夕方の炭火で、小さな肉の筒がふくらむ
屋外のグリルで肉が焼ける匂いは、どの国でも人を足止めします。ルーマニアでその匂いの中心にいるのが、ミティティ(Mititei)です。短い筒状に丸めたひき肉を、腸詰めにせずそのまま焼く。外側は香ばしく、内側はふわっと弾力があり、皿には黄色いマスタード、パン、ピクルス、時にはフライドポテトが並びます。

日本で作る時の難所は、見た目よりも「生地」です。普通のハンバーグのように丸めてすぐ焼くと、硬く、割れやすく、肉汁が抜けます。ルーマニアのmiciは、冷たいスープや水を少しずつ練り込み、重曹を少量入れ、冷蔵庫で休ませてから成形します。ここを守ると、皮なしなのにソーセージのようにぷりっとした食感が出ます。
同じひき肉の焼き料理でも、セルビアのチェヴァプチチはよりバルカンの香り、トルコのキョフテはスパイスと玉ねぎの方向へ寄ります。ミティティは、にんにく、cimbruに近い香草、こしょう、コリアンダー、クミン、少量のパプリカを使い、最後はマスタードで食べるところにルーマニアらしさがあります。
ルーマニア語では mici と mititei の両方が使われます。どちらも「小さいもの」という意味合いを持ち、英語圏のレシピでは mici の方が短くよく使われます。本記事では日本語表記を「ミティティ」にし、現地名として mici も併記します。
miciとmititeiの違い、日本で守るべき芯
WikipediaのMititei項目やChef's Pencilの解説では、ミティティは牛、羊、豚などのひき肉に、にんにく、黒こしょう、タイム、コリアンダー、アニス、セイボリー、時にパプリカを合わせる皮なしの焼きソーセージとして整理されています。現地レシピを読むと、肉の種類や香辛料の配合はかなり揺れますが、共通しているのは次の三つです。
| 守る要素 | 現地寄せ | 日本の台所での現実解 |
|---|---|---|
| 肉の脂 | 牛肉に羊または豚の脂を足す | 牛7、豚3の合いびきに、あればラム少量を足す |
| 冷たい水分 | 骨スープや冷水を練り込む | 冷たい炭酸水または冷水を少量ずつ入れる |
| 香草 | cimbru、コリアンダー、クミン、こしょう、にんにく | 乾燥タイムとオレガノ少量で代替し、クミンとパプリカで香りを補う |
| 食卓 | マスタード、パン、ピクルス、ビール | マスタード、バゲット、きゅうりピクルス、フライドポテト |
セイボリー(summer savory)は、日本の普通のスーパーではまず見つかりません。通販で買うならよいのですが、初回からそこに詰まる必要はありません。乾燥タイム小さじ1と乾燥オレガノ小さじ1/4を合わせると、完全ではないものの、肉を焼いた時に青く温かい香りが残ります。
重曹も大事です。多く入れると苦味と石けんのような後味が出ますが、少量なら肉だねのpHに働き、焼いた時に少しふっくらします。Savori Urbaneの現地語レシピでも、重曹は入れすぎないことが強調されています。この記事では肉700gに対して小さじ1/2弱、約2gに抑えます。

日本で作る時の分岐と代替

ミティティを日本で作る時、すべてを現地と同じにする必要はありません。大事なのは、皮なしソーセージらしい食感と、ルーマニアのグリル料理らしい食卓の組み合わせです。
| 迷う点 | 現地寄せ | 日本での現実解 | 判断 |
|---|---|---|---|
| 肉の配合 | 牛、羊、豚を混ぜる | 牛豚合いびきにラム少量、または牛7豚3 | 脂が少なすぎると硬い |
| 水分 | 骨スープを練り込む | 冷たい炭酸水か冷水 | 温かい水は脂が溶けるので避ける |
| 香草 | cimbru、セイボリー | タイム+オレガノ少量 | オレガノを増やしすぎない |
| 焼き方 | 炭火 | グリルパン、魚焼きグリル、ホットプレート | 強火で焦がさず中心温度を確認 |
| 食べ方 | マスタード、パン、ピクルス | 粒なしマスタード、バゲット、きゅうりピクルス | ケチャップ中心にすると別料理になる |
魚焼きグリルで作る場合は、網に薄く油を塗り、中火で片面4分、返して4分、さらに様子を見て2から3分焼きます。表面が焦げやすいので、上火が強い機種ではアルミホイルを軽くかぶせてください。ホットプレートなら200度Cで予熱し、ふたをせず各面を焼きます。蒸し焼きにすると肉団子寄りになるため、表面の水分を飛ばす意識が必要です。
現地の屋外感を出したいなら、ミティティを焼く横でパンを軽く温めます。パンの断面に肉汁とマスタードが少し染みると、白いご飯にのせるより味のまとまりがよくなります。東欧らしい食卓へ寄せるなら、サルマーレで使ったザワークラウトや、プラチンタを前菜に回すと、ルーマニアのページ内回遊としても自然です。
失敗原因、保存、よくある質問

断面がぼそぼそになります
水分不足、脂不足、練り不足、焼きすぎのどれかです。肉700gに対して冷たい炭酸水120mlを少しずつ入れ、肉が吸い込むまで練ってください。赤身の牛肉だけで作ると乾きやすいので、豚ひき肉か少量のラムを足します。焼きでは中心温度が71度Cを超えたら、長く焼き続けないことも大事です。
焼いている途中で割れます
肉だねが温かい、休ませ時間が短い、成形時に表面のひびを残したまま焼いた可能性があります。成形後に10分だけでも冷蔵庫へ戻し、表面を水でなでてから焼きます。最初の2分は触らず、焼き固まってから返してください。
重曹は入れないとだめですか?
完全に省いても肉の筒は焼けますが、ミティティらしいふわっとした弾力は出にくくなります。入れるなら肉700gに約2gで十分です。増やすと苦味が出るので、膨らませたいからといって小さじ1以上にしないでください。
セイボリーがありません
乾燥タイム小さじ1と乾燥オレガノ小さじ1/4で代替してください。バジルやローズマリーを多く入れると、ルーマニアのmiciというより別のグリル肉になります。セイボリーを買うなら、次回はチェヴァプチチやルラケバブとの食べ比べにも回せます。
前日に仕込めますか?
仕込めます。肉だねを練ってラップを密着させ、冷蔵庫で一晩置くのがむしろ向いています。成形まで前日に済ませる場合は、表面に薄く油を塗り、乾かないように覆ってください。焼く直前まで冷蔵庫に置きます。
保存と温め直しはどうしますか?
焼いたミティティは浅い容器で粗熱を取り、冷蔵で2日を目安に食べ切ります。温め直しはフライパンの弱火で片面2分ずつ、またはトースター200度Cで5分ほど。電子レンジだけだと表面がやわらかくなりやすいので、最後にフライパンで表面を戻すと食べやすくなります。USDA FSISは、ひき肉は71.1度C、残り物は十分な温度まで加熱することを示しています。
何と一緒に出すと食卓になりますか?
最小構成はミティティ、マスタード、パン、ピクルスです。野菜を足すなら、紫玉ねぎの薄切りかトマトのサラダが合います。東欧の食卓として広げるなら、とうもろこし粉のママリガ、酸味のあるサルマーレ、煮込みのグヤーシュを別日に作ると、肉、酸味、粉もののつながりが見えてきます。












