オーブンの扉を開けると、耐熱皿から湯気がふわりと立ちのぼります。フォークで引いた筋の先が黄金色に焼け、皿の縁では濃い色の羊肉の具が、ふつふつと泡立ってのぞいています。ひとさじすくうと、上にはやわらかいじゃがいも、下にはうま味の濃いひき肉。層がくっきり見えます。
シェパーズパイ(shepherd's pie)は、羊のひき肉を玉ねぎ、にんじん、だしと煮て、マッシュポテトで覆って焼く料理です。ここで紹介するのは、BBC Good Foodが公開している4人分の家庭向けレシピで、数ある家庭の作り方の一例です。材料は少なく、特別な技術もいりません。大切なのは、具をじっくり煮詰めることと、じゃがいもをよくつぶすことの2点だけです。
シェパーズパイとは?羊肉とじゃがいもをひと皿にした英国の家庭料理
シェパーズパイは、羊肉の煮込みにマッシュポテトのふたをして、ひとつの皿で焼き上げる料理です。具は鍋ひとつで作ります。油で野菜をやわらかくし、羊肉を焼きつけ、トマトピューレとウスターソースを炒め合わせ、牛だしを加えてとろりとするまで煮ます。じゃがいもは別にゆで、バターと牛乳でつぶして具の上に広げ、焼き色がつくまで焼きます。
現在よく使われる区別では、シェパーズパイは羊肉、牛ひき肉で作る同じ形の料理はコテージパイ(cottage pie)と呼ばれます。何を作るか選ぶときの目安として便利ですが、料理の歴史全体にあてはめてよい決まりではありません。その点は次の節で触れます。
残り肉の料理と、さまよう名前
ジェーン・オースティン・センター(Jane Austen Centre)の記事は、ジェームズ・ウッドフォード(James Woodforde)の1791年8月29日付の日記に「Cottage-Pye」という語が出てくると紹介しています。この語が書かれた初期の例のひとつですが、日記に出てくる一語だけでは、その料理の中身も作り方もわかりません。現代のシェパーズパイがどこで始まったかを示す証拠にもなりません。同じ記事は、1894年の『Cassell's New Universal Cookery Book』にあるコテージパイのレシピも紹介しています。冷たい肉とグレービーの下と上にじゃがいもを使い、焼く前に表面をフォークでざらざらにする作り方で、フォークで筋をつける焼き方が昔からあったことをうかがわせる例です。
Human Food Atlasは、シェパーズパイとコテージパイという言葉が、歴史を通じて肉の種類で一貫して分けられていたわけではないと指摘しています。ローストの残り肉を使い切る料理として生まれたという見方はありそうな話ですが、唯一の起源とは断定できません。きれいな創始の物語ではなく、手元にあるものに合わせて形を変えてきた、柔軟な料理だったというのが記録から見えることです。
変わらないのは実用性です。肉と主食をひと皿にまとめ、前もって組み立てておくこともでき、家族がひとつの皿から取り分けます。同じ食卓の料理はイギリスのページでも紹介しています。
道具
- ふた付きの鍋または深めのフライパン(具用)
- じゃがいもをゆでる鍋とざる
- 木べら
- ポテトマッシャー
- フォーク(表面に筋をつける)
- 具とマッシュを重ねても、泡立つ余白が残る大きさの耐熱皿(原典にサイズの指定はありません)
- 計量スプーン
- 中心温度をはかる料理用温度計
選び方と代用
羊ひき肉は、探す価値のある食材です。 スーパーに見当たらなければ、精肉店や輸入食材店をのぞいてみてください。ラム肉を買って、ひいてもらえるか相談する手もあります。店によって扱いは違います。牛ひき肉でもおいしく作れますが、味も名前も変わります。牛肉ならふつうはコテージパイと呼ばれる別の料理になるので、こっそり置き換えずに別の料理として作ってください。
ウスターソースは、原典が「large splash」としか書いていません。商品によって塩味も酸味も違うため、量ではなく目と味で加減します。日本のウスターソースでも代用できますが、甘み、酸味、香辛料の風味は変わります。
トマトピューレは、濃縮したトマトペーストのことです。ケチャップは別の商品で、同じようには働きません。
油: ひまわり油が手に入りにくければ、同量の菜種油でも作れます。香りが少し変わります。
じゃがいも: 原典に品種の指定はありません。粉質のじゃがいもはつぶしやすく、軽く仕上がります。
だし: 市販のだしは塩分の幅が大きいので、味を見てから足りないものがあるかを判断してください。
水っぽい、焼き色が薄いときの戻し方
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 具が水っぽい | 煮込みの間ずっとふたをしていた | 後半の20分はふたをはずし、皿に入れる前にとろみを確認する |
| 表面に焼き色がつかない | マッシュを平らにならしただけ | フォークではっきり筋をつけ、焼き終わり近くに色を確かめる |
| マッシュが重い | 湯切りが足りない、または粘りの出る品種 | しっかり湯を切ってからつぶす。粉質のじゃがいもだと軽く仕上がる |
| 羊肉がかたまりになる | ほぐす前に固まった | 工程2で、鍋に入れたらすぐほぐす |
小麦粉や片栗粉でとろみをつける方法は、このレシピに含まれていないため、標準的な対処としては案内しません。水分が多いときは、後半にふたをはずして煮詰める、というのがもとのレシピの考え方です。
食べ方と、残りの扱い

食卓で耐熱皿からそのまま取り分けるのがシンプルです。野菜を添えたいときは、パイそのものはそのままに、別の皿に盛ってください。
もとのレシピには、冷蔵や冷凍ができるとあります。ただし、冷凍から焼くときのオーブン温度が2通り書かれているため、この記事では冷凍から焼く方法は案内しません。
残ったときは、家庭の食品衛生の基本に沿います。室温に長く置かず、清潔な浅い容器に小分けして早く冷まし、冷蔵庫へ入れます。温め直すときは、中心が75°C以上になるまで加熱します。「室温で完全に冷ます」とあっても、何時間も放置してよいという意味ではありません。
よくある質問
シェパーズパイとコテージパイは何が違いますか?
現在は、羊肉のものがシェパーズパイ、牛肉のものがコテージパイと呼ばれるのがふつうです。ただ、歴史的にはこの二つの名前が肉の種類で一貫して分けられていたわけではないので、決まりではなく現代の使い分けとして考えてください。
羊ひき肉が見つからないときは?
精肉店や輸入食材店をのぞくか、ラム肉をひいてもらえるか聞いてみてください。牛ひき肉に替えると味も名前もコテージパイに近づきます。ラム肉を手で刻む方法はこのレシピの範囲外なので、試さずに同じ代用品とは言えません。
何人分ですか?
もとのレシピのとおり4人分です。皿の大きさや一人分の重さは、原典に書かれていません。
表面に焼き色がつきません。
マッシュにフォークではっきり筋がついているかを確かめ、焼き終わり近くに色を見てください。オーブンによって差があるので、黄金色の表面と縁の泡立ちを目安にします。
作り置きや冷凍はできますか?
もとのレシピには冷蔵・冷凍ができるとあります。残りは浅い容器で早く冷まして冷蔵し、中心が75°C以上になるまで温め直してください。冷凍から焼く温度は、もとのレシピ内で食い違っているため、この記事では案内しません。














