秋の終わり、クロアチア東部の平原スラヴォニアの村では、広場に大きな鉄の鍋がいくつも吊るされ、薪の火が焚かれます。鍋の中で煮えているのは、牛と豚の肉を玉ねぎと真っ赤なパプリカで煮込んだスープのような煮込み、チョバナツ(čobanac)。木べらで鍋をかき回す人のまわりに、パンを手にした人たちが集まってきます。羊飼いの名前を持つパプリカの鍋は、スラヴォニアを代表する料理です。
家庭の台所でも、作り方はほとんど変わりません。深い鍋に玉ねぎと肉、水を入れて火にかけ、硬い肉から順に入れて、最後にパプリカで真っ赤に染める。肉を炒めることもなく、2時間半ほど煮込むだけの、拍子抜けするほど素朴な料理です。
羊飼いの鍋が、スラヴォニアの祭りの料理になった

チョバナツという名前は、南スラヴ語で「羊飼い」を意味するチョバン(čoban)から来ています。パスティラツ(pastirac)という別名も、同じく羊飼い(pastir)から取られたものです。家畜の番をしながら、手元にある肉と玉ねぎを鍋に入れて火にかけておく。羊飼いや農村で働く人たちが、そうして作ってきた簡素な煮込みが、この料理の始まりだといわれます。
スラヴォニアは、ドナウ川とサヴァ川、ドラヴァ川に囲まれた、クロアチアでいちばん東にある平らな地方です。アドリア海沿岸の魚とオリーブオイルの料理とはまったく違い、豚肉の加工品やパプリカを使った煮込みが食卓の中心にあります。隣のハンガリーと同じく、パプリカがなければ始まらない台所です。チョバナツの赤い色と香りも、たっぷり入れるパプリカから生まれます。
チョバナツは、今でもスラヴォニアの地域の食の祭りや市、屋外で大鍋料理を作る催しで盛んに作られています。屋外の火にかけた大鍋で煮るのが昔ながらのやり方で、村の人たちが集まる場には欠かせない料理です。冬の料理としても親しまれています。
昔から、チョバナツには何種類もの肉を合わせて煮るのが基本です。牛肉と豚肉を軸に、羊肉や、狩りで獲れたシカやイノシシなどのジビエを入れることもあります。家庭や村ごとに配合は違い、どの肉を何割入れるかに、それぞれの家の好みが出ます。いろいろな肉を一つの鍋で煮ることで、それぞれの肉のうまみが重なったスープになります。
途中で見つける、味の決め手
パンを浸して、大鍋のまわりで

チョバナツは深皿にたっぷり盛り、厚く切ったパンを添えて出します。スープというには具が多く、煮込みというには汁気が多いので、パンを浸しながら食べるのがいちばんです。アメリカの料理誌Milk Streetは、マッシュポテトや皮のかたいパンを添える食べ方も紹介しています。日本の台所なら、カンパーニュのような皮のかたいパンがよく合います。
小麦粉と卵で作る小さな団子を、仕上げの10分前に鍋へ落とす作り方もあります。クロアチアの料理動画サイトFini Receptiのレシピでは、ふるった小麦粉に溶き卵と塩、水を混ぜた生地を、スプーンで少しずつ鍋に落として10分煮ています。団子を入れると、一皿でおなかが満たされるごちそうになります。
同じパプリカの煮込みでも、国境の向こうのハンガリーでは、鶏肉をサワークリームで仕上げるチルケパプリカーシュや、牛肉のグヤーシュになります。クロアチアの同じ地方の料理とは思えないほど違うのが、アドリア海沿岸の煮込みパシュティツァーダです。
よくある質問

豚足がなくても作れますか?
作れます。豚足はスープにとろみとコクを加える役目なので、なければ豚肩肉を200gほど増やしてください。スープはややさらりとした仕上がりになります。
辛くない味にできますか?
辛口パプリカを入れず、甘口パプリカだけで作れば、辛みはほとんどありません。子どもと一緒に食べるときは、辛口パプリカや一味唐辛子を大人の皿にだけ加える方法もあります。
作り置きはできますか?
ひと晩おいたほうが味がなじむので、作り置きに向いています。粗熱を取ってからふた付きの容器に移して冷蔵庫に入れ、早めに食べきってください。温め直すときは、全体が十分に熱くなるまで加熱します。
牛肉だけで作ってもよいですか?
作れます。アメリカのMilk Streetのレシピは、牛の肩ロースだけで作るアレンジを紹介しています。ただし、何種類もの肉を合わせるのがスラヴォニアの家庭の作り方なので、できれば豚肉も一緒に煮てみてください。











