切り分けた断面に、三つの層が重なる
きのこ層は完全に乾くまで炒めること、牛肉は冷ましてから包むこと、パイは冷たいままオーブンに入れること。この3点です。層に水分や熱が残ると、パイや包みに不具合が出やすくなります。
黄金色のパイ包みが丸ごと食卓に運ばれてきて、最初の一切れに全員の目が集まります。ナイフがさくさくと崩れるパイを通り抜けると、断面には牛フィレを囲むように、細かく刻んだ濃い色のきのこと薄い生ハムの輪が現れます。砕けるパイ、ぎゅっと旨みの詰まったきのこの帯、やわらかい牛肉。層ごとに食感が違うのが、この料理の見せ場です。
ビーフ・ウェリントンは、一般に牛フィレを細かく刻んだきのこの層とパイ生地で包んだ料理と説明されます。客を迎える日やお祝いの主菜として読まれる一皿で、高価な材料に、家庭で作るときの現実的な難所が二つ重なる料理でもあります。ひとつは、パイの底をべたつかせないようにきのこの水分を抜くこと。もうひとつは、中が見えない包みの中で牛肉にどこまで火が入ったかを判断することです。
このレシピは、BBC Good Foodに載っている6人分の家庭向けの作り方に沿っています。牛肉を先にオーブンでローストして冷まし、デュクセルと生ハムで包み、さらにパイ生地で包んで2度目の焼成をします。作業を段階に分けるから家庭でも組み立てやすく、パイを焼く段階の時間も、この一連の流れの中で初めて意味を持ちます。
途中で見つける、味の決め手
選び方と代用
牛フィレは、フィレの中心部で端から端まで太さがほぼ揃った塊を選びます。細い端の肉を太い塊に縛り付けると火の通りがばらつくためです。一般的なスーパーでは形が合わないこともあるので、精肉店に「ロースト用の牛フィレの中心部、約1kgの塊」と頼むのがよい方法です。
きのこは茶色のチェストナットマッシュルームが第一候補です。白いマッシュルームでも作れますが、香りは穏やかになります。
生ハムは、ほかの薄切りの生ハム類でも代用できます。塩気が強いものなら、牛肉にふる塩を減らしてください。目的は、きのことパイの間に薄く均一な層をつくることです。
パイ生地は冷蔵庫で解凍し、製品の表示に従います。バターだけで作った生地と植物油脂で作った生地では、香りも層の立ち方も違います。原材料表示も確かめておくと安心です。
バターが有塩しかないときは、仕上げの塩で調整します。タイムを乾燥品にする場合は、ごく少量から加減してください。ここには決まった換算量はありません。ワインを使わないなら、無塩のビーフストックを少しずつ加える方法がありますが、香りと酸味は変わります。
道具
- オーブン
- 浅い天板(ロースト用)
- 天板(焼成用)
- 焼いた牛肉をのせる清潔な皿
- 幅広のフライパン
- 木べらまたはヘラ
- よく切れる包丁とまな板(またはパルス運転する小型フードプロセッサー)
- ラップ
- めん棒
- 刷毛
- 食品用温度計
- 切り分け用の波刃でない包丁
食品用温度計は、焼き色だけでなく中心の温度で焼き加減を確かめるために使います。ラップは、生ハムときのこと牛肉を筒状に締めるときに働きます。
うまくいかないときは、水分と温度を分けて見る
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| パイの底が湿る | デュクセルの煮詰め不足。牛肉やきのこが温かい。包む前の冷却不足 | この順に点検する。ヘラの跡が残るまで煮詰め、どちらも完全に冷まし、各段階の間で冷やす |
| パイの層が立たない | 生地が温まった | 成形後に冷やし、十分に予熱したオーブンに入れる。生地の製品表示にも従う |
| 切ると崩れる | 包みが緩い、継ぎ目が厚い、休ませていない | 次回はラップで筒状にしっかり締め、継ぎ目を薄くし、切る前に休ませる |
| 牛肉が狙いより火が入った | 時間だけで焼き上がりを決めた | 中心温度を測る。低い仕上がりが安全基準と同じではないことも忘れない |
| きのこがペーストになった | フードプロセッサーを回しっぱなしにした | 短いパルスで、粒が見えるうちに止める |
水分の問題は包みの底に表れ、温度の問題はパイの層と牛肉に表れます。水分と温度を別々に考えると、次にどの段階を変えればよいかが見えやすくなります。中心にもう少し熱を入れたいときも、確認しないまま包み全体を長く戻さず、温度計を使って牛肉を焼きすぎないようにします。
知っておきたい変化形
牛肉、きのこ、パイの三つは変わりませんが、その周りの層は作り手によって違います。
- クレープを挟む型。 きのこ層とパイの間に薄いクレープを置くと、水分の障壁がもう一枚増えます。そのぶん工程が増え、小麦、卵、乳も増えます。
- 鶏レバーパテを足す型。 きのこにパテを合わせるレストランや料理家もいます。風味は濃くなりますが、材料が手に入りにくく、好みも分かれます。
- ポルチーニを加える型。 戻した乾燥ポルチーニを少量加え、香りを強めるレシピがあります。戻し汁は砂を避けて漉し、それでもデュクセルは完全に乾くまで炒めます。
- ワインを替える型。 辛口白ワインをマデイラなどに替える例が、複数のレシピにあります。甘みと香りが変わるので、煮詰め具合を調整します。
- ビーツのウェリントン。 牛肉を使わない派生料理です。このレシピの一種ではなく、別の料理として扱ってください。
公爵の物語から少し離れて、記録を見る

いちばん知られた話は、ウェリントン公爵の好物だったので、この名が付いたというものです。ところがNational Geographic Traveller(英国版)は、これには確かな証拠がないと指摘しています。1839年に公爵のために開かれた祝宴のメニューに、この料理名は見当たらないのです。同じ記事は、この名前の記録が1899年と1903年にあることや、20世紀初めに英国でも米国でも登場していることも紹介しています。単純な一国起源の物語には収まらないわけです。
第二次世界大戦後には、英米の料理本や雑誌にレシピが増え、ビーフ・ウェリントンはもてなしの料理として、ある種の社会的な華やかさをまとうようになりました。魅力の一部は、高価な材料と、失敗の余地が小さい調理工程という、難しさそのものにありました。今の家庭では、このレシピのように作業を段階に分けて、その難しさを扱いやすくするほうが現実的です。
唯一の正しい形があるわけでもありません。Gordon Ramsay Restaurantsが公開しているSavoy風のビーフ・ウェリントンでは、卵、小麦粉、牛乳で作るハーブ入りパンケーキと、鶏胸肉と生クリームのムースを、きのこのデュクセルと合わせています。ビーフ・ウェリントンとブッフ・アン・クルート(boeuf en croûte)は、牛肉をパイで焼くという発想を共有していますが、名前も細部も必ず同じとは限りません。
保存・再加熱・アレルゲン
調理前の牛肉、生ハム、卵黄は表示どおりに冷蔵し、室温に置いたままにしないでください。残ったものはすぐに冷蔵し、切っていない大きな塊は浅い容器に移します。保存できる期間は、お住まいの国の食品安全当局の指針に従ってください。この料理には、小麦(パイ生地と打ち粉)、卵(塗り液)、乳(バター)、豚肉(生ハム)が含まれます。市販のパイ生地や生ハムの原材料表示を確認し、材料を替える場合は交差接触を避けてください。
パイは再加熱するとサクサク感が失われます。残りを温めるならオーブンのほうがよく、電子レンジではパイの食感が大きく変わります。
よくある質問
なぜ「ウェリントン」と呼ぶのですか?
ウェリントン公爵の好物だったという説が有名ですが、それが好物だった、あるいは名前が公爵に由来するという確かな証拠はありません。上の「公爵の物語から少し離れて、記録を見る」をご覧ください。
包む前に牛肉は冷やしますか?
冷やします。初回のローストのあと、牛肉を冷まして冷蔵庫で冷やしてから包みます。これは、成形したパイ包みを焼く前に最低30分冷やす工程とは別で、二つの冷蔵は役割が違います。
デュクセルはどこまで炒めますか?
液体が残らず、鍋の中でヘラの跡が保たれ、全体がまとまるまでです。湿ったままだと、パイの底が湿る原因になります。
生ハムは省けますか?
省くと肉汁がパイに移りやすくなります。クレープなど別の層を使う型もありますが、食感と味は変わります。
ミディアムレアは安全ですか?
ピンクの仕上がりは好みであって、公的な安全基準ではありません。USDA FSISの指針に従うなら、温度計を使って中心が62.8°Cに達するまで加熱し、最低3分休ませます。レストランのレシピにあるピンク仕上げの中心温度は、焼き加減の好みを示すもので、安全のための推奨ではありません。
冷凍パイ生地でも作れますか?
作れます。製品の表示に従って解凍し、作業中は冷たく保ってください。
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