オーブンの奥で、肉と野菜が同じ鍋になる
日曜日の午後、じゃがいもを大きめに切り、なすとズッキーニを皮ごとごろっと置くと、まな板の上が急に市場の箱のようになります。そこへ焼き目をつけた豚肩ロースと赤いパプリカのソースを重ね、耐熱皿ごとオーブンへ入れる。しばらくして台所に戻ると、トマトの酸味が丸くなり、肉の脂が野菜の角へ染みて、鍋を開ける前から食卓の支度が始まっています。

トゥルリ・タヴァ(Turli Tava / Турли тава)は、北マケドニアをはじめとするバルカン周辺で食べられる、肉と季節野菜のオーブン焼きです。tava は鍋や焼き皿の意味で、料理名は「いろいろ入ったタヴァ」と覚えると入りやすいです。肉は豚、牛、子羊、鶏など家庭や店で変わり、野菜もじゃがいも、なす、ズッキーニ、パプリカ、トマト、オクラ、にんじんなど、その季節のものを大きめに入れます。
日本で作るときの難所は、味ではなく水分です。なす、ズッキーニ、トマトを同じ皿に入れるので、何も考えずに焼くと「焼き野菜の煮汁」になりやすい。この記事では、肉を先に焼く、ソースを少し煮詰める、最初はふたをして中まで火を入れ、最後はふたを外して焼き締める、という順で作ります。土鍋や現地の陶器がなくても、20cmから28cm前後の耐熱皿と家庭用オーブンで、食卓に出せる濃さまで持っていけます。
似た台所の流れを先に知りたい場合は、北マケドニアの豆料理タヴチェ・グラヴチェを見ると、タヴァで焼き締める感覚がつかみやすいです。肉の焼き目を赤いソースへ移す方向なら、セルビアのムチカリツァも近い料理です。
現地紹介でも、肉と野菜の組み合わせはかなり幅があります。この記事では日本で材料をそろえやすく、焼き時間を読みやすい豚肩ロースを主役にします。子羊や牛肉を使う家庭の味を否定するものではなく、初回に失敗しにくい配合へ寄せた家庭版です。
どんな料理か
トゥルリ・タヴァは、トマト煮込みを作ってから皿へ移す料理というより、肉、野菜、ソースをひとつのタヴァでなじませる料理です。WikipediaやTasteAtlasの説明でも、北マケドニア、バルカン、オーブン焼き、肉と野菜の組み合わせという点が共通しています。Macedonian Cuisine の家庭レシピでは、肉と野菜を重ねてオーブンへ入れる流れが中心です。
名前の近いトルコ語の türlü は、いろいろな野菜を合わせる料理名として広く見られます。バルカン側の Turli Tava もその延長にありますが、ここで守りたいのは「肉の焼き目」「パプリカとトマトの赤いソース」「最後に焼き皿で締めること」です。ラタトゥイユのように鍋でやわらかく煮る方向へ寄せすぎると、見た目は似ても、食卓でパンを差し込みたくなる焼き皿の香りが弱くなります。
大事なのは、野菜を細かくしすぎないことです。じゃがいもは2.5cmから3cm、なすとズッキーニは厚めの半月、パプリカは大きい乱切りにします。細かく切ると早く火は通りますが、焼いている間に水分が出て、皿の中で全部が同じ赤い煮物になります。トゥルリ・タヴァのおいしさは、じゃがいもはソースを吸い、なすは少し崩れ、肉は焼き目を残し、パプリカは甘くなる、という別々の表情が同じ皿にあることです。
現地ではパン、白いチーズ、サラダ、ヨーグルト系の付け合わせと出ることが多いです。日本の食卓なら、バゲットやカンパーニュ、きゅうりとトマトのサラダ、プレーンヨーグルトに塩を少し混ぜたものが合います。ごはんにのせても食べられますが、初回はパンでソースをすくう方が、バルカンの焼き皿らしさを感じやすいです。
買い出しで迷うもの

肉と野菜は近所のスーパーで十分です。通販で見る価値があるのは、アイバル、スモークパプリカ、焼き皿です。アイバルはバルカンでよく使われる赤パプリカのペーストで、トマトだけでは出にくい甘い赤さを足してくれます。必須ではありませんが、入れると「トマト味の野菜焼き」から「パプリカの焼き皿」に寄ります。
初回の優先順位は、甘口パプリカパウダー、アイバル、耐熱皿です。スモークパプリカは、直火で焼いた肉や野菜の香りが足りないと感じたときの補助です。手持ちのグラタン皿が深く、ふた代わりのアルミホイルをしっかりかぶせられるなら、新しく皿を買う必要はありません。
スモークパプリカは小さじ1/2で十分です。炭火の香りを補う材料なので、主役にすると燻製粉の匂いが勝ちます。甘口パプリカが土台、スモークパプリカは最後に少しだけ、という使い分けにすると失敗しにくいです。
陶器のタヴァがなくても、深さ4cm以上の耐熱皿なら作れます。直火にかける皿ではなく、オーブンに入れられる皿であることを確認してください。
日本の台所で本場に寄せる分岐表
| 迷うところ | 守ること | 代替してよいこと |
|---|---|---|
| 肉 | 表面に焼き目をつける | 豚肩ロースを子羊、牛肩ロース、鶏もも肉に替える |
| タヴァ | オーブンで焼き締める | 陶器のタヴァを耐熱グラタン皿に替える |
| 赤い味 | 甘口パプリカとトマトの土台を作る | アイバルがなければ、焼きパプリカまたはトマトペーストを増やす |
| 野菜 | 大きめに切り、水分を出しすぎない | オクラをいんげん、ズッキーニをかぼちゃ少量に替える |
| 食べ方 | パンかサラダを添え、ソースを受ける | 白ごはんに合わせる場合は、ソースを少し濃いめにする |
アイバルがない場合は、トマトペースト大さじ1、甘口パプリカ小さじ1、オリーブ油小さじ1を混ぜて使います。赤パプリカを魚焼きグリルで皮が黒くなるまで焼き、皮をむいて刻めるなら、さらに近づきます。ケチャップは甘さと酢が前に出るので、この料理では代替にしない方がまとまりやすいです。
肉を替える場合は、焼き時間も変えます。牛肩ロースは同じ大きさで作れますが、固い部位なら前半の蒸し焼きを10分延ばします。鶏もも肉は3.5cm角に切り、工程2の焼き時間を片面1分30秒に短くし、工程6で中心75度以上を確認します。子羊は香りが強いので、ローリエを半分にし、仕上げにレモンを少し添えると食べやすくなります。
失敗しやすいところ

一番多い失敗は、水っぽくなることです。原因は三つあります。野菜を小さく切りすぎる、ソースを煮詰めずに入れる、最後にふたを外して焼く時間が短い。この料理は水分の多い野菜をたくさん使うので、最初の水は150mlで止めます。焼く前に皿底へたぷたぷ水が見えるなら、すでに多すぎます。
肉が固い場合は、焼き目をつける段階で火を通しすぎているか、赤身の強い部位を小さく切りすぎています。工程2では表面だけ焼き、中は半生で皿へ戻します。肉の中心まで火を通すのはオーブンの仕事です。豚こまや薄切り肉で作ると、肉の存在感より脂と繊維が先に出るので、できれば塊を切ってください。
味がぼやける場合は、塩ではなく香りの不足を疑います。パプリカ粉を焦がさない程度に弱火で炒め、トマトの酸味を4分から5分飛ばします。焼き上がりに塩だけを足すと、皿底の汁がしょっぱく、野菜の中は薄いままになりがちです。仕上げで調整するなら、塩ひとつまみとレモン数滴、刻みパセリの方が輪郭が戻ります。
保存と翌日の食べ方

保存は、粗熱を取ってから浅い容器に移し、冷蔵で2日以内です。豚肉と野菜の水分が多い料理なので、室温に長く置かないでください。冷凍はできますが、じゃがいもとなすの食感が崩れます。冷凍するなら、じゃがいもを少なめにし、1食分ずつ平たく分けます。
温め直しは、オーブンなら180度で12分、電子レンジなら1人分を600Wで2分温め、一度混ぜてさらに40秒が目安です。冷えるとソースが固く見えますが、温まると戻ります。水を足すなら大さじ1までにし、足しすぎた場合は小鍋へ移して中火で2分煮詰めます。
翌日は、パンにのせて軽いオープンサンドにするのが楽です。ヨーグルトを小さじ2ほど添えると、赤いソースの油脂が切れて食べやすくなります。ごはんに合わせるなら、少し粗くつぶして温め、黒こしょうとパセリを足すと、弁当の主菜にも回せます。
よくある質問
アイバルなしでも作れますか?
作れます。トマトペースト大さじ1、甘口パプリカ小さじ1、オリーブ油小さじ1を混ぜ、工程3でトマトと一緒に入れます。赤パプリカを焼いて刻めるなら、より近づきます。アイバルは近道ですが、トゥルリ・タヴァそのものは季節野菜と肉を焼く家庭料理なので、ないから作れない料理ではありません。
オーブンがない場合はどうしますか?
深めのフライパンで作れます。工程4で具材をフライパンへ戻し、ふたをして弱めの中火で25分、じゃがいもに竹串が通るまで蒸し煮にします。その後ふたを外し、中火で8分から10分、底を焦がさないように水分を飛ばします。ただし上面の焼き色はつかないので、オーブン版より煮込み寄りになります。
オクラは必要ですか?
必須ではありません。現地の家庭版では季節野菜が変わるので、オクラを抜いても成立します。ただし、オクラを入れるとソースが少しまとまり、皿底の水分が浮きにくくなります。抜く場合は、ズッキーニを増やすより、じゃがいもを50g増やす方が水分バランスは安定します。
辛くできますか?
できます。工程3で一味唐辛子小さじ1/4、または種を抜いた青唐辛子1本を加えます。辛味を入れる場合も、スモークパプリカを増やして辛くしようとしないでください。燻製の香りが強くなり、野菜の甘さが隠れます。
前日に仕込めますか?
工程4まで仕込み、冷蔵で半日置くことはできます。焼く直前に室温へ20分置き、冷たいままなら工程5を5分延ばします。焼き上げまで済ませて翌日食べる場合は、温め直しでソースが固くなりやすいので、皿に移してから水大さじ1を回しかけ、180度のオーブンで温めます。
参考にした現地情報
- Wikipedia, "Türlü": https://en.wikipedia.org/wiki/T%C3%BCrl%C3%BC
- TasteAtlas, "Turli Tava": https://www.tasteatlas.com/turli-tava
- Macedonian Cuisine, "Turlitava": https://www.macedoniancuisine.com/2016/01/turlitava.html
次に作るなら
北マケドニアのタヴァ料理を続けるなら、豆を焼き締めるタヴチェ・グラヴチェが自然な次の一皿です。肉と赤いソースの方向を比べるなら、セルビアのムチカリツァへ進むと、焼いた肉を煮込みに戻す感覚がつかめます。バルカンの焼きものとしては、ひき肉を焼くチェヴァピや、オーブンで層を作るギリシャのムサカも近い食卓につながります。













