かに巻き汁 — 蟹を搗いてこし、やわらかなおぼろとして出会う
鍋に入るのは、蟹、味噌、水の3つだけです。蟹は火にかける前に搗いてこしておくので、脚も殻も椀には届きません。椀に見えるのは、澄んだ味噌汁に浮かぶ、ふわりとやわらかなおぼろ状のかたまりです。
宮崎県の北郷では、秋から冬にかけて山太郎ガニがとれます。モクズガニとも呼ばれる川の蟹で、川をさかのぼって育ち、産卵のために再び川を下ります。9〜10月ごろ、地元の台所ではこの蟹を味噌と一緒に搗き、こして、その液を煮上げて「かに巻き汁」にします。農林水産省(MAFF)は、味噌が蟹の旨みを包み込むことから、この名がついたと説明しています。
この記事で扱うのは、農林水産省の郷土料理サイトに掲載されている、JA宮崎県女性組織協議会のレシピひとつだけです。仕上がりは、蟹の身が塊で残るのではなく、おぼろ豆腐に似た、やわらかで不ぞろいなかたまりになります。
日本のほかの地域にも蟹の汁はありますが、別の料理です。ここではほかの地域の作り方は混ぜていません。
このレシピは、世界ごはん紀行では試作していません。分量と作り方は公開されているレシピによるもので、安全面の案内は別の公的な情報にもとづいています。
はじめに読んでください — 淡水蟹の生と加熱
かに巻き汁は、しっかり火を通す汁です。生の蟹を食べる料理ではありません。ただ、作る途中で生の蟹を扱います。厚生労働省(MHLW)は、モクズガニやサワガニなどの淡水蟹に関わる肺吸虫の感染経路として、生で食べること、加熱が不十分なこと、調理器具を介した二次汚染の3つを挙げています。
広島市の寄生虫に関する案内は、モクズガニをウェステルマン肺吸虫の感染源のひとつに挙げ、加熱の条件を中心温度75°Cで1分としています。この記事ではその条件を、汁全体のいちばん冷たい部分にも当てはめます。これは別の資料から加えた安全上の補足で、加熱時間や温度を示していないMAFFのレシピの数値ではありません。75°Cで1分は広島市の案内による条件です。
- 生の蟹、搗いた生の混ぜもの、こした液は、火を通す前には決して味見したり食べたりしないでください。
- 生の蟹に使った道具は、加熱後の料理や器と離しておき、使ったあとはよく洗ってください。
- 汁全体のいちばん冷たい部分が、中心で75°Cに達し、そのまま1分保たれていることを確かめてください。
- 沸き始め、おぼろ状の見た目、洗うこと、こすこと、この記事の写真は、汁が安全である証拠にはなりません。洗う、こすといった操作を、寄生虫を取り除く方法として扱わないでください。
途中で見つける、味の決め手
道具
- すり鉢とすりこ木、またはミキサー
- ざる
- こした液を受ける清潔なボウル
- 鍋
- 食品用の温度計
- 盛りつけ用の椀
- 生姜を使う場合は、おろし器、小さな目の細かいこし器、小皿
- ねぎを使う場合は、生の蟹に触れていない包丁とまな板
選び方と代用
蟹は、国内で食品として合法的に販売されているものを使い、表示と取扱いの案内に従ってください。山太郎ガニは、海の蟹ではなく、モクズガニとも呼ばれる川の蟹です。この記事では、野外での採取、輸入、ほかの種類の蟹への置き換えはすすめません。合法な食品として買えない場合は、別のもので代用せず、この料理は作らないでください。
味噌の種類に指定はありません。蟹は、すり鉢とすりこ木でもミキサーでも処理できます。だし、麺、野菜は入れません。入れると別の汁になります。
うまくいかないときは
| 気づいたこと | 意味すること | 対処 |
|---|---|---|
| 搗いている途中で、味つけを確かめたくなる | 混ぜたものはまだ生の状態 | 味見はしない。汁全体に十分に火が通るまで待つ |
| ざるに粗い蟹が残っている | これで正常 | 鍋には入れない。液にこそげ入れない |
| 火にかける前に、集めた液に細かいものが見える | もう少しこす必要がある | 清潔なざるにもう一度通してから、鍋に入れる |
| 汁が沸き始めた | ここで変わるのは火加減だけ | 弱火にして、手順15の温度の条件を満たすまで火を通す |
| かたまりはできたが、温度は確かめていない | かたまりは安全の証拠にならない | 食品用の温度計で、汁のいちばん冷たい部分を確かめる |
| 手近にあるのが、生の蟹に触れたまな板や道具しかない | 薬味や火を通した汁を汚すおそれがある | 薬味にも盛りつけにも使わない。別の清潔なものを用意する |
| 椀に生姜のかすが入っている | 汁に入れるのは生姜汁だけ | おろした生姜を目の細かいこし器で押して、汁だけを使う |
薬味と、ほかの地域の蟹の汁
このレシピでの選択は、おもに薬味です。何も加えずに出す、生姜汁を加える、ねぎを加える、両方を加える、のどれでもかまいません。蟹を処理する道具も、すり鉢とミキサーのどちらを使うか選べます。
日本のほかの地域にも、名前が似ていても、材料も作り方も違う蟹の汁があります。別の料理として知っておくとよいでしょう。
| 料理 | 地域 | 違い |
|---|---|---|
| かに巻き汁 | 宮崎・北郷 | 蟹を味噌と搗き、段階的にこす。任意の薬味のほかに具は加えない |
| つがに汁 | 高知 | 蟹を搗いてこす点は同じだが、材料、味つけ、作り方が異なる |
| かに汁 | 鳥取 | 具の入った味噌汁。紅ずわいがにの身、大根、にんじん、長ねぎを使う |
北郷と川の蟹
北郷は、現在は宮崎県日南市の北郷・酒谷地域にあたります。MAFFによると、山太郎ガニはここで秋から冬にとれ、この汁は9〜10月ごろの食習慣に結びついています。川をさかのぼって育ち、のちに産卵のために川を下る蟹の暮らしが、この料理を支えています。
この汁の見た目は、作り方から生まれます。蟹は火を通す前に搗いてこしてしまうので、椀には蟹の姿はまったく残りません。澄んだ味噌汁の中に、おぼろ豆腐に似たやわらかなかたまりが浮くだけです。ほかの地域の料理も知りたい方は、日本の料理もご覧ください。
MAFFのレシピは加熱時間を定めておらず、この記事でも時間は足していません。この料理の起源についての歴史も、書き足していません。
よくある質問
蟹は生で食べるのですか?
いいえ。生の蟹から作り始めますが、しっかり火を通す汁です。生の蟹、搗いた混ぜもの、こした液は味見しないでください。厚生労働省は、淡水蟹による肺吸虫の感染経路として、生で食べること、加熱が不十分なこと、汚染された調理器具を挙げています。
75°Cで1分は、レシピに書かれている条件ですか?
いいえ。MAFFのレシピは、強火にかけて、沸き始めたら弱火にするとしています。75°Cで1分は広島市の寄生虫に関する案内の条件で、この記事では別の安全対策として、汁全体のいちばん冷たい部分に当てはめています。
ざるに残ったかすはこそげ取りますか?
いいえ。MAFFの英訳は、ざるをこそげ取るようにも読めますが、日本語の本文は、集めた蟹の液をもう一度こすとしています。この記事は日本語の本文に従っています。
蟹は、身だけをほぐしたものでなければいけませんか?
いいえ。日本語のレシピは「山太郎ガニ(甲羅をとったもの)」としており、この記事もそれを、殻のない身だけに狭めてはいません。蟹の分け方についても、レシピに書かれていないので説明しません。
火を弱めるのは、正確にはいつですか?
はじめは強火にかけ、汁が沸き始めたらすぐに弱火にします。強火のあとの任意の時点ではなく、日本語のレシピが指定しているのはこのタイミングです。
ほかの蟹を使ったり、だしや野菜を加えたりしてもよいですか?
この記事ではどちらもすすめません。蟹の置き換えはこのレシピの範囲外で、だし、麺、野菜は北郷の作り方に含まれていません。
凍らせれば安全になりますか? 残ったら保存できますか?
この記事で使った資料は、寄生虫対策としての冷凍の方法も、保存の目安も裏づけていないので、案内しません。この汁は、作りたてを出すものとして紹介しています。



























