厚手の鍋の前で、木べらを持つ手がずっと動いています。鍋の中は、すりおろしたさつまいもにココナッツミルクとつぶしたバナナを合わせた、ねっとり重い生地。シナモンとナツメグの甘い香りが台所いっぱいに広がり、生地が鍋肌からはがれるようになったら、天板に流してオーブンへ。焼き上がりは表面がこんがり茶色く、中はむっちりとした食感です。ハイチの家庭で長く愛されてきたさつまいもの焼きプディング、ペン・パタット(pen patat)です。
材料は、日本のスーパーでほとんど手に入ります。むしろ、日本のさつまいもはこのお菓子にとても向いています。ハイチで使う皮の赤い白っぽい芋に、性質がよく似ているからです。
名前の数だけ、家の味がある

ハイチの料理ブログ「チャカイティ(Tchakayiti)」によると、この菓子はフランス語でパン・パタート(pain patate)、ハイチ・クレオール語でペン・パタット(pen patat)と呼ばれます。親しみをこめて「プティ・パン・パ」と呼ぶこともあるそうです。名前に「パン」とつきますが、パンではなく、さつまいもの生地を鍋で練ってから焼く、ずっしりとしたプディングです。
チャカイティの書き手は、いちばんおいしいと思う叔母のペン・パタットを再現しようと、何度も作り方を尋ねました。ところが叔母は、目分量や手のひらで材料を量るので、レシピを書き出せません。「覚えたいなら台所に来なさい」が答えだったといいます。結局、書き手は叔母の横で、叔母が手に取る前に材料を一つずつ量って記録しました。ハイチの多くの家庭料理と同じく、ペン・パタットも味を見ながら作る料理なのです。
カリブ海の料理番組「テイスト・ジ・アイランズ」のサイトは、ペン・パタットを、皮が紫色で中が白いカリブのさつまいも「ボニアート」で作る菓子と紹介しています。アメリカの料理人エメリル・ラガッセのレシピも、白いさつまいもが伝統だと書いています。日本のさつまいもは皮が赤紫で中が淡い黄色なので、オレンジ色のアメリカの芋よりずっと現地に近い材料です。
レシピの細かい部分は家ごとに違います。テイスト・ジ・アイランズのレシピは加糖練乳とココナッツミルク、チャカイティはエバミルクとココナッツミルク、エメリルのレシピはすりおろした生のココナッツと牛乳、生クリームを使います。共通しているのは、すりおろしたさつまいも、つぶした完熟バナナ、ココナッツ、そしてシナモン、ナツメグ、しょうがの香りです。
途中で見つける、味の決め手
固まらない、焦げるを防ぐコツ

ペン・パタットがうまく固まらないとき、原因のほとんどは鍋で練る時間が足りないことです。チャカイティのレシピも、生地が鍋の側面からはがれ始めるまで練ってから火を止めるよう書いています。焼き時間を延ばしても、水分の多い生地は中心がゆるいまま残りがちです。
鍋で練る段階で生地が重くなりすぎて木べらが動かないときは、牛乳を大さじ1ずつ足してください。逆に、25分練っても生地がゆるいままなら、さらに5分練ってから型に移します。
オーブンで焼いている途中、表面だけが先に濃い茶色になってきたら、アルミホイルをふんわりかぶせて焼き続けます。中まで火が通る前に表面が焦げるのを防げます。
練乳で甘く、ココナッツファインで香り高く

テイスト・ジ・アイランズのレシピのように、牛乳と砂糖の代わりに加糖練乳を使うと、しっとりと甘い仕上がりになります。その場合は、きび砂糖を30gに減らして甘さを調整してください。焼き上がりを温かいうちにバニラアイスと一緒に出すのも、同じレシピがすすめる食べ方です。
エメリルのレシピは、すりおろした生のココナッツを加えています。日本ではココナッツファイン(乾燥ココナッツ)を大さじ4ほど生地に混ぜると、ココナッツの香りとしゃりっとした食感が加わります。
よくある質問

オレンジ色のさつまいもでも作れますか?
作れます。エメリルのレシピも、白いさつまいもがなければオレンジ色の芋で代用してよいとしています。ただし、色が濃くなり、甘みも水分も多めになるので、牛乳を少し減らしてください。
保存はどうすればいいですか?
チャカイティは、このお菓子は傷みやすいので、1〜2日で食べきれないときは冷蔵庫に入れるよう勧めています。粗熱が取れたらラップで包んで冷蔵し、早めに食べきってください。
バナナは省けますか?
省いても焼けますが、バナナの甘い香りとねっとりした食感はペン・パタットらしさの一部です。どうしても入れない場合は、きび砂糖を10g増やしてください。
アレルギーで気をつける材料は?
牛乳とバター(乳)を使います。牛乳はココナッツミルクやオーツミルクに、バターはココナッツオイルに替えると、乳を使わずに作れます。卵と小麦は使いません。














