小さな揚げ包みが、モナコの食卓を動かす
揚げ油の中で、小さな半月の生地がふくらむ。泡が大きく暴れるうちはまだ早く、縁が薄いきつね色になって泡が細かくなったら、穴あきレードルで引き上げます。少しだけ休ませて割ると、中からフダンソウ、リコッタ、米、チーズの香りが湯気と一緒に出てくる。バルバジュアン(Barbajuan / Barbagiuan)は、モナコ周辺で親しまれる青菜入りの揚げラビオリです。
見た目はイタリアの揚げラビオリや小さなエンパナーダに近いのに、味の重心はもっと青菜寄りです。肉のうまみで押す料理ではなく、青菜の少し土っぽい香り、リコッタの軽い乳味、米のもっちり感、薄い揚げ生地の香ばしさで食べさせます。だから日本で作るときも、珍しい材料を無理に集めるより、青菜の水分を抜くこと、生地を厚くしないこと、油温を落とさないことが大事です。
この記事では、モナコとフランス南東部で見られる作り方をもとに、家庭の鍋で揚げやすい小型サイズへ調整します。フダンソウが見つからない日でも、小松菜とほうれん草を組み合わせればかなり近づけます。
どんな料理か|Castellarからモナコへ伝わった揚げ包み
バルバジュアンは、フランス語圏では Barbajuan、モナコ語・地域名では Barbagiuan とも書かれます。直訳の説明としては「ジャンおじさん」のように紹介されることがあり、フランス南東部の Castellar からモナコへ伝わった料理として語られます。Menton Riviera & Merveilles の地域レシピでも、フダンソウを使う郷土の小さな揚げ物として紹介されています。
モナコでは、軽食や前菜、祝日の食卓に出る料理として知られます。Hello Monaco は、11月19日のモナコ国民の日に結びつく料理としても紹介しています。家庭や店で形は少し変わり、半月型、四角、細長い形が混ざりますが、青菜、チーズ、米を包んで揚げる骨格は共通しています。
日本の台所で再現するときに守りたいのは、次の4点です。
| 守るところ | 理由 |
|---|---|
| 青菜は水分を飛ばしてから包む | 具が水っぽいと生地が破れ、油がはねやすい |
| 米を少量入れる | 具の水分を受け止め、軽いもっちり感が出る |
| 生地は1.5〜2mmまで薄く伸ばす | 厚いと中が団子のように重くなる |
| 170〜175℃で少量ずつ揚げる | 油温が下がると油っぽく、上がりすぎると色だけ濃くなる |
日本での買い出しと商品導線
小麦粉、卵、ねぎ、玉ねぎ、油は近所のスーパーで十分です。買い足す価値があるのは、薄い生地を安定して伸ばす道具、青菜を細かくする道具、油温を外さない道具です。バルバジュアンは材料より作業精度で仕上がりが変わります。
薄い生地をよく作るなら、30cm前後のめん棒があると扱いやすいです。短いめん棒だと中心だけ厚く残りやすく、包んだあとに端が重くなります。
青菜と香味野菜は包丁でも作れますが、18個分を細かくするなら小型フードプロセッサーが早いです。ペーストにせず、5mmほどの粗さで止めるのがコツです。
揚げものに慣れていない場合は、温度計が一番効きます。バルバジュアンは具が入るので、低温で長く揚げると油を吸い、高温だと皮だけ色づいて中の香りが重く残ります。
本場に寄せる分岐表
| 迷うところ | 近づける選択 | 日本の台所での落としどころ |
|---|---|---|
| 青菜 | フダンソウを葉と茎ごと使う | 小松菜+ほうれん草で香りとやわらかさを分ける |
| チーズ | リコッタ+パルメザン | リコッタがない日は水切りカッテージチーズ160g+粉チーズ50g |
| 米 | 少量入れて具を締める | 冷やごはんを水で洗わず、ほぐして使う |
| 形 | 小さな半月または四角 | 8cm前後にすると家庭鍋で揚げやすい |
| 揚げ方 | 薄い生地を高すぎない油温で揚げる | 170〜175℃を守り、4個ずつ揚げる |
フダンソウが手に入った日は、茎を捨てずに細かく刻んで使います。茎の少し青い香りが入ると、チーズだけでは出ない郷土料理らしさが出ます。逆にほうれん草だけで作る日は、水分が多いので炒め終わりに火を少し強め、底の汁を飛ばしてから冷ましてください。
失敗しやすいところ
揚げている途中で開く
縁に粉が多く残っているか、具を入れすぎています。閉じる前に縁の打ち粉を指で払い、水を薄く塗ります。具は1個18g前後で止め、空気を抜きながら押さえてください。フォークの跡は飾りではなく、縁を薄くつぶして密着させるための作業です。
油っぽくなる
油温が低いまま入れています。1回に入れる数が多いと一気に165℃以下へ落ち、皮が油を吸います。家庭の20cm鍋なら4個ずつが扱いやすいです。油温計がない場合は、小さな生地の切れ端を入れ、すぐ細かい泡が出て20秒ほどで薄く色づく状態を目安にします。
中が水っぽい
青菜の水分が残っています。刻んだあとに塩をまぶして絞り、さらにフライパンで底の水分がなくなるまで炒めます。炒めた青菜を熱いままリコッタと混ぜるとチーズがゆるみやすいので、必ずバットで冷ましてから合わせます。
皮が硬くなる
生地が厚いか、揚げすぎです。厚さ2mmを超えると、揚げても軽くならず、端が硬く残ります。揚げ色は濃い茶色ではなく、薄い黄金色で止めます。引き上げたあとも余熱で色が進むので、縁がきつね色になった瞬間に上げるくらいで十分です。
食べ方、献立、内部リンク

バルバジュアンは、熱々を山盛りで食べるより、少し落ち着かせて前菜のように出すと味が見えます。食卓には葉野菜のサラダ、オリーブ、レモンを置くと、揚げた皮の香ばしさと青菜の香りが重くなりません。飲み物は白ワイン寄りの料理ですが、家なら冷たい炭酸水や濃いめの紅茶でも合います。
同じ青菜と薄い生地の料理として比べるなら、クロアチアのソパルニクが近いです。こちらは焼く青菜パイで、にんにくオイルが主役になります。揚げものの作業感で近いのは、チュニジアのフリカッセやベトナムのチャーゾーです。具を包んで揚げる料理を横に広げたい日は、アルゼンチンのエンパナーダも参考になります。
保存と温め直し
一番おいしいのは揚げて3〜10分の間です。作り置きする場合は、包む前、揚げた後のどちらで止めるかを分けて考えます。
| 状態 | 保存方法 | 目安 |
|---|---|---|
| 包む前の具 | 密閉して冷蔵 | 翌日まで |
| 包んだ生地 | 打ち粉を振って1段で冷蔵 | 6時間まで |
| 揚げた後 | 冷まして密閉し、冷蔵 | 翌日まで |
| 冷凍 | 揚げる前にバットで凍らせて袋へ | 2週間まで |
冷蔵したものは、トースターまたはオーブン180℃で6〜8分温めます。電子レンジだけだと皮がしんなりするので、使う場合は600Wで20秒だけ温めてからトースターに移します。冷凍した未加熱のものは、解凍せず170℃の油で片面2分ずつ揚げ、表面が薄い黄金色になるまで様子を見ます。
よくある質問
フダンソウなしでも作れますか?
作れます。小松菜150gとほうれん草120gを合わせると、茎の食感と葉のやわらかさを分けられます。ほうれん草だけで作る場合は、水分が出やすいので炒め時間を1〜2分増やし、底に汁が残らない状態で止めます。
リコッタが見つからないときは?
水切りしたカッテージチーズ160gに、粉チーズ50gを混ぜると近い方向になります。クリームチーズは濃すぎて青菜の香りを消しやすいので、使う場合は80gまでにして、残りをカッテージチーズで補う方が軽く仕上がります。
米は入れないとだめですか?
入れた方が扱いやすいです。米は量を増やすためだけでなく、青菜とチーズの水分を受け止めます。抜く場合は、炒めた青菜をよりしっかり冷まし、パルメザンを10g増やすと具がまとまりやすくなります。
オーブンで焼いてもいいですか?
焼けますが、別の料理に近くなります。バルバジュアンらしさは、薄い生地が油でぷくっとふくらむ軽さにあります。どうしても焼くなら、表面に油を塗り、220℃で10〜12分焼きます。ただし、縁の香ばしさと皮の軽さは揚げた方が出ます。
前日にどこまで準備できますか?
具は前日に作れます。青菜を炒めて冷まし、チーズや米と合わせた状態で密閉して冷蔵してください。生地は当日にこねる方が伸ばしやすいですが、前日に作るなら冷蔵し、使う30分前に室温へ戻します。包んだ状態で長く置くと底が湿るので、揚げる6時間前までを目安にします。














