大皿の上に、こんもりと白い山がそびえています。表面にはシナモンの茶色と粉糖の白が放射状の縞を描き、ふもとには砕いたアーモンドが散らしてある。お菓子のように見えますが、スプーンを入れると、山の中からサフランで黄金色に煮た鶏肉と、とろりとした玉ねぎのソースが現れます。セファ・メドフーナ(Seffa Medfouna)は、甘く仕上げたクスクスの中に肉を「埋めた」、モロッコの祝いの料理です。
白い山の中に、黄金色の鶏が眠っている

「セファ」は、蒸したクスクスや細かく折った細麺(シャーリヤ)に、バターと砂糖を合わせて甘く仕上げた料理の名前です。「メドフーナ」は「埋められた」という意味。山の中にサフラン色の肉が隠されていることから、この名前がついています。
甘いクスクスと、塩と生姜とサフランで煮た鶏肉。日本の感覚では不思議な組み合わせですが、モロッコでは甘みと塩気を一皿に合わせる料理は珍しくありません。鳩肉のパイ「パスティーヤ」に粉糖とシナモンをかけるように、セファ・メドフーナも、塩気のある肉と甘い穀物を同じスプーンで味わいます。
カサブランカに長く暮らし、モロッコ料理を英語で伝えている料理家クリスティン・ベンラフキーによると、セファ・メドフーナは、祝いの日や祝祭日の食事で何品も並ぶメイン料理の一つとして出されることが多いそうです。昔ながらの食べ方では、大皿を囲んでそれぞれが自分の前の部分から食べ進めます。脇には粉糖、砕いたアーモンド、シナモンを入れた小皿が添えられ、食べる人が好みで甘さを足していきます。
肉を入れないセファもあります。カサブランカでは、メインの料理のあとに肉なしの甘いセファが出されることがあります。メクネスやフェズの「セファ・トゥーバ」は、ナッツを使わない軽い夕食で、オレンジフラワーウォーターをふりかけ、牛乳を飲みながら、あるいは牛乳を注いでおかゆのようにして食べます。
クスクスは「蒸す」もの
日本でクスクスというと、熱湯を注いで数分置くだけで食べられる、手軽な乾物を思い浮かべる人が多いかもしれません。けれどもモロッコの家庭では、クスクスは何度も蒸して育てるものです。クスクス鍋(クスクシエール)と呼ばれる二段の鍋で、下で煮立てた湯の蒸気を上段のクスクスに通し、水を含ませては蒸す作業を3回ほど繰り返します。
ベンラフキーは、蒸すことでクスクスの粒がふくらんで柔らかくなり、べたついたり重くなったりしないと説明しています。手間はかかりますが、湯で戻しただけのクスクスとは口当たりがまるで違い、粒の一つひとつがふわりと軽く、それでいてほどよい弾力が残ります。セファ・メドフーナのようにクスクスそのものが主役になる料理では、この差がはっきりと味に出ます。
セファには、クスクスの代わりに細麺のシャーリヤを蒸して使う作り方もあります。地域や家庭によってどちらを使うかが分かれ、細麺のセファは繊細な食感、クスクスのセファはふっくらとした粒の食感が楽しめます。今回は、日本で手に入りやすいクスクスで作ります。
日本の蒸し器で、クスクス鍋の代わりを
クスクス鍋がなくても、蒸し器やせいろ、大きな金属のざるを深い鍋に重ねれば代用できます。ポイントは二つあります。一つは、上段の底が下の湯に触れないこと。もう一つは、鍋と上段のすき間を、折りたたんだラップやアルミホイルでふさぐことです。すき間から蒸気が逃げると、クスクスに蒸気が通りにくくなります。
せいろを使う場合は、目の細かい蒸し布を敷いて、クスクスの粒が落ちないようにします。蒸し器の穴が大きいときも同じです。一度にたくさん蒸すと蒸気が通りにくいので、家庭の蒸し器が小さければ、2回に分けて蒸してください。
鶏肉は、モロッコでは丸鶏を切り分け、皮を取って使います。日本では骨付きの鶏もも肉や手羽元を合わせて使うと手軽です。羊肉や牛肉で作ることもでき、その場合は角切りの肉を水で煮込みます。サフランは高価ですが、この料理の黄金色と香りの決め手なので省かずに使ってください。
途中で見つける、味の決め手
大皿を囲んで、甘さは自分で

セファ・メドフーナは、作りたての温かいうちに食卓へ運びます。大皿を囲み、ドームの表面から少しずつスプーンで崩していくと、中から鶏肉とソースが現れます。脇に粉糖、砕いたアーモンド、シナモンの小皿を置いておくと、甘さを控えたい人も、甘いのが好きな人も、それぞれ自分の好みで加減できます。
甘いクスクスに塩気のある鶏のソースがしみ込み、サフランの香りとシナモンの香りが重なって、一口ごとに甘みと塩気が行き来します。ミントティーを添えると、食後まで続くモロッコらしい組み合わせになります。
モロッコ料理をもっと楽しむなら、野菜と肉をのせて食べるクスクスと比べてみると、同じクスクスでもまったく違う料理になることがわかります。甘みと塩気を合わせる料理なら、鳩肉や鶏肉のパイパスティーヤもおすすめです。ラマダンの食卓に欠かせないスープハリラとあわせれば、モロッコの祝いの食卓に近づきます。
よくある質問

熱湯で戻すタイプのクスクスでも作れますか?
作れますが、口当たりは蒸したものより重くなりがちです。熱湯で戻したクスクスをさらに蒸し器で10分ほど蒸すと、粒がふくらんで軽くなります。時間がないときの手段として使ってください。
鶏肉だけ作ってもいいですか?
かまいません。サフランで煮た鶏肉は、それだけでもごはんやパンに合うおかずになります。クスクスを蒸す時間が取れないときは、鶏肉だけを作って楽しむのも一つの方法です。
甘さを控えたいときはどうしますか?
クスクスに混ぜる粉糖を減らし、食卓の小皿で好みに応じて足すようにしてください。シナモンとアーモンドの香りがあれば、甘さを控えてもセファらしい味わいになります。
作り置きや保存はできますか?
鶏肉とクスクスは別々に保存します。どちらも粗熱を取ってから冷蔵し、早めに食べきってください。食べる前に鶏肉は鍋で中まで温め、クスクスは蒸し直してから盛り付けます。
アレルギーで気をつける材料はありますか?
クスクスは小麦(デュラム小麦のセモリナ)から作られています。飾りのアーモンドはナッツアレルギーの原因になり、バターは乳製品です。アレルギーがある場合は、アーモンドを省き、バターを油に替えて作ってください。














