トマトの熱を吸ったブルグルが、赤いメゼになる
フライパンで玉ねぎと赤ピーマンを炒め、トマトペーストを溶いた熱い水を注ぐと、鍋の中が赤橙色に変わります。 そのソースを細挽きブルグルへ吸わせ、冷めてから香草とレモンを混ぜるのがエエチです。 粒の一つひとつにトマトのうま味が入り、パセリと青ねぎは最後まで青い香りを残します。

エエチは英語で Eetch、Eech、Itch など表記が揺れるアルメニア料理です。 ブルグルを使うためレバノンのタブレに似ていますが、タブレがパセリを主役にするのに対して、エエチは穀物の量が多く、トマトの色と柔らかな粒を中心に組み立てます。 食べる温度も一つに決まりません。温かいまま出す家庭もあれば、冷蔵庫で冷やしてメゼの皿にする家もあります。
日本で難しいのは、材料の数ではなく、ブルグルの粒と水分を合わせることです。 細挽きなら熱いソースを吸わせて20分ほど置けばやわらかくなりますが、粗挽きは吸水の速度も残る歯ごたえも変わります。 同じ「ブルグル」と書かれた袋を買っても、粒の大きさを見ずに水だけ合わせると、べたつくか芯が残ります。
アルメニア文化機関が紹介する家庭版には、細挽きブルグル、トマトペースト、赤と緑のピーマン、玉ねぎ、パセリ、青ねぎ、レモンが入り、野菜の半量を炒めて残りを生で混ぜる流れが出てきます。 この二つの温度を一皿へ重ねると、ソースの深さと野菜の歯切れを両立できます。
エエチは Eetch、Eech、Itch、Metch など複数の英字表記で紹介されています。 本記事では日本語で検索しやすい「エエチ」を使います。 肉を使わない構成が多く、断食期のレシピとして紹介されることもありますが、宗教上の料理と一つに固定せず、家庭のメゼや軽い食事として扱います。
途中で見つける、味の決め手
粒の大きさと酸味を、味見で決める

エエチの食感は、炒め方よりもブルグルを戻す瞬間に決まります。 細挽きの粒が熱いソースを吸い、香草を混ぜてもスプーンから崩れ落ちない程度が、冷たいメゼにしたときの落としどころです。
Milk Streetのエエチは粗挽きブルグルを使う構成で、細挽き・中挽きとは吸水の速度が違うと説明しています。 粗挽きを使う場合は、熱湯を400mlに増やして30分覆い、まだ硬ければ熱湯を大さじ1ずつ足して5分置きます。 粒が完全に崩れるまで煮るのではなく、中心に小さな歯ごたえが残るところで止めてください。
熱いソースの段階でレモンやざくろモラセスを増やすと、冷めたあとに酸味が強く出ます。 レモン果汁は大さじ2、ざくろモラセスは大さじ1から混ぜ、冷蔵庫で15分置いてから残りを加えると調整しやすくなります。 甘いざくろシロップしかない場合は砂糖を足さず、レモン果汁とスマックで輪郭を作ります。
混ぜた直後に粒が重く見えても、冷めるまでの20〜30分で水分が落ち着くことがあります。 冷めても皿の底に液体がたまるなら、細挽きブルグルを大さじ1ずつ加えて10分置きます。 一度に大量のブルグルを足すと塩味と酸味が薄くなるため、少量ずつ状態を見てください。
玉ねぎとピーマンをすべて炒めると甘みは出ますが、冷たいメゼとしては単調になります。 半量をソースにし、半量を最後に加えるのは、アルメニア文化機関の紹介レシピにも見られる組み立てです。 生野菜の角が気になる場合も、塩もみではなく5mm角を守る方が水分を出しすぎません。
ざくろモラセスは、買ったあとにエエチだけで使い切る調味料ではありません。 鶏肉の煮込み、焼きなす、ヨーグルトのソースへ小さじ単位で回せるかを考えて、容量を選んでください。 リンク先で確認する一点は、14オンスの2本セットであることと、甘い飲料用シロップではなくザクロ濃縮調味料として表示されていることです。
葉で包むか、温かい皿にするか

レタスで包むメゼ
ロメインレタスを一枚ずつ外し、中央へエエチを大さじ2ほどのせます。 葉を二つ折りにすれば、スプーンを使わずに食べられます。 アルメニア文化機関の紹介でも、丸く盛ったエエチの周囲へレタス、ミニトマト、オリーブを配しています。 汁が多いと葉が破れるので、冷蔵庫から出してすぐではなく、盛り付け前に一度だけ底から返してください。
温かい副菜として出す
冷やす前のエエチを、鍋の余熱が残るうちに小皿へ取り分けます。 温度は熱々ではなく、湯気が少し立つ40〜50℃程度が食べやすい状態です。 冷たいメゼより香草の青さは弱くなりますが、トマトとピーマンの甘みが前に出て、焼いた鶏肉や魚の横へ置きやすくなります。
レモンを強くして夏の味にする
ざくろモラセスを大さじ1へ減らし、レモン果汁を大さじ3のままにすると、酸味の輪郭が明るくなります。 トマトが甘い時期はミニトマト100gを刻んで添え、混ぜ込まずに食べる直前へのせると、エエチの赤い粒が水っぽくなりません。
豆とフェタチーズで一皿にする
ゆでたインゲン豆120g、またはひよこ豆150gを冷ましてから加えると、軽い副菜が昼食向けになります。 フェタチーズ60gを崩して添える方法もありますが、これは基本のエエチへ必ず入る材料ではなく、食事量を増やすアレンジです。 塩味のあるチーズを加えるときは、材料表の塩を4gに減らします。
粗く潰した赤ピーマンを使う
赤ピーマンとにんにくを滑らかにしすぎず、粗いペーストにしてソースへ混ぜると、粒の間に小さな香りの塊が残ります。 一度だけ作るなら包丁で十分です。 レタス包みやメゼを何度も作る人は、粗さを保ったまま少量を潰せる乳鉢が向いています。 リンク先で確認する一点は、すり鉢だけでなく、すりこぎがセットに含まれていることです。
アルメニアの食卓で、赤いブルグルはどう置かれるか

エエチをタブレの赤い版としてだけ見ると、料理の置き場所が見えにくくなります。 タブレはパセリやミントを細かく刻み、穀物を少量添える構成が知られていますが、エエチはブルグルにトマトのソースを含ませ、スプーンですくえる密度にします。 Jerusalem Storyの料理用語集は、エエチをトマトの土台で戻したブルグルに玉ねぎ、にんにく、パセリ、レモンを合わせる料理として説明し、温かくも冷たくも出せるメゼとしています。
名前の綴りにも、移動してきた料理らしい揺れがあります。 Eetch、Eech、Itch、Metch は別々の料理というより、英語圏の家庭や資料がそれぞれ聞き取った音を綴ったものです。 レシピサイトによっては Armenian tabbouleh や red tabouli と呼ばれますが、見た目が似ているからといってレバノンのタブレと同じ配合にすると、パセリが多く、ブルグルが少ない別の皿になります。
アルメニア文化機関が掲載するレシピは、Alice Antreassian の『The 40 Days of Lent: Selected Armenian Recipes』に触発されたものです。 細挽きブルグルへトマトペースト、熱湯、スマックを合わせ、玉ねぎとピーマンの半量を炒め、残りを生で足し、最後にレタスやミニトマト、オリーブで丸く盛ります。 この盛り付けは、料理を大きな器から取り分けるだけでなく、葉へ少しずつのせて手で食べる時間を作ります。
一方、Milk Streetのレシピは粗挽きブルグルを使い、トマトペーストと水の混合液で粒を戻す点を強調しています。 細挽き・中挽きと粗挽きでは液体の吸い方と歯ごたえが違うため、どちらかを唯一の正統形と決めるより、粒に合わせて水分を変える方が家庭では扱いやすいでしょう。 本記事の材料表は細挽き版、調理のコツでは粗挽き版を示したのは、その違いを隠さないためです。
エエチはアルメニア本国だけでなく、移住先の食卓でもメゼや軽い食事として作られてきました。 Jerusalem Storyの用語集は、パレスチナ系アルメニア人の家庭を含むディアスポラで、温かくも冷たくも出される料理として紹介しています。 そのため、赤ピーマンを増やす、香草の量を変える、パンやレタスを添えるといった差を見ても、別料理と切り分けるより、食材の入手先と食卓の役割の違いとして読む方が自然です。
だから、日本で作るときに守るべきなのは、トマトの色を濃くすることだけではありません。 穀物が主役であること、ソースの酸味をレモンだけで尖らせないこと、香草を加熱しすぎないこと、葉やパンへ少量ずつのせられる密度にすることです。 鶏肉や羊肉を添えれば祝宴の皿へ広げられますが、エエチ自体は肉の付け合わせに限定されません。 アルメニアのガパマのような祝祭料理とも、カルシ・ホロヴァツのような炭火料理とも並べられます。 穀物を使ったメゼとして見れば、レバノンのタブレとの違いも、材料表ではなく食卓の役割として分かります。
保存とよくある質問|冷えると酸味と粒が落ち着く

熱いソースで戻したエエチは、室温で15分冷ましたあと、浅い保存容器へ広げて冷蔵庫へ入れます。 厚いボウルのまま長く置かず、容器の高さを3cm程度にすると中心まで冷えやすくなります。 厚生労働省も、残った食品は早く冷えるよう浅い容器へ小分けし、室温へ長く放置しないよう案内しています。
冷蔵したエエチは翌日に酸味と粒が落ち着きますが、生野菜を含むため、家庭で作る量としては2日以内に食べ切る運用が扱いやすいでしょう。 レタスは別容器にして水気を拭き、食べる直前に添えてください。 冷凍するとブルグルと生野菜の食感が崩れやすいため、冷凍保存より分量を半分にする方が扱いやすい料理です。
Q1. 細挽きではなく、粗いブルグルでも作れますか?
作れますが、材料表の360mlでは足りないことがあります。 熱湯を400mlにし、蓋をしたまま30分置いてから粒を確認してください。 中心が硬い場合は熱湯を大さじ1ずつ足して5分置き、液体が残る場合は細挽きブルグルを大さじ1ずつ加えます。 粗挽き版は粒の歯ごたえが強くなるので、冷たいサラダより温かい副菜に向きます。
Q2. ざくろモラセスがないときは何で代用できますか?
大さじ2の代わりに、レモン果汁大さじ1、トマトペースト小さじ1、砂糖小さじ1/2を混ぜる家庭版が使えます。 酸味と色は近づきますが、ざくろの果実感と暗い甘みは弱くなります。 エエチを何度か作る予定があるなら、レモンだけで作った皿を一度食べてから購入を決めても遅くありません。
Q3. 温かいまま食べても大丈夫ですか?
大丈夫です。 細挽きブルグルが20分で戻り、香草と生野菜を混ぜた直後なら、40〜50℃程度の温かい副菜として出せます。 冷たいメゼにすると酸味が丸くなり、温かいままだとトマトとピーマンの甘みが前に出ます。 同じ鍋を二つの温度で出す場合は、レタスを添える分だけ先に取り分けてください。
Q4. 小麦を食べられない場合は?
ブルグルをキヌアや米へ置き換える方法はありますが、吸水と食感が変わるため、エエチではなく赤い穀物サラダとして考えます。 グルテンフリーの表示が必要な人は、調味料の原材料と製造ラインも確認し、同じまな板やボウルを使い回さないでください。
Q5. 酸っぱすぎる、または水っぽいときは?
酸っぱすぎる場合は、熱湯大さじ1とオリーブオイル小さじ1を混ぜ、塩気を確認してから少量ずつ加えます。 水っぽい場合は、まず冷蔵庫で15分置いてから判断し、それでも底に液体がたまるなら細挽きブルグルを大さじ1ずつ加えます。 砂糖だけを増やすとトマトの味がぼやけるため、塩と油の不足も同時に見てください。












