オーブンから出したばかりのパイは、ふたが黄金色に焼け、縁では果汁がまだ小さく泡立っています。ここでナイフを入れたくなりますが、このパイは台の上で5〜10分休ませてから切るものです。熱い中身が落ち着くと、最初の一切れがりんごの層を保ったまま取り分けられます。それを温かいまま、やわらかく泡立てたクリームを添えて食卓に出します。
英国のアップルパイは、一つの形にも一つの起源にも決まらない
焼いてやわらかくなる酸味のあるりんご、上下を包む卵入りの短い(さくっとほどける)生地、蒸気穴を開けたふた。りんごの水分を取り、生地は冷たく保ち、焼き上がったら少し休ませてから切ります。
この記事のパイは、現代の英国の家庭向けレシピを一つ選んで、そのとおりに作るものです。BBC Good Foodに載っているAngela Nilsenの「Homemade apple pie」(Good Food magazine、2004年10月号)で、酸味の強いブラムリー(Bramley)という調理用りんごを卵入りのショートクラスト生地で包み、8人分に焼き上げます。英国のアップルパイの一例であって、国として決まった標準があるわけではありません。ほかの英国のレシピは、また違う作り方をします。
歴史をたどると、話はもう少し長く、入り組んでいます。リチャード2世の宮廷の料理長たちと結びつけられる、約1390年成立の料理書『The Forme of Cury』には「Tartys in Applis」というレシピがあります。りんご、香辛料、いちじく、レーズン、洋梨を使い、サフランで色をつけて焼く果物入りのタルトです。時代も作り方も違う別の料理で、このあとの現代のパイと同じレシピではありません。これをもって最初のアップルパイがどこで作られたかが分かるわけでもありません。
食文化史の側からは、大西洋の両側のアップルパイに連続性があるという見方も示されています。アメリカの食文化を短くまとめた歴史の記述では、典型的なアメリカのアップルパイは15世紀の英国の型とつながっていると説明されています。16世紀末の英国のレシピはすでに現代の型にかなり近く、皮、甘味料、香辛料、果物は時代や地域によって変わってきたとも述べています。同じ系譜を共有している以上、英国だけ、アメリカだけの料理と決めてしまうことはできません。ここからは、現代の英国のレシピ一つを、そのまま丁寧にたどります。
途中で見つける、味の決め手
コツとトラブル対策:水分と生地の温度を見る
気をつけたいのは、生地にどれだけ果汁が届くかと、扱っている間の生地の温度の二つです。
| 困りごと | 考えられる理由 | 対処 |
|---|---|---|
| 底の生地がべちゃっとする | りんごが濡れていた、またはたまった汁を底生地に流し入れた | りんごをペーパーでよく乾かし(手順1)、砂糖を絡めるのは直前にし(手順4)、ボウルに残った汁は入れない(手順5)。熱いフィリングや、あらかじめ煮たフィリングを生地にのせない。このレシピにはそうした工程がない |
| 生地がやわらかすぎて伸ばせない、持ち上げられない | 生地の温度が上がっている | 冷蔵庫に戻して少し固まるまで待ち、続ける。この追加の休ませ時間に、元のレシピは決まった時間を示していない |
| 40分たってもふたが黄金色にならない | オーブンによって差がある | レシピの40〜45分の範囲で焼き続け、色で判断する。オーブン別の補正は示さない |
| 切ると形が崩れ、汁が流れ出る | 切るのが早すぎた | 5〜10分の休ませ時間を取ってから切る |
| 思ったより甘い、または果肉がしっかりしている | 別のりんごを使った | 甘さと食感はりんごの種類で変わる。砂糖の量はブラムリー向けで、ほかのりんごに合わせた調整はしていない |
焼き時間と温度は元のレシピの値ですが、焼き上がりの合図は、オーブンの中でのふたの黄金色と、休ませたあとに落ち着いた果汁です。時計だけに頼らず、この二つを見てください。
アレンジ:りんごと添え物を選ぶ

以下の選択肢は、基本の生地と手順は変えません。Bake Offの例は別のレシピで、比較のために挙げています。
- ブラムリーの代わりに紅玉。 弘前市は紅玉を、甘みと酸味のバランスがよく、加熱後も形が崩れにくいと説明しています。ブラムリーが手に入らないときの候補にはなりますが、焼き上がりが同じになる保証はありません。
- 固いりんごを一部混ぜる。 BBCのレシピは、ブラムリーに固めの生食用りんごを混ぜると、フィリングに果肉感が残ると述べています。弘前市が甘くてしゃきっとした歯ざわりと紹介するふじも、その候補です。甘みが強く、しっかりした食感になると考えてください。混ぜる割合や砂糖を減らす量は検討していないため、ここでは示しません。
- あかね。 青森りんご対策協議会は、あかねを紅玉より早く収穫できる品種とし、紅玉が手に入らないときの菓子作りの代用として紹介しています。出回る時期は地域や季節で変わるので、買うときに品種表示を確かめてください。
- 添えるもの。 基本のレシピは、やわらかく泡立てたクリームを添えます。BBCのページには、カスタードやアイスクリームも添え物として挙げられています。
- 別の英国式。 The Great British Bake Offには、ブラムリーとブラエバーンを合わせ、スペルト小麦の生地を使い、上面を格子に仕上げて、カスタードかアイスクリームを添える別のアップルパイが載っています。英国のアップルパイの幅の広さを示す例で、別のレシピです。その材料も分量も、上のレシピには含まれていません。
この料理の背景:ブラムリーと英国の調理用りんご
このレシピの中心にあるりんごには、パイの歴史とは別に記録された来歴があります。ブロッグデール(Brogdale)の国立果樹コレクション(National Fruit Collection)によると、ブラムリーズ・シードリング(Bramley's Seedling)は、1809〜1813年ごろにノッティンガムシャーのサウスウェルで、Mary Ann Brailsfordによって育てられました。1865年に商業的に売り出され、英国で広く栽培される調理用りんごになっています。
ノッティンガムシャーの歴史環境記録(Nottinghamshire Historic Environment Record)に載る地域史が、その続きを伝えています。果実はMary Annが植えた木からとれたもので、のちに苗木商のHenry Merryweatherが増やし、当時その土地の持ち主だったブラムリー氏にちなんで名づけました。1876年には王立園芸協会に出品されています。これはりんごの一品種の歴史で、アップルパイの起源ではありません。
英国では、食用のりんごと調理用のりんごを区別する市場が長く続いてきたと、調査・文化プロジェクトのApples and Peopleは説明しています。ブラムリーが調理用として評価されるのは、加熱しても風味と食感が保たれるためです。「Traditional Bramley Apple Pie Filling」の英国の申請仕様書は、加熱後の酸味の理由を、リンゴ酸の多さと糖の少なさに求めています。この仕様書が描くフィリングは、ブラムリーの果肉、砂糖、水が中心で、ピューレ、コーンフラワー、レモン汁は任意とされています。ただしこれは製品規格の申請書類であって、現在の法的な保護を示すものではなく、家庭で焼くパイに義務づけられたレシピでもありません。
よくある質問
ブラムリーが見つからないときは?
ここで候補に挙げているのは紅玉です。弘前市が、甘みと酸味のバランスがよく、加熱しても形が崩れにくいと説明していることが根拠です。同じ品種ではないので、果汁の多さ、甘さ、食感は変わるかもしれません。レシピの分量は紅玉向けには調整していません。
底の生地をべちゃっとさせないためには?
りんごをキッチンペーパーで乾かし、味つけは型に詰める直前にして、たまった汁はボウルに残してください。熱いフィリングやあらかじめ煮たフィリングを生地にのせてもいけません。このレシピは最初から最後まで生のりんごを使うので、足すべき加熱の工程はありません。
小麦、卵、乳製品を使わずに作れますか?
このレシピには三つともすべて入っています。代替品はこのレシピでは試していないため、置き換えても同じように焼き上がるとは言えません。
型の大きさは?
直径20〜22cm、深さ4cmの丸いパイ型です。ふたは約28cmに伸ばし、高く盛ったりんごを覆います。
「Tartys in Applis」は元祖のアップルパイですか?
いいえ。『The Forme of Cury』に記録された中世の果物入りタルトで、りんご、香辛料、いちじく、レーズン、洋梨を使い、サフランで色をつけます。時代も作り方も違う別の料理です。現代の英国のアップルパイとは同じではなく、アップルパイがどこで始まったかを証明するものでもありません。
残ったパイはどう扱えばいいですか?
元のレシピには保存期間が書かれていないため、ここでも日数は約束しません。調理済みの残り物について、厚生労働省と農林水産省が示している家庭向けの一般的な指針を挙げておきます。
- 室温に長く置かない。
- 清潔な器具で扱う。
- 早く冷ます。浅い容器に小分けするとよい。
- 密閉容器かラップで包み、早めに冷蔵して、早めに食べる。
- 時間がたちすぎたら捨てる。
- 温め直すときは十分に加熱する。厚生労働省は、一般的な目安として75℃以上を挙げている。
この指針は調理済み食品全般に向けたもので、アップルパイに限った話ではありません。再加熱の時間も示されていません。
同じ国のほかの料理はイギリスの料理で紹介しています。













