夜のバンダ・アチェ。大通りの屋台では、大きな中華鍋が火柱を上げ、料理人が鉄のお玉で太い黄色い麺をあおっています。鍋の中で赤茶色のソースが麺に絡み、カルダモンと八角の甘い香りが通りまで流れてきます。皿に盛られた麺の横には、薄い木の実のせんべいエンピンと、紫色の酢漬けのエシャロット、ライムのかけら。インドネシアの西の果て、スマトラ島北端のアチェ州を代表する名物の麺料理、ミー・アチェ(Mie Aceh)です。
アラブ、インド、中国の香りが交わる、西の果ての麺

アチェは、インド洋に突き出したスマトラ島の北の端にあります。昔からマラッカ海峡を通る船の寄港地として栄え、アラブやインドの商人が行き来してきました。インドネシア観光省は、ミー・アチェについて、アラブ、インド、中国の食文化がアチェの土地の知恵と混ざり合って生まれた料理だと紹介しています。中国から伝わった麺を、インドや中東ゆずりのスパイスで味つけした一皿というわけです。
使う麺は、うどんやスパゲッティほどの太さがある黄色い卵麺です。味の決め手は、黒こしょう、赤唐辛子、エシャロット、にんにく、カルダモン、キャラウェイ、クミン、八角などを合わせたスパイスの合わせ調味料「ブンブ」で、カレーのような香りがあります。具は牛肉、山羊肉、えびやいかなどの魚介から選べます。
ミー・アチェには、汁気を飛ばして炒めたものと、スープをたっぷり張ったものの2通りがあります。バンダ・アチェの街には、ミー・アチェの有名店がいくつもあり、インドネシア観光省はパングリマ・ポレム通りの「ミー・ラザリ」や、バイトゥラフマン大モスクに近い「ミー・アヤ・シンパン・リマ」を紹介しています。
ミー・アチェに添えるのは、メリンジョという木の実をつぶして干して揚げた、ほろ苦いせんべいエンピンと、エシャロットの酢漬け、そしてライムです。スパイスの効いた濃い麺に、ライムの酸味と酢漬けのしゃっきり感が加わって、最後まで飽きずに食べられます。
日本の台所で作るときに知っておきたいこと

この記事の作り方は、インドネシア出身の料理ブロガー、マーベリーナのブログ「What To Cook Today」のミー・ゴレン・アチェを基にしています。最初にスパイスソースをまとめて作り、それを使って麺を炒める二段構えです。ソースは冷蔵で1週間、冷凍で1か月もつので、一度作れば何回か楽しめます。原書のソースはかなり辛いため、この記事では乾燥唐辛子を減らし、生の小粒唐辛子を省いて、辛さを抑えた配合にしています。
麺は、太めの中華麺がいちばん近い食感です。手に入らなければ、スパゲッティでも作れます。ケチャップマニス(インドネシアの甘いしょうゆ)、サンバルオレック(唐辛子のペースト)、キャンドルナッツは、インドネシア食材店や通販で手に入ります。
ソースは、ミキサーにかけたあと、もう一度フライパンで15〜20分煮詰めるのが大事です。水分が飛んで、ソースの縁から赤い油がにじみ出てくるまで煮詰めると、スパイスの生っぽさが消え、麺によく絡むソースになります。
エンピンは、インドネシア食材店で揚げる前の乾燥したものか、揚げてあるものが売られています。手に入らなければ、えびせんべいで代わりになります。
途中で見つける、味の決め手
ライムを搾って、エンピンをかじりながら

ミー・アチェは、まずそのまま一口食べて、スパイスの香りを確かめてください。カルダモンと八角の甘い香りの奥から、唐辛子の辛さがじわりと追いかけてきます。半分ほど食べたらライムを搾り、エシャロットの酢漬けを麺にのせて食べると、味がぐっと引き締まります。エンピンのほろ苦さとかりっとした食感も、いいアクセントになります。
インドネシアの麺料理と食べ比べるなら、ジャワ島の甘いしょうゆ味のミー・ゴレンが対照的です。同じインドネシアの焼きそばでも、アチェのスパイスの強さがよく分かります。スマトラ島の料理をたどるなら、西スマトラのルンダンもぜひ作ってみてください。
インドネシア観光省の紹介によると、バンダ・アチェではふつうのミー・アチェが1皿1万5,000〜2万ルピア、海鮮をのせたものは2万〜3万ルピアほどで売られています。ミー・アチェが毎日の食事にもごちそうにもなる料理であることが分かります。
アレンジの楽しみ方

えびの代わりに、牛肉の薄切りを使えば、アチェの食堂でも定番の牛肉のミー・アチェになります。牛肉は手順3でえびと同じように強火で1〜2分炒め、色が変わったら取り出して、手順5で麺と一緒に戻してください。いかを使うなら、輪切りにして炒めすぎないよう30秒ほどで取り出すと、やわらかく仕上がります。
スパイスソースは、炒め物にも使えます。鶏肉や野菜を炒めて大さじ1〜2を絡めれば、アチェ風の一品になります。チャーハンに使えば、スパイスの効いたナシ・ゴレンができあがります。
よくある質問

辛さはどのくらいですか?
この記事の配合は、元のレシピより乾燥唐辛子を減らし、生の小粒唐辛子を省いているので、ぴりっと辛い程度です。辛いのが好きなら、スパイスソースを増やすか、食卓でサンバルを足してください。
スパゲッティで作るときの注意は?
スパゲッティは表示どおりにゆで、ゆで汁を少し取っておきます。手順5で汁気が足りなければ、ゆで汁を大さじ2〜3加えると、ソースが麺によく絡みます。
スパイスソースの量が多いのですが?
この記事のソースは約8回分の量です。1回分(大さじ6〜7)を使ったら、残りは清潔な瓶に入れて冷蔵で1週間、小分けにして冷凍すれば1か月ほど保存できます。
エンピンはどうやって食べるのですか?
エンピンは、麺と交互にかじったり、砕いて麺に散らしたりして食べます。乾燥したものを買ったときは、160〜170℃の油でさっと揚げると、ぷくっとふくらんでかりっとした食感になります。













