リスボンの大衆食堂で、素焼きの鍋ごと運ばれてくる大皿。赤く色づいた角切りの豚肉の間で、あさりが口を開き、殻の中に煮汁をためています。その上にはからりと揚げたじゃがいもと、刻んだコリアンダーがたっぷり。添えられたピクルスとオリーブをつまみながら、殻の汁をパンに吸わせる。ポルトガルを代表する豚肉料理のひとつ、カルネ・デ・ポルコ・ア・アレンテジャーナ(carne de porco à alentejana)です。
「アレンテージョ風の豚肉」という名前なのに、海のあさりが入る。この組み合わせこそがこの料理の面白さで、ポルトガルの料理番組の公式サイトTeleCulinária は、あさりの汁がソースに溶け込む、陸と海の融合と表現しています。日本で作るときの山場は、豚肉を赤ピーマンのペーストと白ワインでしっかりマリネすること、そしてあさりは最後に入れて、口が開いたらすぐ火を止めることの2つです。
アレンテージョの豚と、アルガルヴェのあさり

アレンテージョは、ポルトガル南部の内陸に広がる平原の地方です。コルク樫の林で放し飼いにされ、どんぐりを食べて育つ豚の産地として知られ、その肉は質のよさで評判でした。ところが、この料理の生まれについては、アレンテージョではなく、さらに南の海沿いの地方アルガルヴェだという説が広く語られています。英国のワイン誌World of Fine Wineで、ワインライターのジョアンナ・サイモンがいくつもの説を紹介しています。
いちばんよく知られているのは、アルガルヴェの豚が魚の缶詰工場から出る魚粉や残りかすで育てられ、肉に魚のにおいが移っていたため、それを隠すために手近にあったあさりを合わせた、という説です。一方で、アルガルヴェの料理人が、使っている豚肉はどんぐりで育ったアレンテージョの豚だと知らせるためにこの名前をつけた、という言い伝えもあります。サイモンは、いつ名前がついたのか、本当にアレンテージョの豚を使っていたのかは分かっていないと書いています。
1496年、国王マヌエル1世がユダヤ教徒に改宗か国外退去かを迫ったあと、豚肉と貝という、ユダヤ教の戒律で禁じられた食材を組み合わせたこの料理で、改宗者(新キリスト教徒)の信仰を試した、という話も伝わっています。ただしサイモンは、これが説なのか、物語なのか、事実なのかは分からないとしています。
確かなこともひとつあります。この料理が生まれたころには、今のように揚げたじゃがいもは入っていませんでした。じゃがいもがスペインを通じてヨーロッパに伝わったのは1570年ごろとされ、それより後のことだからです。いまの姿の豚肉、あさり、じゃがいも、コリアンダーという組み合わせは、長い時間をかけて食堂や家庭で定着したものです。英語版Wikipediaには、起源をリスボン近郊のアルヴェルカとする説があることも記されています。
途中で見つける、味の決め手
コリアンダーとピクルスがつくる、南の味

この料理の仕上げに欠かせないのが、生のコリアンダーです。ポルトガル南部の料理ではコリアンダーがよく使われ、アレンテージョのパンのスープ、アソルダにも同じように刻んだ葉がたっぷり入ります。脂ののった豚肉と、貝のうまみの濃いソースに、さわやかな青い香りがぱっと抜ける。日本でパクチーとして売られているものがそのまま使えます。苦手な人は、パセリに替えても作れます。
オリーブとピクルスも、この料理の大切な脇役です。豚肉とあさり、揚げたじゃがいもという重めの組み合わせに、酸味と塩気で口の中を切り替えてくれます。TeleCulináriaのレシピでも、大皿に盛ったあとにオリーブとピクルスを散らして仕上げています。酸味のある付け合わせを必ず添えると、最後まで重たく感じずに食べられます。
World of Fine Wineのジョアンナ・サイモンは、この料理に合わせるワインとして、コリアンダーの香りとよく合う軽めの赤ワインやロゼ、ポルトガルの白ワインなどを挙げています。
大皿に盛って、殻の汁ごと

大皿の中央にこんもりと盛り、口を開いたあさりを上に並べて、コリアンダーを散らします。大皿から取り分けて食べると、それぞれが好きな具を選べます。あさりの殻にたまった汁と、皿の底のソースはとくにおいしいので、パンを添えてぬぐって食べてください。揚げたじゃがいもがソースを吸ったところも、この料理ならではの味わいです。
肉と貝を一緒に食べるのが新鮮に感じられたら、ポルトガル料理をもう一品、あさりをにんにくとコリアンダー、レモンで蒸し煮にするアメイジョアス・ア・ブリャオン・パトと並べてみてください。あさりの使い方の違いがよく分かります。
よくある質問

赤ピーマンのペーストがないとどうなりますか?
パプリカパウダーと塩、オリーブオイルで作る代用ペーストで十分に作れます。本物のペーストは発酵した赤ピーマンの酸味と深みがあるので、物足りないと感じたら、代用ペーストに白ワインビネガーを小さじ1加えてください。
あさりの代わりに冷凍のあさりを使えますか?
使えます。冷凍のあさりは凍ったまま加え、口が開くまで加熱してください。殻付きのものを選ぶと、見た目も汁気も生のあさりに近くなります。
じゃがいもを揚げずに作れますか?
オーブンで焼いたり、電子レンジで加熱してからフライパンで焼き色をつけたりしても作れます。揚げたものよりカリッとした食感は弱くなりますが、手軽に作れます。
マリネは一晩置いてもいいですか?
冷蔵庫で一晩置いても作れます。長く置くほど肉に味がしみ込みますが、ワインの酸味で肉の表面が少し白っぽくなることがあります。
作り置きはできますか?
豚肉の煮込みは冷ましてから冷蔵庫に入れ、温め直すときは全体がしっかり煮立つまで加熱してください。あさりとじゃがいもは時間がたつとかたくなったり、べたついたりするので、作りたてを食べるのがおすすめです。この記事では、保存日数の目安は根拠を確認できていないため案内しません。












