横に焼き、焼けたところから切る羊串

台所で玉ねぎをすりおろすと、少し涙が出る。けれど、その汁を羊肉にもみ込んで冷蔵庫へ入れておくと、数時間後には肉の角が丸くなり、焼き始めた瞬間に甘い香りが立ちます。ジャーケバブ(Cağ kebabı)は、その香りを横向きの串で焼き、外側から薄く切り出して食べるトルコ東部の羊肉料理です。
日本でケバブと聞くと、縦に回るドネルケバブや、ひき肉を串に貼り付けるアダナ・ケバブを思い浮かべやすいはずです。ジャーケバブは少し違います。羊肉を薄く重ねて平串に刺し、横向きに焼き、焼けた外側をナイフで削る。生焼けの中心を一度に食べるのではなく、焼けた層を切り、また焼き、また切る料理です。
現地ではエルズルム、特にオルトゥ周辺の名物として知られます。家庭では本格的な横回転の設備までは用意できません。そこでこの記事では、ラム肩ロースまたはもも肉を薄く重ね、鋳鉄グリルパンや魚焼きグリルで「外側を焼く、薄く切る、露出した面を追い焼きする」流れに置き換えます。トルコの肉料理として比べるなら、ひき肉を練るキョフテ、薄い生地で肉を焼くラフマジュン、日本の台所向けに複数の串をまとめたケバブの作り方と合わせて読むと、肉の切り方と焼き方の違いが見えます。
トルコ語では Cağ kebabı と書きます。cağ は料理名で使われる串や焼き方に関わる語として扱われ、日本語では「ジャーケバブ」「チャーケバブ」「カージャーケバブ」など表記が揺れます。この記事では、読みやすさを優先してジャーケバブに統一します。
買い出し|肉より先に平串とスマックを決める

ラム肉は、焼肉用、ジンギスカン用、ブロックのどれでも作れます。薄切りすぎるジンギスカン用は重ねやすい反面、切り出す前に火が入りすぎるので、5mm以上の厚みがあるものを選びます。買い物で先に決めたいのは、肉そのものより平串です。丸串や竹串では、肉の塊がくるくる回ってしまい、焼けた面を狙って返しにくくなります。
スマックは、ジャーケバブの肉そのものに大量に混ぜるスパイスではありません。玉ねぎにまぶして、脂のある羊肉と一緒に食べるための酸味です。レモンだけでも作れますが、スマックの乾いた赤い酸味が入ると、ラヴァシュで包んだ時に一気にトルコの食卓らしくなります。
中心温度計は、厚い肉の安心材料です。横焼きの本式では焼けた層を見ながら切りますが、家庭のグリルパンでは火の当たり方が一定ではありません。切り出した一番厚い部分で温度を見ると、焼き色にだまされにくくなります。
| 買うもの | 優先度 | 理由 | 代替 |
|---|---|---|---|
| 平たい金属串 | 高 | 肉が回りにくく、焼けた面を狙って返せる | 太めの金串を2本並べる |
| スマック | 高 | 玉ねぎに乾いた酸味と赤い香りを足す | レモン汁とゆかり少量 |
| 中心温度計 | 中 | 外側の焼き色だけで火通りを判断しない | 厚い一切れを切って中心を確認 |
失敗原因|水分と切り出しの待ち方

ジャーケバブは、調味料の種類より水分管理で失敗します。玉ねぎで肉を柔らかくしたいのに、汁をつけすぎるとグリルパンの上で煮えます。焼き色を急ぐと表面だけ焦げ、切った内側が冷たいまま残ります。家庭版では、玉ねぎをまとわせる、焼く前にぬぐう、強めの熱で外側を作る、この順番が大事です。
| 失敗 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 肉が灰色で水っぽい | 玉ねぎが多すぎる、パンの予熱不足 | 焼く前に玉ねぎをぬぐい、220から240度Cまで予熱する |
| 表面が苦い | 焦げた玉ねぎを何度も焼いた | 切り出し後に鍋底をぬぐい、中火で追い焼きする |
| 肉がぱさつく | 脂の少ないもも肉だけで作った | 肩ロースを選ぶか、薄い脂を層の間に挟む |
| 切ると崩れる | 串への重ね方がゆるい | 肉を折りたたみ、手で押さえて6から7cm径の塊にする |
| 中心がぬるい | 外側だけで判断した | 厚い一切れで63度C以上を確認し、足りなければ追い焼き |
| トルコらしい酸味が弱い | 玉ねぎだけで食べている | スマック小さじ2とレモン汁を玉ねぎに混ぜる |
日本の台所で一番迷うのは、どこまで本場に寄せるかです。横回転のロースター、羊の尾脂、現地のラヴァシュまで全部をそろえる必要はありません。ただし、守るところはあります。肉を薄く重ねること、焼けた層を切って追い焼きすること、スマック玉ねぎで脂を受けること。この三つを残せば、単なるラム焼肉ではなく、ジャーケバブとして食卓に出せます。
余談ですが、同じ羊肉の串でも、中央アジアやコーカサスのシャシリクは角切り肉を酸味で漬けて串に刺す料理です。ジャーケバブは角切りではなく、薄い層を重ねて焼けた外側を切る。ここを間違えると、味はおいしくても料理の性格が変わります。
保存と翌日の食べ方

焼いたジャーケバブは、肉、ラヴァシュ、スマック玉ねぎを分けます。肉は浅い容器に広げ、粗熱が取れたらふたをして冷蔵します。保存目安は2日です。スマック玉ねぎは水分が出るので、翌日までに食べ切ります。焼きトマトと青唐辛子は香りが落ちやすいため、残すより当日中に食べる方が向きます。
温め直しは、電子レンジだけで終えない方がよいです。耐熱皿に肉を広げ、水小さじ1をふり、ラップを軽くかけて600Wで40から50秒温めます。その後、フライパンを弱めの中火にして1分だけ転がします。最初から強火で焼き直すと、外側の玉ねぎが焦げ、中心が温まる前に苦くなります。温めてから香りを戻す順番にしてください。
翌日は、ラヴァシュに包むより、温かいご飯やブルグルにのせてもおいしいです。肉を細く切り、スマック玉ねぎを少し足し、レモンをしぼると重さが切れます。ヨーグルトを添える場合は、にんにくをほんの少し混ぜた無糖ヨーグルトにします。甘いヨーグルトやマヨネーズに寄せると、せっかくの羊肉と玉ねぎの香りがぼやけます。
同じトルコ料理で献立を組むなら、先に赤レンズ豆のメルジメッキ・チョルバスを出し、肉の横にドルマを置くと、脂のある主菜を野菜と豆で受けられます。甘い締めに寄せるならバクラヴァまで行くと、外食のような流れになります。
よくある質問

ラム肉が苦手な家族には牛肉で作れますか?
作れますが、料理としてはジャーケバブ風の牛串になります。牛肩ロースまたは牛ももを5mm厚に切り、玉ねぎ、塩、黒こしょうで同じように休ませます。牛肉は羊肉より香りが穏やかなので、スマック玉ねぎと焼きトマトを多めに添えると単調になりません。豚肉で作る場合は中心までしっかり火を通し、70から75度Cを目安にします。
丸串や竹串でもできますか?
できますが、返す時に肉が回りやすく、焼けた面を狙いにくくなります。竹串を使うなら、太めの竹串を2本並べて刺すと肉が回りにくくなります。ただし、長時間の強火では焦げやすいので、30分水に浸し、持ち手に近い部分はアルミホイルで覆うと扱いやすいです。
玉ねぎはすりおろしではなく薄切りでもいいですか?
下味にはすりおろしが向きます。薄切り玉ねぎは肉の隙間に残り、グリルパンで焦げやすくなります。玉ねぎの香りだけを移し、焼く前にぬぐえる状態にするため、すりおろして使います。食べる時の玉ねぎは別で薄切りにし、スマックとレモンで和えます。
オーブンや魚焼きグリルだけで焼けますか?
焼けます。魚焼きグリルなら強火で2分予熱し、串を入れて片面4分、返して3分、焼けた外側を切ってからさらに2から3分焼きます。オーブンなら240度Cに予熱し、網にのせて8分、返して6分が目安です。どちらも機器差が大きいので、切り出した厚い部分の温度を見て、足りなければ短く追い焼きします。
スマックがないと物足りませんか?
レモンだけでも食べられます。ただし、スマックの乾いた酸味があると、羊肉の脂をかなり軽く感じます。代替するなら、薄切り玉ねぎにレモン汁大さじ1、ゆかり小さじ1/2、塩小さじ1/4を混ぜます。ゆかりを増やすと和風に寄りすぎるので、色をつける程度にします。
前日から漬けてもいいですか?
できます。前日から漬ける場合は塩を小さじ1に減らし、焼く30分前に冷蔵庫から出して表面の玉ねぎを軽くぬぐいます。24時間を超えると玉ねぎの香りが強く出すぎ、肉の表面が締まります。初回は4から6時間で焼く方が、羊肉の香りと玉ねぎの甘さのバランスを取りやすいです。
参考にした資料
- Erzurum Valiliği, "Cağ Kebabı." https://www.erzurum.gov.tr/cag-kebabi 2026年参照
- Wikipedia contributors. "Cağ kebabı." https://en.wikipedia.org/wiki/Ca%C4%9F_kebab%C4%B1 2026年参照
- Turkish Patent and Trademark Office, "Oltu Cağ Kebabı" geographical indication record. https://ci.turkpatent.gov.tr/ 2026年参照
- FoodSafety.gov, "Safe Minimum Internal Temperatures." https://www.foodsafety.gov/food-safety-charts/safe-minimum-internal-temperatures 2026年参照













