深い陶器の鍋の底に大きく切った肉を敷き、その上にキャベツ、じゃがいも、にんじん、トマト、ピーマンを、かき混ぜずに次々と重ねていく。最後に少しの水を注いで、ふたをしたら、あとは3時間、決してふたを開けません。ボスニア・ヘルツェゴビナのボサンスキ・ロナツ(bosanski lonac)、「ボスニアの鍋」と呼ばれるこの料理は、重ねて、ふたをして、待つだけの煮込みです。
肉は炒めず、野菜も下ゆでしません。肉から出る脂とうまみが、上に重ねた野菜にしみ込み、野菜の水分が肉をやわらかく煮ていく。手間がかからないぶん、大きく切ることと、混ぜないことの2つだけは守ってください。
鉱夫が朝に仕込み、昼に食べた鍋

ボサンスキ・ロナツは、ボスニア・ヘルツェゴビナの国民食として知られる料理です。ロナツ(lonac)は「鍋」のことで、もともと煮込むのに使っていた陶器や土の鍋を指します。昔は陶器の鍋に材料を重ねて、炉の火や地面に掘った穴で煮込んでいました。今は炉のある家が少なくなり、ふつうの鍋をコンロにかけて作る家庭がほとんどです。
由来としてよく語られるのは、中世のボスニアの鉱夫たちの話です。ボスニアの料理を紹介するBalkan Lunch Boxによれば、鉱夫たちはそれぞれ家にある材料を持ち寄って土の鍋に重ね、火をおこして、働いているあいだ煮込んでおいたといいます。そして1日に1度だけの休憩のときに、ちょうど煮えた鍋を囲んだ。料理の成り立ちを伝える話として、今もボスニアでよく紹介されています。
ボサンスキ・ロナツは、貧しい農民の家でも裕福な貴族の家でも、何百年も食べられてきました。裕福な家では肉や高価な材料をたっぷり使い、貧しい家では手元にあるものを入れた、といわれます。何でも受け止める鍋であることから、さまざまな民族と文化が重なり合うボスニアという国そのものにたとえられることもあります。
決まった配合はなく、家庭や地域によって入れる野菜も肉も変わります。肉は牛肉とラム肉が今ではいちばん一般的ですが、昔はあらゆる肉が使われていました。野菜はキャベツ、じゃがいも、にんじん、トマトに、いんげん、グリーンピース、ピーマン、オクラ、なす、ズッキーニなど。季節の野菜を重ねていくのも、この鍋の楽しみ方です。
途中で見つける、味の決め手
パンとピクルスを添えて

ボサンスキ・ロナツは、温かいうちにパンを添えて食べます。ボスニアでは、ポガチャ(pogača)と呼ばれる丸いパンや、野菜を酢漬けにしたトゥルシヤ(turšija)、キャベツの漬物がよく合わせられます。酸っぱい漬物が、肉と野菜の甘い煮汁の重さをすっきりさせてくれます。日本の台所なら、カンパーニュのような丸いパンと、きゅうりやキャベツのピクルスを用意すれば、ボスニアの食卓に近づきます。
同じバルカン半島の煮込みなら、セルビアのムチカリツァは、焼いた肉をパプリカやトマトと煮込む料理です。ボスニアの軽食なら、薄い生地に肉を巻いて焼くブレクもぜひ作ってみてください。
よくある質問

肉を先に焼いたほうがおいしくなりませんか?
最近は肉を先に焼くレシピもありますが、昔ながらの作り方では肉を焼かずに重ね、肉から出る汁を煮汁にします。焼き色をつけると香ばしさは増しますが、すっきりとした煮汁にしたいなら、焼かずにそのまま重ねてください。
鶏肉やソーセージで作ってもよいですか?
作れないことはありませんが、Balkan Lunch Boxは、鶏肉や燻製肉、加工肉は避けるようにすすめています。長く煮込む料理なので、脂とすじのある牛肉やラム肉のほうが向いています。
圧力鍋で作れますか?
作れます。重ねる手順は同じで、加圧時間は圧力鍋の取扱説明書の煮込み料理の目安に従ってください。ふたを開けたら、肉のやわらかさを確かめます。
キャベツを入れなくてもよいですか?
入れなくても作れます。ボスニアにはキャベツを主役にした別の煮込みもあるため、ボサンスキ・ロナツにはキャベツを入れない人もいます。その場合は、いんげんやなすなど、ほかの野菜を増やしてください。












