塩だらを裂くと、台所に夏のバルの匂いが立つ
冷蔵庫から戻した塩だらを取り出し、指でほぐすと、白い身が繊維に沿ってするすると裂けます。そこへトマトの赤、紫玉ねぎの薄い線、黒オリーブ、青いオリーブオイルを重ねる。鍋を出さないのに、まな板の上ではかなりスペインらしい香りが立ちます。
エスケイシャーダ(Esqueixada / esqueixada de bacallà)は、スペイン北東部カタルーニャで食べられる塩だらの冷たいサラダです。現地語の bacallà は塩蔵だら、esqueixar は裂く、ほぐすという意味で、料理名も「裂いた塩だら」に由来します。魚を細かく切るのではなく、戻した身を繊維に沿って裂くところに、この料理の手触りがあります。
日本で作るときの難所は、材料の名前よりも水分です。塩だらの塩が抜けすぎると味がぼやけ、抜けなければ一口目でしょっぱくなる。トマトの汁をそのまま入れると、せっかくのオリーブオイルが薄まり、皿の底に水がたまります。この記事では、干しダラを戻す作り方を軸にしつつ、甘塩たらで寄せる場合の調整も分けます。
ガスパチョがアンダルシアの火を使わないスープなら、エスケイシャーダはカタルーニャの火を使わない塩だら料理です。週末の主菜にするならパエリア・バレンシアーナ、同じカタルーニャの食卓に寄せるならカルソターダの前菜としてもつながります。塩だらの戻し方に慣れたら、ポルトガルのバカリャウ・ア・ブラスにも進みやすくなります。

現地の塩蔵だらを日本で毎回買えるとは限りません。基本は干しダラを12時間以上戻して作り、手に入らない場合は甘塩たらを短く塩抜きして使います。生だらだけで作ると、この料理らしい塩気と繊維感が出にくいため、代替としては最後の手段にします。
エスケイシャーダとは何か
カタルーニャ料理では、塩だらは保存食であり、家庭料理の土台でもあります。エスケイシャーダはその中でも火を使わない形で、戻した塩だらを裂き、トマト、玉ねぎ、ピーマン、黒オリーブ、オリーブオイルで和えます。ゆで卵をのせる家庭、白いんげん豆を合わせる地域、酢をほとんど使わず油でまとめる作り方もあり、皿の姿はかなり自由です。
ただし、自由だからこそ守る芯があります。ひとつは、塩だらを包丁で細かく刻みすぎないこと。断面が細かいそぼろ状になると、トマトの汁と油を吸って重たくなります。もうひとつは、野菜を水っぽくしないこと。夏野菜の汁はおいしいのですが、皿の底に流れると味が薄まり、冷蔵庫で休ませたあとにぼやけます。
現地では冷たい前菜として出ることが多く、パンと一緒に食べると皿に残った油まできれいに使えます。日本の献立なら、暑い日の夕食に白ワイン、パン、オムレツ、豆の煮込みを合わせると食べやすいです。米に合わせたい場合は、強い塩気が白ごはん向きというより、酢飯ではない小さな押し麦サラダやじゃがいも料理のほうがなじみます。
買い出しで迷う材料
トマト、玉ねぎ、パプリカ、ピーマンは近所のスーパーで十分です。商品カードで見る価値があるのは、近所で見つかりにくい塩だら、味の輪郭を決めるシェリービネガー、仕上げに直接かけるスペイン産のオリーブオイルです。エスケイシャーダは火を使わないので、油と酢の香りがそのまま皿に出ます。
塩だらは、この料理の中心です。甘塩たらでも作れますが、裂いた時の繊維感と香りを出したいなら、干しダラやバカリャウを一度見ておく価値があります。
シェリービネガーは少量でも香りが立ちます。米酢だけで作ると和風の酸味に寄りやすいので、スペイン料理らしい輪郭を出したい時に見る材料です。
オリーブオイルはドレッシングではなく、塩だらと野菜をつなぐ主材料です。仕上げに直接かけるので、香りの残るものを選ぶと皿の印象が変わります。
失敗原因 しょっぱい、水っぽい、魚臭い
一番多い失敗は、塩抜きの不足です。表面だけ味見すると抜けたように感じても、中心に塩が残ることがあります。必ず端を裂いて、中心の身を少し食べて確認します。塩気が強い時は真水に長く浸けるより、30分単位で様子を見るほうが魚の味を残せます。
水っぽい場合は、トマトと玉ねぎの水切り不足です。エスケイシャーダはドレッシングをかけるサラダではなく、塩だらと野菜を油でまとめる料理です。切った野菜をざるで10分置くだけで、皿の底にたまる水がかなり減ります。翌日に食べる予定なら、トマトだけ別にして、食べる2時間前に合わせるほうが食感が残ります。
魚臭さが出る場合は、戻した塩だらの水気が残っているか、油が弱いことが多いです。戻した魚はキッチンペーパーで拭き、油を先にまとわせます。レモン汁を増やしすぎると酸っぱいだけになり、塩だらの香りは消えません。どうしても気になる時は、パセリを15gまで増やし、黒こしょうを少し多めにします。
保存と作り置き
完成後は清潔な保存容器に入れ、冷蔵で当日中から翌日までを目安に食べます。塩だら自体は保存食ですが、野菜と和えたあとは生野菜の水分が入るため、常温放置には向きません。食卓に出す時も、暑い日は30分以上置きっぱなしにしないでください。
作り置きするなら、塩だらだけを戻して裂き、オリーブオイル小さじ2を絡めた状態で冷蔵しておくのが扱いやすいです。野菜は食べる当日に切り、水気を切ってから合わせます。完成後に味が濃くなった場合は、水で薄めず、追加のトマト、ゆでた白いんげん豆、または薄切りじゃがいもで受けると、料理として崩れにくいです。
冷凍はおすすめしません。戻した塩だらだけなら冷凍できますが、トマトと玉ねぎを合わせた後に凍らせると、解凍時に水が出て繊維も崩れます。余ったら、翌日にゆでたじゃがいもや白いんげん豆を加え、冷たい一皿として食べ切るほうがよいです。
現地の食べ方と献立
エスケイシャーダは、冷たい前菜として少量ずつ食べるとよさが出ます。パンを添えるのは、塩だらとトマトの汁を吸ったオリーブオイルを最後まで食べるためです。酸味を強くした場合は、パンを多めにするとバランスが取りやすく、塩気が強い場合は白いんげん豆やじゃがいもを足すと主菜寄りになります。
スペイン料理の流れで並べるなら、最初にエスケイシャーダ、次にトルティージャ、主菜にフィデウアが扱いやすいです。どれも家庭の台所で作りやすく、火を使う料理と冷たい料理の役割が分かれます。夏ならガスパチョと重ねてもよいですが、どちらもトマトを使うので、片方は小さめの器にします。
飲み物は、辛口の白ワイン、炭酸水、レモンを入れた冷たい水が合います。ビールに合わせるなら、酢を少し控え、黒オリーブを増やすと苦みと塩気が寄ります。子どもや酸味が苦手な人がいる食卓では、ビネガーを10mlに減らし、レモン汁を別添えにすると調整しやすいです。
FAQ
生だらで作れますか
作れますが、エスケイシャーダらしさは弱くなります。生だらは塩蔵だらほど繊維が締まっておらず、裂いた時に水っぽく崩れやすいです。使う場合は、切り身300gに塩6gをまぶして冷蔵庫で2時間置き、水気を拭いてから使います。この場合は食品安全のため、刺身用として扱える品質か、または別料理として加熱する選択も検討してください。
塩抜きは一晩で十分ですか
薄い塩蔵だらなら12時間で足りることがありますが、厚いものは24時間かかります。時間だけで判断せず、中心を裂いて味見します。しょっぱい場合は30分から1時間ずつ追加で戻し、水を替えます。抜きすぎた場合は、仕上げの塩で戻せますが、塩だら特有の香りは戻りません。
トマトの汁は捨てるべきですか
全部捨てる必要はありません。ただ、切った時にまな板へ大きく流れた薄い汁や、ざるの下にたまった水分を全部戻すと、油と酢が薄まります。果肉に絡んでいる汁はそのまま使い、底にたまった水だけ控える、という感覚がちょうどよいです。
オリーブは何を使えばいいですか
黒オリーブが定番です。種抜きで構いませんが、缶詰の水っぽいものは水気を拭き、塩気が強いものはさっとすすぎます。グリーンオリーブでも作れますが、酸味と香りが強くなるため、シェリービネガーを少し減らします。
前日に作ってもいいですか
塩だらを戻して裂くところまでは前日にできます。完成形で前日から置くと、トマトと玉ねぎの水が出て食感が落ちます。どうしても前日に仕込むなら、塩だら、野菜、調味料を別々に用意し、食べる30分前に和えて休ませます。
参考にした情報
- Wikipedia: Esqueixada(料理名、材料構成、語源の確認。2026年6月14日閲覧)
- Wikipedia: Catalan cuisine(カタルーニャ料理における塩だら料理の位置づけ確認。2026年6月14日閲覧)
- El País: Comidas y bebidas típicas de cada comunidad autónoma para refrescarse en verano(カタルーニャの夏料理としてのエスケイシャーダ確認。2026年6月14日閲覧)
- El País: Menos brunch y más almuerzos(塩だら文化と現地の食べ方の補助確認。2026年6月14日閲覧)












