朝の食卓に、にんにく入りのヨーグルトが白く広がった皿が置かれます。その上にはゆで卵がのり、赤い香辛料入りのバターがとろりとかかっています。そばには焼いたパン。ちぎったパンの端で卵の白身を押さえ、ヨーグルトと赤い油をまとわせて口へ運ぶ、パンですくう食べ方がこの料理のすべてです。
料理名はチルブル(Çılbır)。ポーチドエッグ、ヨーグルト、香辛料を溶かした油脂を重ねる一皿で、ここでのヨーグルトは甘いデザートではありません。塩とにんにくを合わせて、ソースのように使います。
日本の朝食にも持ち帰りやすい料理です。2人分で卵4個、濃厚なプレーンヨーグルト200g、作業時間の目安は30分。この時間は家庭向けに工程を組んだ目安で、実測した数字ではありません。基本の配合には辛くないパプリカパウダーを使うので、現地の唐辛子フレークが持つ香りや辛さまでは再現しきれません。難しいのは卵をゆでるところで、白身が散らばる、ゆで湯が皿に入る、バターを焦がす、という3点を作り方の中で防いでいきます。にんにく入りヨーグルトの冷たさと、熱いバターの対比を楽しんでください。半熟に仕上げる時間は安全を保証するものではないので、しっかり加熱したい場合の選択肢は、後ほど注意枠でお伝えします。
朝食の白い皿は、昼と夜にも並ぶ

トルコの朝食には、serpme kahvaltı(セルペメ・カフヴァルトゥ)と呼ばれる並べ方があります。食卓にいくつもの小皿を広げ、共有の皿からゆっくりつまんでいく朝食です。そんな小皿を広げる朝食で紹介される卵料理の一つがチルブルです。全国のどの家庭でも毎朝食べているわけではありませんが、卵をヨーグルトに重ね、赤いバターをかけるこの形は、温かい卵と冷たいヨーグルトを一緒に味わえるのが魅力です。パンを添えておけば、皿に残ったソースまで余さず食べられます。
朝食専用の料理かと思いきや、トルコの文化観光省の料理紹介では、暖かい日の昼食や夕食にピラフやグリーンサラダと合わせて食べる例も載っています。昼食や夕食にも食べられるわけです。同省が挙げる配合は卵6個にヨーグルト330gで、油はオリーブ油。つまり赤いバターだけが唯一の正解ではなく、食べる時間や添え物しだいで食卓の表情が変わります。日本で試すなら、朝はパン、昼はサラダや少量のご飯を添える、といった家庭向けの組み立てが考えられます。これはトルコ全域の習慣ではなく、あくまでこの記事の提案です。
GoTürkiye(トルコの観光紹介サイト)は、この料理をオスマン朝のスルタンにも好まれたものとして紹介しています。あくまで観光資料の紹介で、発明者や発祥の年、特定のスルタン名までは確認できていません。
地域で変わる盛り方、イスパルタではヨーグルトを卵の上から
地方によって、盛り方も油脂も違います。イスパルタ県の文化観光局のレシピでは、卵5個に、つぶした水切りヨーグルト1鉢、そして炒めたkaymak(カイマク)由来の油脂大さじ2を使います。kaymakは乳製品の濃厚なクリームで、ここではその油脂を使う形です。調理した卵を少し冷ましてから、卵の上からヨーグルトをかけるのが特徴で、私たちが想像する「ヨーグルトの上に卵」とは重ね順が逆になります。この地方資料の材料欄ににんにくや唐辛子は出てきませんが、書かれていないことは、その地域で使わない証拠にはなりません。
こうして見ると、共通しているのは湯で加熱した卵とヨーグルトの組み合わせで、油脂や重ね順は土地ごとに異なります。イスタンブールの料理家Vidar Bergumのレシピでは、にんにくは任意です。にんにくの有無も選べるので、好みで調整して構いません。地方ごとの特徴を、一つの「本場の姿」にまとめてしまわないことが大切です。
この記事の配合は、その料理家の卵4個とヨーグルト200gの組み合わせを土台に、日本の家庭向けに調整したものです。にんにくは1/2片、バターは30g、パプリカは小さじ2を使います。
原語の綴りはÇılbır。英語のレシピ名ではTurkish eggsとも呼ばれ、日本語ではチルブルと書きます。同じトルコの朝食でも、卵をトマトとピーマンに混ぜ込むメネメンとは材料も調理法も違い、卵の食感もまったく別物です。
途中で見つける、味の決め手
赤いソースを、日本のスパイス売り場で作る
現地の作り方に使われるpul biber(プルビベル)は、赤唐辛子のフレークです。Vidar BergumはAleppo pepperを勧めていて、手に入らなければ普通のパプリカかスモークパプリカも代わりになるとしています。今回の基本材料は辛くないパプリカパウダーです。色鮮やかな赤いソースは作れますが、唐辛子フレークならではの辛さ、粒感、香りは同じになりません。
買うときは、粉末のパプリカパウダーという名前で探します。生野菜のパプリカ、辛いチリパウダー、カレー粉のような複合調味料とは別物なので、商品表示で原材料と辛さを確かめてください。色と辛さを分けて調整できるのが、この配合のいいところです。スモークパプリカなら燻製の香りが加わり、同じ小さじ2でも香りが変わります。近所で見つからなければ、通販で粉末を探す手もあります。
プルビベルが手に入ったときは、パプリカ小さじ2をプルビベル小さじ2に替える案があります。ただ、商品によって辛さも塩分も違うので、一味は足さず、塩1gも増やさずに、味見しながら進めてください。
食卓に合わせて変える、五つの組み合わせ
ここから先は、日本の家庭向けの提案です。伝統的な地域版として紹介しているわけではありません。卵4個とヨーグルト200gの土台は変えず、香り、辛さ、食べる時間を動かします。にんにくは省略できるので、苦手な人にも作りやすい一皿です。乳アレルギーへの対策と、油脂を替えることは別の話なので、混同しないでください。
| 変え方 | 2人分で変える量 | 味・食べ方の変化 |
|---|---|---|
| にんにくなし | にんにく1/2片を省く | ヨーグルトの酸味とバターの香りを中心にする |
| 辛みを少し足す | 一味唐辛子小さじ1/8を追加 | パプリカの色は残したまま辛さを足す |
| 燻製の香りを足す | パプリカ小さじ2をスモークパプリカ小さじ2へ | 赤い色に燻製香が加わる |
| オリーブ油で軽く仕上げる | バター30gをオリーブ油30mlへ | 乳の香りは減るが、ヨーグルトの乳成分は残る |
| 昼食の組み合わせにする | パン100gの代わりに炊いたご飯200g、葉野菜サラダ100g | ご飯とサラダで軽い主菜にする。トルコにはピラフとサラダを添える例がある |
添え物で朝から昼へと表情が変わるのが、この料理のおもしろさです。同じトルコの卵料理で比べてみたいなら、メネメンの作り方もどうぞ。トマトとピーマンに卵を混ぜ込む料理で、チルブルとは加熱の仕方も、酸味をくれる素材も違います。昼食に穀物を合わせたいときは、ブルグル・ピラウの作り方の材料と作り方を読んでみてください。今回の配合に、書かれていない穀物を混ぜることはしません。
よくある質問
甘いヨーグルトでも作れますか
無糖プレーンを選んでください。加糖タイプでは、塩やにんにく、赤い油脂と合わせたときの味が変わってしまいますし、液状のタイプは卵を支えにくくなります。無糖の濃厚タイプが手に入らなければ、冷蔵庫の中で水切りして200gを量れば使えます。
辛くない料理にできますか
基本の配合は辛くないパプリカパウダー小さじ2で、一味を入れなければ、唐辛子由来の強い辛さは加わりません。商品によって辛さが違うので、表示は確認してください。プルビベルやチリパウダーとは辛さが異なります。子ども向けなどで黄身まで固める場合の注意も、あわせて守ってください。
ポーチドエッグの黄身が固まったら失敗ですか
黄身が固まっても、おいしく食べられます。ヨーグルトとソースに卵を小さく崩して合わせ、パンですくってください。とろける食感とは違いますが、半熟だけが成功ではありません。黄身まで固めても楽しめるのです。黄身が固いことと、ソースを焦がしたことは別の話です。苦くなったソースは作り直しましょう。
作り置きや冷凍はできますか
この家庭向けレシピでは、食べる直前に卵をゆでて盛り付けることをおすすめしています。組み立てた半熟の皿を冷凍したり、再加熱したりするのはすすめません。ヨーグルトは元の製品の表示に従って冷蔵してください。FDAは、調理済みの卵料理を室温で2時間以上、32℃を超える環境では1時間以上置かないよう示していますが、この上限まで置いてよいという意味ではありません。特定の保存日数が安全だとも、実測なしにお約束できません。
卵の安全のために何を優先しますか
卵は冷蔵し、ひびがないか確認して、生卵に触れた手や器具を洗います。そして白身も黄身も固まるまで加熱します。半熟の3〜4分は食感の目安で、安全の基準ではありません。妊娠中の人、高齢者、子ども、免疫機能が低下した人には、十分に加熱した卵を使い、完成したらすぐ食べてください。
栄養の目安
パンを含む2人分全量で、約964kcal、たんぱく質54.6g、脂質58.5g、炭水化物59.8gの概算です。文部科学省の食品成分データベースを基に、卵の可食部を計200g、パンを食パン100g、パプリカパウダーを4gとして計算しました。ヨーグルトは無糖ギリシャヨーグルトのメーカー表示の100g当たり99kcal、たんぱく質10.2g、脂質4.3g、炭水化物4.9gを使っています。ゆで湯と酢、任意の一味は含めていません。ヨーグルトの製品や水切り具合、パンの種類、卵の大きさによって変わり、実測値ではありません。











