雪の積もったケベックの12月。真夜中のミサから戻った家族が台所に集まると、コンロの上ではひと晩かけて温めた鍋が待っています。ふたを取ると、シナモンとクローブの甘い香りがふわりと広がり、茶色いソースの中に丸い肉団子がごろごろ。テーブルには自家製のケチャップやビーツの酢漬けが並びます。ケベックのクリスマスと年越しの食卓に欠かせない煮込み、ラグー・ド・ブレット(ragoût de boulettes)です。
フランス語で「肉団子の煮込み」という、そのままの名前の料理。豚ひき肉にスパイスを混ぜて丸め、ブイヨンで煮て、最後に「焼き粉」と呼ばれる焦がした小麦粉でとろみをつけます。材料は日本のスーパーでほとんどそろい、手間がかかるのは焼き粉を作るところだけです。
1840年の料理書から続く、冬の煮込み

英語版ウィキペディアによると、ラグー・ド・ブレットの起源ははっきりしていません。記録に残る最初のレシピは、1840年にケベックで出版された料理書『ラ・キュイジニエール・カナディエンヌ(カナダの料理人)』にあるものです。ただし、そこに載っているのは豚足の煮込み「ラグー・ド・パット・ド・コション」で、そこに肉団子を加えることが多かったといいます。豚足の煮込みと肉団子は、昔から同じ鍋で出会ってきた料理なのです。
いまでも、ケベックでは両方を合わせた「ラグー・ド・ブレット・エ・ド・パット」がよく作られます。アメリカの料理雑誌サヴールは、この合わせ煮込みをケベックのレヴェイヨン(クリスマスイブや大みそかの夜の祝宴)に欠かせない一皿として紹介し、ゆでたじゃがいもかマッシュポテトを添えて食べると書いています。
ケベックの移住者向け情報サイト、イミグラン・ケベックは、年末年始の伝統料理を紹介する記事で、ラグー・ド・ブレットを「必ず名前が挙がる料理」としています。同じ食卓には、豚足をクローブの効いたブイヨンで何時間も煮た豚足の煮込みや、肉とじゃがいもを生地と交互に重ねて焼くシパイユも並ぶそうです。
この煮込みの個性は、肉料理にシナモンやクローブを使うところにあります。日本ではお菓子の香りという印象の強いスパイスですが、フランス系カナダ人の家庭料理では、肉の臭みを消して冬らしい温かみを足す定番の組み合わせです。サヴールのレシピでは、セイボリー、セージ、タイム、シナモン、クローブ、ナツメグを混ぜたケベック伝統のミックススパイス「エピス・メランジェ」を使っています。
途中で見つける、味の決め手
焼き粉ととろみのコツ

ラグー・ド・ブレットのソースが茶色いのは、肉汁の色ではなく焼き粉の色です。小麦粉を焦がすことで、とろみと一緒にナッツのような香ばしさがソースに加わります。白いままの小麦粉でとろみをつけると、色の薄い、まったく別の味のソースになってしまいます。
焼き粉はオーブンのほか、厚手のフライパンでも作れます。油をひかずに弱火で粉を入れ、木べらで絶えず混ぜながら、オーブンで焼いたときと同じ銅色になるまで炒ってください。目を離すと一気に焦げるので、火のそばを離れないことが大切です。
焼き粉は、焼いていない粉より水を吸いにくく、とろみも弱めです。大さじ4でゆるいと感じたら、冷水で溶いた焼き粉を大さじ1ずつ足してください。冷めた焼き粉は密閉容器に入れておけば、次のグレイビーやシチューにも使えます。
豚足を合わせる伝統の版

祝いの日らしく作るなら、豚足の煮込みと合わせる「ラグー・ド・ブレット・エ・ド・パット」に挑戦してみてください。サヴールのレシピでは、豚足をパセリ、ローリエ、にんじん、セロリ、玉ねぎと一緒に水から2〜3時間煮て、軟骨がやわらかく、肉が骨から外れそうになったら煮汁をこします。煮汁は冷やして脂を取り除き、それを肉団子の煮汁に使います。豚足のゼラチンがソースに溶け込み、口当たりがぐっと重厚になります。
スパイスを変えるのも楽しみ方のひとつです。サヴールのエピス・メランジェにならい、乾燥のセイボリー、セージ、タイムを少しずつ加えると、ハーブの香りが加わります。ウィキペディアは、ウスターソースやしょうが、マスタードを加えるレシピがあることも紹介しています。
よくある質問

牛ひき肉でも作れますか?
作れます。イミグラン・ケベックの記事も、肉団子は牛か豚のひき肉で作ると紹介しています。牛ひき肉だけだと少し硬く締まるので、牛と豚を半量ずつ合わせると食べやすくなります。
作り置きできますか?
作り置きできます。冷めるとソースが固くなるので、湯を少し足して弱火で温め、肉団子の中心まで熱くなったことを確かめてください。保存日数のはっきりした目安は示せないので、冷蔵して早めに食べきりましょう。
焼き粉を作らずに済ませる方法は?
市販のブラウンルウや、グレイビーの素で代用すると手軽ですが、香ばしさは焼き粉に及びません。焼き粉はまとめて作っておけるので、一度作っておくのがおすすめです。
アレルギーで気をつける材料は?
焼き粉の小麦、肉団子を焼くバター(乳)を使います。バターはサラダ油に替えられます。小麦を避ける場合は、米粉を同じようにオーブンで焼いて焼き粉にすると、とろみをつけられます。














