タジキスタンの国民食クルトブ。ちぎったフラットブレッドにヨーグルトソースと新鮮な野菜が盛られた伝統皿
🔪下準備30分
🔥調理15分
🍽️分量4
🌍料理タジキスタン料理
東欧・コーカサスレシピ

クルトブの作り方|タジキスタン国民食の発酵パンサラダ

20分で読めます世界ごはん編集部

「パンをちぎって、ヨーグルトに浸す」——それだけで国民食になる

タジキスタンの首都ドゥシャンベ。街の食堂に入ると、ほぼ全てのテーブルに同じ料理が並んでいます。大きな丸皿の上に、ちぎったパンの山。その上から白いヨーグルトソースがたっぷりとかけられ、赤いトマト、白い玉ねぎ、緑のハーブが彩りを添えています。

クルトブ(Qurutob / Қурутоб) ——タジキスタンの国民食です。

材料はきわめてシンプル。干しヨーグルト(クルト)を水で溶いたソースに、タジキスタンの薄焼きパン(ノン)をちぎって浸し、生野菜とハーブを盛る。調理らしい調理はほとんどありません。火を使うのはパンを焼くときだけ。それなのに、この料理はタジキスタン人にとって「母の味」であり、2018年にはユネスコ無形文化遺産への登録申請が行われたほどの文化的重要性を持っています。

クルトブの魅力は、素朴さの中に潜む発酵の深みです。クルトは牛や羊のヨーグルトを何日もかけて乾燥・濃縮させた保存食で、強い酸味と塩味、独特のうま味を持っています。この発酵乳の濃厚なソースがパンに染み込み、生野菜のシャキシャキ感と混然一体になる。暑い夏の日には冷たいクルトブが最高の昼食であり、寒い冬にはぬるま湯で溶いたクルトが体を温めます。

日本ではほぼ無名の料理ですが、マンティヒンカリのように中央アジア・コーカサス料理への関心が高まる中、クルトブはまだ知られていない宝石のような存在です。

クルトブとは

タジク語で「クルト(қурут)= 干しヨーグルト」「オブ(об)= 水」を意味する。つまり「クルトの水」が料理名の語源。タジキスタン全土で食べられるが、特にドゥシャンベ周辺とパミール高原で盛ん。2018年にタジキスタン政府がユネスコ無形文化遺産への登録を申請した。中央アジア全域に類似料理があり、ウズベキスタンでは「シャルシャラ」、アフガニスタンでは「カシュク・エ・クルト」と呼ばれる。

タジキスタンの国民食クルトブ。フラットブレッドにヨーグルトソースと新鮮な野菜が盛られている
クルトブの完成形。白いヨーグルトソース、赤いトマト、緑のハーブが美しいコントラストを作る

4人分

材料(4人分)

クルトソース

材料 分量 代替・備考
クルト(干しヨーグルト) 200 g ギリシャヨーグルト400 g + 塩小さじ1で代用可(後述)
ぬるま湯 200 ml クルト代用の場合は不要

ノン(フラットブレッド)

材料 分量 代替・備考
強力粉 300 g 中力粉でも可
180 ml ぬるま湯(35度程度)
ドライイースト 小さじ1
小さじ1
サラダ油 大さじ1
白ごま 大さじ1 仕上げ用。なくても可

トッピング(生野菜・ハーブ)

材料 分量 代替・備考
トマト 2 個(くし切り) 完熟のものを。味の要
玉ねぎ 1 個(薄切りリング) 水に10分さらして辛味を抜く
きゅうり 1 本(斜め薄切り)
パクチー 1束(ざく切り) ディルやバジルでも可
青ねぎ 3 本(小口切り)
サラダ油 大さじ3 仕上げに回しかける
小さじ1/2 味を見て調整
黒こしょう 少々
クルトブの材料。トマト、玉ねぎ、きゅうり、パクチーがカッティングボードに並ぶ
クルトブのトッピング材料。新鮮な野菜とハーブが味の決め手
クルト(干しヨーグルト)の入手方法と代用

クルトはタジキスタン・ウズベキスタン・カザフスタンなどの中央アジア諸国で広く使われる保存食です。日本ではAmazonや楽天で「クルト」「カシュク」「ドライカード」の名前で少量が輸入販売されています(1,000〜2,000円/200 g程度)。入手が難しい場合は以下の手順で代用ソースを作れます。

簡易クルトソースの作り方:

  1. ギリシャヨーグルト400 gに塩小さじ1を混ぜる
  2. ガーゼに包んで冷蔵庫で一晩水切りする(約200 gに濃縮される)
  3. 使う直前にぬるま湯100 mlで溶いてクリーム状にする

この方法で、クルトの酸味と濃厚さに近いソースが作れます。さらにこだわるなら、水切り後のヨーグルトを小さく丸めて3日間天日干しすると、自家製クルトになります。

この料理に使う食材・道具

GABAN クミンパウダー 65 g
GABAN クミンパウダー 65 g
¥498(税込・変動あり)
貝印 めん棒(木製)30cm
貝印 めん棒(木製)30cm
¥880(税込・変動あり)

調理手順

1

ぬるま湯にドライイーストを入れて5分待ち、泡立ちを確認する

泡が出なければイーストが死んでいるため、新しいものに交換する。

手順1: ぬるま湯にドライイーストを入れて5分待ち、泡立ちを確認する
2

ボウルに強力粉・塩を入れ、イースト液とサラダ油を加えてこねる

生地がまとまるまで5分、表面がなめらかになるまでさらに5分こねる。[ブレク](/recipes/east-europe/bosnia/burek)のフィロ生地ほど薄く伸ばす必要はないが、均一にこねることが重要。

手順2: ボウルに強力粉・塩を入れ、イースト液とサラダ油を加えてこねる
3

ラップをかけて温かい場所で45分発酵させる(1.5倍に膨らむまで)

冬場は35度のオーブンに入れるとよい。夏場は室温で十分。

手順3: ラップをかけて温かい場所で45分発酵させる(1.5倍に膨らむまで)
4

生地をガス抜きして直径25cmの円形に伸ばし、フォークで中央に穴を数か所開ける

端を厚め(1cm)、中央を薄め(5mm)に伸ばすのがノンの基本形。フォークの穴は焼き膨れを防ぐ。

手順4: 生地をガス抜きして直径25cmの円形に伸ばし、フォークで中央に穴を数か所開ける
5

白ごまを表面に振り、210度に予熱したオーブンで12〜15分焼く(黄金色になるまで)

フライパンで片面5分ずつ焼いてから、200度のオーブンで5分仕上げる方法でも可。

手順5: 白ごまを表面に振り、210度に予熱したオーブンで12〜15分焼く(黄金色になるまで)
6

焼きたて(または常温)のノンを手で大きめにちぎり、大皿の底に敷き詰める

1枚のノンを8〜10片にちぎるのが目安。タジキスタンでは、パンを包丁で切るのは失礼とされ、必ず手でちぎる。

手順6: 焼きたて(または常温)のノンを手で大きめにちぎり、大皿の底に敷き詰める
7

クルトソースをパンの上からまんべんなくかける

パンの端までしっかりソースが行き渡るように。パンがソースを吸い込んで、ふにゃりとした独特の食感になるのがクルトブの醍醐味。

8

くし切りトマト、薄切り玉ねぎ、きゅうりを美しく盛り付ける

トマトは皿の上に放射状に並べると見栄えがよい。玉ねぎのリングを散らし、きゅうりを隙間に配置する。

9

パクチーと青ねぎを散らし、サラダ油を全体に回しかける。塩・黒こしょうで味を整える

仕上げのサラダ油は重要で、ソースと野菜をつなぐ役割を果たす。[タブレ](/recipes/middle-east/lebanon/tabbouleh)のオリーブオイルと同じ原理。

手順9: パクチーと青ねぎを散らし、サラダ油を全体に回しかける。塩・黒こしょうで味を整える
📊 栄養情報(1人分)
105
kcal
3.5g
タンパク質
4.5g
脂質
13.0g
炭水化物
1.0g
食物繊維
145mg
ナトリウム
※ 目安値です。材料や調理法により変動します。

この料理の歴史——シルクロードが育んだ保存食文化

クルトブの歴史を語るには、まずクルト(干しヨーグルト)の歴史を理解する必要があります。

中央アジアの遊牧民は、何千年も前から羊やヤクの乳を発酵・乾燥させて保存食を作ってきました。クルトはその代表格で、紀元前からシルクロードの旅人たちが携帯食として持ち歩いていたとされています。乳を発酵させて酸味を出し、塩を加えて天日干しすることで、常温で数か月保存できる栄養源が完成します。

タジキスタンの領土の93%は山岳地帯であり、その多くはパミール高原(「世界の屋根」と呼ばれる標高4,000m以上の高原)です。この過酷な環境では、新鮮な乳製品を長期間保存することができません。クルトは、夏に搾った乳を冬まで保存するための生存のための技術でした。

パミール高原の山岳風景。雪を頂いた山々と緑の谷間にある小さな村
パミール高原。世界の屋根と呼ばれるこの過酷な環境が、クルトという保存食文化を生んだ

クルトブが料理として成立したのは、定住化が進んだ10〜12世紀頃と推定されています。それ以前は、クルトは単独で、あるいは水に溶かしてスープとして飲まれていました。定住民がパン焼きの技術を持ち込んだことで、「クルト+パン+野菜」の組み合わせが生まれました。

ソ連時代(1929〜1991年)、タジキスタンは綿花の大量生産を強いられ、自給的な食文化が抑圧されました。しかしクルトブは農村の家庭で静かに作り続けられ、1991年の独立後、タジキスタンの国民的アイデンティティの象徴として復権しました。現在のドゥシャンベには「クルトブハウス」と呼ばれるクルトブ専門レストランが数十軒あり、市民の日常食であると同時に観光の目玉にもなっています。

2018年、タジキスタン政府はクルトブをユネスコ無形文化遺産に登録申請しました。この申請書には「クルトブはタジキスタン人のおもてなしの精神、家族の絆、食材を無駄にしない知恵を体現する文化的遺産である」と記されています(Tajikistan State Commission for UNESCO, 2018)。


調理のコツ——クルトブを完璧にする5つのポイント

タジキスタンのダスタルハン(食卓布)。クルトブを中心に様々な料理、パン、ドライフルーツが並ぶ
タジキスタンのダスタルハン(食卓)。クルトブはこの豪華な食卓の中心に位置する

1. ソースの濃度が命

クルトソースが薄すぎるとパンがべちゃべちゃになり、濃すぎるとパンに浸透しません。目安は生クリーム程度のとろみ。スプーンの背に薄く膜が張る程度が理想です。水を一気に加えず、少しずつ調整してください。

2. パンは「焼きたて」か「前日の硬いパン」

タジキスタンでは2種類のクルトブがあります。焼きたてのノンを使う贅沢版と、前日の硬くなったパンを使う節約版です。どちらもおいしいですが、それぞれ仕上がりが異なります。

焼きたてのノンはソースを吸いつつもモチモチ感が残り、硬いパンはソースで完全に柔らかくなってパンプディングのような食感になります。初めて作るなら焼きたてがおすすめです。日本のフランスパンの残りで節約版を作るのも賢い選択です。

3. 玉ねぎの辛味は必ず抜く

クルトブに使う玉ねぎは必ず水にさらして辛味を抜いてください。タジキスタンの玉ねぎは日本のものより辛味が少ないですが、日本の玉ねぎはそのまま使うと辛味がソースのまろやかさを壊します。薄切りにして10分間水にさらし、しっかり水気を切ってから使います。

4. 野菜は「大きめ」に切る

クルトブの野菜は、サラダのように細かく刻みません。トマトは大胆なくし切り、きゅうりは斜め厚切り。大きな野菜の食感とソースに浸ったパンの柔らかさのコントラストがクルトブの魅力です。セビーチェの魚介のように、素材そのものの存在感を活かす切り方を心がけてください。

5. 仕上げのサラダ油を忘れるな

タジキスタンでは、仕上げにサラダ油(綿実油が伝統的)をたっぷり回しかけます。油がソースと野菜をつなぎ、全体にまろやかさを加えます。オリーブオイルで代用するとさらに風味が増しますが、タジキスタンの伝統的な味わいからは少し離れます。


クルトブのバリエーション——地域と季節で変わる「国民食」

クルトブはシンプルな料理だからこそ、地域や季節によって多彩なバリエーションが存在します。ハチャプリがジョージアの地方ごとに異なる形を持つように、クルトブもタジキスタンの各地で独自の進化を遂げています。

標準的なクルトブ(ドゥシャンベ式)

本記事で紹介したレシピが最も一般的なドゥシャンベ式です。ノン+クルトソース+生野菜(トマト・玉ねぎ・きゅうり・ハーブ)の組み合わせで、夏の昼食として特に人気があります。

パミール式クルトブ

パミール高原では、クルトソースに**ヤクのバター(ルーガン)**を加えてカロリーを高めます。標高4,000m以上の過酷な環境では、脂肪分の高い食事が生存に不可欠だからです。野菜が限られるため、乾燥ハーブやワイルドオニオン(野生のネギ)が使われることもあります。

冬のクルトブ

冬場は生野菜が手に入りにくいため、炒めた玉ねぎとトマトペーストでトッピングを代用します。また、クルトソースをぬるま湯ではなく温かい肉のスープで溶くこともあり、スープクルトブとして体を温める料理になります。ボスニアのブレクが冬の食卓を支えるように、冬のクルトブはタジキスタンの寒さを乗り越える力を与えてくれます。

豪華版クルトブ

祝い事の席では、クルトブにラム肉のロースト、ドライフルーツ(アプリコット・レーズン)、クルミが加わります。この豪華版は「クルトブ・バ・ゴーシュト(肉入りクルトブ)」と呼ばれ、結婚式や新年の食卓に欠かせません。

パン。クルトブの材料となるフラットブレッド
フラットブレッド。クルトブの土台として欠かせないパン

クルトブの栄養——発酵食品としての価値

クルトブの栄養価は、クルト(干しヨーグルト)に由来する発酵食品としての価値が大きな特徴です。

栄養素(クルトブ1食分あたり) 含有量
カロリー 約420kcal
タンパク質 14g
脂質 18g
炭水化物 52g
食物繊維 4g
カルシウム 180mg
ビタミンB2 0.3mg

クルトに含まれる**乳酸菌(ラクトバチルス属)**は乾燥後も一部が生存しており、腸内環境の改善に寄与するとされています(Tamang et al., 2016)。また、発酵過程でタンパク質が分解されてペプチドが生成されるため、通常のヨーグルトより消化吸収が良い特徴があります。

パンからの炭水化物、クルトからのタンパク質とカルシウム、生野菜からのビタミンC・食物繊維——クルトブは一皿で三大栄養素をバランスよく摂取できる合理的な食事です。ピエロギのように炭水化物に偏りがちな東欧料理の中では、生野菜をたっぷり使うクルトブは栄養バランスに優れています。

発酵乳製品の保存食としての知恵

クルトに代表される中央アジアの乾燥発酵乳は、冷蔵庫のない時代に乳製品を長期保存する画期的な技術でした。モンゴルの「アーロール」、トルコの「クルト」、イランの「カシュク」は全て同じ系統の保存食です。発酵によるpH低下と乾燥による水分活性の低下が微生物の繁殖を抑え、常温で6か月以上の保存を可能にしています。


よくある質問

クルトブを初めて作る方へ

クルトブは火をほとんど使わない料理です。パンさえ用意できれば、あとは「混ぜて盛るだけ」。材料の入手が最大のハードルですが、ギリシャヨーグルトとナンパンで代用すれば、日本の台所で今日から作れます。

Q1. クルトブは冷たい料理?温かい料理?

基本は常温〜冷たい料理です。特に夏は冷蔵庫で冷やしたクルトソースを使い、冷たいクルトブが好まれます。ただし冬には温かいスープで溶いたクルトソースを使う「温かいクルトブ」もあります。

Q2. 日持ちはしますか?

クルトブは作りたてを食べる料理です。パンがソースを吸い続けるため、時間が経つとパンが崩れてドロドロになります。作ったら30分以内に食べるのが理想です。残ったクルトソースは冷蔵庫で3日ほど保存できるため、食べる直前にパンと野菜を合わせてください。

Q3. ベジタリアンやヴィーガンでも食べられますか?

標準的なクルトブはベジタリアン対応です。動物性食材は乳製品(クルト)のみで、肉は使いません。ヴィーガンの場合は、クルトを豆乳ヨーグルトの水切りで代用することで、植物性のクルトブが作れます。


参考文献

学術論文・書籍:

報告・記事:

  • クルトブ
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  • 中央アジア料理
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