春の食卓に、白い湯気を分ける
肉のスープに麦を入れて煮ていると、鍋の音がゆっくり変わります。最初はさらさらした煮汁だったものが、押し麦のぬめりと米の甘さで少しずつ重くなり、木べらを引くと白い線が残る。最後にケフィアを少しずつなじませると、台所に酸味のある乳の香りが立ち、ただの雑炊ではない、春を迎える料理の輪郭が出ます。

ナウルズ・コジェ(Nauryz kozhe / Наурыз көже)は、カザフスタンの春の祝祭ナウルズで食べられる穀物と肉、乳製品のスープです。現地紹介では、七つの材料または七つの要素を入れる料理として語られることが多く、水、肉、塩、脂、穀物、小麦粉、乳製品のように説明されます。ただし、実際の家庭の作り方はかなり幅があります。馬肉やカズィを使う家もあれば、米、麦、ミレット、麺、クルト、アイランを組み合わせる家もあります。
この記事では、日本の台所で無理なく作れるように、牛すね肉またはラム肩肉、押し麦、粗びきブルグル、米、少量の手打ち麺、無糖ケフィアで組み立てます。守るべき軸は、肉の澄んだスープを作ること、穀物を煮崩しすぎないこと、乳製品を沸騰させて分離させないことです。
カザフ語の Наурыз көже は、日本語ではナウルズ・コジェ、ナウリズ・コジェ、ナウルズ・コジェスープのように表記されます。この記事では、英語表記でよく見かける Nauryz kozhe に合わせてナウルズ・コジェと表記します。
どういう料理か
ナウルズは、中央アジアからコーカサス、イラン文化圏に広がる春の祝いです。カザフスタンでは家族や客人を迎える食卓に、バウルサク、肉料理、乳製品とともにナウルズ・コジェが並びます。East Qazaqstanの観光資料やカザフスタンの文化紹介では、ナウルズ・コジェは祝祭の中心的な料理として説明され、七つの要素に健康、豊かさ、生命力のような願いを重ねる文脈で語られます。
似ている料理を日本の食卓で探すなら、肉のスープで穀物を煮るおかゆに近いです。ただし、白粥のように静かな料理ではありません。肉の脂、穀物の厚み、発酵乳の酸味が一つの器に入り、飲むスープと食べる粥の間に落ちます。カザフスタン料理の肉と小麦の組み合わせを知るなら、同じ国のベシュバルマクと並べて考えると分かりやすいです。ベシュバルマクが大皿のごちそうなら、ナウルズ・コジェは春の鍋をみんなで分ける料理です。
現地の馬肉やクルトを日本で完全にそろえるのは大変です。初回は、牛すね肉で澄んだスープを取り、押し麦とブルグルで麦の粒感を作り、無糖ケフィアを最後に入れる方が失敗しにくいです。馬肉やカズィを探すのは、この味が好きだと分かってからで十分です。
買い出しで迷うもの

肉、牛乳、米、押し麦は近所のスーパーでそろえます。通販で見る価値があるのは、粗びきブルグル、長く煮ても底が急に焦げにくい厚手鍋、肉の火通りを確認できる中心温度計です。無糖ケフィアは輸入食品店や一部スーパーで見つかりますが、商品カード化はしません。ヨーグルトや牛乳と同じく、近所で買えるものを選べば十分です。
ブルグルは細挽きではなく、粗挽きや挽き割り小麦に近い粒を選びます。細かいものは早く溶け、ナウルズ・コジェの「穀物が入ったスープ」という感じが弱くなります。
ナウルズ・コジェは長く弱火で煮ます。薄い鍋でも作れますが、底の温度が急に上がると乳製品を入れる前の穀物が貼り付きます。厚手鍋があると、弱火の幅を作りやすくなります。
牛すね肉やラム肩肉は長く煮るので、中心まで火が通っているかを見たい日があります。とくに塊肉を少し大きめに切る場合は、温度計があると安心です。
日本の台所で本場に寄せる分岐表
| 迷う点 | 現地寄せ | 日本での現実解 | 避けたい方向 |
|---|---|---|---|
| 肉 | 馬肉、カズィ、羊肉 | 牛すね肉またはラム肩肉 | 鶏むね肉だけで軽くする |
| 乳製品 | クルト、アイラン、発酵乳 | 無糖ケフィア、プレーンヨーグルトを水でのばす | 甘い飲むヨーグルト |
| 穀物 | 小麦、米、ミレットなど家庭差あり | 押し麦、粗びきブルグル、米 | オートミールだけで糊状にする |
| 小麦粉の要素 | 麺や小麦粉を加える | 短い手打ち麺を少量入れる | うどんを大量に入れる |
| 仕上げ | 大鍋から客人へ分ける | 小さな器で少しずつ出す | 大丼で雑炊として完結させる |
代替しない方がよいのは、発酵乳の酸味です。牛乳だけで作ると白くまとまりますが、ナウルズ・コジェの個性は弱くなります。無糖ケフィアがなければ、プレーンヨーグルトを水でのばし、必ず工程5のように温度を上げてから鍋へ戻してください。
一方で、馬肉を無理に探す必要はありません。現地性を支えるのは肉の種類だけではなく、肉のスープ、複数の穀物、乳製品を一つの春の鍋にまとめる構造です。まず牛すね肉で作り、次にラムへ寄せる方が、日本では続けやすいです。
七つの要素を日本で置き換える時は、「珍しい材料を全部そろえる」より「役割を欠かさない」と考えると迷いません。水は肉のスープ、肉はうま味、塩は味の芯、脂は祝祭らしいこく、穀物は腹持ち、小麦粉は手仕事の気配、乳製品は春の酸味を担当します。押し麦とブルグルを両方入れるのは、現地の穀物の重なりを日本で感じるためです。ケフィアを最後に入れるのは、乳の酸味を残しながら、煮込み全体を白くまとめるためです。
失敗しやすいところと戻し方

| 症状 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 乳製品が分離した | 冷たいケフィアを直接入れた、沸騰させた | 火を止め、別鍋でなめらかな分だけすくい、牛乳50mlを温めて少しずつ混ぜる |
| 底が焦げる | 穀物を入れた後の火が強い | 焦げをこそげず、上澄みを別鍋へ移して弱火で温める |
| 粥のように重い | 押し麦と米を煮すぎた | 湯150mlと牛乳50mlを温めて足し、弱火で3分のばす |
| 味がぼやける | 塩が少ない、乳製品が多い | 塩ひとつまみを足し、ディルか小ねぎを多めにのせる |
| 酸味が強い | ケフィアの酸味が強い | 牛乳100mlを温めて足し、沸騰させずに4分なじませる |
乳製品の分離は、完全に元通りにはなりません。だからこそ工程5で、冷たい乳製品に熱いスープを少しずつ入れる作業が大事です。ここだけは急がないでください。逆に、穀物の濃度はあとから調整できます。重ければ湯と牛乳でのばし、薄ければふたを外して弱火で数分煮ます。
食べ方、保存、翌日の使い方

食べる時は、パンやバウルサク風の揚げパンを添えると、白いスープの酸味と肉の脂を受け止めやすいです。日本の食卓なら、薄いナン、ピタパン、塩気の少ないフォカッチャでも合います。白ご飯にかけると雑炊に寄りすぎるので、初回はパンを横に置く方が料理の性格が伝わります。
保存は、粗熱を取ってから浅い容器へ移し、冷蔵で2日以内です。乳製品を入れた料理なので、室温に長く置かないでください。温め直しは鍋なら弱火で7分、電子レンジなら1人分を600Wで1分20秒温め、一度混ぜてさらに40秒を目安にします。沸騰させると分離しやすいので、湯気が立ったら止めます。
翌日は穀物が水分を吸い、かなり重くなります。1人分につき湯80mlと牛乳40mlを足し、弱火でのばしてください。ケフィアを追加する場合は、火を止めてから大さじ1だけ混ぜます。温め直した後にディルを足すと、前日の煮込み感が少し軽くなります。
よくある質問
ナウルズ・コジェは必ず七つの材料ですか?
七つの材料または七つの要素として語られることが多いですが、家庭ごとに中身は違います。この記事では、水、肉、塩、脂、穀物、小麦粉、乳製品の七要素を、日本で作りやすい材料に置き換えています。材料名を厳密に固定するより、複数の穀物と発酵乳を一つの鍋で分ける考え方を守る方が作りやすいです。
馬肉やカズィがないと作れませんか?
作れます。現地では馬肉やカズィを使う例がありますが、日本では入手性と価格の壁があります。牛すね肉かラム肩肉でスープを取り、穀物と乳製品のバランスを守れば、家庭で楽しめるナウルズ・コジェになります。馬肉を使う場合も、まず牛すね版で濃度と火加減を覚えてからがよいです。
ケフィアの代わりにヨーグルトで作れますか?
作れます。プレーンヨーグルト200gを水50mlでのばし、工程5と同じように熱いスープを少しずつ混ぜて温度を上げてから鍋へ戻します。甘いヨーグルト、加糖の飲むヨーグルト、フルーツ入りは避けてください。
麺を入れずに作ってもいいですか?
作れます。小麦粉の要素を短い麺で入れると、七要素の考え方を日本の台所で表現しやすいだけです。麺を省く場合は、薄力粉を入れず、押し麦を20g増やしてください。ただし、うどんをたくさん入れると日本の煮込みうどんに近づくので、入れるなら少量に留めます。
冷たくして食べますか?
基本は温かく食べます。乳製品が入るため、冷めても食べられますが、冷蔵庫から出したままだと脂が固まり、穀物も重く感じます。保存後は弱火で温め、沸騰させずに食べてください。
参考にした現地情報
- East Qazaqstan, “National Gastronomy”: https://visiteast.kz/en/vazhno-znat/naczionalnaya-gastronomiya.html
- Ministry of Culture and Information of the Republic of Kazakhstan, “Culture of Kazakhstan”: https://www.gov.kz/article/64578?lang=en
- e-history.kz, “Nauryz traditions”: https://e-history.kz/en/news/show/7172
- Kazinform, “Nauryz: Kazakhstan celebrates renewal and unity”: https://qazinform.com/amp/nauryz-kazakhstan-celebrates-renewal-and-unity-eb312a/
- Wikipedia, “Nauryz kozhe”: https://en.wikipedia.org/wiki/Nauryz_kozhe
次に作るなら
カザフスタン料理をもう一皿作るなら、肉と小麦の大皿料理ベシュバルマクへ進むと、同じ国の祝祭感を別の形で味わえます。中央アジアの米料理へ広げるなら、ウズベキスタンのプロフが次の軸になります。乳製品とパンの組み合わせが気に入ったら、タジキスタンのクルトブも近い楽しさがあります。













