小さな四角が、山の食卓になる
寒い日に粉をこねると、台所の時間が少しゆっくりになります。そば粉の薄い灰色に卵を落とし、手のひらで押すと、そば打ちほど張りつめず、パスタほど陽気でもない、素朴な生地がまとまります。これを薄く伸ばし、1cm角に切る。ひとつひとつは地味な小片なのに、茹でてクリームとチーズで焼くと、サヴォワ地方の山小屋で出てきそうな一皿になります。
クロゼ・ド・サヴォワ(crozets de Savoie)は、フランス東部サヴォワ地方の小さな四角いパスタです。そば粉入りのもの、小麦だけのものがあり、現地では茹でて付け合わせにしたり、玉ねぎ、ラルドン、クリーム、ルブロションチーズと合わせてクロジフレット(croziflette)風に焼いたりします。タルティフレットがじゃがいもなら、クロジフレットはクロゼで作る山のグラタン、と考えると味の方向がつかみやすいです。
日本で困るのは、クロゼそのものが普通のスーパーにほぼないことです。輸入食材店で見つかることもありますが、常備食材ではありません。そこでこの記事では、そば粉と強力粉で手打ちクロゼを作り、家庭用オーブンでクロジフレット風に焼く方法にします。ルブロションが手に入らない場合は、ラクレット、ウォッシュ系チーズ、熟成の浅いセミハードチーズを組み合わせ、山岳チーズらしい香りを寄せます。
同じフランスの静かな煮込みならポトフ、チーズを溶かす食卓ならスイスのラクレットも近い仲間です。クロゼはその間にいます。粉をこねる手仕事があり、チーズを焼く楽しさもある。買い出しで少し迷うぶん、できあがった時の食卓はかなり強いです。
クロゼ・ド・サヴォワはフランス語で crozets de Savoie と書きます。クロゼは小さな四角いパスタ、クロジフレットはそのクロゼをチーズ、クリーム、ベーコンで焼く料理名として使われます。本記事では、手打ちしたクロゼをクロジフレット風に仕上げます。
失敗しやすいところと直し方
クロゼは「小さいパスタだから簡単」と思うと、意外に失敗します。問題は形ではなく、水分、厚み、焼き込みです。とくに手打ちクロゼは乾燥パスタより水分を含みやすいので、茹で上げた後にソースを吸う余地を残します。
| 困った状態 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 生地が割れる | 水分が少ない、休ませ不足 | 水を5ml足してまとめ、20分休ませる |
| 生地がべたつく | 水分過多、打ち粉不足 | 強力粉を小さじ2ずつ足し、台にも薄く振る |
| 茹でると団子になる | 切った後に重ねた、湯が弱い | 1cm角を広げ、沸騰した湯に散らして入れる |
| 中心が粉っぽい | 厚すぎる、茹で時間不足 | 厚さ2mmに伸ばし、1個食べて中心を確認する |
| 焼き上がりが水っぽい | 茹で汁を入れすぎた、ソースが薄い | 茹で汁は40mlから始め、弱火で1分追加して濃度を出す |
| チーズが分離する | 強い上火で急に焼いた | まず200度中段で温め、最後だけ上段で色をつける |
| 味が重い | 酸味の添え物がない | サラダに白ワインビネガーを小さじ2入れ、コルニションを添える |
そば粉が入ると、つい日本のそばの薄さを目指したくなります。しかしクロゼは薄すぎると茹でた時に破れ、焼き込むとソースに溶けます。2mm前後の厚みを残し、噛んだ時に小さな弾力があるくらいが家庭では扱いやすいです。
現地の食べ方と日本での献立
サヴォワの料理は、アルプスの気候に合わせた力強い皿が多いです。チーズ、じゃがいも、ベーコン、粉もの。クロゼも軽い前菜ではなく、寒い日の主菜に近い位置づけです。現地のレシピでは市販のクロゼを使うことも多く、平日の夕飯なら乾燥クロゼを茹でて、炒めた具材とチーズで一気に焼く流れになります。
日本の家庭で出すなら、献立は足し算しすぎないほうがきれいです。主役がクリームとチーズなので、添えるのは酸味のある葉野菜、塩気を抑えたスープ、辛口の白ワイン、または温かい紅茶で十分です。肉料理を重ねるなら少量にし、ポトフの残りブイヨンのような澄んだスープを小さく出すと、食卓が重くなりません。
ルブロションが手に入るなら、外皮を薄く残して使うと香りが出ます。香りが強すぎるチーズに慣れていない家族がいる場合は、ラクレット150gとピザ用ではないナチュラルチーズ70gを合わせると穏やかです。ピザ用シュレッドだけで作ると溶け方は楽ですが、山のチーズ料理らしい土っぽい香りは弱くなります。
保存と作り置き

焼き上がったクロゼは、粗熱を20分ほど取ってから浅い容器に移し、冷蔵で2日保存できます。大きな耐熱皿のまま冷蔵すると中心が冷えにくく、翌日の再加熱もムラになります。食べる分ずつ分けておくほうが安全で味も安定します。
温め直しは、オーブンなら180度で10〜12分です。表面が乾く時は、牛乳大さじ1を端から回しかけ、アルミホイルをかぶせて8分、最後に外して2分焼きます。小鍋で温める場合は、牛乳大さじ2を加えて弱火で4〜5分混ぜます。電子レンジは手早いですが、チーズの油が分離しやすいので、600Wで1分30秒温めた後に30秒休ませ、さらに30秒という刻み方にします。
冷凍はできますが、手打ちクロゼの食感は少し落ちます。冷凍するなら焼く前の段階ではなく、焼いた後を1食分ずつ包み、2週間以内に食べ切ります。解凍は冷蔵庫で半日。いきなり高温のオーブンに入れると中心が冷たいまま表面だけ焦げます。
よくある質問
Q1. 市販のマカロニで代用できますか?
できますが、料理の印象はかなり変わります。マカロニは穴があり、クリームを抱え込みすぎるので、クロゼ特有の「小さな板を噛む」感じが出ません。代用するなら小さめのショートパスタを300g使い、茹で時間は表示より1分短くします。クロゼらしさを優先するなら、手打ちで1cm角に切る方が近づきます。
Q2. そば粉なしでも作れますか?
作れます。強力粉260g、卵2個、水40ml、塩小さじ1/2で同じように生地を作ります。小麦だけだと香りが穏やかで、ソースに寄った味になります。サヴォワらしい素朴さを少し戻したい場合は、全粒粉を40gだけ混ぜ、強力粉を220gにします。
Q3. ルブロションが見つからない時の一番現実的な代替は何ですか?
ラクレットチーズが扱いやすいです。よく溶け、香りも山岳チーズの方向に寄ります。タレッジョやウォッシュ系チーズは香りが強く、家族向けには好みが分かれます。普通のピザ用チーズだけで作る場合は、仕上げに黒こしょうを少し増やし、ベーコンを厚切りにして香りを補います。
Q4. 生地を前日に作れますか?
作れます。生地を平らな円盤にしてラップで包み、冷蔵で一晩置きます。翌日は室温に20分出してから伸ばします。冷たいまま伸ばすと端が割れやすく、1cm角に切った時に欠けます。切ったクロゼは乾きやすいので、切る作業は当日にします。
Q5. 白ワインを使わない場合はどうしますか?
水40mlと白ワインビネガー小さじ1を合わせて使います。ビネガーは入れすぎるとクリームの角が立つので、小さじ1で止めます。アルコールの香りはなくなりますが、チーズとベーコンの重さを切る酸味は残せます。
参考文献
- Alpina Savoie, "La Croziflette", 参照日: 2026-05-21, https://www.alpina-savoie.com/nos-recettes/fiche-produit/la-croziflette
- Syndicat Interprofessionnel du Reblochon, "Crozotto au Reblochon", 参照日: 2026-05-21, https://www.reblochon.fr/nos-recettes/crozotto-au-reblochon/
- Wikipedia contributors, "Crozets de Savoie", 参照日: 2026-05-21, https://en.wikipedia.org/wiki/Crozets_de_Savoie













