エビチリ:早めにフライパンを出て、赤いソースで仕上がるえび
えびは2段階で火を通します。まず浅い油で途中まで火を通し、そのあとソースの中で中まで仕上げます。豆板醤を焦がさないこと、そして衣用の卵白と最後に加える溶き卵を混ぜないことが肝心です。
にんにく、しょうが、豆板醤は火からおろしたフライパンに入れ、弱火でゆっくり温めて香りを出します。ケチャップ、料理酒、鶏がらスープが加わると、フライパンの中は赤い煮汁に変わります。そこへ、衣をつけて途中まで火を通したえびを戻します。ねぎを入れ、水溶き片栗粉でとろみをつけたら、少量の溶き卵と少量の酢で仕上げます。
日本では、この料理は「エビチリ」、つまりえびのチリソース煮としてひろく知られています。この記事は1つの家庭用レシピに沿って進めます。キッコーマン ホームクッキングの「えびのチリソース(乾焼蝦仁)」(山下勤さんのレシピ)で、4人分、掲載されている調理時間は25分です。レシピは時間を下ごしらえと加熱に分けていません。分量もこのレシピのとおりで、衣用の片栗粉が大さじ5と、多めに見えるものも含まれます。
世界ごはん紀行では、この料理を中国のレシピの棚に並べています。これはカタログ上の置き場所であり、料理がどこで生まれたかを示すものではありません。
このレシピは、世界ごはん紀行の台所では試作していません。分量と手順は公開されているレシピに沿い、安全に関する案内は公的な食品安全機関の情報にもとづいています。
エビチリ、乾焼蝦仁、乾焼蝦鬆――重なり合う料理名
同じ呼び名が、ひとつの料理だけを指すとは限りません。 キッコーマンはこのレシピに「えびのチリソース」という題をつけ、漢字で乾焼蝦仁と添えています。一方、辻調グループの中国料理コラムは、日本でエビチリとして知られる料理を取り上げつつ、自校の版を乾焼蝦鬆と呼び、日本人の好みに合わせてアレンジしたものだと説明しています。漢字は似ていますが、背後にあるレシピは別物です。どちらの名前も「エビチリ」の一対一の訳として読まないほうが安全です。
同じコラムで、同校の中国料理教授の横田彰氏は、この料理を「純粋な」四川料理というより、上海で作られた四川料理だと説明しています。また、四川でも作られてはいるものの、日本ほどよく見かけるわけではなく、現地では豆板醤や、発酵させた唐辛子である泡辣椒(パオラージャオ)を使うこともある、と述べています。これは料理人の教えを伝えるコラムで、歴史研究ではありません。ひとつの名前の下に形や味の幅がこれほどあることは分かりますが、どれか一つが元祖だという証明にはなりません。
ここで使った資料からは、エビチリの発祥の国も、年も、考案した人も確定できません。四川飯店グループの公式沿革には、四川省に生まれ育った陳建民が1952年に来日し、1958年秋に東京・田村町で最初の四川飯店を開いて、四川料理を日本各地に広めたと記されています。後継者の陳建一は、NHKの「きょうの料理」をはじめとするテレビでさらに普及させました。ただし、この沿革にエビチリへの言及はないため、誰がいつこの料理を生み出したのかについては何も語っていません。
途中で見つける、味の決め手
道具
- フライパン
- えびの下味と衣づけに使うボウル
- 背わたを取る小さな包丁
- 生えび専用のまな板と道具
- 8分通り火を通したえびの油を切る皿またはバット
- ヘラ
- B、C、水溶き片栗粉、溶き卵を分けておく小さな器
選び方と代用
ソースは書かれた配合のまま作ります。 豆板醤、トマトケチャップ、鶏がらスープ、料理酒、片栗粉はどれもソースのバランスを作る材料なので、入れ替えたり、ほかのチリソースや油を足したりしないでください。
えびは殻つきの重さで量ります。160gは殻つきの重さですから、むき身の重さとして扱わないでください。
生の魚介類については、次の点に気をつけます。
- 買ってきた魚介類は、すぐに冷蔵または冷凍する。
- 汁がほかの食品にかからないよう分けて保管する。
- 魚は調理前に流水で洗う。
- 生の魚介類に触れた箸や道具を、ほかの食品に使い回さない。
あわせて、次のことも守ります。
- 生の肉や魚介類の汁が、生で食べる食品や加熱済みの食品につかないようにする。
- 魚介類を切った包丁とまな板は洗い、熱湯をかける。
- しっかり火を通すべき食品は、十分に加熱する。
この料理では、生えびに使った道具はねぎや仕上がりの料理から遠ざけることになります。まな板、包丁、ボウルは、ねぎや完成した料理に触れないようにしてください。生えびを扱ったあとは手を洗います。そして、えびはソースの中で完全に火が通るまで加熱します。
この料理にはえびと卵が入っています。豆板醤、ケチャップ、鶏がらスープ、片栗粉は加工品なので、小麦などのアレルゲンが入っていないか、表示を確認してください。浅い油での最初の加熱は、えびを途中まで火を通すだけで、この時点ではまだ食べられる状態ではありません。火が通ったえびの身は、締まって、真珠のような色で、不透明です。ソースでの仕上げが終わったときの目安にしてください。溶き卵も生のまま残さず、熱いソースの中で火を通します。
鍋の中で困ったときは
| 見た目 | 考えられる理由 | 対処 |
|---|---|---|
| 豆板醤が急に黒ずむ、焦げたにおいがする | 香味を入れたときにフライパンが熱すぎた | 次回はBを入れる前にフライパンを完全に火からおろし、そのあとは弱火だけで混ぜる |
| えびの中心がまだ透きとおっている | 最初の途中までの加熱しかしていない | ソースの中で、身が締まって真珠色で不透明になるまで加熱を続ける |
| 溶き卵が生っぽくゆるい | 最後に入れたため、まだ固まっていない | 熱いソースの中で、火が通るまで混ぜ続ける |
| 衣がすべり落ちる、または薄い | 下味をつける前にえびがまだ濡れていた | 洗ったあとは水気をしっかり拭き、下味、卵白、片栗粉の順に進める |
| 衣に全卵を入れてしまった | 卵白と仕上げ用の卵を取り違えた | 始める前に、卵1個分の卵白と溶き卵1/2個を別々の器に分け、目印をつけておく |
家庭によって違う、ほかの版との比べ方
キッコーマンのレシピは、いくつもある家庭用の版のうちの一つです。ほかの版と見比べると、この版を形づくっている選択が見えてきます。下に挙げたほかの版の分量は、それぞれのレシピのものなので、このレシピに混ぜないでください。
| 版 | 組み立て方 |
|---|---|
| キッコーマン(この記事) | 殻つきブラックタイガーに下味をつけ、卵白と片栗粉の衣をまとわせて浅い油で8分通り火を通し、豆板醤・ケチャップ・鶏がらスープのソースで、ねぎ、水溶き片栗粉、溶き卵、酢とともに仕上げる |
| エスビー食品「えびチリ」 | こちらも4人分で25分。むきえびを使い、色が変わるまで焼き、香味とねぎを炒めたあと、市販のチリソース、豆板醤、ケチャップ、スープを合わせたソースを作り、水溶き片栗粉で仕上げる |
| 辻調グループ(乾焼蝦鬆) | 日本人の好みに合わせたアレンジ版として紹介されている。同じコラムは、四川では豆板醤や、発酵させた唐辛子の泡辣椒を使うことがあるとも述べている |
キッコーマン版の特徴は、衣をつけたえびを2段階で加熱することと、卵と酢で仕上げることです。ほかの版は、えびの形、ソースのベース、仕上げの方法が異なります。
よくある質問
エビチリは中国料理ですか、日本の料理ですか?
ここで使った資料では決着がつきません。日本ではエビチリとしてひろく知られています。辻調のコラムは、自校の版を日本人の好みに合わせたアレンジとし、この系統を上海で作られた四川料理と結びつけています。どの資料も単一の国、年、考案者を挙げていないので、この記事でも断定しません。
水溶き片栗粉は、水をどれくらいにすればいいですか?
キッコーマンのレシピには「水溶き片栗粉大さじ3」とあるだけで、水の割合は書かれていません。この記事もその量のままにして、割合は足していません。
むきえびや、鶏がらスープの代わりの水は使えますか?
このレシピに代用の案内はありません。えびは殻つきの重さ(160g)で量り、ソースには鶏がらスープ(150ml)を使います。むきえびを使うほかのレシピは、それぞれ独自のバランスを持つ別のレシピなので、その分量はここには持ち込んでいません。
浅い油で炒めたあとのえびは、もう食べられますか?
いいえ。最初の加熱では、約8割(8分通り)までしか火が通りません。ソースの中で仕上げ、身が締まって、真珠のような色で不透明になれば完成です。これは米国食品医薬品局(FDA)が、火の通ったえびの見た目の目安として示しているものです。
残ったら、どれくらい日持ちしますか?
ここで使った資料のどれにも、完成した料理の保存期間は書かれていないため、この記事でも示しません。生のえびについては、農林水産省が、買ってきた魚介類はすぐに冷蔵または冷凍し、汁がほかの食品にかからないようにすることを勧めています。













