乾物が戻る音から始まる、静かなごちそう
干し椎茸をぬるま湯に沈めると、最初は木片のように硬かった傘が、少しずつ丸みを取り戻します。木耳は小さな黒い破片から波打つ耳の形へ、湯葉は乾いた紙の束からしなやかな層へ変わる。羅漢齋は、火にかける前のこの時間からもう料理が始まっています。
羅漢齋(羅漢齋 / Luóhàn zhāi / Lo Han Jai / Buddha's Delight)は、中国の仏教系の菜食文化と家庭の祝祭料理のあいだにある野菜と乾物の煮込みです。英語圏では Buddha's Delight の名で知られ、中華料理店のベジタリアン料理としても出てきます。香港・広東系の家庭では、旧正月の初日に食べる精進料理として語られることが多く、紅腐乳や南乳の香りで乾物と野菜をまとめる家庭版もあります。
この料理を日本で作る時に迷うのは、野菜ではありません。白菜、にんじん、たけのこは近所で揃います。山場は、乾燥湯葉、木耳、干し椎茸、紅腐乳をどこまで使うかです。全部を完璧に揃えようとすると買い出しで止まるので、この記事では「守りたい材料」と「代えてよい材料」を分けます。同じ東アジアの家庭料理でも、香味油で押す麻婆豆腐とは逆で、羅漢齋は乾物の戻し汁、発酵豆腐、白菜の甘みを重ねて静かに旨みを作る料理です。
日本語では羅漢齋、羅漢斎、ローハンジャイなど表記が揺れます。中国語の羅漢は仏教の阿羅漢に由来し、齋は菜食の食事を指す文脈で使われます。本記事では日本語の読みやすさを優先して「羅漢齋」と書き、本文中で Lo Han Jai と Buddha's Delight も併記します。
失敗しやすいところと直し方
羅漢齋は材料が多いので難しく見えますが、失敗の原因はだいたい三つです。乾物を急ぎすぎる、腐乳を焦がす、春雨に汁を吸わせすぎる。この三つだけ見ておけば、初回でもかなり食べやすくまとまります。
| 困った状態 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 味が薄い | 乾物にたれを絡める前に白菜を入れた | しょうゆ小さじ1と紅腐乳の漬け汁小さじ1を混ぜ、鍋肌から足す |
| 塩辛い | 腐乳が多い、汁を煮飛ばした | 水または椎茸戻し汁50mlを足し、白菜を100g追加して3分煮る |
| 春雨が固まる | 汁を全部吸わせた | 湯50mlとごま油小さじ1を足し、弱火で2分ほぐす |
| 木耳が硬い | 戻し不足、根元が残った | 硬い部分を取り、戻し汁で5分追加煮する |
| 酸っぱい匂いがする | 乾物を長時間常温で戻した | 使わず捨てる。長く戻す日は冷蔵庫に入れる |
紅腐乳は塩味が強いので、しょうゆのように足すとすぐ塩辛くなります。役割は、味噌、チーズ、酒粕を少し合わせたような発酵香です。初回は35gで止め、もっと濃くしたい時は次回に5gだけ増やす方が安全です。
現地の食べ方と日本での献立
広東系の Lo Han Jai は、旧正月の朝や親族が集まる食卓で、大皿にたっぷり盛られることがあります。肉も魚もないのに満足感があるのは、湯葉、豆腐泡、椎茸、春雨がそれぞれ違う食感を持っているからです。おかずとして食べるなら、白ごはん、青菜の塩炒め、卵を使わない中華スープくらいで十分です。
日本の家庭で献立にするなら、辛い料理と並べるより、穏やかな皿を合わせる方が羅漢齋の発酵香が生きます。たとえば、主菜を羅漢齋にして、香りの強い皿として麻婆豆腐を少量、麺の食感を楽しむ日ならチャプチェと比べるのも面白いです。野菜を米にのせて食べる発想では、ビビンバと同じく、具材の食感を分けておくほど一口ごとの変化が出ます。
旧正月の縁起食材として黒髪菜が語られることがありますが、現在の日本の家庭で無理に探す必要はありません。食感の役割は木耳と春雨で十分に作れます。羅漢齋らしさを出すなら、珍しい食材を増やすより、紅腐乳、干し椎茸、湯葉の三つを丁寧に扱う方が効果的です。
保存と作り置き、翌日に重くしない
羅漢齋は冷蔵で2日保存できます。粗熱が取れたら清潔な保存容器へ移し、汁ごと入れてください。春雨が汁を吸い続けるので、翌日に食べる分は最初から春雨を少なめにするか、取り分けてから春雨を加えると食感が保ちやすいです。
温め直しは電子レンジより小鍋がおすすめです。水または椎茸戻し汁を大さじ2加え、弱火で4分温めます。春雨が固まっている時は、箸で無理に引きはがさず、汁が温まってから木べらでゆっくりほぐします。冷凍は、春雨と白菜の食感が落ちやすいためおすすめしません。どうしても冷凍するなら、春雨を入れる前の煮含めた具だけを小分けにします。
作り置きの一番の注意点は、乾物の戻し時間です。前夜に戻す場合は、必ず冷蔵庫に入れます。特に木耳は長時間常温に置くと傷みやすく、ぬめりや酸っぱい匂いが出たら使わないでください。乾物料理は保存食に見えますが、水を含んだ瞬間から生鮮品に近づく、と考えると安全です。
よくある質問
Q. 紅腐乳がないと作れませんか?
作れますが、羅漢齋らしい発酵香は弱くなります。白腐乳30gで代用するのが一番近く、なければ麦味噌小さじ2、しょうゆ大さじ1、紹興酒大さじ1、砂糖小さじ1を混ぜた家庭版にします。その場合は「精進野菜煮」としておいしく食べ、次回に紅腐乳を試す順番が現実的です。
Q. 乾燥湯葉が見つからない時は何を使えばいいですか?
厚揚げ200gが使いやすいです。熱湯をかけて油抜きし、1cm幅に切って工程5で加えます。生湯葉を使う場合は煮崩れやすいので、工程6の最後3分で入れます。乾燥湯葉の弾力は出ませんが、豆の香りは補えます。
Q. にんにくやねぎを入れてもいいですか?
家庭版としては入れても構いません。しょうがと一緒に長ねぎの白い部分40gを炒めると香りが立ちます。ただし、寺院寄りの精進や旧正月の菜食として作るなら、五葷を避ける考え方に合わせ、ねぎやにんにくを抜く方が筋が通ります。本記事はその中間として、しょうがだけでまとめています。
Q. 春雨なしで作れますか?
作れます。春雨を抜くと汁気のある煮物になり、冷蔵保存はしやすくなります。その場合は椎茸戻し汁を230mlに減らし、最後に水溶き片栗粉を小さじ1分だけ入れて軽くまとめます。白ごはんにのせるなら春雨あり、作り置きなら春雨なしが扱いやすいです。
Q. 子どもや高齢の家族にも食べやすいですか?
辛味はほぼありませんが、紅腐乳の塩味と発酵香があります。家族で食べる初回は、紅腐乳を25gに減らし、しょうゆを大さじ1と1/2にします。木耳や湯葉は大きいと噛みにくいので、木耳は2cm角、湯葉は4cm長さに切ると食べやすくなります。
参考文献
- Wikipedia contributors, "Buddha's delight", 参照日: 2026-05-20, https://en.wikipedia.org/wiki/Buddha%27s_delight
- The Woks of Life, "Buddha's Delight (Vegetarian Lo Han Jai)", 参照日: 2026-05-20, https://thewoksoflife.com/buddhas-delight-lo-han-jai/
- Wok and Kin, "Lo Han Jai (Buddha's Delight 罗汉斋)", 参照日: 2026-05-20, https://www.wokandkin.com/buddhas-delight-lo-han-jai/
- The Hong Kong Cookery, "Red Fermented Bean Curd Buddha's Delight Luohan Zhai 南乳炆齋", 参照日: 2026-05-20, https://www.thehongkongcookery.com/2020/01/red-fermented-bean-curd-buddhas-delight.html
- Hetty McKinnon, "Lo han Jai (Buddha's delight)", 参照日: 2026-05-20, https://hettymckinnon.com/recipes/lo-han-jai-buddhas-delight













