鉄の鍋を強火にかけた料理人が、骨付きの鶏肉を放り込み、木べらで勢いよく返していきます。トマトが加わると、鍋の中は見る間に赤いソースに変わり、油がふつふつと表面に浮いてきます。仕上げにせん切りのしょうがと青唐辛子を散らし、鍋ごと客のテーブルへ。パキスタンの食堂でおなじみのチキン・カラヒ(Chicken karahi)は、鍋の名前がそのまま料理の名前になった、手早くて力強い鶏肉の煮込みです。
鍋の名前がそのまま料理になった

「カラヒ」は、中華鍋に似た、厚手で丸く深い鍋のことです。この鍋で作るカレーはどれもカラヒと呼ばれ、鶏肉で作ればチキン・カラヒ、羊肉や山羊肉で作ればゴーシュト・カラヒになります。言葉の歴史は古く、ヒンディー語・ウルドゥー語のカラヒは、古代インドの言葉にまでさかのぼるとされます。インドでは「カダイ」とも書かれ、北インドの料理店ではカダイ・チキンの名前で出していることもあります。
チキン・カラヒは、パキスタンとインドにまたがるパンジャーブ地方で生まれたともいわれ、なかでもパキスタン第二の都市ラホールの名物として知られています。羊肉や山羊肉で作るゴーシュト・カラヒは、英国の植民地時代の北西辺境州、いまのカイバル・パクトゥンクワ州で生まれたと考えられています。いずれにしても、ラホール、カラチ、ペシャワール、イスラマバードといったパキスタンの都市では、どこの食堂でも出会える定番の一皿です。
多くのカレーが玉ねぎを炒めるところから始まるのに対し、チキン・カラヒは伝統的に玉ねぎを使わないのが特徴です。ソースのとろみと甘みは、たっぷりのトマトが煮崩れて生まれます。玉ねぎを加える作り方もありますが、まずは玉ねぎなしの形で作ってみてください。
味の中心にあるのは、しょうが、にんにく、トマト、青唐辛子、香菜です。強火でトマトを一気に煮崩し、鶏肉に濃いソースを絡めていくので、煮込み料理なのに仕上がりは驚くほど早く、全体で1時間ほどで食卓に出せます。今回は、ドバイでパキスタン料理店を営むパキスタン出身の料理人が紹介する、家庭向けの作り方にならいます。
日本の台所で作るときに知っておきたいこと

鍋は、カラヒがなくても中華鍋や深めのフライパンで十分に作れます。蓋が必要なので、ぴったり合う蓋のあるものを選んでください。カラヒの丸く広い鍋底は、ソースを素早く煮詰めるのに向いています。フライパンで作る場合も、米国の料理誌Milk Streetが試したように直径30cmほどの広いものを使うと、トマトの水分が早く飛びます。
鶏肉は骨付きを使います。日本のスーパーなら、骨付きの鶏もも肉のぶつ切りや、手羽元を組み合わせると手軽です。骨から出る旨みがソースに溶け込み、パキスタンの食堂に近い味になります。骨なしのもも肉でも作れますが、煮込み時間を短めにして、鶏肉が硬くならないように様子を見てください。
しょうがとにんにくは、すりおろしたものをそれぞれ小さじ1ずつ使います。チューブのしょうが・にんにくでも作れますが、生をすりおろすと香りがぐっと強くなります。仕上げのせん切りしょうがは、できるだけ細く切ると、ぴりっとした辛みがソースにほどよく混ざります。
青唐辛子が見つからないときは、ししとうに一味唐辛子を少し合わせて代わりにできます。香菜(パクチー)は仕上げに欠かせない香りなので、できれば用意してください。
途中で見つける、味の決め手
盛り付けとパキスタンの食べ方

パキスタンの食堂では、調理したカラヒ鍋のまま食卓に出す店もあります。ナンやロティをちぎってソースをすくい、鶏肉を骨からほぐしながら食べるのが定番です。白いご飯と一緒に食べてもおいしく、ソースをご飯に混ぜて食べると、トマトとスパイスの味がよくわかります。
パキスタンの肉料理をもっと楽しみたいなら、時間をかけてじっくり煮込むニハリと食べ比べてみてください。強火で手早く仕上げるカラヒと、時間をかけて煮込むニハリは、同じパキスタン料理でも作り方の考え方がまったく違います。北西部の味をもう一皿増やすなら、ひき肉をスパイスとともに平たく焼くチャプリ・カバブもよく合います。
アレンジの楽しみ方

鶏肉を骨付きのラム肉や羊肉に替えれば、ゴーシュト・カラヒになります。羊肉は鶏肉より火が通るまで時間がかかるので、手順5の弱火の煮込みを長めにとり、肉がやわらかくなるまで様子を見てください。
辛さはチリパウダーと青唐辛子で調整します。辛いのが苦手な人がいる場合は、チリパウダーを小さじ1/4に減らし、青唐辛子は食卓で各自が足す形にしておくと、一つの鍋で辛さを分けられます。玉ねぎを加える作り方もあり、その場合は手順2の前に、刻んだ玉ねぎ2個分をきつね色になるまで炒めてから鶏肉を入れます。
よくある質問

骨なしの鶏肉でも作れますか?
作れます。骨なしの鶏もも肉を大きめのひと口大に切って使い、手順3と手順5の時間を少し短めにして、鶏肉が硬くならないように様子を見てください。最後に中心まで火が通っているかを必ず確かめます。
トマト缶で作れますか?
生のトマトの代わりにカットトマト缶を使うこともできます。缶詰は水分が多いので、手順3で蓋を開けたまま煮て、どろりとしたソースになるまで煮詰めてください。
ヨーグルトが分離してしまいました。
ヨーグルトは、加える前によく混ぜてなめらかにし、加えたあとは強く沸騰させないようにすると分離しにくくなります。分離しても味には大きな問題はないので、そのまま煮込んで仕上げてかまいません。
作り置きはできますか?
鶏肉を使った加熱料理なので、作ったら早めに食べきるのが基本です。残った場合は粗熱を取ってすぐ冷蔵庫に入れ、温め直すときは鍋で全体がしっかり熱くなるまで加熱してください。












