マカッサルの湯気に近づく、具だくさんの牛スープ
鍋から牛肉の湯気が上がり、そこへガランガル、レモングラス、こぶみかんの葉の香りが混ざると、いつもの牛スープが一気に南スラウェシへ寄ります。ソップ・サウダラ(Sop Saudara)は、マカッサル周辺で親しまれる牛肉スープです。澄んだ牛だしにビーフン、ペルケデルというじゃがいもの揚げ団子、ゆで卵、揚げ玉ねぎ、サンバルを合わせるので、椀ひとつでもかなり満足感があります。

日本で作る時の難所は、牛肉そのものよりも「何を入れ、何を抜くか」です。現地では牛や水牛、肺などの内臓を使う例がありますが、家庭で初回から肺を下処理する必要はありません。牛すね、肩ロース、カレー用牛肉を静かに煮て、香味ペーストを別で炒め、仕上げにビーフンとペルケデルを椀で合わせれば、台所で無理なく近づけます。
同じインドネシアの汁物でも、黄色い鶏スープのソトアヤム、白っぽく濃いソト・ブタウィ、黒い牛肉スープのラウォンとは、食べ進め方が違います。ソップ・サウダラは、肉のスープに米、麺、芋、卵を重ねる「一椀の食事」です。
インドネシア語では Sop Saudara、古い表記や別名として Sop Sodara と書かれることがあります。本記事では日本語の読みやすさを優先し、「ソップ・サウダラ」と表記します。saudara は「兄弟、親族、仲間」に近い語で、料理名にも親しさを込めた響きがあります。
背景|PangkepからMakassarへ広がった兄弟のスープ
ソップ・サウダラは、南スラウェシのマカッサルとPangkep(Pangkajene Kepulauan)に結びつく料理として紹介されます。英語版Wikipediaでは、Haji Dollahi が1957年にマカッサルのKarebosi周辺で店を開いたこと、名前が客同士の親しさを表す発想から来たことが説明されています。味だけでなく、食堂の名前や土地の記憶が料理名に残っているのが面白いところです。
現地の説明でよく重なる具は、牛肉または水牛肉、肺などの内臓、ビーフン、ペルケデル、ゆで卵、揚げ玉ねぎです。家庭版では、内臓を入れない代わりに牛すね肉を少し長めに煮て、だしの厚みを出します。ペルケデルは面倒に見えますが、スープの中で芋の甘さと油の香ばしさを作る大事な具です。ここを抜くと、ただの牛肉ビーフンスープに寄りやすくなります。
| 食卓の要素 | 現地での役割 | 日本での現実解 |
|---|---|---|
| 牛肉、水牛肉、肺 | だしと肉の食べごたえ | 牛すね、肩ロース、カレー用牛肉。肺は初回では省く |
| ビーフン | 椀の軽さと量感 | 乾燥ビーフンを湯で戻す |
| ペルケデル | 芋の甘さ、油の香ばしさ | じゃがいもをつぶし、丸く焼く |
| 揚げ玉ねぎ | 香りと食感 | 市販フライドオニオン、または揚げエシャロット |
| サンバル | 辛味の調整 | 鍋に混ぜず、食卓で足す |
南スラウェシの肉スープをもっと濃く知りたいなら、牛肉と内臓を濃いスープで食べるCoto Makassar、牛肋骨を使うKonroも近い料理です。このサイトではまだ個別記事が薄い領域なので、今回はソップ・サウダラを先に台所で作れる形へ落とします。
買い出し|肉ではなく香りと仕上げに投資する

牛肉、じゃがいも、卵、ビーフンは近所のスーパーで十分です。通販や輸入食材店を見る価値があるのは、ガランガル、サンバル、フライドオニオンです。どれも一度で使い切る材料ではなく、ソトアヤム、サテ・パダン、ラウォンにも回せます。
ガランガルはしょうがに似ていますが、香りが硬く、牛肉の重さを切ります。ソップ・サウダラでは煮汁の奥に残る香りなので、入手できるなら最初に見る価値があります。
サンバルは、鍋全体を辛くするためではなく、食べる人が椀の中で辛味を動かすための道具です。辛いものが苦手な家族がいる時ほど、別皿で出す価値があります。
フライドオニオンは自作してもよいですが、スープを仕上げる直前に香ばしさを足せる市販品があると、料理全体が安定します。ビーフンと米の白さに対して、茶色い揚げ玉ねぎが香りの目印になります。
失敗原因|濁る、硬い、香りが弱い

スープが濁る時は、牛肉を強く沸かしすぎています。中火で一気に沸騰させるのではなく、12分ほどかけてゆっくり温め、泡が集まったら弱火に落とします。すでに濁った場合は、火を止めて10分置き、表面の脂と泡をすくってから弱火で温め直してください。完全に透明には戻りませんが、飲み口は軽くなります。
牛肉が硬い時は、煮込み不足か、火が強すぎて表面だけ締まった状態です。水または湯を200ml足し、弱火で20分追加します。ぐらぐらさせず、鍋肌に小さな泡が出る程度を守ります。牛すね肉は見た目より時間がかかるので、分数だけでなく竹串の入り方で判断してください。
香りが弱い時は、香味ペーストの炒め不足です。ペーストをスープへ直接入れると、玉ねぎとにんにくの生っぽさが残り、ガランガルやクミンが立ちません。フライパンで弱めの中火、油が端ににじむまで炒める工程を戻します。焦げ臭い場合は、水大さじ2を加えて鍋底をこそげ、黒く焦げた部分だけはスープへ戻さないでください。
サンバルを入れすぎて辛い時は、スープを薄めるよりも具を増やします。ビーフンを20g追加で戻し、ロントン風の米を50g足し、ライムを少し絞ると辛味の角が落ちます。水だけを足すと牛だしも香りも薄くなるため、最後の手段にします。
保存と温め直し

スープ本体は粗熱を取り、2時間以内に保存容器へ移します。冷蔵は3日、冷凍は3週間が目安です。ビーフン、ロントン風の米、ペルケデル、薬味、サンバルは別にしてください。ビーフンをスープに入れたまま保存すると水分を吸い、翌日には椀全体が重くなります。
温め直す時は、スープだけを鍋に入れて弱めの中火で8分温めます。沸騰したら弱火に落とし、牛肉が中心まで熱くなるまで待ちます。冷蔵したビーフンは熱湯を10秒かけてほぐし、米は600Wの電子レンジで40秒温めます。ペルケデルはトースターで3分温めると、表面の香ばしさが少し戻ります。
冷凍する場合は、スープと牛肉だけにします。解凍は冷蔵庫で半日置き、鍋で弱火から温めます。急いで強火にかけると肉が硬くなり、スープの脂が分離しやすいです。解凍後に味がぼやけたら、塩ひとつまみ、ライム果汁小さじ1、フライドオニオン大さじ1で仕上げ直してください。
あわせる料理と日本の食卓での出し方
ソップ・サウダラは、椀の中に米、麺、芋、肉が入るので、横に重い主菜を置く必要はありません。野菜を足すならガドガドのような温野菜、香りを寄せるならナシウドゥックを小さく添えると、食卓の方向がまとまります。
サテアヤムの甘いピーナッツだれを横に置くと、スープの軽さと焼き物の香ばしさが分かれます。牛肉の濃い料理を続けたいならレンダン、澄んだ汁物を比べたいならソトアヤムへ進むと、インドネシアの地域差が見えやすくなります。
家庭で出す時は、サンバルを最初から全員分のスープに混ぜないでください。辛味が苦手な人、子ども、年配の家族がいる時ほど、別皿のサンバルとライムで動かす方が食べやすいです。揚げ玉ねぎも食卓に小鉢で置き、途中で足せるようにすると、最後まで香りが残ります。
よくある質問

肺や内臓を入れないと別料理になりますか
現地では肺などを使う例がありますが、家庭の初回では牛すね肉だけで構いません。内臓は下処理、におい、入手性の難しさがあります。まずは牛肉のだし、ビーフン、ペルケデル、揚げ玉ねぎ、サンバルの組み合わせを守る方が、料理としての輪郭が残ります。
ココナッツミルクは入れますか
レシピによってはサンタン、つまりココナッツミルクを少量入れる版があります。本記事では、牛だしと香味の輪郭を見やすくするため入れていません。入れる場合は、仕上げにココナッツミルク100mlを加え、弱火で5分温めます。強く沸かすと分離しやすいので、ぐらぐら煮立てないでください。
ビーフンを春雨で代用できますか
代用はできますが、食感と香りが変わります。ビーフンは米の香りがあり、ロントン風の米や牛だしと自然につながります。春雨は透明で軽いので、スープの中で存在感が弱くなります。春雨を使う場合は80gにし、戻し時間を短めにしてください。
ペルケデルを省いてもよいですか
時間がない日は省けます。ただし、ソップ・サウダラらしい満足感は落ちます。代替するなら、じゃがいもを電子レンジで加熱して2cm角に切り、油小さじ2を絡めてトースターで8分焼いたものを椀に入れてください。完全なペルケデルではありませんが、芋の甘さと油の香りを補えます。
辛くない家族向けに作れますか
作れます。鍋の中にサンバルを入れず、別皿にします。スープ本体は白こしょうとナツメグの香りだけにし、赤唐辛子を香味ペーストへ入れない構成にしてください。辛味がほしい人は、椀の端でサンバルを小さじ1/2ずつ溶かします。












