メキシコの首都メキシコシティ、ローマ・ノルテ地区に、「ケサディーヤス・エレニータ」という屋台があります。2024年のEL PAÍS México(エル・パイス・メヒコ)の記事は、その鉄板(コマル)の前の仕事ぶりを追っています。マサ(コーン生地)を丸め、金属のプレスで平らにして熱い鉄板へ運ぶ。その間にも客は「花で」「チーズで」「赤いサルサで」と、中に入れたいものを声に出します。記事が描くのは、地震や街の変化をくぐり抜けて店を続けてきた店主と、この一軒の屋台です。メキシコ全土のケサディーヤを代表する姿ではありませんが、手を動かしながら注文を受ける日常の軽食だということは、よく伝わってきます。
ケサディーヤの「チーズ入り」は、地域で意味が変わる
焼いたコーン生地の香ばしさ、具を包んで食べやすい半月形、溶けたチーズの塩気と伸び。このレシピの工夫はすべて、この3つのためにあります。
この記事で作るのは、マサ粉・塩・水で作った生地を小さな円に押し、生のうちにオアハカチーズ(quesillo/ケシージョ)を包んで半月形に折り、軽く油を引いたコマルで焼くケサディーヤです。レシピはGoya Foodsが公開しているものに沿っています。焼き上がった小麦粉のトルティーヤ2枚でチーズを挟む作り方ではありません。生地は具を包む時点ではまだ生で、チーズと一緒に火が通ります。
そもそも「ケサディーヤ」が何を指すかは、土地によって違います。Larousse Cocina(ラルース・コシーナ)の『メキシコ美食百科事典』は、同じ名前でも地域ごとに形や具が異なると説明しています。中央部ではケシージョがよく使われ、メキシコシティではコマルで焼くものも揚げるものもあり、肉、きのこ、花、豆などさまざまな具が入ります。2014年のEl Informador(エル・インフォルマドール)の特集は、ハリスコ周辺では「ケサディーヤにはチーズが入っているもの」と受け取られるのに対し、メキシコシティやメキシコ州では具のほうが主役で、チーズ入りなら「con queso(チーズ入り)」とわざわざ頼むことが多い、という違いを紹介しています。どちらも、その地域の人が全員従う決まりではなく、地域の事典や記事による説明です。「ケサディーヤ=必ずチーズ入り」とは限らないという幅を頭に置いたうえで、この記事ではそのひとつ、チーズ入りでコマル焼きの版を家庭で再現します。
ケサディーヤは quesadilla(複数形は quesadillas)。チーズは queso Oaxaca(オアハカチーズ)、別名 quesillo です。コマル(comal)はトルティーヤを焼く平らな鉄板で、ケサディーヤは「antojito」と呼ばれるメキシコの軽食の仲間に入ります。
道具
- ボウル
- トルティーヤプレス、または平らな底の鍋と食品用のプラスチックシート2枚
- 湿らせた清潔な布
- コマル、鉄板、または鋳鉄のフライパン
トルティーヤプレスは便利ですが、必須ではありません。鍋の平らな底で生地を押す方法もあります。
マサ粉とチーズの選び方
マサ粉(masa harina)は、ニシュタマル化したトウモロコシから作った粉で、だからこそしなやかな生地になります。コーンミール、ポレンタ粉、ふつうのとうもろこし粉では同じようにまとまらないので、パッケージの「masa harina」の表記を目印に探してください。
オアハカチーズ(quesillo)は、細く裂けて、やわらかく伸びながら溶けるチーズです。これかケサディーヤ用チーズを使います。どちらも手に入らないときは、低水分のモッツァレラが溶け方の近い代用になります。ただし、塩気も伸びも風味もケシージョと同じではありません。同等品ではなく、あくまで手に入りやすい代わりとして使ってください。
このレシピには乳(チーズ)とトウモロコシが入ります。マサ粉、酢漬けハラペーニョ、サルサは、それぞれの原材料表示でアレルゲンなどを確認してください。
うまくいかないときの直し方
もとのレシピには補正の分量が書かれていません。以下は実用的な提案なので、少しずつ調整してください。一度に大きく足すと、レシピそのものが変わってしまいます。
| 状態 | 考えられる原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 押したり折ったりすると生地が割れる | 生地が乾いているかもしれない | 水をほんの少しずつ練り込む。球は湿った布の下に置いておく |
| 手やプレスにくっつく | 生地が水っぽいかもしれない | ごく少量のマサ粉を練り込む。たくさん足すとレシピが変わる |
| 折るときに円が破れる | 薄く押しすぎた | 少し弱めに押し、縁を持ち上げても裂けない厚みにする |
| チーズが漏れる | 具が多い、または縁に近い | チーズを減らし、縁をあけて閉じる |
| 外側だけ焦げて中が冷たい | 火が強すぎる | 火を弱め、約6分より少し長めに焼く。色とチーズのやわらかさで判断する |
保存と温め直し
もとのレシピに保存の指示はありません。食べる人数分だけ焼いて、焼きたてを食べるのがいちばんです。残った分は、チーズなど各材料の表示と、ふだんの冷蔵の扱いに従ってください。温め直すときは、乾いたフライパンで表面を温めると、外側がもとに戻りやすくなります。ただし、焼きたてと全く同じ食感にはなりません。
アレンジ
- チーズだけで: ハラペーニョを抜いて、チーズの味を主役にします。もとのレシピでもハラペーニョは任意です。
- 酢漬けハラペーニョを入れる: もとのレシピにあるとおり、辛みと酢の酸味が加わります。
- 本物のケシージョで: オアハカチーズが手に入ったら、細く裂いて入れると、糸を引いて溶ける持ち味が生きます。
- 低水分モッツァレラで: 日本で手に入れやすい代用です。もとのレシピにはなく、塩気や風味は違います。
- 市販のコーントルティーヤで: 焼いてある生地に具を挟んで焼く手軽な方法です。生の生地を包むこの記事の作り方とは工程も食感も違います。
メキシコのケサディーヤにある幅
この記事が追ったのは、チーズ入りでコマル焼きの一版です。Larousse Cocinaの事典は、この料理の幅の広さを記録しています。中央部ではケシージョを使い、メキシコシティではコマル焼きも揚げたものもあり、具は肉からきのこ、花、豆まで広がります。オアハカなど、ほかの地域の例も載っています。チーズが本来の主な具だったと説明したうえで、いまは多様な具があるとも書かれています。
El Informadorの2014年の特集は、ハリスコとメキシコシティ・メキシコ州での受け取り方の違いに加えて、コーンと小麦のトルティーヤ、揚げたものとコマルで焼いたものにも触れています。名前の由来については、まだ議論があるとしているので、この記事でも決めつけず、そのままにしておきます。二つの資料を並べると、「ケサディーヤにチーズは入るのか」という問いに、ひとつの正解があるわけではなく、地域によって答えが変わることが見えてきます。
ローマ・ノルテのエレニータの屋台は、その日常の側を見せてくれます。注文を受けてからマサを押し、コマルは休まず、客が具を選ぶ。このレシピのチーズ入りの半月形は、その広い幅の中の一点にあたります。
よくある質問
ケサディーヤには必ずチーズが入りますか?
いいえ。地域や、屋台・家庭によって違います。Larousse CocinaもEl Informadorも、チーズ以外の具が入るものや、「チーズ入りで」と頼む土地があることを伝えています。このレシピは、チーズを包んだ版です。
小麦粉のトルティーヤでも作れますか?
それも作り方のひとつですが、別のタイプです。このレシピは、生のコーン生地に具を包んで折って焼く版です。
オアハカチーズが手に入らないときは?
低水分のモッツァレラが現実的な代用です。ただしもとのレシピにはなく、風味、塩気、伸びはケシージョとは違います。
トルティーヤプレスは必要ですか?
必要ではありません。もとのレシピでは、プラスチックシートの間で、鍋の平らな底を使って押す方法も示されています。
作り置きはできますか?
もとのレシピに保存の指示はありません。材料の表示とふだんの冷蔵の扱いに従い、食べる分だけ焼いて焼きたてで食べてください。















