日が暮れると、通りに屋台の明かりがともり、油の鍋が次々と火にかけられます。ガラスケースに並んだ鶏肉や野菜を指さして注文すると、店主がまとめて油に放り込み、揚げ上がりに緑の葉をひとつかみ。鍋から上がった瞬間、バジルがぱちぱちと音を立てます。香り塩をふった熱々のひと口大を紙袋に詰めてもらい、歩きながら頬ばる。台湾の夜市でいちばん身近な屋台の味が、鹹酥雞(シエンスージー)です。
夜市の灯りと「四食目」の楽しみ

鹹酥雞は「塩気のあるサクサクの鶏」という意味で、鹽酥雞(イエンスージー)とも書きます。英語圏では「台湾のポップコーンチキン」と呼ばれることが多い料理です。ひと口大に切った鶏もも肉にしょうゆや酒、砂糖、にんにく、五香粉で下味をつけ、溶き卵をからめてから、小麦粉やさつまいもでん粉をまぶして揚げます。仕上げに塩とこしょうをふるのが基本で、好みで唐辛子の粉や、さっと揚げたバジル、にんにくを加えます。
この料理の歴史は意外に新しく、屋台どうしの激しい競争の中で、味つけや揚げ方が短い間にどんどん変わってきたといわれます。台湾には、日が沈んでからずっと後に食べる「宵夜(シャオイエ)」、つまり一日の四食目ともいわれる夜食の習慣があります。夜市では客の目の前で料理を作る屋台が並び、なかでも鹹酥雞は、もっとも名の知れた夜市の味のひとつです。
揚げたバジルの葉を最後に加えるのは、台湾らしい仕上げです。さっと揚げた葉は鶏肉の香り塩を少しまとい、それ自体もパリッとしたおつまみになります。
日本のから揚げとの大きな違いは、衣と香りです。さつまいもでん粉の粗い粒が、揚げると白っぽくゴツゴツとした軽い衣になり、時間がたってもサクッとした歯ざわりが残ります。そこに五香粉の甘い香り、花椒のしびれる香り、白こしょうの辛みが重なり、日本のから揚げとはまったく違う、夜市ならではの味になります。
日本の台所で作るときに知っておきたいこと

衣の決め手は、台湾で「地瓜粉(ディーグアフェン)」と呼ばれるさつまいもでん粉です。粒が粗く、揚げるとゴツゴツした独特の衣になります。日本では中華・台湾食材店や通販で手に入ります。見つからない場合は、片栗粉かコーンスターチで代わりにできます。片栗粉で揚げると、衣はなめらかで薄めの、日本の竜田揚げに近い仕上がりになります。
五香粉は、八角やシナモン、花椒などを合わせた中国の混合スパイスで、日本のスーパーのスパイス売り場でも手に入ることが増えました。バジルは、台湾では九層塔(ジウツォンター)と呼ばれるタイバジルの仲間を使います。日本ではアジア食材店などでタイバジルが手に入ります。スイートバジルでも香りは楽しめますが、甘くさわやかな方向に寄ります。
花椒は、粒のまま買ってから煎ってすりつぶすと、香りがまったく違います。すり鉢でも十分に細かくなりますが、スパイスミルがあれば一瞬で粉にできます。残った香り塩は密閉容器に入れておけば、焼き鳥や揚げ物にも使えます。
揚げ物用の温度計を用意しておくと、二度揚げの温度管理がぐっと楽になります。ない場合は、衣の粉をひとつまみ油に落とし、すぐにしゅわっと泡が立って浮き上がれば、揚げ始めの温度になっています。
途中で見つける、味の決め手
アレンジの楽しみ方

同じ衣と香り塩で、ほかの具材も揚げられます。イカは輪切りにして水気を拭き、下味を短めにして揚げると、やわらかく仕上がります。厚揚げは2cm角に切って衣をまぶし、表面がカリッとするまで揚げます。さつまいもは7mmほどの棒状に切り、低めの160°Cでじっくり揚げてから香り塩をふると、甘みと香り塩の組み合わせが楽しめます。
ノンフライヤーで作る方法もあります。衣をつけた鶏肉に油を軽く吹きつけてから加熱すると、油で揚げるより軽い仕上がりになります。ただし、さつまいもでん粉の衣は油で揚げたほうがサクッとした食感がはっきり出るので、まずは二度揚げで作ってみてください。
よくある質問

さつまいもでん粉がない場合は?
片栗粉かコーンスターチで代用できます。衣は薄くなめらかになり、日本の竜田揚げに近い食感になります。片栗粉とコーンスターチを半量ずつ混ぜる方法もあります。
二度揚げは必要ですか?
一度だけ長めに揚げることもできますが、二度揚げにすると、中はジューシーなまま衣がしっかりカリッとします。二度目の揚げで鶏肉の中まで火を通すつもりで、時間を守ってください。
時間がたつと衣がしんなりします。
温め直すときは、電子レンジではなく、オーブントースターや魚焼きグリルで数分温めると、衣のサクッとした食感が戻ります。焦げやすいので、途中で様子を見てください。
作り置きはできますか?
揚げ物は揚げたてがいちばんおいしい料理です。残った場合は粗熱を取ってから冷蔵庫に入れ、早めに食べきってください。温め直すときは、中まで熱くなっていることを確かめます。














