日曜日の朝、チェコの家の台所からイーストと焼けたバターの香りが流れてきます。天板に並んでいるのは、手のひらほどの丸い菓子パン。ふっくらとした縁の内側に、黒々としたけしの実のフィリングがたっぷり詰まり、表面には白いそぼろが散らしてあります。チェコの人が家族の味として焼き続けてきたお菓子、コラーチェ(koláče、単数形はkoláč)です。
フィリングには甘いチーズや、すももの濃いジャムもよく使われますが、いちばん好まれるもののひとつがけしの実です。日本ではあんパンのけしの実のように飾りとして見かけるくらいですが、チェコではけしの実を粉にひいて、牛乳と砂糖で煮たペーストにして使います。日本で作るときの山場は、このけしの実のひき方と、生地の真ん中に深いくぼみを作ってフィリングを受け止める成形の2つです。
日曜日と結婚式と、村の祭りの菓子

チェコの国際放送ラジオ・プラハによると、チェコではほとんどどの家にも代々のコラーチェのレシピがあり、日曜日や結婚式、毎年の村の祭りの日に焼かれてきました。とくに結婚式には欠かせないもので、デザートとして出されるだけでなく、招待客が持ち帰るおみやげにもなります。国外に暮らすチェコ系の人々も、故郷の味としてコラーチェを焼き、家ごとのレシピを持ち寄って比べる集まりを開くことがあるそうです。
チェコ料理のレシピを英語で紹介するサイトCook Like Czechsのペトラ・クプスカーは、けしの実のコラーチェを、収穫祭(ドジンキ)や教会の祭り(ホディ)、謝肉祭(マソプスト)といった季節の祝いでよく出されるお菓子として紹介しています。チェコのコラーチェは丸く平たい形で、四角いものはありません。手のひらほどの小さなものが基本で、真ん中にフィリングをたっぷりとのせます。
ラジオ・プラハによると、結婚式のコラーチェのフィリングにはそれぞれ願いが込められています。チョコレートのクリームは豊かさ、桃のジャムは幸せ、いちごは愛、甘いチーズは健やかさ、そしてけしの実は子宝の願いです。
ボヘミア南西部のホツコ(Chodsko)地方は、とりわけコラーチェで知られる土地です。ラジオ・プラハは、この地方のコラーチェが、民族衣装の刺繍を思わせる花やハートの模様で飾られていると紹介しています。地元の祭りの前にはパン屋がフル稼働になり、ある店は3日間で約1万1000個を焼くといいます。その店の主人は「100個のコラーチェの中に、同じものは2つとない」と話しています。飾り付けをする職人には、それぞれの手の癖が出るからです。
途中で見つける、味の決め手
甘いチーズとすもものジャムも

けしの実のほかに、チェコでよく使われるフィリングが2つあります。ひとつは、トヴァロフ(tvaroh)と呼ばれる酸味のある白いフレッシュチーズを甘くしたもの。もうひとつは、すももを長時間煮詰めた濃いジャム、ポヴィドラ(povidla)です。クプスカーは、甘いチーズとポヴィドラの組み合わせがいちばん好きだと書いています。ラジオ・プラハが紹介するホツコ地方のコラーチェも、甘いチーズ、けしの実、すもものジャム、レーズンとアーモンドといったフィリングで作られています。
日本では、トヴァロフの代わりに裏ごしタイプのカッテージチーズ、ポヴィドラの代わりにプルーンのジャムを使うと近い味になります。1回の生地で、けしの実、チーズ、ジャムの3種類を4個ずつ焼き分ければ、ひと皿でチェコの定番が食べ比べできます。
チェコのコラーチェにはほかにも地方ごとの形があり、ホツコ地方には直径25〜30cmほどもある大きな平たいコラーチェもあり、甘いチーズの上にすもものジャムを模様のように絞り、レーズンやアーモンドを散らして仕上げます。
焼いた日のうちに、コーヒーと

コラーチェは焼いたその日がいちばんおいしいお菓子です。網の上で粗熱が取れたら、大皿に盛ってコーヒーや紅茶と一緒に出します。ふんわりとした生地の甘さに、けしの実のぷちぷちとした食感と、レモンの皮のさわやかな香りが重なります。
日曜日の午後のお茶の時間にも、来客のもてなしにも合います。チェコの家庭の料理をもう一品作るなら、牛肉を根菜と煮てクリームソースで食べる国民食スヴィチコヴァーのあとのデザートにすると、チェコの日曜日の食卓がひと通りそろいます。
よくある質問

けしの実をひかずに使えますか?
ひかずに煮ると、フィリングがまとまらず、粒が口に残ります。スパイスミルやコーヒーミルで少量ずつ、砂のような細かさにひいてから使ってください。
フィリングが焼いている間に流れ出してしまいます。
フィリングがゆるいか、くぼみが浅いことが原因です。フィリングを少し長く煮詰めて固めにし、くぼみは中央の生地が薄くなるまで深く押してください。
生地がなかなかふくらみません。
部屋が寒いと発酵に時間がかかります。オーブンの発酵機能(30〜35℃)を使うか、温かい場所で、2倍にふくらむまで時間を延ばしてください。牛乳が熱すぎるとイーストが弱るので、温度にも気をつけます。
どのくらい日持ちしますか?
Cook Like Czechsでは、冷ましたコラーチェを袋に入れて室温で約3日、冷蔵ならさらに2〜3日もつとしています。冷凍する場合は完全に冷ましてから密閉容器に入れ、食べるときは室温で半日ほどかけてゆっくり戻します。
フィリングは前日に作れますか?
作れます。冷ましてから密閉して冷蔵庫に入れ、使う前に室温に戻してください。冷たいままのせると、生地の発酵が止まりやすくなります。












