朝の市場みたいに、麺と野菜を重ねる
米麺を器にほどき、きゅうり、もやし、いんげん、ハーブを横に積む。そこへ魚の香りが混じった黄色いスープをかけると、台所の空気が一気に東南アジアへ寄ります。ノムバンチョック(Num banhchok / Nom banh chok、クメール語でនំបញ្ចុក)は、カンボジアで朝食や軽い食事として親しまれる米麺料理です。
日本語では「カンボジア風そうめん」と雑に説明されることがありますが、実際に作ると違いがはっきり出ます。主役は麺だけではありません。レモングラス、ガランガル、ターメリック、こぶみかんの葉を刻んだ香味ペースト、魚のだし、プラホックに近い発酵魚のうまみ、そして生野菜の山。この重なりで食べる料理です。

現地の生米麺やプラホックを日本で毎回そろえるのは難しいので、この記事では乾燥米麺、白身魚、ナンプラー、アンチョビ少量で家庭向けに組みます。守るべき芯は、香味ペーストを薄めないこと、魚の身をスープへ戻して軽くとろみを作ること、野菜を最後に冷たいまま重ねることです。
英語では Num banhchok、Nom banh chok、Num banh chok など表記が揺れます。クメール語ではនំបញ្ចុកと書かれ、米麺そのものや米麺料理を指す文脈で使われます。本記事ではキュー名に合わせてNum banhchokを併記し、日本語では「ノムバンチョック」と表記します。
材料 4人分
魚のスープ
| 材料 | 分量 | 代替・注意 |
|---|---|---|
| 乾燥米麺 | 320g | 細めの米麺。太い麺なら戻し時間を長めにする |
| 白身魚の切り身 | 320g | たら、鯛、すずきなど。骨は取り除く |
| 水 | 900ml | 魚を下煮してスープに使う |
| ココナッツミルク | 200ml | 濃すぎるとカレー寄りになるので半量缶程度 |
| ナンプラー | 大さじ1と1/2 | プラホックの代替の一部 |
| アンチョビ | 1枚、約5g | 細かく叩く。苦手なら省いてナンプラーを小さじ1足す |
| きび砂糖 | 小さじ1 | 角を丸める。甘くしすぎない |
| 塩 | 小さじ1/3 | 最後に調整 |
| レモン汁 | 小さじ2 | 仕上げに少量。ライムでも可 |
クルーン風ペースト
| 材料 | 分量 | 代替・注意 |
|---|---|---|
| レモングラス | 2本、白い部分約40g | 冷凍でも可。硬い外皮は除く |
| ガランガル | 20g | なければしょうが15g。ただし香りは別物 |
| 生ターメリック | 8g | なければターメリックパウダー小さじ1 |
| こぶみかんの葉 | 4枚 | 中央の硬い筋を取る。なければライム皮少量 |
| にんにく | 2片 | 芯を除く |
| エシャロットまたは赤玉ねぎ | 50g | 玉ねぎなら水分が多いので炒め時間を1分延ばす |
| サラダ油 | 大さじ1 | ペーストを炒めるため |
仕上げ野菜
| 材料 | 分量 | 代替・注意 |
|---|---|---|
| きゅうり | 1本 | 細切り |
| もやし | 120g | さっと洗い、水気を切る |
| いんげん | 80g | 1cmに切って軽く茹でる |
| キャベツまたは紫玉ねぎ | 80g | バナナの花の代替。細く刻む |
| ミント | ひとつかみ | 香りの軸 |
| バジルまたは大葉 | ひとつかみ | タイバジルがあれば近い |
| ライムまたはレモン | 1/2個 | くし形に切る |
このレシピは魚、小麦を含む可能性がある調味料、ナンプラーを使います。魚は中心まで火を通し、ほぐす前に骨を取り除いてください。妊娠中の方、小さな子ども、高齢の方、体調に不安がある方へ出す場合は、魚の中心が63度C以上になっているか確認すると安心です。
買い出しで迷うもの
米麺、魚、きゅうり、もやしは近所でそろいます。通販で見る価値があるのは、香りの芯になるレモングラス、ガランガル、こぶみかんの葉です。ここをしょうが、レモン皮、カレー粉だけで済ませると、食べられる麺料理にはなりますが、クメール料理らしい青くて土っぽい香りが出ません。
レモングラスは生がなければ冷凍で十分です。根元の白い部分を薄く刻むと、すり鉢でもフードプロセッサーでもペーストにしやすくなります。
生ターメリックが手に入らない日は、パウダーで色と土っぽい香りを補います。カレー粉ではなく単体のターメリックを使うと、スープの方向がぶれにくくなります。
ガランガルは、しょうがよりも木質で、少し樟脳のような香りがあります。しょうがで代替はできますが、ノムバンチョックのスープを「東南アジアの魚スープ」に寄せるなら、ここは買い足す価値があります。
こぶみかんの葉は、入れる量は少なくても香りの輪郭を作ります。葉の筋は硬いので取り、細く刻むか、スープで香りを出して最後に取り除きます。
プラホックなしで近づける考え方
プラホックは、カンボジア料理のうまみと香りを支える発酵魚です。ただ、日本の家庭で毎回使いやすい材料ではありません。強い発酵香をいきなり足すより、初回はナンプラーとアンチョビで控えめに補い、魚の煮汁とクルーンをきちんと作る方が失敗しにくいです。
| 材料 | 近づくところ | 注意点 |
|---|---|---|
| ナンプラー | 塩味と魚醤のうまみ | 入れすぎるとタイ料理寄りの塩辛さになる |
| アンチョビ | 発酵魚の濃さ | 1枚で十分。多いと洋風の塩蔵魚に寄る |
| 味噌少量 | 丸み | クメール料理らしさは弱くなる。小さじ1/2まで |
| 塩だけ | 食べやすさ | 現地らしい奥行きはかなり弱くなる |
代替不可に近いのは、レモングラスとガランガルの組み合わせです。ここを抜くと、魚のココナッツスープに米麺を入れた料理になります。プラホックを持っていなくても、香味ペーストだけはなるべく守ってください。
失敗しやすいところ
| 症状 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| スープが魚臭い | 魚を強く沸かした、骨や血合いが残った | 弱火で下煮し、煮汁をこす。しょうがではなくレモングラスを増やす |
| 香りが薄い | ペーストが粗すぎる、炒め時間が短い | レモングラスを薄切りにし、油で3分炒めて香りを出す |
| カレー粉味になる | ターメリックと市販カレー粉に頼った | ガランガル、こぶみかんの葉、レモングラスを入れる |
| 麺が切れる | 茹ですぎ、流水で強く揉みすぎ | 表示より短く茹で、指で軽くほぐす程度に洗う |
| 野菜が水っぽい | 切ってから水を切っていない | ざるで10分置き、盛る直前にのせる |
| 塩辛い | ナンプラーとアンチョビが多い | ココナッツミルク50mlと煮汁100mlを足し、レモン汁で締める |
スープが薄い時に、すぐナンプラーを足すと塩だけが前に出ます。まず弱火で5分煮て、魚の身を少し崩してから味を見る方が安定します。麺にかける料理なので、スープ単体で少し濃いくらいがちょうどよいですが、野菜の水分も入ることを忘れないでください。
食べ方と献立
カンボジアのノムバンチョックは、朝に食べる軽い麺料理として語られることが多い一方、野菜を増やせば昼食にもなります。日本の食卓では、熱いスープを大鍋で出し、米麺と野菜を別皿にして、各自が器で重ねると食べやすいです。
同じカンボジア料理で続けて読むなら、魚の香味蒸しであるアモックはココナッツと香味ペーストの使い方が近く、牛肉をさっと炒めるロックラックは食卓の主菜に寄ります。保存食の流れでは、干し魚を使うアルック・トレイ・ンゲアットも、魚とうまみの扱いを比べやすい料理です。
東南アジアの米麺で比べるなら、ベトナムのフォーガーは澄んだ鶏だし、ミャンマーのモヒンガーは魚と米麺の朝食スープです。ノムバンチョックはその中でも、生野菜を山にして、香味の強い魚スープをかける食べ方が魅力です。
保存と作り置き
保存は、スープ、麺、野菜を必ず分けます。全部を混ぜると、米麺がスープを吸い、野菜から水が出て、翌日にはぼそっとします。
| 保存対象 | 期間 | ポイント |
|---|---|---|
| 魚スープ | 冷蔵2日 | 完全に冷ましてから保存。再加熱は弱火でふつふつまで |
| 茹でた米麺 | 冷蔵1日 | 少量の油を絡めず、固まったらぬるま湯でほぐす |
| 切った野菜 | 冷蔵1日 | 水気を切り、ハーブは別に包む |
| 冷凍 | スープのみ2週間 | ココナッツミルクが少し分離するので、再加熱後によく混ぜる |
作り置きするなら、前日にクルーン風ペーストだけ作るのが一番効果的です。冷蔵で2日持ちます。魚を煮るところから先は、食べる日に進める方が香りが残ります。
よくある質問
プラホックがないと作れませんか
作れます。現地の香りを完全に再現する材料ではありませんが、ナンプラーとアンチョビ少量で魚のうまみを補えます。初回は食べやすさを優先し、慣れたら東南アジア食材店でプラホックを探すのが現実的です。
魚は何を使えばよいですか
たら、鯛、すずき、さわらなど、身が白くて骨を取りやすい魚が向きます。青魚は香りが強く、クルーンの香りとぶつかりやすいので初回は避けます。切り身を使う場合でも、皮と骨を外してからほぐしてください。
ココナッツミルクは必須ですか
地方や家庭で濃さは変わりますが、日本の台所では少量入れると魚の香りと香味ペーストがまとまりやすくなります。入れすぎるとラクサのような濃い麺スープへ寄るため、4人分で200mlを目安にしてください。
米麺はそうめんで代用できますか
食べられますが、別の料理になります。そうめんは小麦の香りと塩分があり、魚スープを吸うと柔らかくなりすぎます。どうしても使う場合は、かなり硬めに茹で、流水でよく洗ってから使います。
辛くしなくてもよいですか
この基本版は辛さを入れていません。カンボジア料理は、最初から強く辛いというより、食卓で唐辛子やライムを足して調整する形もあります。辛くしたい場合は、仕上げに刻み唐辛子を少量添えます。
朝食以外にも出せますか
出せます。昼食にするなら、米麺を少し増やすより野菜と魚を増やす方が満足感が出ます。夜に出す場合は、ロックラックのような肉料理を少量添えると、食卓が締まります。
参考にした資料
- Grantourismo Travels「Nom Banh Chok Recipe」
- Cambodia Flavours「Nom Banh Chok Recipe」
- Cambodianess「The Taste of Angkor: Num Banh Chok」
- Wikipedia contributors「Num banhchok」












