見えますが、ここでいう「หวาน」は砂糖の甘さだけではなく、淡くやわらかな緑色を指す言い方として説明されます。だから、砂糖を増やして甘いカレーにするより、青唐辛子と香草の色、ココナッツの白さ、ナンプラーの塩気をどうまとめるかが大事です。
日本で作るときの難所は3つあります。市販ペーストを生っぽいまま煮てしまうこと、ココナッツミルクを強く沸かしてざらつかせること、日本のなすを煮崩してソースを黒くしてしまうことです。反対にいえば、ペーストを油で起こし、鶏肉を先に火入れし、野菜を後半で短く煮れば、専門店の一皿にかなり近づきます。
ゲーンペットが赤唐辛子の香ばしさで押すカレーなら、グリーンカレーは青唐辛子とバジルの香りで軽く抜けます。マッサマンカレーほど甘く重くなく、トムカーガイほど酸味を前に出しません。ご飯にかけたとき、辛いのに箸が止まらない青いココナッツカレーです。
守りたいのは、グリーンカレーペーストをココナッツの油で炒めること、こぶみかんの葉を煮込みすぎず香りを残すこと、バジルを火を止めてから入れることです。鶏肉、なす、竹の子は代替できますが、この順番を崩すと味がぼやけます。
レッドカレーと何が違うのか

タイ語のแกงは、汁物やカレーに近い広い言葉です。日本語の「カレー」から想像する粉末スパイス料理だけではなく、香味野菜と唐辛子を潰したペーストを使う料理も多く含みます。グリーンカレーは中央タイの共有料理として紹介され、青唐辛子、ココナッツ、タイバジル、鶏肉や魚団子と結びつくことが多い料理です。
| 料理 | 現地語名 | 香りの中心 | 日本で作る時の注意 |
|---|---|---|---|
| グリーンカレー | แกงเขียวหวาน | 青唐辛子、バジル、こぶみかん、ココナッツ | ペーストを生煮えにせず、バジルは最後に入れる |
| レッドカレー | แกงเผ็ด | 乾燥赤唐辛子、レモングラス、こぶみかん、ココナッツ | 赤い油を出し、辛さだけで終わらせない |
| マッサマンカレー | แกงมัสมั่น | ココナッツ、肉、じゃがいも、焙煎スパイス | 甘さとスパイスが重いので煮込み向き |
| トムカーガイ | ต้มข่าไก่ | ガランガル、レモングラス、ココナッツ、酸味 | カレーではなくスープ。ライムは最後に立てる |
本場ではペーストを手で潰す家庭もあります。青唐辛子、にんにく、エシャロット、ガランガル、レモングラス、こぶみかんの皮、コリアンダーの根、クミン、白こしょう、えびペーストを石臼で潰すと、香りは強く、色も鮮やかになります。ただし日本の家庭で毎回そこまで揃えると、作る前に疲れてしまいます。
このレシピでは、市販ペーストを使う前提にします。その代わり、こぶみかんの葉、バジル、ナンプラー、缶ココナッツミルクはきちんと使います。全部を手作りするより、「市販ペーストの弱いところをどこで補うか」を決める方が、平日の台所では実用的です。
買い出しで迷う材料
グリーンカレーで通販を見る価値があるのは、鶏肉やなすではなく香りの芯です。スーパーで買える肉や野菜は近所で選び、見つからない香草とタイ調味料だけを補うと、買い出しが重くなりません。

| 優先度 | 買うもの | 理由 | 余ったときの行き先 |
|---|---|---|---|
| 1 | グリーンカレーペースト | 料理名の土台。赤や黄色で代えると別料理になる | 炒め麺、鶏肉炒め、チャーハン |
| 2 | こぶみかんの葉 | 柑橘の青い香りが入り、カレーが重くならない | トムヤムクン、トムカーガイ、カオソーイ |
| 3 | ココナッツミルク | ペーストを炒め、ソースの丸みを作る | ラクサ、アモック、カノムターン |
| 4 | ナンプラー | 塩だけでは出ない魚醤のうま味を足す | ガパオ、ソムタム、パッタイ |
グリーンカレーペーストは、純正の商品カードを確認できるものがなかったため、ここでは買い出し説明に留めます。大型スーパー、カルディ、アジア食材店で探すなら、まず小さめの瓶や袋を選びます。大容量は割安ですが、開封後に青い香りが落ちます。初回は40g前後で使い切りやすいものの方が、次に作る時まで香りを保ちやすいです。
こぶみかんの葉は、なくても作れますが、あると香りの立ち方が一段変わります。冷凍品なら1枚ずつ使いやすく、トムヤムクンにも使い回せます。
ココナッツミルクは油を出す工程に関わります。紙パックで油が出にくいときは、缶タイプに替えると香りの出方が安定します。
ナンプラーは、塩では出せない魚醤のうま味を担当します。小瓶で十分なので、醤油だけに置き換えず、少量でも入れてください。
代替食材と本場に寄せる分岐
グリーンカレーは、具材の自由度が高い料理です。ただし、どの具材でも同じ煮方にすると、鶏肉は固く、野菜は崩れます。肉と野菜の火通りに合わせて順番を変えると、家庭でもかなり安定します。

| 変えたい材料 | 使い方 | 加熱の目安 |
|---|---|---|
| 鶏むね肉 | そぎ切りにして野菜と同時に入れる | 弱めの中火で5から6分。中心まで白くなったら止める |
| 豚薄切り肉 | 3cm幅に切り、鶏肉の代わりにペーストへ絡める | 中火で表面の色が変わってから煮る |
| 厚揚げ | 3cm角に切り、野菜と同時に入れる | 弱めの中火で5分。表面にソースが絡めばよい |
| タイなす | 四つ割りにして水にさらす | 5分前後。皮がつやっとしたら煮すぎない |
| 日本のなす | 3cm以上の乱切りにする | 5から7分。小さく切ると黒く崩れやすい |
| バジルなし | 大葉は使わず、香りはこぶみかんの葉を1枚増やす | 大葉は和風に寄るので卓上の薬味にしない |
タイなすが手に入るなら、ぜひ一度使ってください。丸いタイなすは皮が張っていて、ココナッツソースの中でも形が残りやすく、噛むとほろ苦さが出ます。日本のなすはやわらかく、ソースをよく吸います。悪い代替ではありませんが、小さく切るとすぐ崩れるので、大きめに切って後半で入れるのが向いています。
ペーストを一から作る場合は、青唐辛子、にんにく、エシャロット、ガランガル、レモングラス、こぶみかんの皮、コリアンダーの根、白こしょう、クミン、えびペーストを使います。日本ではコリアンダーの根やこぶみかんの皮が難しいので、初回から完璧を狙うより、市販ペーストにこぶみかんの葉とバジルを足して香りを補う方が失敗しません。
カオソーイのように麺で食べたい日は、グリーンカレーを少し濃いめに作り、そうめんや米麺にかけても合います。ただし、現地でよく見られるカノムジーンに寄せるなら、麺に対してソースを多めにし、きゅうりやもやしを横に置くと重さが抜けます。
失敗原因|緑が鈍い、水っぽい、辛すぎる
グリーンカレーの失敗は、材料不足よりも火加減と順番で起きます。緑がくすむ、水っぽい、辛いだけ、なすが黒い。この4つは、鍋の中で何が起きているかを見ると直しやすくなります。

緑の油が出ない
缶のココナッツミルクが均一に乳化しているか、火が弱すぎる可能性があります。ペーストを入れる前に中火でココナッツクリームを2分ほど煮詰め、それでも油が出ない場合はサラダ油小さじ2を足して炒めます。大切なのは油を大量に出すことではなく、ペーストの生っぽさを飛ばし、香りを丸くすることです。
水っぽい
水を足しすぎたか、野菜から水分が出ています。ふたをせず弱めの中火で3から5分煮詰め、表面に緑の油が戻るまで待ちます。ナンプラーを先に足すと塩辛いだけになるので、先に水分を飛ばし、最後に塩気を調整してください。
辛すぎる
砂糖を増やすだけでは辛さは消えません。ココナッツミルク100ml、水50ml、ナンプラー小さじ1を足し、弱めの中火で3分煮て全体をなじませます。次回はペーストを30から35gにして、唐辛子は食卓で足す形にすると失敗しにくいです。
なすが黒く崩れる
なすを小さく切りすぎたか、最初から長く煮ています。3cmの乱切りにし、鶏肉に火が通ってから入れます。日本のなすはタイなすより柔らかく、煮汁を吸いやすいので、皮につやが出て中心が柔らかくなり始めた時点で止めると、色も食感も残ります。
保存とFAQ
グリーンカレーは翌日もおいしい料理ですが、ご飯と一緒に保存すると水分を吸って重くなります。カレー、ご飯、香草を分けるだけで、温め直したときの香りが変わります。

カレーは粗熱を取ってから清潔な保存容器に入れ、冷蔵で2日以内に食べ切ります。温め直しは弱火で5から7分、鍋底をこするように混ぜ、強く沸騰させません。電子レンジなら600Wで2分温め、一度混ぜてからさらに1分。鶏肉の中心まで熱くなり、表面に緑の油が戻れば食べられます。
冷凍する場合はカレーだけを2から3週間まで。なすは解凍後に柔らかくなるので、冷凍前提なら竹の子や厚揚げを多めにする方が食感が残ります。バジルは冷凍せず、温め直したあとに足します。
子どもや辛さが苦手な家族にはどうする?
ペーストを25gに減らし、ココナッツミルクを500mlに増やします。大人は食卓で唐辛子やナンプラーを足す形にすると、同じ鍋で調整できます。辛さを薄めるために砂糖を増やしすぎると甘いカレーになるので、ココナッツミルクで薄める方が自然です。
レッドカレーペーストで作ってもよい?
作れますが、料理名としてはゲーンペットに近づきます。赤唐辛子と乾いた香りが前に出るため、青唐辛子、バジル、こぶみかんの軽さとは別の料理です。グリーンカレーとして作る日は、グリーンカレーペーストを使ってください。
日本米でも合う?
合います。日本米は粘りがあるため、カレーを少なめにかけると食べやすくなります。タイ米を使うと香りが軽く、辛さとココナッツの油がほどけやすいので、週末に本場寄りにしたい日はジャスミンライスが向きます。
こぶみかんの葉は食べる?
香りを出すために入れる葉なので、硬い葉脈が気になる場合は器でよけます。細かく切らず、大きく裂いて入れると食べる時に取り出しやすくなります。細かく刻むと香りは出ますが、口に残りやすいので家庭では大きめが扱いやすいです。













