この料理の物語:二つが一つの鍋で踊る
想像してみてください。夕方の台所で、ふたを少し開けた鍋から豆の甘い香りが出ている。木べらを入れると、米の粒の間から黒目豆がころりと現れ、別のフライパンでは白いチーズの角がじゅっと焼ける。ごちそうらしいのに、材料の中心は米と豆です。
バイアォン・ジ・ドイス(baião de dois)は、ブラジル北東部、とくにセアラー州の食卓と結びつく米豆料理です。研究資料では、セアラーの基本形を米、豆、油、香味野菜などを一つの鍋で合わせる料理として整理しつつ、豆の種類、米の種類、肉、乳製品には幅があると説明されています。セアラー連邦大学のレビューが挙げる材料だけでも、緑の豆、白い豆、feijão-de-corda、そら豆、白米、パーボイルド米、干し肉、塩漬け肉、ベーコン、リングイッサ、ケージョ・コアリョ、ナタなどが並びます。
日本の台所でつまずきやすいのは、米と豆を最初から同じ時間だけ煮ることです。豆が硬いままだと米が炊き上がっても食べにくく、逆に豆を先に崩れるほど煮ると、鍋全体が重くなります。ここでは乾燥黒目豆を先にやわらかくし、煮汁を米に使い、豆は後半に合わせます。手順を少し分けるだけで、豆の形と米の粒を両方残せます。
料理名の前半と同じ baião は、ブラジル北東部の音楽や踊りを指す言葉でもあります。ブラジルの研究機関 Fundação Joaquim Nabucoは、baião を北東部の音楽ジャンルとして解説しています。料理名が音楽から直接生まれたと断定できる資料ばかりではありませんが、米と豆が同じ鍋で調子を合わせる料理だと思うと、名前の手触りが少し分かりやすくなります。

本場で使われる feijão-de-corda や feijão-verde が手に入れば、それを使うのがいちばんです。日本では乾燥黒目豆を使います。豆の香りや皮の食感は少し変わりますが、煮汁を米に吸わせ、最後に白いチーズを合わせる流れは保てます。
味の軸は四つ。豆の煮汁、米の粒、塩気、チーズ
この料理は、香辛料を増やせば近づくタイプではありません。豆を煮た汁の丸い味、米が吸った水分、肉やバターの塩気、最後に加えるチーズ。この四つの重なりを整えると、黒目豆を使っても皿の方向がぶれません。
白米は、炊き上がりに少し粘りが出る日本米と、粒がほどけやすいパーボイルド米で仕上がりが変わります。UFCのレビューでも、白米やアグリーニャ米は粘度が出やすく、パーボイルド米は粒が離れやすいと整理されています。初回は日本米で大丈夫です。ただし、鍋底を混ぜすぎないこと。米が割れると、煮汁のとろみが一気に出ます。
ケージョ・コアリョは、北東部の食卓で焼いたり、バイアォン・ジ・ドイスに入れたりする白いチーズです。ブラジル国立銀行の資料でも、ケージョ・コアリョは北東部の料理や食習慣と結びつき、バイアォン・ジ・ドイスの材料として紹介されています。資料の該当箇所では、セアラーのバイアォンを緑の豆、米、香味野菜の混ぜ料理として説明しています。
日本で完全に同じチーズを探す必要はありません。見つかればケージョ・コアリョ、焼き色を優先するならハルーミ、鍋に崩し入れるなら白いフレッシュチーズ。選んだチーズで食感が変わります。

失敗を戻す調理のコツ
米と一緒に炊くからと、豆の中心が硬いまま次へ進むと、最後まで戻りません。下ゆでの段階で一粒を割り、中心に白い粉っぽさが残っていないか確認します。皮が少し裂ける程度は問題ありません。缶詰なら、煮崩れやすいので炊飯鍋へ入れるのは残り8分の時点に遅らせます。
炊き上がり直後に何度も混ぜると、米が崩れて粘りが増します。まずふたを外して2分置き、木べらで鍋底から一度だけ返します。水分がまだ見えるなら弱めの中火で1〜2分。乾かしすぎた場合は、熱い煮汁を大さじ2ずつ足して、底から押さずに返します。
ベーコン、豆の煮汁、チーズの塩気は製品ごとに違います。豆の下ゆでには塩を入れず、米を炊くときに2g、最後に味を見て残り2gを加えると調整しやすくなります。チーズを焼いた後に塩を足すと、表面だけがしょっぱくなりがちです。
ケージョ・コアリョを使える日は、角切りを焼いて香ばしさを出します。ハルーミは焼き色がつきやすく、塩気も強めです。白いフレッシュチーズは焼かず、炊き上がりに混ぜる方が崩れ方を選べます。どれも同じ味にはなりませんが、豆と米の組み合わせは保てます。

日本の台所でどこまで寄せるか
セアラーの基本形を紹介したUFCのレビューは、海岸、セルトン、山地の食卓で具材が変わると説明しています。肉を加えるか、乳製品を加えるか、どの豆を使うかは、料理の失敗ではなく地域や家庭の差です。
日本では、まず豆と米を主役にし、肉とチーズを後から足す順番が扱いやすいでしょう。牛肉の塩漬け肉や carne de sol が手に入れば、塩抜きして細く裂き、ベーコンの代わりに使います。手に入らない日に無理をする必要はありません。ベーコンも省き、バターと香味野菜だけで炊けば、豆の甘さが前に出ます。
ピーマンやトマトは、香りと酸味を足す具材です。現地の一皿をそのまま再現するために、全部を揃える必要はありません。豆の煮汁を捨てないこと、米を煮すぎないこと、最後のチーズを塩の調整役にすること。この三つを残せば、日本の台所の材料でも味はまとまります。

アレンジは、鍋の性格を変えない範囲で
肉を入れない版
ベーコンを外し、バターを40gに増やします。玉ねぎを弱めの中火で5分炒めて甘みを出し、トマトを2分追加します。豆の煮汁が薄いと感じたら、塩ではなく黒こしょうと香菜を先に足します。豆と米の香りを確認したい初回に向きます。
干し肉を使う版
塩漬け牛肉や牛肉の干し肉が手に入ったら、150gを細く裂き、塩抜きしてから使います。塩抜き後は水気を拭き、ベーコンと同じタイミングで炒めます。肉の塩気が読みにくいので、米を炊くときの塩は半量にして、最後に調整します。
リングイッサを使う版
リングイッサや太めのソーセージを120g、5mm幅に切ります。ベーコンの代わりに最初の鍋へ入れ、脂が出るまで中火で4分炒めます。商品によって塩気とにんにくの強さが違うため、クミンは省いた方がまとまりやすいこともあります。
青菜を足す版
仕上げに細切りのケール、春菊、ほうれん草の葉を80g加えます。火を止めてから混ぜ、ふたをして3分置けば、余熱でしんなりします。水分の多い葉を大量に入れると米がゆるむので、葉は洗ったあと水気をよく拭いてください。
ファリーニャを添える版
小さなフライパンにバター10gを溶かし、キャッサバ粉60gを弱火で4〜5分炒めます。粉がきな粉色になり、乾いた香ばしさが立ったら火を止めます。塩は0.5gだけ。鍋に混ぜ込まず、皿の端に添えて、食べる人が少しずつ足します。

保存と温め直し
米と豆の料理は、鍋のまま室温に置かないでください。厚生労働省は、セレウス菌がチャーハンなどの穀類料理の原因になり得ること、調理後は室温に長く置かず、小分けにして速やかに冷蔵することを説明しています。厚生労働省の解説を確認し、食べる分だけを盛ったら、残りは浅い保存容器へ移します。
粗熱を取るために長時間放置するのではなく、容器を浅くして蒸気を逃がし、2時間以内を目安に冷蔵します。冷蔵は2日程度で食べ切る計画にし、冷凍するならチーズを混ぜる前に一食分ずつ包むと、温め直し後の食感が崩れにくくなります。
冷蔵分は、耐熱容器に移して水または豆の煮汁を大さじ1加え、ふんわりラップをして電子レンジで温めます。600Wで1人分を2分、混ぜてから30秒ずつ追加し、中心まで熱くなったことを確認します。鍋で戻す場合は弱火にし、底が焦げそうなら水を大さじ1ずつ足してください。
冷凍分は冷蔵庫で解凍してから温めるか、凍ったまま少量の水を加えて蓋をします。白いフレッシュチーズを使った場合は水分が出やすいため、温め直し後に新しいチーズを少し足す方が食べやすくなります。

よくある質問
黒目豆は小豆や大豆で代用できますか?
小豆は甘みと皮の食感が強く、大豆は粒が大きくて煮汁の性格も変わります。近い代替を選ぶなら、白いんげん豆やササゲです。ただし、豆が変われば別の料理として仕上がります。黒目豆を一度だけ使うなら、缶詰を選ぶ方が浸水の手間を減らせます。
米がべたついたときはどうすればいいですか?
ふたを外して弱めの中火で1〜2分、水分を飛ばします。底から強く混ぜると米が崩れるので、木べらを鍋の縁から差し、持ち上げるように一度返してください。それでも柔らかい場合は、焼いたチーズとファリーニャを別添えにして、食感の対比を作ります。
ケージョ・コアリョがありません。チーズなしでも作れますか?
作れます。ケージョ・コアリョは大切な要素ですが、米と豆の本体を成立させる必須条件ではありません。チーズなしなら塩を少なめに炊き、最後に香菜、青ねぎ、黒こしょうで香りを足します。焼きチーズだけを食べたいときはハルーミ、鍋へ混ぜたいときは白いフレッシュチーズが扱いやすいです。
圧力鍋で豆を煮ても大丈夫ですか?
浸水した黒目豆なら、加圧後8〜10分を目安にします。豆の年数や圧力鍋の機種で変わるので、圧が抜けた後に一粒を割り、中心の粉っぽさを確認してください。硬ければ鍋に戻して5分ずつ延長します。圧力鍋で米まで炊くと水分の調整が難しくなるため、米は厚手の鍋で仕上げる方が初回は安全です。
辛くできますか?
できます。青唐辛子を5g、ピーマンと一緒に加えるか、食卓で少量の唐辛子ソースを添えます。最初から鍋全体を辛くすると、子どもや辛さが苦手な人が食べにくくなります。香菜の代わりに青ねぎを使えば、辛さを足さなくても香りの層が出ます。

まとめ。買うか、見送るか
バイアォン・ジ・ドイスは、米と豆を同じ鍋に入れるだけの料理ではありません。豆は先にやわらかくし、その煮汁を米へ回す。米を炊きすぎず、チーズの塩気は最後に見る。この順番が分かれば、日本米と黒目豆でも、鍋の中に味の重なりを作れます。
最初の一回なら、缶詰の黒目豆と手持ちのベーコンで十分です。ケージョ・コアリョを見つけた日は焼き色を楽しみ、見つからない日はチーズを省いても構いません。ファリーニャは、フェイジョアーダやシュラスコの食卓まで続けたい人だけが買えばよい材料です。
ブラジル北東部の料理をもう少し広げるなら、黒目豆の揚げものを使うアカラジェや、とうもろこしの甘い焼き料理であるチパグアスも、豆と穀物の見方を変えてくれます。まずは今夜、鍋のふたを開けたときに豆が一粒残っているか、米に煮汁の味が入っているかを確かめてください。












