日が暮れて窓の外が暗くなると、ウクライナの家々では聖夜の夕食、スヴャタ・ヴェチェリャ(Свята вечеря)が始まります。テーブルの真ん中に置かれるのは、ゆでた小麦の粒に、黒っぽいけしの実とはちみつ、くるみを混ぜた鉢。これがクチャ(кутя、kutia)です。聖夜の食卓でいちばん大切な一皿として、どの家のテーブルにも欠かさず置かれます。
作り方は、小麦をひと晩水に浸してやわらかくゆで、熱湯に浸したけしの実をすり鉢ですって、はちみつと混ぜるだけ。日本では小麦の粒とけしの実を通販でそろえる必要がありますが、手順そのものは難しくありません。時間がかかるのは、小麦をひと晩浸すところだけです。
聖夜の12皿の中心に、クチャがある

ウクライナのクリスマスイブの夕食は、12の料理を並べるのが習わしです。オーストラリアのウクライナ系書店Sova Booksの紹介によれば、この12皿には肉も動物性の食品も使いません。そのなかで欠かせないのが、甘い2皿。小麦とけしの実のクチャと、干した果物を煮出した飲み物ウズヴァル(узвар)です。クチャは女主人、ウズヴァルは主人。ウクライナの通信社UNIANの記事では、2つの料理の関係がそう表現されています。
聖夜には、クチャを親しい人の家へ届ける習慣もあります。家族はクチャやパンを持って、名付け親や祖父母、親戚の家を訪ね、「こんばんは、聖なる夜です。父さんと母さんが夕食を届けに来ました」とあいさつします。迎えた家は、届けてくれた人にお菓子や果物、お金を渡してねぎらい、名付け子には贈り物を用意します。クチャは食べるだけでなく、届けるものでもあるのです。
ウクライナのクリスマスは、長く旧暦(ユリウス暦)の1月7日に祝われ、聖夜の夕食も1月6日の夜でした。2023年7月、ゼレンスキー大統領が署名した法律で、国の祝日としてのクリスマスは12月25日に移されました。ウクライナ正教会も新しい暦への切り替えを発表しています。今は12月24日の夜にこの夕食を囲む家庭がある一方で、従来どおり1月6日に祝う人もいます。
材料は、小麦、けしの実、はちみつ、くるみ。どれも畑と森から得られるもので、肉も乳製品も使わない聖夜の食卓によく合います。干しぶどうや干した果物を加える家もあり、地域や家庭によって細かな作り方は違いますが、小麦とけしの実とはちみつという組み合わせは、どこでも変わりません。残ったクチャは、翌朝に温め直して朝食にすることもあります。
途中で見つける、味の決め手
ウズヴァルと一緒に、聖夜の食卓へ

クチャは、大きな鉢に盛って食卓の中心に置くと、聖夜の雰囲気が出ます。食べるときは小皿に取り分け、ウズヴァルを少し回しかけます。残ったウズヴァルは、グラスに注いで飲み物として添えてください。干しりんごと干し梨のやさしい甘さが、けしの実の香ばしさによく合います。
クチャはお粥のようでいて、甘いデザートのようでもあります。日本の感覚に近いのは、甘い豆や雑穀のおはぎに似た、素朴な穀物の甘さでしょうか。冷やしても、常温でも食べられます。ウクライナの家庭料理なら、赤いビーツのスープボルシチも一緒に知っておくと、食卓の広がりが見えてきます。
肉を使わない料理が並ぶ聖夜の食卓を思い浮かべながら、きのこやじゃがいもを包むポーランドのギョーザピエロギと食べ比べてみるのも、東欧の冬の台所を知る手がかりになります。
よくある質問

小麦を浸さずにゆでてもよいですか?
やわらかい品種や精白した小麦なら、浸さずにそのままゆでても作れます。かたい品種の小麦は、浸さないとゆで時間がかなり長くなるので、ひと晩浸すほうが確実です。
白いけしの実でも作れますか?
作れます。色は灰色にならず、白っぽい仕上がりになりますが、香ばしさとはちみつの甘さは十分に出ます。
作り置きはできますか?
ふた付きの容器に入れて冷蔵し、早めに食べきってください。冷えると小麦がかたくなるので、食べる前に室温に戻すか、ウズヴァルを少し多めにかけてしっとりさせます。
甘さを控えたいときは?
砂糖を半量に減らし、はちみつだけで甘みをつけてください。干しぶどうを加えると、砂糖を減らしても甘みと酸味が補えます。














