芋煮 — 山形の秋を煮る、里芋と牛肉の醤油鍋
里芋は中までやわらかく、こんにゃくは手でちぎり、牛肉は甘辛い醤油の汁でしっかり火を通し、長ねぎは最後に入れてくたくたになるまで煮ます。醤油は2回に分けて入れ、牛肉は里芋が柔らかくなってから加えます。
秋の山形では里芋の収穫が最盛期を迎え、家族や友人が収穫したての里芋を持って河原に集まり、大きな鍋を囲みます。この屋外の集まりが「芋煮会(いもにかい)」で、秋から冬にかけての季節行事としてすっかり根づいています。山形市では馬見ヶ崎河原が、秋に仲間と鍋を囲む場所としてよく知られています。
この集まりの中心にあるのが芋煮です。決まった一つのレシピがあるわけではなく、山形県内でも地域や家庭によって具材や味つけが変わります。内陸では里芋、牛肉、こんにゃく、長ねぎを醤油の汁で煮るのが基本で、日本海側の庄内では豚肉とみそが定番です。
この記事では、農林水産省(MAFF)が山形県提供のレシピとして掲載している、内陸の牛肉・醤油仕立ての一つを軸にしています。大きな椀で4〜5人分。河原の大鍋ではなく、ふつうの家庭の鍋で作る想定です。山形市や中山町の版は、違いを比べるために後ほど触れるだけで、分量や手順は混ぜていません。なお、このレシピは世界ごはん紀行の台所で試作したものではありません。同じ国の料理は日本のページでも紹介しています。
どの芋煮か — 内陸の牛肉・醤油仕立て
農林水産省のページでは、芋煮は山形県内で違いがあると説明されています。内陸の基本は、里芋、牛肉、こんにゃく、長ねぎを醤油で味つけしたもの。海沿いの庄内では豚肉とみそが定番です。最上地域には山菜やきのこを加える家庭や地域があり、置賜地域には大きめに切った木綿豆腐を入れる版や、隠し味にみそを少し使う版があります。
このレシピは内陸風に絞り、分量も一つの組み合わせで通します。里芋とこんにゃくは水から煮るのが出発点です。軽く沸いたところで醤油を大さじ1だけ入れ、里芋が柔らかくなってから牛肉と残りの調味料を加えます。ねぎは最後で、くたくたになるまで煮ます。油もだしも塩も使いません。牛肉の脂と醤油、砂糖、酒が汁の味をつくります。
| 地域(MAFFの説明による) | 主な特徴 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 山形内陸 | 里芋、牛肉、こんにゃく、長ねぎ。醤油味 | 下のレシピ |
| 庄内(日本海側) | 豚肉とみそ | 地域差の紹介のみ |
| 最上 | 山菜やきのこを加える | 地域差の紹介のみ |
| 置賜 | 大きめの木綿豆腐、または隠し味のみそ | 地域差の紹介のみ |
道具
- 水800ccと里芋、こんにゃく、牛肉が入る大きさの鍋
- 里芋の皮をむく包丁またはピーラー
- 包丁
- 野菜用のまな板と、生の牛肉用の別のまな板
- ちぎったこんにゃくと切った里芋を入れるボウル
- アク取りと盛り付けに使うおたま
- 里芋の柔らかさを確かめる箸
- 牛肉の火通りを確かめる食品用温度計
- 盛り付け用の丼または大きめの汁椀
選び方と代用
里芋。 日本で「洗い里芋」として売られている皮むき済みの里芋を使えば、皮をむく手間を省けます。表の500gは皮付きの重さなので、皮をむいた後の500gとは違います。換算はせず、目分量で調整してください。
こんにゃく。 板こんにゃくには、精粉(せいこ)から作るものと、生芋(なまいも)から作るものがあります。袋の表示で確かめてください。精粉のこんにゃくは下ゆでせずに鍋へ入れられ、このレシピはこちらを使っています。生芋のこんにゃくは、ゆでこぼしてから入れます。
牛肉。 汁にコクを出すには、薄切りのバラ肉や脂の多い切り落としが向いています。赤身の薄切りでも火は通りますが、汁のコクが弱くなります。豚肉への置き換えは、このレシピの代用にはなりません。豚肉とみその組み合わせは庄内の別の鍋になります。
清酒。 ふつうの飲用の日本酒(清酒)を使います。料理酒は塩分などが加えてあることが多いので、使う場合は醤油を足す前に味を見てください。
醤油と砂糖。 大さじの分量と、醤油を2回に分ける手順を守ります。醤油は銘柄によって味が違うので、最初に多めに入れず、最後に味を見て判断します。
この料理には牛肉と大豆(醤油)が入っています。醤油には小麦を含むものも多いので、商品の表示を確認してください。生の牛肉は専用のまな板で扱い、生の牛肉に触れた手や道具は、野菜や盛り付けの器に触れる前に洗ってください。
盛り付け — ひとり一椀、たっぷりの汁で

内陸の芋煮は、汁をたっぷり入れた大きな椀に盛ります。柔らかい里芋、牛肉、ちぎったこんにゃく、くたくたに煮えたねぎが入り、飾りは要りません。七味唐辛子は好みで加える食卓の薬味です。鍋全体にではなく、自分の椀に入れてください。
残りものと温め直し
残った芋煮は浅い容器に小分けして、早く冷まします。室温に長く置かないでください。冷めたらふたをして冷蔵します。食べるときはしっかり再加熱してください。保存日数は決めていませんので、各自で判断し、長く置かないようにしてください。
里芋が硬い、こんにゃくが気になる、汁がしょっぱい — 鍋の困りごと
| 困りごと | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 牛肉を入れても里芋がまだ硬い | 里芋が柔らかくなる前に牛肉を入れた、または切り方が不ぞろい | そのまま煮て、いちばん大きい里芋を箸で確かめる。次回は里芋が柔らかくなってから牛肉を入れる |
| 柔らかい里芋と硬い里芋が混ざる | 大きさがかなり違う | いちばん大きい里芋が柔らかくなるまで煮る。次回はもう少しそろえて切る |
| こんにゃくに強いにおいや変な食感がある | 生芋のこんにゃくを、ゆでずに入れた | 次回は袋の表示を確かめ、生芋のこんにゃくなら、ゆでこぼしてから入れる |
| こんにゃくがつるりとして、汁の中で滑る | 手でちぎらず、包丁で切った | 次回は手でちぎる。荒い断面に汁が絡む |
| 汁がしょっぱすぎる | 醤油を一度に全量入れた、または塩分の入った料理酒を使った | 醤油は書かれたとおり2回に分け、足す前に味を見る。料理酒を使うなら醤油に注意する |
| 汁が薄く、コクが足りない | 赤身の牛肉を使った | バラ肉や切り落としなど、脂の多い薄切り牛肉を使う |
| ねぎにまだ歯ごたえが残る | 入れてからの煮込みが足りない | とても柔らかくなるまで煮続ける |
| 牛肉に火が通ったか不安 | 肉が厚く折り重なっている | いちばん厚い一切れの中心を温度計で確かめる。中心75°Cで1分以上が一般的な目安 |
地域のバリエーション — 別の鍋であって、この鍋への足し算ではありません
どれも芋煮の別の版で、上のレシピに手を加えたものではありません。試すなら、それぞれ別の鍋として作ってください。
- 庄内風: 牛肉の代わりに豚肉、醤油の代わりにみそ。山形の日本海側の定番です。
- 最上風: 山菜やきのこを加える家庭や地域があります。
- 置賜風: 大きめの木綿豆腐を入れる版や、隠し味にみそを少し使う版があります。
- 締めのうどん: 鍋の具が減ってきたら、残った汁にうどんを入れます。最初から入れるものではなく、鍋の締め方の一つです。
- カレールウ: 残りの芋煮にカレールウを加えるのは、比較的新しい食べ方です。残りから作る二品目で、芋煮そのものの材料ではありません。
河原と船頭と牛肉 — 芋煮の文化と歴史
農林水産省によると、芋煮会は秋から冬にかけての習慣で、収穫した里芋を河原に持ち寄り、家族や友人と鍋を分け合います。山形市も同じように、秋の馬見ヶ崎河原で仲間が鍋を囲む様子を紹介しています。
起源については、農林水産省が1600年代半ばにさかのぼるという説と、最上川を行き来する船頭が河原で鍋を囲んだという話を紹介しています。これらは伝承や言い伝えとして示されており、確定した史実としては示されていません。この記事でも同じ扱いです。牛肉が使われるようになったのは昭和初期ごろといわれる、という紹介もありますが、これも一般に語られる話で、記録で確かめられた年代ではありません。
山形市と中山町は、それぞれ牛肉・醤油仕立ての芋煮のレシピを公開しています。分量も手順も異なり、たとえば里芋を塩でもんでぬめりを取る、こんにゃくを下ゆでする、といった工程があります。中山町の現在のレシピは4人分で書かれています。これらはこの記事のレシピとは別のもので、混ぜていません。中山町ではまた、棒鱈(ぼうだら)と里芋を煮る「芋棒煮(いもぼうに)」を、現在一般的な牛肉の芋煮と区別しています。この土地の芋煮文化に連なる料理ですが、別の料理です。
よくある質問
山形の芋煮は、みそ味ですか、醤油味ですか?
どちらもあり、場所によって違います。山形の内陸では牛肉と醤油が、海沿いの庄内では豚肉とみそが定番です。このレシピは内陸の牛肉・醤油仕立てです。
里芋は下ゆでしますか?
しません。このレシピでは、切った里芋を水とこんにゃくといっしょにそのまま鍋に入れます。山形市のレシピのように、塩でもんでぬめりを取る版もありますが、別の方法で、このレシピには含まれません。
こんにゃくは下ゆでが必要ですか?
作り方によります。精粉のこんにゃくは下ゆでを省けますが、生芋のこんにゃくは先にゆでてゆでこぼします。袋の表示を確かめてください。
牛肉はいつ入れますか?
里芋が柔らかくなってからです。そのタイミングで、残りの調味料といっしょに牛肉を加えます。箸で柔らかさを確かめるのは実用的な見極め方で、レシピに分数での時間は書かれていません。
何分くらいかかりますか?
各段階の時間や温度は決まっていません。鍋、火力、里芋の大きさで変わるので、鍋の状態で判断してください。里芋が柔らかい、牛肉に火が通っている、ねぎがとても柔らかい、が目安です。牛肉の「75°Cで1分」は、厚生労働省が示す一般的な食品衛生の目安で、レシピとは別のものです。
何を添えますか?
食卓の七味唐辛子は好みでどうぞ。残った汁に入れるうどんや、残りに加えるカレールウは、農林水産省が紹介している食べ方ですが、基本のレシピには含まれません。

























