南太平洋の大地が生んだ「地中のごちそう」
パプアニューギニアの高地。朝もやが晴れ始めると、村の男たちが地面に穴を掘り、薪を組み、河原から運んできた石を火にくべます。女たちはバナナの葉を広げ、豚肉を切り分け、さつまいもの土を落とし、ココナッツミルクを絞っています。数時間後、石から立ちのぼる蒸気とともに葉が開かれると、中から現れるのは大地の熱だけで調理された素朴で力強いごちそう。これが**ムームー(Mumu)**です。
ムームー は、地面に掘った穴の中に焼いた石を並べ、バナナの葉で包んだ食材を石の熱で蒸し焼きにする、パプアニューギニアの国民的調理法であり、国の料理そのものです。英語では「アースオーブン(earth oven)」と呼ばれるこの技法は、太平洋島嶼地域に広く見られますが、ムームーはパプアニューギニア独自の食材と文化が色濃く反映された、世界でもここでしか味わえない料理です。
ハワイの「イム」、ニュージーランド・マオリの「ハンギ」、フィジーの「ロボ」と根を同じくしますが、ムームーの特徴はココナッツミルクをふんだんに使うこと、そして高地の根菜類(クンバラと呼ばれるさつまいも、タロイモ、ヤム芋)が主役を張ることです。
ムームー(Mumu)はパプアニューギニアのトクピシン語で「地中の蒸し焼き」を意味する。焼いた石を穴に並べ、バナナの葉で包んだ豚肉・鶏肉・根菜類をココナッツミルクとともに蒸し焼きにする伝統調理法。結婚式、収穫祭、出産祝い、賓客の歓待など、人生の節目に欠かせない共同調理の儀式でもある。パプアニューギニア全土で行われるが、とりわけ高地地方(ハイランド)で盛んで、ケニアのニャマチョマのような炭火の「焼き」とは対照的な、石の遠赤外線と蒸気による「蒸し」の文化圏に属する。

日本語で「ムームー 料理」を検索しても、旅行記に数行触れられている程度で、レシピはほぼ見つかりません。英語圏ではオーストラリアの公共放送SBSのフードチャンネルやパプアニューギニア系フードブロガーが詳細なレシピを公開していますが、その知見は日本に届いていません。この記事では、パプアニューギニアの伝統的な調理法を忠実に紹介しつつ、日本のキッチンでダッチオーブンやオーブンを使って再現する方法も詳しく解説します。
材料(6人分)
メインの肉
| 材料 | 分量 | 代替・備考 |
|---|---|---|
| 豚バラ肉(ブロック) | 800 g | 鶏もも肉600 gでも可 |
| 鶏もも肉(骨付き) | 4 本(約600 g) | 手羽元8 本で代用可 |
| 塩 | 大さじ1.5 | — |
| 黒こしょう | 小さじ1 | — |
根菜類
| 材料 | 分量 | 代替・備考 |
|---|---|---|
| さつまいも | 3 本(約600 g) | クンバラ(PNG産さつまいも)の代替 |
| タロイモ | 300 g | 里芋400 gで代用可 |
| かぼちゃ | 1/4 個(約300 g) | バターナッツかぼちゃ推奨 |
| バナナ(完熟前の硬め) | 2 本 | プランテン推奨、なければ省略可 |
ココナッツミルクと葉物
| 材料 | 分量 | 代替・備考 |
|---|---|---|
| ココナッツミルク | 400 ml(1缶) | ココナッツクリームなら200 ml+水200 ml |
| ほうれん草または小松菜 | 300 g | アマランサスの葉(PNG伝統)の代替 |
| バナナの葉 | 4〜6 枚 | アルミホイルで代用可 |
| にんにく | 4 片(つぶす) | — |
| しょうが | 1 片(薄切り) | — |
タロイモはアジア食材店やハラル食材店で冷凍品が手に入ります(500 g/500〜800円程度)。バナナの葉は業務スーパーやアジア食材店の冷凍売り場で見つかることがあります。プランテン(調理用バナナ)はカルディやアフリカ食材店で取り扱いがあります。見つからない場合は、さつまいもを増量して代替してください。ココナッツミルクはスーパーの缶詰売り場で200〜300円程度で購入できます。

この料理に使う食材・道具


調理手順
バナナの葉を準備する(10分)

肉に下味をつける(15分)

根菜を準備する(15分)

バナナの葉で包む(10分)

蒸し焼きにする(2時間30分〜3時間)

蓋を開けて盛り付ける(5分)

調理のコツ
缶入りのココナッツミルクは上部に固形のクリーム層、下部に水分の層に分離していることがあります。蓋を開ける前によく振ってから開けることで、均一な濃度になり、ムームー全体にまんべんなく行き渡ります。分離したまま注ぐと、上の食材だけが濃厚で下が水っぽくなります。
バナナの葉はただの包装材ではありません。加熱されると葉に含まれるポリフェノールが放出され、食材にほのかな青い草の香りと甘みを加えます。アルミホイルで代用した場合、この風味が完全に失われます。手に入る場合は必ずバナナの葉を使ってください。冷凍品でも効果は十分です。
さつまいもを底に敷くことで、肉から滴る脂とココナッツミルクを吸い込み、「天然のグレイビーソース浸し」状態になります。これがムームーのさつまいもが他のどんな調理法よりも美味しい理由です。パプアニューギニアでは、ムームーのクンバラ(さつまいも)を食べるためにムームーを作る、という人も少なくありません。
蒸し焼き中に蓋を開けて肉をひっくり返したい衝動に駆られますが、耐えてください。密閉空間の蒸気循環を壊すと、調理時間が延び、仕上がりが不均一になります。パプアニューギニアの伝統的なムームーでは、一度土を被せたら3〜4時間は絶対に開けません。この「触らない勇気」がホロホロの仕上がりを生みます。

アレンジ・バリエーション
魚のムームー(沿岸部スタイル)
パプアニューギニアの沿岸部やニューブリテン島では、鯛やマグロなどの白身魚をバナナの葉で包んで蒸す魚のムームーが主流です。切り身600gをライム果汁と塩で味付けし、ココナッツミルクとともにバナナの葉で包んでオーブンで1時間半蒸します。日本では真鯛の切り身やタラが良い代替品です。仕上げにライムを絞ると、南太平洋の海辺の食堂の味になります。ペルーのセビーチェに通じるライム×魚介の組み合わせです。
ベジタリアン・ムームー
肉を省略し、根菜類を増量(さつまいも5本、タロイモ500g、かぼちゃ1/2個)して作ります。ココナッツミルクを1.5缶に増やし、乾燥したレンズ豆100gを加えるとたんぱく質を補えます。パプアニューギニアの高地では、日常の食事は根菜とグリーンだけのムームーで、肉入りは祭りの日の特別版です。インドのキチュリも同様に、豆と穀物だけで栄養を摂る菜食の知恵を持っています。
BBQグリル版(屋外調理)
バーベキューグリルがあれば、伝統に最も近い方法で再現できます。グリルに炭を熾し、大きなアルミトレイにバナナの葉を敷いて食材を重ね、アルミホイルで完全に密封してからグリルの蓋を閉めます。間接熱(炭を左右に寄せ、トレイを中央に置く)で2〜3時間。煙の香りが加わって、伝統的なムームーにぐっと近づきます。
しょうゆ+味噌アレンジ(日本式)
豚バラ肉のマリネに味噌大さじ2+しょうゆ大さじ1+みりん大さじ1を加えると、ココナッツミルクの甘みと味噌の発酵風味が驚くほど合います。日本のさつまいもの甘さとも相性が良く、「和風ムームー」として新しい一品になります。パプアニューギニアの伝統主義者には怒られるかもしれませんが、料理は旅をするものです。

この料理の背景
パプアニューギニアの食文化と「大地の料理」
パプアニューギニアは800以上の言語が話される、世界で最も文化的に多様な国の一つです。しかしムームーだけは、全土で共有される数少ない食の共通言語として機能しています。高地のハーゲン山周辺でも、沿岸部のラバウルでも、首都ポートモレスビーでも、ムームーは「特別な日の食事」を意味します。
Journal of the Polynesian Societyに掲載されたRalph Bulmer氏の民族植物学研究(1964年)は、パプアニューギニアの高地農耕民にとって豚とさつまいもの組み合わせが「社会関係の通貨」として機能していることを示しています。ムームーで豚を振る舞うことは、客人への最高の敬意の表現であり、同時に振る舞う側の社会的地位を示す行為でもあります。
アースオーブンの系譜 — 太平洋を渡った調理法
地面に穴を掘り、焼いた石で食材を蒸すアースオーブンの技法は、太平洋島嶼地域に広く分布しています。ハワイでは「イム(imu)」、ニュージーランドのマオリでは「ハンギ(hangi)」、フィジーでは「ロボ(lovo)」、サモアでは「ウム(umu)」と呼ばれ、考古学的にはオーストロネシア語族の拡散(約5,000年前〜)とともに太平洋全域に広がったと考えられています。
Oceania誌(2003年)のMatthew Spriggs氏による考古学的研究は、メラネシアのアースオーブンの痕跡を約3,500年前まで遡ることができるとし、ムームーが人類最古の調理法の一つの直系子孫であることを示唆しています。日本の縄文時代の「蒸し焼き穴」との類似性も指摘されており、大地の熱で食材を蒸すという発想は、人類が独立に何度も「発明」したユニバーサルな知恵です。
ムームーの社会学 — 共同調理が結ぶ絆
ムームーは一人では作れません。穴を掘る人、石を焼く人、食材を準備する人、葉を切る人、火の番をする人。村の全員が何らかの役割を持ち、数時間にわたる共同作業を経て初めて完成します。この「一緒に作る」プロセスそのものが、ムームーの本質です。
オーストラリアの人類学者Andrew Strathern氏とPamela Stewart氏の研究Remaking the World(2005年)は、ハーゲン山周辺のメルパ族のムームー祭事を詳細に記録しています。それによると、ムームーの準備から食事までの全過程が「関係の再確認と再構築」の場として機能しており、料理の味そのものよりも「誰と一緒に作り、誰と食べたか」が記憶されるといいます。
パプアニューギニアでは豚は「歩く貯金」と呼ばれる。婚資(bride price)の支払い、紛争の解決、同盟関係の締結に豚が使われ、ムームーで振る舞われる豚の数と大きさは、その催事の重要性と主催者の富を示す指標となる。1頭の豚でムームーを開くことは、日本円にして数万円相当の「投資」に等しい。パプアニューギニアの農村部では、この「豚の経済」が現金経済と並行して今も機能している。

合わせて読みたい

ムームーは太平洋の「アースオーブン」文化の一端。アジア・太平洋圏の他の伝統料理もぜひお試しください。
- ナシゴレン(インドネシア) — インドネシアの国民食、チャーハン
- ナシレマ(マレーシア) — ココナッツミルクで炊いたご飯
- レンダン(インドネシア) — ココナッツミルク煮込みの傑作
- アドボ(フィリピン) — 酢と醤油の煮込み料理
アフリカの伝統料理とも比較してみてください。
- ニャマチョマ(ケニア) — 炭火焼きの東アフリカ版
- フフ(ガーナ) — 根菜の練り主食
- マフェ(マリ) — ピーナッツバターのシチュー
よくある質問

バナナの葉なしでも作れますか?
作れます。アルミホイルで食材を二重に包み、ダッチオーブンに入れて同じ温度と時間で調理してください。ただし、バナナの葉が与える独特の青い香りと甘みは再現できません。味の70%は再現できますが、残り30%のバナナの葉の風味は「ムームーがムームーである理由」の重要な部分です。冷凍バナナの葉はオンラインで500円程度で購入できるので、初めて作る方には葉の使用を強くおすすめします。
伝統的な方法(地面に穴を掘る)で作るにはどうすればよいですか?
庭がある方は挑戦できます。30cm四方、深さ40cmの穴を掘り、河原の石(絶対に濡れた石は使わない。爆発の危険あり)を並べ、2時間以上薪で焼きます。石が白くなったら灰を除き、バナナの葉を敷いて食材を重ね、さらにバナナの葉と湿った布で覆い、最後に土をかぶせて3〜4時間待ちます。安全面で石の選別が最も重要で、水を含んだ石は加熱で爆発するため、1週間以上乾燥させた川石を使ってください。
残ったムームーの保存方法は?
冷蔵保存で3日間、冷凍保存で1ヶ月程度持ちます。温め直しは電子レンジよりも、鍋に移してココナッツミルク大さじ2を加え、弱火でゆっくり温め直す方が風味が復活します。パプアニューギニアでは、残ったムームーの肉と根菜を翌朝フライパンで炒め直す「ムームー・フライアップ」が定番の朝食です。
ムームーに合う飲み物は?
パプアニューギニアはコーヒー生産国で、高地産の「シグリ」ブランドは世界的に評価の高いスペシャルティコーヒーです。食後にパプアニューギニア産コーヒーを合わせるのが最もオーセンティック。食事中はココナッツウォーターが伝統的ですが、日本のビールなら麦の風味が濃いエビスビールやよなよなエールが、ココナッツミルクの甘みと豚肉の旨みによく合います。
栄養成分(6人分のうち1食分)

ムームーはココナッツミルクの脂質とさつまいもの炭水化物が豊富な、エネルギー密度の高い料理です。高地の農作業で消耗するカロリーを効率的に補給する食事として合理的な栄養バランスを備えています。ナシレマと同様にココナッツミルクが主要な脂質源で、中鎖脂肪酸の摂取に適しています。
| 栄養素 | 含有量 |
|---|---|
| エネルギー | 520kcal |
| たんぱく質 | 32g |
| 脂質 | 24g |
| 炭水化物 | 48g |
| 食物繊維 | 6g |
| ナトリウム | 620mg |
| カリウム | 890mg |
| ビタミンC | 35mg |
参考文献

- Sullivan, N. (2007). Papua New Guinea: A Cultural and Historical Encyclopedia. Santa Barbara: ABC-CLIO.
- Bulmer, R. (1964). "Pigs and pigmen in the New Guinea Highlands." Journal of the Polynesian Society, 73(2), 195-220.
- Spriggs, M. (2003). "Chronology of the Neolithic transition in Island Southeast Asia and the Western Pacific." Oceania, 73(3), 145-160.
- Strathern, A. & Stewart, P. (2005). Remaking the World: Myth, Mining, and Ritual Change among the Duna of Papua New Guinea. Washington, DC: Smithsonian Institution.
以下は現地のレシピを公開しているオンライン情報源です。
- Kirikilik, M. (2024). "Mumu recipe." SBS Food, Sydney.



