牛乳を鍋で温めているだけなのに、台所の空気が少しずつ変わる料理があります。最初はただの白い湯気です。そこへ洗ったバスマティ米を入れ、底を木べらでなでながら弱い泡を保つ。しばらくすると米の粒がふくらみ、サフランの黄色がほどけ、カルダモンの青い香りが牛乳の甘さに混ざります。
ドゥードパク(Doodhpak / Doodh Pak)は、インド西部、とくにグジャラート周辺で食べられる牛乳と米の甘い料理です。日本語で近い言葉を探すなら「米入りミルクプリン」や「牛乳粥のデザート」ですが、口当たりはそれだけでは説明しきれません。濃厚な牛乳を煮詰めるのに、仕上がりはスプーンから流れるくらい軽い。ここが、日本の台所で一番迷うところです。
この記事では、全脂牛乳、バスマティ米、サフラン、カルダモンを使い、家庭の鍋で焦がさず作る配合に寄せます。プーリーや軽い塩味の副菜と合わせる食べ方、冷蔵保存で固くなった時の戻し方、キールやバスンディとの違いまで整理します。
ドゥードパクとは
ドゥードパクは、牛乳を意味する doodh と、煮る・調理する意味合いを持つ pak が合わさった名前として説明されることが多い料理です。英語圏の料理紹介では、牛乳、米、砂糖、サフラン、カルダモン、ナッツを使うインドの甘い米料理として扱われます。
WikipediaのDoodhpakでは、インドのデザートで、牛乳、米、砂糖を煮て作り、ナッツやサフランで風味を付ける料理として紹介されています。Tarla DalalのGujarati Doodh Pakも、牛乳を煮詰め、米、サフラン、カルダモン、ナッツを合わせる構成です。一方、J Cooking OdysseyのDoodh Pakでは、グジャラート家庭の白っぽい仕上げに触れ、サフランを強く出しすぎない方向も紹介しています。
日本で作る時は、どちらにも寄せられます。華やかな祭り菓子として見せたいならサフランを少量使い、日常の甘い牛乳米として食べたいならサフランを控えめにします。このレシピでは、色ではなく香りを足す量に抑え、牛乳の白さが残る淡い黄色を目標にします。
買い出しで迷う材料
牛乳、砂糖、アーモンドは近所のスーパーで足ります。ドゥードパクらしさを左右するのは、細長い米、サフラン、カルダモンです。どれも一度に大量には使いませんが、ほかのインド料理や中東の米料理にも回せるので、料理を続ける人ほど無駄になりにくい材料です。
バスマティ米は米粒を軽く見せるための材料です。日本米でも作れますが、冷めた時に粘りが出やすく、ミルク粥に寄ります。ドゥードパクでは45gしか使わないので、まずは1kg程度で試すのが現実的です。
サフランは色より香りのために使います。ドゥードパクでは0.05〜0.1gで十分なので、安い色付き粉を買うより、少量のホールを丁寧に戻す方が失敗しません。リゾットやフィデウアにも使えます。
カルダモンは粉でも作れますが、ホールを割って種をつぶすと牛乳に青い香りが出ます。余ったホールはチャナマサラやカブリ・パラウにも使えます。
キールやバスンディと違うところ

ドゥードパクを作る時に混乱しやすいのが、キール、パヤサム、バスンディとの違いです。どれも牛乳を使う甘い料理ですが、米の量、煮詰め方、食卓での位置が少しずつ違います。
| 料理 | 主な地域 | 仕上がり | 日本の台所での目安 |
|---|---|---|---|
| ドゥードパク | グジャラート、西インド | 牛乳が主役で、米粒は少なめ。飲めるほどではないが軽い | 牛乳1500mlに米45g前後 |
| キール | 北インドなど広域 | 米やセモリナ、麺などの種類が多く、濃度も家庭差が大きい | 米を増やすとキール寄り |
| パヤサム | 南インド | 米、豆、セモリナ、ジャガリーなど幅広い | ココナッツやジャガリーで方向が変わる |
| バスンディ | 西インド | 牛乳を強く煮詰め、米なしでも成立する濃厚な甘味 | 米を入れず牛乳を半量近くまで煮詰める |
ドゥードパクのよさは、食後のデザートにも、プーリーと合わせた甘い食事にも動ける軽さです。米を増やせば失敗しにくく見えますが、口の中では牛乳より米が勝ちます。最初の一回は米を45gに抑え、冷めた時の濃度を見て次回増減する方が、現地の食べ方に寄せやすくなります。
失敗しやすいところ
ドゥードパクの失敗は、だいたい焦げる、重くなる、香りが強すぎる、甘さがぼやける、の四つです。
| 失敗 | 起こる理由 | 直し方 |
|---|---|---|
| 鍋底が焦げる | 強火で沸かし続ける。底をこすらない | 弱めの中火以下にし、2〜3分おきに木べらで底をなでる |
| 冷めると固い | 米が多い、または煮詰めすぎ | 牛乳を大さじ2〜4足して混ぜる。次回は米を5g減らす |
| サフランが薬草っぽい | 量が多い、熱湯で長く煮出した | 0.05gから始める。牛乳で戻し、鍋では短く混ぜる |
| カルダモンが粉っぽい | 粉を多く入れすぎた | ホール4粒を割って使う。粉なら小さじ1/2弱まで |
| 甘いのに締まらない | 塩がない、または牛乳が薄い | 塩ひとつまみを入れ、全脂牛乳を使う |
最初に迷うのは、材料名より「どこで火を止めるか」です。温かい鍋の中でちょうどよく見える濃度は、冷蔵庫に入ると必ず固くなります。工程5の時点で少しゆるいくらいに止め、食べる直前に牛乳で戻す余地を残すと、翌日も重くなりません。
食べ方と保存

グジャラート系の食卓では、甘いドゥードパクにプーリーを合わせる食べ方がよく紹介されます。日本の感覚だと、甘い牛乳米に揚げパンを合わせるのは重そうに見えますが、実際には塩気のある副菜や揚げものが横に来ると、甘さが食事の中で動きます。
家庭で合わせるなら、ドーサのような発酵生地料理より、短時間で揚げられるプーリーや、スパイス控えめのライタ、豆のダルタドカが向きます。辛いタンドリーチキンの後に小鉢で出すと、香辛料の余韻を牛乳が丸く受け止めます。
保存は冷蔵で2日を目安にします。清潔な保存容器へ入れ、粗熱が取れたら冷蔵庫へ。冷やすと米が水分を吸うので、食べる前に牛乳を足して混ぜます。温め直す場合は、鍋で弱火、または電子レンジ600Wで30秒ずつ。どちらも一度に熱くすると膜が張り、底が固まりやすくなります。
よくある質問
日本米で作れますか?
作れます。ただし、日本米は粘りが強いので、同じ45gを入れると冷めた時にもったりします。日本米だけで作るなら35gから始め、工程5でゆるめに止めてください。粒感は変わりますが、甘い牛乳米としては十分おいしくなります。
低脂肪乳でも作れますか?
作れますが、牛乳を煮詰めた時の丸みが弱くなります。砂糖やサフランを増やしてもコクは戻りません。初回は成分無調整の全脂牛乳で作り、軽くしたい場合だけ低脂肪乳を半量混ぜるのが無難です。
サフランなしでもよいですか?
よいです。サフランなしでも、カルダモンとナツメグがあれば家庭版として成立します。サフランを省く場合は、色を無理に黄色くしようとしてターメリックを足さないでください。少量でも土っぽい香りが出て、菓子よりカレー寄りになります。
温かい方と冷たい方、どちらが現地らしいですか?
どちらも食べられます。温かいと牛乳とカルダモンの香りが立ち、冷たいと甘さが落ち着きます。プーリーと食べるなら温かい、食後のデザートなら冷やす、という分け方が家庭では扱いやすいです。
ナッツを入れないと別物になりますか?
香りと食感は弱くなりますが、料理としては成立します。ナッツアレルギーがある場合は無理に入れず、カルダモンを少し丁寧につぶして香りを補います。見た目が寂しい時は、サフランを戻した牛乳を少し表面にたらすだけでも十分です。












