レイキャビクのスーパーのパン売り場には、きつね色の揚げ菓子がぎっしり詰まった袋が積まれています。ひとつひとつは細長いひし形で、真ん中の切れ目に端をくぐらせた、くるりとねじれた形。アイスランドの人はこれをコーヒーのお供に、特別な日でもない平日の午後につまみます。クレイヌル(kleinur、単数形はkleina)です。
北欧にはよく似た揚げ菓子がいくつもあり、ほかの国ではクリスマスのお菓子として作られることが多いのに対し、アイスランドでは一年中食べる普段のおやつになっています。生地は小麦粉と卵、砂糖、それにサワークリームとバターミルク。ナツメグかカルダモンの香りがほんのり漂います。作り方の山場は2つだけで、生地を6mmの厚さにそろえることと、190℃の油で揚げること。この2つを押さえれば、外はかりっと、中はふんわりとした揚げ上がりになります。
北欧じゅうに親戚がいる、ねじれた揚げ菓子

この揚げ菓子の仲間は、北欧のあちこちにいます。スウェーデンではクレネート(klenät)、デンマークではクライネ(klejne)、ノルウェーではファッティグマン(fattigmann)。名前は、小さな品物や贈り物を意味する低地ドイツ語のKleinetから来たと考えられています。デンマークでは14世紀にはすでに記録があり、18〜19世紀にはデンマークとアイスランドの料理書に作り方が載るようになりました。
アイスランドで最初にクレイヌルが文字に残るのは、1800年ごろ。マルタ・マリア・ステフェンセンがまとめた料理書に出てきます。アイスランドの食文化を伝えるウェブマガジンIcelandic Foodによると、はじめはクリスマスのごちそうだったものが、19世紀のうちに毎日のおやつへと変わっていきました。今ではパン屋で1個ずつ、スーパーでは10個ほどの袋入りで売られ、粉砂糖などはかけずにそのまま食べるのが普通です。
クレイヌルは昔、羊の脂(獣脂)で揚げていました。羊が暮らしの中心だったアイスランドならではの揚げ方です。今は植物油で揚げるのが一般的で、ラードを使う人もいます。
ノルウェーのファッティグマンには、カルダモンとシナモン、ほんの少しのコニャックを入れることがよくあります。アイスランドのクレイヌルも、家庭によって香りづけはさまざまで、ナツメグを使う人もいればカルダモンの香りを好む人もいます。Icelandic Foodの記事は、揚げているあいだに台所に広がるカルダモンの香りを、この菓子の思い出として書いています。どちらのスパイスでも、ほんの少量で十分です。入れすぎるとスパイスの主張が強くなりすぎて、揚げ菓子の素朴さが隠れてしまいます。
途中で見つける、味の決め手
形をそろえるための、昔ながらの道具

アイスランドでは、クレイヌルの生地を切るための専用の道具、クレイヌヤールン(kleinujárn)が使われてきました。生地の上を転がして切る、小さな車輪の形をした道具です。日本ではパイカッターが同じ役目を果たし、なければピザカッターでも十分です。
成形のときに気をつけたいのは、すべてのひし形の大きさと厚さをそろえることです。揚げ時間をそろえられるうえ、袋に詰めても見た目がきれいに並びます。定規を当ててカットすると、慣れないうちでも形がそろいます。ねじり方は、最初の数個はぎこちなくても、10個も作るうちに手が覚えていきます。
コーヒーと一緒に、温かいうちに

揚げたてから少し冷まし、まだほんのり温かいうちに食べるのがいちばんおいしいとされています。アイスランドでは、ブラックコーヒーと一緒に何もかけずに食べるのが定番です。外側はかりっと香ばしく、中はしっとりふんわり、サワークリームのかすかな酸味とナツメグの香りが残ります。甘さを足したい人は粉砂糖をふってもかまいませんが、アイスランドの人にはあまり見かけない食べ方です。
乾いた場所で保存するのがクレイヌルの扱い方です。湿気を吸うと外側のかりっとした食感がなくなります。北欧のおやつをもうひとつ作るなら、デンマークのオープンサンドスモーブローも、コーヒーの時間とは違う北欧の食卓の顔を見せてくれます。
よくある質問

生地がやわらかすぎてのばせません。
打ち粉を多めに使い、薄力粉を大さじ1ずつ加えてください。それでもべたつくときは、ラップで包んで冷蔵庫で30分ほど休ませると扱いやすくなります。粉を足しすぎると揚げ上がりがかたくなるので、少しずつ加えます。
ベーキングパウダーだけで作れますか?
作れます。重曹とクリームオブタータの代わりに、ベーキングパウダー小さじ2を薄力粉に混ぜてください。ふくらみ方や風味は少し変わります。
揚げたあと中が生っぽいです。
油の温度が高すぎて外だけ先に色づいたか、生地が厚すぎた可能性があります。温度計で190℃を保ち、厚さを6mmにそろえてください。中が生のものは、180℃の油でもう一度1分ほど揚げると火が通ります。
羊の脂で揚げてみたいのですが。
日本では羊の脂は手に入りにくいので、ラードを揚げ油に少し混ぜると、昔ながらのこくに近づきます。植物油だけでもおいしく揚がります。
どのくらい日持ちしますか?
揚げたその日がいちばんおいしく食べられます。乾いた場所で保存し、早めに食べきってください。この記事では、確かな根拠を確認できていない保存日数は案内しません。











