鍋の中で、米粒がゆっくりと形をなくしていきます。ふつふつと泡を立てる黄色い粥から、カルダモンと米のでんぷんの甘い香りが立ちのぼり、台所いっぱいに広がっていく。煮上がったら木べらで力いっぱい混ぜてつぶし、最後に溶かしたギーをたらりと回しかけます。マドルーバ(madrouba)は、鶏肉と米をとろとろになるまで煮込んだ、オマーンのスパイス粥です。
名前の意味は「たたいた米」

マドルーバは、日本語にすると「たたいた米」。オマーン料理の本『The Food of Oman』の著者フェリシア・キャンベル(Felicia Campbell)は、この料理を米を「たたいて」作る塩味の粥として紹介しています。米と鶏肉を、米が崩れて鶏肉がほぐれるまで長い時間煮込み、最後に木べらで勢いよく混ぜてつぶす。名前そのものが、仕上げの作業を表しているわけです。
キャンベルは、オマーンでは米が昼の食事に欠かせないものだと書いています。その米を、粒が消えるまで煮崩して粥にしてしまうのがマドルーバです。煮込んでいるあいだ、家じゅうがカルダモンと米の香りに包まれるとキャンベルは書いています。長い煮込みの時間も、この料理の楽しみのうちです。
味の芯になるのは、ドライライム。ライムを丸ごと乾燥させた香味素材で、ほろ苦さと乾いた酸味をもっています。キャンベルのレシピでは、ドライライムを割って中の果肉だけを取り出し、スパイスと一緒に鍋へ入れます。ターメリック、クミン、コリアンダー、しょうが、シナモン、黒こしょう、カルダモン、クローブ、カイエン、ナツメグと、スパイスの種類は多めですが、それぞれの量はごく少しずつ。どれかが突出するのではなく、酸味と香りが粥全体にやわらかく溶け込む配合です。
キャンベルは、最後にかけるカルダモン入りのギーを決して省かないように、と念を押しています。粥そのものには塩とスパイスの味がしっかりついているので、香りの強いギーと、甘く香ばしい揚げ玉ねぎをのせることで、ひと皿の味がまとまります。
途中で見つける、味の決め手
よくある質問

ドライライムが手に入らないときは?
ドライライムの代わりになる材料は、このレシピのもとにした本では挙げられていません。ドライライムがなくても粥は作れますが、湾岸らしい乾いた酸味と苦みはなくなります。なるべくドライライムを用意してください。
日本の米で作れますか?
作れないわけではありませんが、日本の短粒米は粘りが強く、つぶすと粘りが出て重たい口当たりになりやすいと考えられます。粘りの少ない長粒米のほうが、なめらかでさらりとした粥に仕上がります。
鶏肉は骨つきでもいいですか?
このレシピは骨なしの鶏肉を使い、煮込んだあと鍋の中でつぶして粥と一体にします。骨つき肉を使うと、つぶす前に骨を取り除く手間が増えるうえ、細かい骨が残るおそれがあります。骨なしの肉を使うのが安心です。
残ったマドルーバはどう温め直しますか?
冷めると固くなるので、小鍋に移して熱湯を少しずつ足し、弱火で混ぜながら温めます。粥が鍋底に張りつきやすいので、温め直すときもこまめに混ぜてください。残りは粗熱をとってから冷蔵し、早めに食べきります。















