中華鍋に濃いココナッツミルクを入れて温め、混ぜていると、表面がつやつやしてきます。そこへ深い赤色のパネーンペーストを入れて炒めると、鍋の中の液体はスープではなく、次に入れる具をくるむソースに変わっていきます。このレシピで入れるのは薄切りの牛肉。仕上げに取り分けておいたココナッツミルクを少したらし、ごく細く刻んだこぶみかんの葉と赤唐辛子の小口切りを散らします。濃くて甘じょっぱいソースと、鋭くて爽やかな葉の香り。この対比がパネーンカレーです。
牛肉にからむ濃いソースと、柑橘の香り
この鍋に残したいのは次の6つです。薄切り牛肉をおおうくらいに濃いソース、炒めたパネーンペーストの香り、ココナッツのこく、魚醤の塩けとうま味、こぶみかんの葉の青い柑橘の香り、そしてそれらをまとめる甘み。
料理名はタイ語で พะแนง と書き、英語ではPanang、Phanaeng、Phanangなどと表記されます。どれも同じタイのカレーを指すので、ペーストや資料を探すときは綴りを変えて検索すると見つかりやすくなります。タイ政府広報局(Government Public Relations Department)は、ココナッツミルク、唐辛子、こぶみかんの葉で作る、とろみのあるソースの肉カレーで、甘みと塩けのある味だと説明しています。
この記事のレシピは、チェンマイ・クッキングスクール(Chiang Mai Cookery School)のSompon Nabnianさんと Elizabeth Nabnianさんの名前で紹介されている牛肉のパネーンを、そのまま一つ採用したものです。分量、手順の順序、示されている二つの加熱時間は原文のとおりにしました。火力の加減のように原文が判断に任せている部分は、数字を作らず、そう断って書いています。
パネーン、マッサマン、グリーンカレー ― 辛さの順ではなく、鍋の中心が違う
タイのカレーは辛さの順に並べて語られがちですが、この3つは辛さよりも、何を中心に組み立てるかが違います。
| カレー | 中心になるもの | 覚えておきたいこと |
|---|---|---|
| パネーン(このレシピ) | 薄切りの牛肉、パネーンペースト、濃いココナッツミルク、こぶみかんの葉 | ソースを肉にからむまで詰め、仕上げに葉と唐辛子を添える |
| マッサマン | 温かみのある香辛料と甘みが前に出る | ペーストも性格も別物で、パネーンの代わりにはならない |
| グリーンカレー | 緑のペーストと青いハーブの香り、野菜 | 同じペーストを使うカレーの仲間だが、より軽く、ハーブが主役の仕上がり |
市販のペーストは、塩分、辛さ、原材料が商品ごとに違います。どれか一つの瓶を「本物の味」と決めることはできません。ラベルを見て選ぶ。次の材料の節は、そこから始まります。
途中で見つける、味の決め手
選び方と代用の考え方
牛肉とバジルは手に入りやすい材料です。買い出しの手間をかけたいのは、パネーンペースト、こぶみかんの葉、タイの魚醤、濃いココナッツミルクの4つで、この料理の輪郭はここで決まります。アジア食材店や通販で、一般名のまま探してください。
魚醤は魚から作られ、パネーンペーストにはえび(シュリンプペースト)などの魚介が入っている商品が少なくありません。買った商品のラベルを確認してください。ピーナッツはこのレシピでは任意ですが、市販ペーストに落花生が含まれることがあるので、トッピングを省く場合も原材料表示を読みます。ココナッツミルクは乳製品ではありませんが、缶入りのココナッツミルクやペーストなど加工品は、乳などのアレルゲンや同じ工場での製造に関する表示を確かめてください。
- パネーンペーストとレッドカレーペースト: レッドカレーペーストは同じものではありません。カレーにはなりますが、香り、塩けと辛さが変わり、仕上がりはパネーンとは言いきれなくなります。
- ココナッツミルク: 缶入りを使うなら、缶はなるべく振らないでください。上に濃い層がたまっていたら、最初に温める分に入れて使えます。商品によって、こう分かれるとは限りません。
- パームシュガー: 見つからなければ精製度の低いきび砂糖を使い、少しずつ足します。甘みは出ますが、香りとこくは違います。
- こぶみかんの葉: 乾燥葉は生より香りが弱く、食感も違います。
- スイートバジルとタイバジル: タイバジルでも作れますが、仕上げの香りが変わります。
- 赤唐辛子: 大きめの赤唐辛子を選びます。種を除くと辛さを抑えられます。
- ピーナッツ: 細かくひけばソースに溶け、粗いままなら歯ごたえになります。どちらもアレルゲンです。
- 牛すね肉: すね肉は長く煮る別の火入れが必要です。この薄切りのレシピにそのまま置き換えないでください。
道具
- 中華鍋、または底の広い鍋
- 木べら
- 生の牛肉用の包丁とまな板(飾りや盛り付けに使うものとは分ける)
- 取り分けた30mlのココナッツミルク用の小さな容器と、2回目の235ml用の容器
- 食品用温度計(あれば。牛肉の中心を測るため)
どれも普通の台所道具で足ります。この料理のために特別な道具を買う必要はありません。
濃さを保つコツと、鍋の中での立て直し
| 起きること | 考えられる原因 | 対応 |
|---|---|---|
| ペーストが鍋底に貼りつく | 液体の量に対して火が強い | 火を弱め、2回目のココナッツミルクを少し回し入れてほぐす。水は味を薄めるので避ける |
| 油が分かれない | ココナッツ製品は加工や脂肪分が違う | 分離だけが成功の目印ではない。焦げずに、ペーストの香りが立っていれば次へ進む |
| しょっぱすぎる | 魚醤を一度に入れた。ペーストの塩けが強い | 魚醤は30mlから入れて味を見る。ペーストの塩けも確かめ、45mlを自動的に入れない |
| 牛肉が硬い | 煮込み向けの部位を使った。理由なく長く加熱した | 柔らかい部位を薄切りにして使う。ただし中心まで火が通っていなければ、速さよりも安全を優先して加熱を続ける |
バンコクの Supanniga Eating Room で、MICHELIN Guide の取材に応えたシェフは、ペーストと魚醤の香りをいちばん大切にしています。その方法では、弱火でペーストを炒めながら、ココナッツクリームを少しずつ加え、油が分かれ始めるまで続けます。ここで使っているレシピとは別の配合で、分量も違いますが、向かう方向は同じです。高い火力よりも、ペーストに対する辛抱が大切だということです。
生の牛肉に使った道具は、そのまま食べるものには使わず、分けてください。牛肉は中心が75°Cで1分以上になるまで加熱します。この記事は、ひき肉を使う作り方には触れていません。
食べ方と、冷ましかた・温め直し
土台はジャスミンライスです。原典には、ロティや塩卵などの食べ方も挙げられています。主食を変えるとソースの受け止め方が変わるので、やわらかい平パンと白いごはんでは、少し違う食事になります。
この記事では、パネーンカレーの保存期間は示しません。残りを保存する場合は、一般的な家庭の食品衛生に従ってください。浅い容器に小分けして早く冷まし、室温に長く置かないようにして、温め直すときは75°C以上までしっかり加熱します。これは一般的な目安で、この料理について確かめた保存期限ではありません。
試してみたいアレンジ
- 辛さを控える: ペーストを減らせば辛さは下がりますが、香りと塩けも下がります。ソース全体が薄くなるので、単なる辛さの調整ではありません。
- 牛肉の代わりに豚肉: 原典のページは、パネーンに牛肉または豚肉を挙げています。ペーストの量と塩けは調整し直す必要があります。
- 鶏肉: パネーンペーストを鶏肉にどれだけ強くからめるかは、資料によって助言が異なります。このレシピは鶏肉を扱いません。別の料理として、それに合った火入れで考えてください。
- ピーナッツのトッピング: 原典では任意です。香ばしさと食感が加わる一方で、アレルゲンが増えます。
- ロティかジャスミンライスか: どちらも選べます。ソースをどう食べたいかで決めてください。
名前と記録、そして説 ― 言えることと言えないこと
タイ政府広報局は、パネーン(phanaeng)をタイの料理として紹介し、牛肉、鶏肉、豚肉、鴨肉など、さまざまな肉で作られると述べています。ここでは、どれか一つの県の家庭料理とは結びつけられていません。タイの食文化はタイのページにもまとめています。
同じ政府広報の記事は、1890年の料理書にすでに「Panang」と書かれた鶏肉の料理が載っていた、と述べています。これは政府広報の説明であり、1890年の料理書そのものは、ここでは確認していません。名前については、ペナン(Pulau Pinang)に結びつける説や、マレー語で「焼く」を意味する panggang に結びつける説も紹介されています。ムスリムの料理の影響があるという、料理記者の見方も載っています。これらは説や意見として紹介されたもので、パネーンの起源と語源は定まっていません。
もう少し広い視野を与えてくれるのが、タイのカレーペーストについての研究です。Dusit Thani College Journal に2018年に載った質的研究は、タイ中部での聞き取りと観察に基づき、カレーペーストの材料と香りが、土地、交易、時代とともに多様になっていった様子を述べています。レモングラスやこぶみかんの葉が伝統的なペーストに使われることにも触れています。パネーンの起源を扱った研究ではありませんが、葉とペーストがなぜこれほど風味を左右するのかを考える手がかりになります。
ここで使った牛肉のレシピは、Temple of Thai のサイトに、Sompon Nabnianさんと Elizabeth Nabnianさん(チェンマイ・クッキングスクール)の名前で載っています。同サイトでは、二人の料理書 Passion for Thai Cooking から手を加えたものと説明されています。
よくある質問
ピーナッツは必須ですか?
必須ではありません。このレシピでは、焙煎ピーナッツをひいたものは任意のトッピングです。市販のパネーンペーストには落花生を含むものがあるので、避けたい場合はラベルを確認してください。
レッドカレーペーストで代用できますか?
カレーにはなりますが、パネーンペーストではないので、香り、塩けと辛さが違ってきます。可能なら、レシピの意図どおり、自家製か市販のパネーンペーストを使ってください。
こぶみかんの葉が見つからないときは?
柑橘の香りは、この料理の柱の一つです。省いたり、別の柑橘で代えたりしても、同じ味にはなりません。乾燥葉は選択肢になりますが、香りは弱く、食感も違います。
牛すね肉で作れますか?
このレシピにそのまま置き換えることはできません。MICHELIN Guide の記事は、牛すね肉を別の分量と手順で使っています。このレシピは、すぐ火が通る薄切り肉を前提にしています。
マッサマンカレーとの違いは?
マッサマンは温かみのある香辛料と甘みが前に出ます。このパネーンは、牛肉、パネーンペースト、濃いココナッツミルク、こぶみかんの葉の香りが中心です。上の比較表を見てください。どちらの料理も、起源を一つの単純な物語にまとめることはできません。













