寒い昼に食べる、白い豆のごちそう
鍋のふちで豆がふつふつ揺れ、チョリソの赤い油が少しずつ浮いてくる。ファバダ・アストゥリアーナ(Fabada asturiana)は、その時間を急がない料理です。スペイン北部アストゥリアスの冷たい季節に食べられる白いんげん豆の煮込みで、現地では昼食の主役として出されます。
スペイン料理というとパエリア・バレンシアーナやガスパチョの軽やかな色を思い浮かべる人も多いと思います。ファバダは反対側にあります。白い豆、豚の加工肉、サフラン、少しの玉ねぎ。材料は少ないのに、食べると山の宿で昼をとったような重心があります。
現地の柱は、ファベス(fabes)と呼ばれる大きな白い豆、そしてコンパンゴ(compango)と呼ばれる豚加工肉の組み合わせです。コンパンゴにはチョリソ、モルシージャ、ラコン、パンセタなどが入ります。日本で完全に揃えるのは少し難しいため、この記事では大手亡豆やカネリニ、パプリカ入りチョリソ、ベーコンで作り、モルシージャは手に入る時だけ足す設計にします。
コシード・マドリレーニョが三幕で食べる大鍋なら、ファバダは一つの鍋に全部の旨みを閉じ込める煮込みです。同じ豆料理でも、ギリシャのファソラーダより脂と燻香が強く、ブラジルのフェイジョアーダより味付けは静か。豆を崩さず、肉の香りをじわじわ移すのが一番大事です。
ファバダとは、アストゥリアスの豆とコンパンゴの料理
ファバダは、アストゥリアス地方を代表する煮込みです。Spain.infoの公式レシピでは、4人分に400gのfabes、アストゥリアス産チョリソ、乾燥燻製のモルシージャ、ラコン、ベーコン、サフラン、塩を使い、豆を一晩浸してから広い土鍋で煮る流れが紹介されています。
Asturias公式観光サイトのレシピでも、豆、モルシージャ、チョリソ、にんにく、ローリエ、ベーコン、玉ねぎ、パプリカが材料として挙げられ、肉を下ゆでして不純物を抜くこと、最後にサフランを加えることが手順に入っています。豆と肉をただ煮るだけではなく、透明感のある煮汁と豆の形を守る料理だと見ると、火加減の意味が分かりやすくなります。
| 見るポイント | ファバダで大切なこと | 日本の台所での落としどころ |
|---|---|---|
| 現地名 | Fabada asturiana。fabesを使うアストゥリアスの豆煮込み | 記事では「ファバダ」と表記し、本文で現地名を併記 |
| 豆 | 本来はFaba Asturiana IGPの大粒白い豆 | 大手亡豆、白花豆、カネリニで代用。水煮缶は時短版 |
| 肉 | コンパンゴ。チョリソ、モルシージャ、ラコン、パンセタ | パプリカ入りチョリソ、ベーコン、豚肩ロースで寄せる |
| 香り | サフラン、燻製肉、パプリカの赤い油 | サフラン少量とスモークパプリカで輪郭を補う |
| 食べ方 | 昼食の重い一皿。肉は切って別皿にすることもある | パン、青いサラダ、りんご酢の酸味を添える |
IGPのFaba Asturianaは、Phaseolus vulgarisの伝統品種Granja Asturianaを乾燥豆として扱う制度です。日本で同じ豆を毎回買うのは難しいので、完全一致より「大粒で煮崩れにくく、煮るとクリーミーになる豆」を選んでください。小さすぎる白いんげん豆でも作れますが、ファバダらしいゆったりした食べごたえは少し弱くなります。
失敗しやすいところと立て直し

ファバダで一番多い失敗は、味が薄いことではなく、豆が割れることです。豆が割れると煮汁が急に重くなり、肉の脂を受け止めすぎてぼんやりします。味を濃くする前に、火加減と水位を見直してください。
| 状態 | 原因 | 立て直し |
|---|---|---|
| 豆の皮が破れている | 強火でぐらぐら煮た、木べらで混ぜた | 火を止めて10分休ませ、以後は弱火。崩れた分は煮汁のとろみにする |
| 豆に芯が残る | 浸水不足、古い豆、水が少ない | 熱湯ではなく水100mlを足し、弱火で30分延長 |
| 塩辛い | チョリソやベーコンの塩分が強い | 茹でた白いんげん豆200gかじゃがいも150gを足し、15分煮る |
| 煮汁が水っぽい | 水を足しすぎた、豆がまだ硬い | ふたを外し、弱火で15分煮て水分を飛ばす |
| 肉が硬い | 下ゆで後に強火で煮た | 肉だけ取り出し薄切りにし、豆の中で10分温め直す |
現地のレシピにある「鍋を動かす」は、豆を潰さず煮汁を回すための動きです。日本の台所では、鍋つかみを使い、左右に2から3cmだけ揺らす程度で十分です。鍋を大きく振ると熱い煮汁が跳ねるので、無理はしないでください。
日本でどこまで本場に寄せるか
ファバダの代替で守りたい順番は、豆、チョリソ、脂のある豚肉、サフランです。モルシージャは味の深さを作りますが、日本では入手しにくく、血の香りに慣れていない人もいます。初回から探し回るより、パプリカ入りチョリソとベーコンをしっかり使い、豆を崩さないことを優先してください。
豆は大手亡豆が扱いやすいです。白花豆は大きく見栄えがしますが、皮が厚めで煮込み時間が長くなります。カネリニは手に入りやすく軽い仕上がりです。水煮缶は平日向きですが、ファバダの「鍋が育つ感じ」は弱くなります。
チョリソはメキシコ風の生チョリソと、スペイン風の乾燥または半乾燥チョリソで味が違います。ファバダに向くのは、パプリカの香りがあり、煮ても形が残るタイプです。生チョリソしかない場合は、下ゆでせず、最後の30分で加えてください。早く入れると崩れて煮汁が赤い挽き肉スープになります。
サフランは少量で構いません。香りが苦手、または予算を抑えたい場合は省略できます。ただしターメリックで代用すると別方向の香りになるため、色だけを追って入れる必要はありません。スモークパプリカは、チョリソが穏やかな時の補助です。入れすぎると燻製味だけが前に出ます。
買い物で迷った時は、すべてを揃えるより、料理の骨格を崩さない順番で判断します。特に豆と火加減は代替では埋めにくく、ここを外すと「スペイン風の豆スープ」にはなっても、ファバダらしい重さから離れます。
| 迷うもの | 優先度 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 大粒の乾燥白いんげん豆 | 高 | 乾燥豆から戻すと煮汁が自然に濃くなる。水煮缶なら短時間版と割り切る |
| パプリカ入りチョリソ | 高 | 料理全体の赤い油と燻香を作る。辛さより、パプリカの香りがあるものを選ぶ |
| モルシージャ | 中 | あれば深い味になるが、初回はなくてもよい。無理に別の血入り食品で代用しない |
| サフラン | 中 | 少量で現地らしい香りに寄る。予算が厳しければ省き、ターメリックで黄色だけを足さない |
| 土鍋・カスエラ | 低 | 厚手の鍋で十分。大事なのは鍋底が広く、弱火を安定して保てること |
一方で、変えない方がよいのは「強く煮立てない」「豆をかき回さない」「塩を最後に決める」の三つです。材料が少し違っても、この三つを守ると、豆は形を保ったままクリーミーになり、加工肉の塩気だけが尖らずに落ち着きます。
食べ方、献立、保存
アストゥリアスでは、ファバダは温かく、重い昼食として食べられます。日本の夕食に出すなら、主食を増やしすぎず、パンと青いサラダ、りんご酢やピクルスを少し添えると食べやすいです。米と合わせることもできますが、豆と肉だけで十分に満腹感があります。

同じスペイン料理で組むなら、前菜は冷たいガスパチョ、卵料理を少し足すならトルティージャ・エスパニョーラが合います。重い料理を重ねすぎたくない日は、フィデウアやパエリアではなく、酸味のあるサラダを先に置く方が食卓が楽になります。
保存は冷蔵で3日、冷凍で3週間を目安にします。粗熱を20分ほど取り、浅い容器へ移してから冷蔵してください。大鍋ごと冷蔵すると中心が冷えにくく、翌日の味も重くなります。温め直しは小鍋に食べる分だけ移し、水大さじ2を足して弱火で8分から10分。電子レンジなら600Wで2分温め、一度混ぜずに器を揺らしてから、さらに1分温めます。
翌日は、煮汁を少し伸ばしてスープにしてもいいです。豆が崩れている場合は、パンにのせて食べるほうが向きます。チョリソが余ったら刻み、卵と一緒に焼いてトルティージャ風にすると、翌朝の食卓へつながります。
よくある質問
Q1. 水煮缶だけで作れますか?
作れます。水煮白いんげん豆800gを使い、煮込み時間は45分前後にします。最初から肉と一緒に長く煮ると豆が崩れるので、肉、玉ねぎ、にんにくを30分煮てから水煮豆を入れ、弱火で15分なじませます。乾燥豆より軽く仕上がりますが、平日の再現には十分です。
Q2. モルシージャがありません。入れないと別物ですか?
別物にはなりませんが、味の奥行きは少し変わります。モルシージャは血のコクと燻香を足す役です。入れない場合は、ベーコンを40g増やし、スモークパプリカを小さじ1/2使います。黒っぽいコクを足そうとしてしょうゆを増やすとスペイン料理から離れるので、入れるなら小さじ1までにしてください。
Q3. サフランは必須ですか?
必須ではありません。Spain.infoの公式レシピにはサフランが入りますが、家庭では省略しても豆と肉の煮込みとして成立します。香りを本場寄りにしたい時は6本だけ使い、熱湯で色を出してから最後の15分で加えます。ターメリックは色は似ますが香りが違うため、代替というより別アレンジです。
Q4. 豆を早く柔らかくするために重曹を入れてもいいですか?
古い豆や硬水で煮る時は、浸水水に重曹をひとつまみ入れる方法があります。ただし多すぎると豆の皮が弱くなり、煮崩れやすくなります。このレシピでは重曹なしを基本にし、どうしても硬い豆なら浸水時に0.5gだけ入れて、煮る前に水を替えてください。
Q5. 何と一緒に食べると重くなりすぎませんか?
パン、青い葉のサラダ、りんご酢、ピクルスが合います。アストゥリアスではシードルと合わせる文脈もありますが、日本の家庭では炭酸水や辛口の白ワインでも脂を切れます。同じ日に米料理や揚げ物を足すと重くなりやすいので、前菜は冷たい野菜に寄せるのがおすすめです。
Q6. 前日に作った方がおいしいですか?
かなりおいしくなります。火を止めて冷ます間に、豆が煮汁を吸い、肉の塩気が落ち着きます。翌日に出す場合は、冷蔵した鍋をそのまま強火にかけず、食べる分だけ小鍋へ移し、水大さじ2から3を足して弱火で温めてください。強火で急ぐと鍋底の豆が割れます。
参考文献
- Spain.info "Recipe: 'Fabada' (Asturian bean stew). Spanish cuisine" 2026年5月参照
- Turismo Asturias "Asturian Fabada" 2026年5月参照
- Faba Asturiana IGP "La faba de Asturias" 2026年5月参照
- Wikipedia "Fabada asturiana" 2026年5月参照













