米粥の湯気に、ツナとココナッツを少しだけ
朝の台所で米を弱火にかけていると、鍋の中が静かに白く濁っていきます。そこへパンダンの葉を一枚結んで入れると、炊飯器のごはんとは違う、青くて甘い香りが立つ。熱々の米粥を茶碗に入れ、横にツナとココナッツの粗い和えものをひとさじ置くと、派手ではないのに急に島の朝食らしくなります。

マスクロルヒ(Maskurolhi)は、モルディブで米粥のバイペン(baiypen / bai pen)に添えられる、ツナ、ココナッツ、玉ねぎ、唐辛子、ライムを合わせた粗いサンボルのような料理です。名前だけ見ると、ロシにツナを包んで焼くマスロシ(masroshi)と混ざりやすいのですが、今回作るのは包み焼きではありません。
英語版Wikipediaの短い項目では、マスクロルヒはモルディブ料理で、バイペンと一緒に食べられると説明されています。現地フードメディア LonuMedhu のラマダン前の食事紹介でも、バイペンと魚やココナッツの添えものが、早朝の食卓に出る文脈で語られています。つまり、主役は豪華な一皿ではなく、米のやさしさと魚の塩気を少しずつ合わせる食べ方です。
日本の台所で難しいのは、現地の燻製・乾燥魚をそのまま手に入れることです。ここでは缶ツナとかつお節を合わせ、削りたてココナッツの代わりに無糖ココナッツファインを戻して使います。守るべきは、ふわっと煮えた米粥、粗く残るツナ、ライムの酸味、辛味を鍋全体へ広げない食べ方です。
マスロシは、ツナやココナッツをロシ生地で包んで焼く軽食として紹介されます。マスクロルヒは、米粥バイペンに添える粗い和えものとして扱う方が実態に近いです。名前が似ているので、この記事ではバイペンと合わせるマスクロルヒに絞ります。
どう食べる料理か

モルディブは島しょ国なので、魚とココナッツが食卓の中心にあります。観光資料でよく紹介されるマスフニ(mas huni)も、ツナ、ココナッツ、玉ねぎ、唐辛子をロシと食べる朝食です。マスクロルヒはそこに近い材料を使いながら、バイペンという白い米粥に少量ずつ混ぜて食べるところが違います。
バイペンは、塩だけで食べてもよいほど静かな米粥です。粥自体にツナを混ぜ込むと、魚の匂いが全体に回り、体調の悪い日の雑炊のように感じることがあります。マスクロルヒを別に作り、皿の端で少しずつ混ぜると、白い米の甘さ、ココナッツの油脂、魚の塩気、ライムの酸味が口の中で順番に出ます。
日本の食卓では、朝食にも夜食にも向きます。辛味を控えれば子どもや高齢の家族にも出しやすく、食べる人だけ唐辛子を足せます。似た方向の南アジア料理としては、スリランカのキリバットが米とココナッツの祝い料理、インドのアヴィアルがココナッツの粒感を野菜に絡める料理です。マスクロルヒは、その中でもいちばん軽い朝の受け皿として覚えると作りやすくなります。
買い出しで迷うもの

近所で買うものは、米、ツナ缶、玉ねぎ、ライムです。通販や輸入食材店で見る価値があるのは、無糖ココナッツファイン、カレーリーフ、パンダンリーフ、粗く刻める小型フードプロセッサーです。パンダンは香りの補助なので、見つからない初回は省略して構いません。
無糖ココナッツファインは、この料理の粒感を作る材料です。ココナッツミルク缶だけで代用すると、マスクロルヒがしっとりしすぎて、米粥の上で溶けたツナマヨのようになります。リンク化できる純正商品カードが手元にない場合は、輸入食材店や製菓材料店で「無糖」「細かめ」を探す説明に留めます。
カレーリーフは必須ではありませんが、少量で南アジアの香りへ引き寄せます。余った分はククルマスカレーやアヴィアルへ回せます。
唐辛子を一からつぶすのが重い日は、サンバルオレックを小さじ1だけ使い、玉ねぎ、ツナ、ココナッツ、ライムで伸ばすと近い方向へ寄せられます。甘いチリソースは別物になるので避けます。
包み焼きではないのでタワは不要です。かわりに、玉ねぎとココナッツを細かくしすぎず止められる道具があると安定します。包丁で刻んでも作れますが、朝に何度も作るなら小型フードプロセッサーが便利です。
日本の台所で本場に寄せる分岐表
| 迷う点 | 現地寄せ | 日本での現実解 | 避けたい方向 |
|---|---|---|---|
| 魚 | 燻製・乾燥のツナ系素材 | 缶ツナとかつお節を合わせる | ツナマヨにする |
| ココナッツ | 削りたての生ココナッツ | 無糖ココナッツファインを湯で戻す | ココナッツミルクだけで湿らせる |
| 米粥 | バイペンとして薄めに煮る | 日本米を弱火でやわらかく煮る | 炊いたご飯を水で短く温めるだけ |
| 辛味 | 生唐辛子を粗くつぶす | 乾燥唐辛子かサンバルオレック少量 | 甘いチリソース |
| 食べ方 | 粥と添えものを別々に出す | 器の端で少しずつ混ぜる | 鍋全体にツナを混ぜ込む |
日本の台所で一番守りたいのは、混ぜすぎないことです。ツナとココナッツを米粥へ全部入れると、白い粥の逃げ場がなくなります。マスクロルヒはあくまで添えもの。塩気と酸味を自分の器で調整できるところに、朝食としての軽さがあります。
もう一つは、ココナッツの形です。缶のココナッツミルクはバイペンに少量入れるなら使えますが、マスクロルヒの本体には粒が必要です。粒があるからツナの水分を吸い、米粥の上でふわっとほぐれます。
失敗しやすいところ

| 症状 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 粥が水っぽい | 弱火の煮込みが短い | ふたを外し、弱火で5分追加して米粒を開かせる |
| 粥が重い | 水が少ない、底を混ぜすぎた | 湯100mlを足し、弱火で3分温める |
| マスクロルヒがべたつく | ココナッツの水気を絞っていない | かつお節2gか戻していないココナッツ小さじ2を足す |
| 魚臭い | ツナの汁を入れすぎた、ライム不足 | 汁を切り直し、ライム小さじ1と黒こしょう少々を足す |
| 辛すぎる | 唐辛子の種を残した | ココナッツ大さじ1とツナ大さじ1を足す |
失敗の分かれ目は、水分です。バイペンはやわらかい方がよい料理ですが、スープのように薄いとマスクロルヒが沈みます。逆にマスクロルヒは湿っていても、汁が底にたまるほどでは重いです。白い粥はゆるく、ツナとココナッツは粗く。この対比を残してください。
保存と翌日の食べ方

バイペンは粗熱が取れたら浅い容器へ移し、冷蔵で翌日までに食べ切ります。米粥は冷えると固まるので、温め直すときは1人分に水80mlを足し、弱火で4分から5分温めます。電子レンジなら600Wで1分30秒温め、途中で一度混ぜます。
マスクロルヒは魚と玉ねぎを使うので、冷蔵で当日中がいちばん安心です。翌日に回す場合は清潔な小瓶に入れ、24時間以内に食べ切ります。温め直しはしません。冷蔵庫から出したらライム果汁小さじ1/2を足し、固まったツナをほぐしてから粥に添えます。
余ったマスクロルヒは、薄いトーストやご飯にのせることもできます。ただし、マヨネーズを混ぜるとモルディブの朝食からは離れます。方向を保つなら、ライム、黒こしょう、少量の唐辛子で締める方がよいです。
よくある質問
マスクロルヒだけで作れますか?
作れます。ただし、塩気と酸味が強い添えものなので、白い米粥、白ご飯、薄いロシのような受け皿がある方が食べやすいです。単体で食べるなら、塩を小さじ1/4に減らし、ライムも大さじ1から始めてください。
ココナッツファインがない場合はどうしますか?
削りたてのココナッツが理想ですが、日本では無糖ココナッツファインが現実的です。どうしてもなければ、ココナッツミルク大さじ2とかつお節2gを足してツナを和えます。ただし粒感が出ず、マスクロルヒらしさは弱くなります。次回は製菓材料店や輸入食材店で無糖品を探してください。
ツナ缶は水煮と油漬けのどちらがよいですか?
朝食らしく軽くするなら水煮、こくを出すなら油漬けです。油漬けを使う場合、缶の油を全部入れると重くなるため、大さじ1だけ残して他は切ります。ノンオイル缶なら、米油小さじ1を足すとぱさつきません。
辛くしないで作れますか?
作れます。唐辛子を抜き、黒こしょうを小さじ1/3に増やします。完全に辛味を抜くと輪郭が弱くなるので、大人の器だけにサンバルオレックを小さじ1/4ずつ足す形が失敗しにくいです。
パンダンリーフは必須ですか?
必須ではありません。バイペンを香りよくするための補助です。見つからない場合は省略し、米と塩だけで粥を作ってください。ローリエやバニラで代用すると別方向の香りになるため、入れない方が自然です。
参考にした現地情報
- Wikipedia, “Maskurolhi”: https://en.wikipedia.org/wiki/Maskurolhi
- LonuMedhu, “Haaru: Maldivian Suhoor”: https://lonumedhu.com/blog/haaru-maldivian-suhoor
- Visit Maldives, “Maldivian Gastronomy”: https://visitmaldives.s3.amazonaws.com/5oBv9OoG/v9inzimo.pdf
- Wikipedia, “Maldivian cuisine”: https://en.wikipedia.org/wiki/Maldivian_cuisine
次に作るなら
米とココナッツの朝食を続けるなら、スリランカのキリバットへ進むと、同じ白い米でも祝いの料理に変わります。ココナッツの粒を野菜へ絡める感覚が気に入ったら、南インドのアヴィアルが次の一皿です。魚と米のやさしい食卓なら、バングラデシュのイリッシュ・ブナも、香りの出し方を比べながら楽しめます。












