夜市の一角、背の高い円筒形の窯のまわりに人だかりができています。店主は白ごまをまぶした丸い生地を手に取り、窯の口から腕を差し入れて、内側の壁にぺたりと貼りつけていきます。底では炭が赤く燃え、しばらくすると香ばしい匂いが通りに広がります。焼き上がりは、平たいへらで壁からこそげ取り、下で待つざるに受け止めて袋へ。かじると黒こしょうの香りと熱い肉汁があふれ出す、台湾の夜市の名物、胡椒餅(フージャオビン)です。
福州から海を渡った、窯焼きの肉まん

胡椒餅のふるさとは、中国・福建省の省都、福州です。誰が考えたのかは分かっていませんが、台湾の屋台は今も「福州胡椒餅」の看板を掲げ、福州からの移住者が伝えた味だと語っています。老舗の売り手には、福州にルーツを持つ人が少なくありません。こしょうの効いた豚肉とねぎを、ごまをまぶした生地で包み、窯の内壁に貼りつけて焼く。この独特の焼き方が、外はパリッと、中はふっくらした食感を生みます。
台湾では今や夜市や街角の小さな屋台の定番で、島のどこへ行っても見かけます。海外の旅番組で紹介されたこともあって旅行者にも人気が広がり、混む時間帯には30分以上並ぶのも珍しくありません。まとめ買いする客が多く、売り切れたらその日は店じまいという屋台も多い食べ物です。
新北市の瑞芳にある「福州林記胡椒餅」は、1988年に開いた町で最初の胡椒餅の屋台だそうです。350度の炭火窯の壁で焼き、老麺(発酵させた生地の種)を使った皮は、外はパリッと中はもちっとした食感に仕上がると紹介されています。今では瑞芳の名物のひとつに数えられています。
具の豚肉は、ひき肉を使う店も、薄切りを使う店もあります。ひき肉のほうが肉汁は多くなります。下味はこしょう、しょうゆ、砂糖、酒が基本で、店によっては五香粉やカレー粉を加えます。もうひとつの主役は青ねぎで、肉に混ぜ込まず、包むときに肉の上へ別にのせるのが伝統的なやり方です。こうすると、ねぎのみずみずしい香りがはっきり残ります。
家のオーブンで作るときに知っておきたいこと

屋台の窯は、炭火で壁ごと高温になる特別な焼き釜です。家庭のオーブンで同じ焼き方はできないので、この記事では、料理家マーヴェリナが自身のサイトWhat To Cook Todayで紹介している、天板で焼く家庭向けのレシピを基にしています。200°Cで20分焼くと、底は平らになりますが、白ごまの香ばしさと、肉汁がたっぷり閉じ込められた具は十分に楽しめます。
こしょうは3種類を使います。黒こしょうは香りと辛さの柱、白こしょうは台湾の屋台らしいツンとした香り、そして少量の花椒が舌にかすかなしびれを残します。どれも粉末のものでかまいませんが、黒こしょうと花椒は粒をひいたほうが香りが立ちます。
肉だねは前日に仕込むのがおすすめです。こしょうやしょうゆを混ぜた肉を冷蔵庫で8〜12時間寝かせると、味がなじみ、包むときにもまとまりやすくなります。翌日は生地を作って包んで焼くだけになります。
生地を作る油は、原文のレシピではラードです。豚の脂の香りとさっくりした食感が出ますが、手に入らなければサラダ油や、常温でやわらかい状態のココナッツオイルでも作れます。ねぎは小ねぎでも長ねぎの青い部分でもよく、たっぷり120gを使います。
途中で見つける、味の決め手
熱々をかじる、夜市の食べ方

夜市では、焼きたてを紙袋に入れてもらい、その場で立ったままかじるのが定番です。最初のひと口はごまの香ばしさ、次に黒こしょうの辛さ、最後に肉汁と青ねぎの甘みが追いかけてきます。家で食べるときも、皿に盛るよりキッチンペーパーで包んで手で持つほうが、屋台の熱々の感じに近づきます。
飲み物は、甘くない台湾の烏龍茶や、温かい豆乳がよく合います。台湾の屋台の味をもう少しそろえるなら、夜市の唐揚げ鹹酥雞や、甘辛い豚肉をご飯にかける魯肉飯、朝ごはんの卵クレープ蛋餅と並べてみてください。
台湾の屋台の胡椒餅は、窯の壁で焼くため、底がわずかに丸く膨らんだ形になります。家庭のオーブンでは底が平らになりますが、天板にのせて焼く分、底もこんがり焼き色がつきます。
アレンジの楽しみ方

豚ひき肉の代わりに、脂のある牛ひき肉や鶏ひき肉でも作れます。マーヴェリナは、脂の少ない七面鳥のひき肉は具が水っぽくなるので向かないと書いています。台湾でも牛肉の胡椒餅を出す店があり、こしょうの辛さと牛肉の濃い味がよく合います。
台湾の屋台には、下味に五香粉やカレー粉を加える店もあります。五香粉を小さじ1/4ほど加えると八角やシナモンの甘い香りが、カレー粉を小さじ1/2加えると香辛料の香りが前に出ます。こしょうの量を半分にすれば、辛さ控えめで子どもも食べやすくなります。
よくある質問

作り置きはできますか?
焼いた胡椒餅は冷凍できます。オーブンシートを敷いたバットに並べて1時間ほど冷凍し、固まったら冷凍用の袋に移します。What To Cook Todayでは3か月まで保存できるとしていますが、家庭の冷凍庫では早めに食べきるのがおすすめです。
冷凍したものはどう温めますか?
凍ったままアルミホイルで包み、180°C前後に予熱したオーブンかオーブントースターで10〜15分温めます。中心が冷たいままのことがあるので、割って中まで熱くなっているか確かめ、足りなければ数分ずつ追加してください。冷蔵庫で解凍してから温めると、時間は8〜10分ほどに短くなります。
ラードがないとだめですか?
サラダ油やショートニング、やわらかい状態のココナッツオイルでも作れます。ラードを使うと、豚の脂の香りが加わり、皮がさっくりと仕上がります。
花椒がない場合は?
省いても作れます。花椒は舌にかすかなしびれを残す香りづけの役目なので、なくても胡椒餅らしい味になります。その場合は黒こしょうを少し増やしてください。













