食卓の真ん中で、澄んだ昆布だしの鍋がゆっくり湯気を立てています。まわりには薄切りの牛肉、白菜、春菊、長ねぎ、しいたけの皿。手元には酸味のきいたぽん酢と、コクのあるごまだれの小鉢が2つ。農林水産省は、しゃぶしゃぶを薄切りの肉を澄んだだしでさっと加熱し、ぽん酢やごまだれにつけて食べる料理と紹介しています。
しゃぶしゃぶは、澄んだだしとたれで味をつくる鍋
しゃぶしゃぶは、強い味つけの汁で煮込む鍋ではありません。だしは澄んだままおだやかに保ち、各自が少しずつ火を通し、味はつけだれで決めます。
この料理のおもしろさは、食べるリズムにあります。牛肉を1枚ずつだしにくぐらせ、野菜もあとから少しずつ加えるので、食卓で少しずつ出来上がっていくのが魅力です。同じ日本の牛肉の鍋でも、しょうゆベースの割下で具を煮るすき焼きとは違います。しゃぶしゃぶはだしを素直なままにして、一口ごとにたれで味を組み立てます。
このレシピはキッコーマンが公開している2人分のレシピに沿い、分量もそのまま使っています。以下では、材料、昆布だしとごまだれの作り方、肉と野菜を入れる順番、生肉を食卓に出すときの衛生面のポイントを順に紹介します。
途中で見つける、味の決め手
牛肉・野菜・たれの選び方
買い出しで迷いやすいのは、肉、昆布、ごまペーストです。
牛肉はしゃぶしゃぶ用に薄切りされたもの、たとえば肩ロースの薄切りなどを選びます。脂の量によって、だしの濁り方や口当たりが変わります。冷凍の薄切り肉を使う場合は、パッケージの表示に従って解凍してください。
昆布はだし用に売られているものを使います。この鍋に必要なのは8cm角の1枚だけです。
野菜はそれぞれ役割があります。白菜の芯はほどよい歯ごたえ、春菊は青く草のような香り、長ねぎはやさしい甘み、しいたけは香りを足してくれます。長ねぎは普通のものでかまいません。野菜は好みで入れ替えられますが、このレシピの基本はこの組み合わせです。
白ごまペーストは、なめらかな白ねりごまを想定しています。すりごまでは食感が変わるため、ここでは標準の代用品にはしていません。
たれのぽん酢は市販のぽん酢しょうゆです。ごまだれは手作りですが、市販のごまだれでも作れます。手間は省けるものの、味や原材料は手作りとは異なります。
道具
食卓に出す鍋と、だしを保温する熱源があれば、特別な道具は要りません。
- 食卓に置ける、だし用の鍋
- 卓上の熱源。たとえば卓上IHコンロと、それに対応する鍋(すでに鍋と、食卓で保温する方法があれば不要)
- みりんを温める小さな耐熱容器と電子レンジ
- 2種のたれを入れる小鉢
- 灰汁をすくうおたまやあく取り
- 生肉を扱うときだけ使う箸かトング(食べる箸とは別に用意)
食べる順番と2種のたれ

2種のたれは、同じ鍋を別の方向へ引っぱります。ぽん酢は柑橘の酸味としょうゆでさっぱりと、ごまだれは濃厚でナッツのような風味です。キッコーマンのレシピも農林水産省も、この2種を定番の組み合わせとして紹介しています。どちらか一方を選ぶ必要はありません。牛肉も野菜も、両方のたれで試してみてください。
食べ進めるうちに、肉のうま味がだしに移り、その後に煮た野菜がそれを吸います。白菜の芯ときのこから始め、そのあと葉物に移ると、やわらかい葉が待っているあいだに煮えすぎません。
鍋に入れるのは一度にほんの少しにしてください。詰め込むとだしの温度が下がり、何に火が通ったのか見分けにくくなります。
食卓でうまくいかないとき
食べている途中で起こりやすいことを表にまとめました。だしは強く沸かさないこと、一度に入れすぎないこと、肉は色だけで判断しないことの3点が基本です。
| 困りごと | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| だしがぐらぐら沸き続ける | 火が強すぎる | 火を弱め、具を少しずつ入れる。静かな煮立ちを保つと、野菜が崩れにくく、具を入れたときの鍋の温度の大きな変化も避けられる |
| ごまだれが固い | 湯が十分に混ざっていない | 湯大さじ1をまずしっかり混ぜ込む。それでものばしたい場合は、レシピ外のご自身の調整になる |
| 灰汁が出る、だしが濁る | 一度に入れすぎた、肉の脂 | 鍋に詰め込まない。浮いた灰汁はそのつどすくう |
| 肉に火が通ったか分からない | 色だけで判断している | 中心まで十分に火を通す。色は目安であって、安全の証拠ではない |
食中毒予防と残りものの扱い
生肉を食卓に出す鍋なので、衛生面は料理の一部として考えてください。加熱の目安は、すでに作り方の5番で触れた、厚生労働省が示す家庭向けの一般的な基準(中心75°Cで1分以上)です。
残っただしや具が何日もつか、何回まで温め直せるかについては、今回の資料にこの料理固有の案内がありません。そのため、このレシピでは保存期間を示しません。厚生労働省が家庭の残りもの全般について勧めているのは、次のことです。
- 室温に放置しない。
- 浅い容器に小分けして早く冷まし、すみやかに冷蔵する。
- 温め直すときは全体を十分に加熱し、75°C以上にする。スープ類は沸騰させる。
温め直しても、傷んだ食品が安全に戻るわけではありません。迷ったときは食べずに捨ててください。
アレンジ
ここで紹介するのは別の選択肢で、上の基本レシピには混ぜません。
豚しゃぶ。 しゃぶしゃぶでは豚肉もよく使われます。牛肉を豚肉に替えるなら、中心までしっかり火を通してください。だしでの脂の出方も変わります。
市販のごまだれ。 たれ作りの手間は省けますが、風味や原材料は、ここで作る手作りのごまだれとは異なります。アレルゲンの表示を確認してください。
高山の店のスタイル。 日本畜産物輸出促進協議会は、岐阜県高山市の料理店による家庭向けのしゃぶしゃぶを紹介しています。酒、塩、にんにく、こしょうを加えるものです。店や地域で味つけがさまざまであることを示す例ですが、別のレシピとして捉え、この記事のレシピにそれらの調味料を足さないでください。
しゃぶしゃぶの由来と、すき焼きとの違い
農林水産省は、しゃぶしゃぶとすき焼きを並べて紹介しています。しゃぶしゃぶは、薄切り肉を澄んだだしでさっと加熱し、ぽん酢やごまだれにつけて食べます。すき焼きは、しょうゆ、みりん、砂糖で作る割下で具を煮ます。一方はだしを素直なままにして味をたれに託し、もう一方は鍋そのものに味をつけるわけです。
名前の由来は、いくつかの語られ方があります。大阪の「スエヒロ」は、自店の歴史として、中国の火鍋「涮羊肉鍋(shuanyangrouguo)」に着想を得て料理を開発し、2年の試作を経て1954年に初めてメニューに載せたと説明しています。これはあくまで店自身による説明なので、唯一確定した説ではなく、ひとつの語りとして読むのが適切です。ここで挙がる中国の火鍋は別の料理で、同じレシピではありません。
家庭の鍋、とくに冬の鍋としての魅力のひとつは、食卓の上で調理が進み、少しずつ分け合って食べられることでしょう。同じ国のほかの料理や食文化は、日本のページでも紹介しています。
よくある質問
牛肉以外でも作れますか?
作れます。豚肉もよく使われます。どの肉でも、食べる前に中心まで十分に加熱し、生肉用の箸を使い分けてください。
昆布は一晩浸してもよいですか?
このレシピは、キッコーマンに従って約30分浸します。それより長く浸す場合については、今回使った資料に記載がないため、だしがどう変わるかは言及しません。
市販のたれでも大丈夫ですか?
このレシピのぽん酢は、もともと市販品です。ごまだれも、日本畜産物輸出促進協議会が市販のごまドレッシングの利用を挙げているように、既製品で作れます。ただし、手作りとは風味が異なります。
残っただしはどうすればよいですか?
室温に置きっぱなしにしないでください。浅い容器に小分けして早く冷まし、すみやかに冷蔵し、温め直すときは沸騰させます。この料理について保存期間を示す資料がないため、日数は書いていません。
みりんを加熱すると、アルコールは完全になくなりますか?
レシピではみりんをラップなしで600W、30秒加熱しますが、アルコールが完全になくなる保証はなく、加熱時間は容器や電子レンジによって変わります。アルコールを完全に避けたい人がいる場合は、たれを選ぶときに考慮してください。












