赤いソースが米にしみる、マレーシアの鶏料理
夕方の台所で乾燥唐辛子を湯に浸すと、最初に立つのは鋭い辛味ではなく、干した果実のような暗い香りです。そこへ玉ねぎ、しょうが、レモングラスを合わせて潰し、油でじっくり炒める。鍋肌に赤い油がにじんだ瞬間、ただのトマト煮ではないマレーシア料理の方向へぐっと寄ります。
アヤムマサメラ(Ayam Masak Merah)は、マレー語で直訳すると「赤く調理した鶏」。ターメリックで下味をつけた鶏を一度揚げ焼きし、乾燥唐辛子、玉ねぎ、トマトの赤いソースで煮絡める料理です。マレーシアとシンガポールで広く食べられ、家庭料理でもあり、ハリラヤや結婚式の食卓にも出る祝い料理でもあります。
この記事では、日本の家庭で作りやすいように、乾燥唐辛子を少し減らし、サンバルオレックで赤さと辛味を補います。トマトは缶詰とトマトペースト、酸味はタマリンドペースト、ソースの丸みは少量のココナッツミルクで作ります。ナシレマのサンバルが好きな人なら、米にのせて食べる赤いソースの気持ちよさはすぐ分かるはずです。
現地表記は Ayam Masak Merah。日本語では「アヤム・マサック・メラ」「アヤムマサメラ」など表記が揺れます。この記事では検索しやすさを考えて、カタカナ表記を「アヤムマサメラ」に統一します。
現地での食べ方と、日本で守る芯
アヤムマサメラは、白いご飯だけでなく、トマトライス、ナシミニャック、ナシレマにもよく合います。辛い料理というより、赤いチリトマトソースを米で受ける料理です。鶏は表面を先に揚げ焼きするので、煮込んでも肉がぼろぼろになりにくく、ソースが皮や骨まわりに絡みます。
日本で作るときに守りたい芯は、次の4つです。
| 守る要素 | 理由 | 日本での落としどころ |
|---|---|---|
| 鶏をターメリックで下味する | 黄色い香りと皮の香ばしさが出る | 鶏もも骨付き、または手羽元で作る |
| 香味ペーストを油で炒め切る | 生っぽい辛味を甘い香りへ変える | 弱めの中火で油がにじむまで待つ |
| トマトだけで終わらせない | 甘酸っぱさが平坦になる | タマリンドとサンバルで奥行きを足す |
| ソースを米に絡む濃度にする | 皿の上でご飯と一体になる | 木べらの跡が1秒残る濃度で止める |

同じマレーシア料理でも、サラワクの竹筒料理であるアヤム・パンスーはレモングラスとしょうがの蒸し煮に近く、アヤムマサメラは都市の食堂や祝いの皿に似合う濃い赤い煮絡めです。麺へ寄せたい日はラクサ、焼き鳥系の香りを足したい日はサテと合わせると、マレーシアの食卓の幅が見えてきます。
失敗しやすいところ

| 失敗 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| トマト煮の味しかしない | 香味ペーストの炒めが短い | 弱火で3から5分追加で炒め、油がにじむまで待つ |
| 苦い | 唐辛子やトマトペーストを焦がした | 水大さじ3、砂糖小さじ1、ココナッツミルク大さじ2を足して弱火で丸める |
| 辛すぎる | 唐辛子の種が多い、サンバルが強い | ココナッツミルク大さじ2、ご飯多め、きゅうり多めで調整する |
| 鶏が硬い | 揚げ焼きで火を入れ切った | 次回は揚げ焼きを表面の色づけで止め、煮絡めで中心75度まで仕上げる |
| ソースが分離した | ココナッツミルク後に強く沸かした | 弱火に落とし、水大さじ2を加えて木べらで1分混ぜる |
日本の家庭でいちばん起きやすいのは、香味ペーストの炒め不足です。焦がすのが怖くて早めにトマトを入れると、玉ねぎの水っぽさと唐辛子の生っぽさが残ります。Rasa Malaysiaのレシピでも、油が分かれる段階を味の決め手として扱っています。赤い油が鍋肌に出るまで待つと、味が一段落ち着きます。
保存と翌日の食べ方

冷蔵保存は密閉容器で3日が目安です。粗熱が取れたら2時間以内に冷蔵庫へ入れます。再加熱は鍋に移し、水大さじ2を足して弱火で6から8分、中心まで熱くなるまで温めます。電子レンジの場合は600Wで2分温め、上下を返してさらに1分30秒を目安にしてください。
冷凍する場合は、鶏とソースを一緒に1食分ずつ分け、3週間以内に食べ切ります。きゅうりとフライドオニオンは冷凍せず、食べる直前に足します。翌日はチャークイティオのような炒め麺へ寄せず、まずはご飯で受ける方がソースの良さが分かります。余ったソースだけなら、ゆで卵、厚揚げ、白身魚の焼き身に絡めても使えます。
よくある質問
骨なし鶏もも肉でも作れますか?
作れます。骨なし鶏もも肉700gを4cm角に切り、工程3の揚げ焼きは片面3分ずつに短縮します。工程6の煮絡めは弱火で8分ほど、中心温度75度以上を確認してください。骨付きより味は軽くなりますが、食べやすさは上がります。
タマリンドペーストがない場合はどうしますか?
梅肉小さじ2、レモン汁小さじ2、黒糖小さじ1、水大さじ1を混ぜて使います。酸味は近づきますが、タマリンドの果実らしい暗い甘酸っぱさは出ません。アヤムマサメラを初めて作るなら、タマリンドペーストを用意した方が味の着地点が分かりやすいです。
サンバルオレックを使わず乾燥唐辛子だけで作れますか?
作れます。乾燥赤唐辛子を12本に増やし、熱湯で10分戻してからペーストにします。辛味が出やすいので、種は半分以上取り除いてください。日本の乾燥唐辛子は細く辛いものが多いため、最初は8本とパプリカパウダー小さじ2で赤さを補う方法もあります。
何と一緒に食べるのが現地らしいですか?
白いご飯でも十分ですが、トマトライスやナシミニャックと合わせると祝いの食卓に近づきます。家庭で作るなら、ナシレマのココナッツご飯ときゅうりを借りるのが作りやすい組み合わせです。濃い肉料理をもう一品並べるなら、インドネシアのルンダンと食べ比べると、ココナッツと香味ペーストの使い方の違いが分かります。
ココナッツミルクは必須ですか?
必須ではありません。現地レシピには、トマトを強く出すもの、牛乳やエバミルクで丸めるもの、ココナッツミルクを使うものがあります。この記事では日本で買いやすく、米に合う丸みを出しやすいココナッツミルクを100mlだけ使います。より軽くしたい場合は、水80mlに置き換えてください。
参考にした現地・海外情報
- Wikipedia: Ayam masak merah(料理名、主材料、ターメリックで下味して揚げ、チリ・玉ねぎ・トマトで煮る流れ、トマトライスとの組み合わせを確認)
- Rasa Malaysia: Ayam Masak Merah(乾燥唐辛子、香味ペースト、ココナッツミルク、油が分かれる pecah minyak の工程を確認)
- Kuali: Ayam Masak Merah(鶏をターメリックと塩で下味し、3/4ほど揚げてからトマトとチリのソースで煮る流れを確認)
- MAGGI Malaysia: Flavoursome Ayam Masak Merah(祝い料理・結婚式の食卓、蒸しご飯・ナシトマト・ナシミニャックとの組み合わせを確認)













