ギリシャの家庭の食卓を思い浮かべてください。湯気の立つ茶色い小さな豆のスープ、切ったパン、オリーブ、そして酢の小瓶。ファケスはレンズ豆を玉ねぎ、にんにく、月桂樹の葉、オリーブオイルと煮るギリシャの家庭料理で、食べる直前に赤ワインビネガーを少量足す食べ方があります。鍋の中では味を決めきらず、食卓で加える酢が最後の仕上げになります。
見た目は素朴ですが、スプーンを入れると豆の輪郭がきちんと残り、噛めば内側は柔らかく、煮汁には軽いとろみがつきます。肉も固形ブイヨンも入れず、水で煮る家庭向けの配合です。だからこそ、豆の粒を残すことと、オリーブオイルが運ぶまるい口当たりが、そのままおいしさになります。煮る時間は約1時間が目安ですが、豆の種類や古さで延びることがあるので、時計よりも豆の芯が消えたかどうかを確かめてください。
一杯の豆スープに、家庭の味がある

現地語ではΦακές、英語ではFakes Soupaと書きます。Φακές(ファケス)はギリシャ語でレンズ豆を指す呼び名としても使われます。茶色や緑色のレンズ豆を使い、ごちそう向けの複雑なオーブン料理とは違って、鍋ひとつで作る素朴な家庭の献立です。冬の温かい一皿として紹介されることが多いものの、冬だけの料理というわけではありません。
ギリシャ料理を伝えるMia KouppaのBillie Bitzasは、育った家庭でほぼ毎週金曜日にファケスを食べたと記しています。これはその家庭の記憶であって、ギリシャ全世帯の習慣ではありません。肉を使わないファケスは、同じ媒体で四旬節にも向くスープとして紹介されています。ただ、宗教的な食事規則は日や実践によって異なるので、油がいつでも許されるとは言えません。食べ方としては、パン、オリーブ、フェタチーズを添ける形があります。乳製品を避ける食事なら、フェタは添えなくて構いません。
鍋の中身は家庭ごとに違います。玉ねぎとにんにくを水から煮るだけの簡素な配合があるかと思えば、にんじんとセロリを油で炒め、トマトソースを加えて赤く仕上げる家庭もあります。トマトペーストを少量入れるかどうかを選べるレシピもあり、トマトなしを不完全な料理とは見なしません。トマトの量は家庭ごとというわけです。このレシピでは玉ねぎとにんにくを炒めずに煮て、柔らかくなってからトマトペーストを少量加える、家庭向けの配合にしています。
レフカダ島出身の料理家Fotiniは、島のエングルヴィで育つレンズ豆と、地元で作るバラの酢を合わせる伝統を紹介しています。これはあくまでその土地の豆の話で、ギリシャ全土で酢といえばバラの酢、ということではありません。日本で作るなら、一般的な茶レンズ豆と赤ワインビネガーで十分おいしく仕上がります。島の銘柄を探し回る必要はありません。
途中で見つける、味の決め手
豆が硬い、とろみが強い。鍋の中で直せること

決められた時間どおりに煮ても、豆が硬いことはあります。乾燥豆は古いものほど柔らかくなるのに時間がかかる場合があり、緑レンズ豆も茶色の豆と同じ時間で仕上がるとは限りません。そんなときは酢を加えず、豆が浸るくらいまで熱湯を足し、ふたをして弱火で10分ずつ加熱します。硬ければ熱湯を足して延長し、豆の芯が消えるまで味見を重ねてください。
| 困った状態 | 見分け方 | 戻し方 |
|---|---|---|
| 豆がまだ硬い | 噛むと中心が硬い | 酢を入れず、熱湯を足して弱火で10分ずつ追加加熱 |
| 濃すぎる | スプーンで寄せると豆が山になる | 熱湯50〜100mlずつを加え、軽く混ぜる |
| 水っぽい | 豆と透明な汁が分かれている | 豆が柔らかいことを確認し、ふたを外して弱めの中火で3〜5分ずつ煮る |
| 酸味が強い | 豆の味より酸味が先にくる | 次の皿は酢を減らす。加える前のスープがあれば混ぜて薄める |
| 底が焦げた | 焦げ臭がする | 焦げていない上部だけ別鍋へ移す。焦げた底はこそげない |
火を止めて15〜20分置くと、スープは煮た直後より濃くなります。冷めるととろみが増すので、作り置きや再加熱のときは、熱湯を足して好みの汁量に戻してください。塩は、水を足したあとで少量ずつ調整します。煮詰まった状態で塩を足すと、濃くなりやすいからです。
パンとオリーブを並べれば、昼ごはんになる

パンをちぎって煮汁にひたし、パンで煮汁まで食べる。オリーブは別皿に置きます。酢を添えるのは鍋全体を酸っぱくするためではなく、一人ずつ自分の好みに味を仕上げるためです。フェタチーズは好みで別皿に添えますが、乳製品を避けるならなしで構いません。材料表の分量はパンとオリーブまでで、フェタはレシピの分量外です。
4人分なら、主食のパンを添えて一食分とする想定です。小さめの器に分けて副菜にすることもできますが、鍋の配合を変える必要はありません。別の豆で煮込みを楽しみたくなったら、白いんげん豆のファソラーダが次の一皿になります。生野菜を添えたいときは、ギリシャサラダを合わせてみてください。そして、一皿ごとの酸味を自分で整えながら食べるのが、この食卓の楽しみ方です。
栄養情報はスープのみ1人分の概算で、パン、オリーブ、追加のフェタチーズは含みません。茶レンズ豆300g、玉ねぎ120g、にんにく3〜4片、油60mlを4皿に分ける参考配合の栄養推計を目安に、少量のトマトペーストを含む家庭向け配合で丸めた参考値として、420kcal、たんぱく質20g、脂質16g、炭水化物50gです。豆や油の製品、取り分け量によって変わりますし、実測値ではありません。
保存と、よくある質問

翌日も食べられますか?
作ったら鍋のままにせず、小さな容器に分けて速やかに冷まします。小分けで速やかに冷ますのがコツで、調理後1〜2時間以内には冷蔵庫に入れてください。冷蔵庫は0〜5℃を目安に管理し、48時間以内に食べ切ります。食べ切れそうにないときは、早めに冷凍しましょう。常温で一晩置いたものは、保存食として扱いません。
肉を入れていないからといって、常温で置いておけるわけではありません。冷蔵する前に、鍋いっぱいのまま長い時間冷ます方法は避けてください。冷凍するときは密閉して日付を付け、解凍は冷蔵庫で行います。完全に解凍してから24時間以内に使い切ってください。
赤レンズ豆や缶詰でも作れますか?
赤レンズ豆は、皮付きの茶・緑レンズ豆と同じ粒感を狙う材料としてはおすすめしません。崩れたスープになりますが食べられはします。ただ、完成状態は別物です。缶詰の豆はすでに煮てあるので、乾燥豆300gと重さを置き換えることはできず、今回の下ゆでと30〜40分の煮込みもそのまま使えません。調理済みの豆には、それ向けの配合が必要です。乾燥豆と煮豆は別の材料だと考えてください。
酢が苦手でも食べられますか?
酢は別添えなので、入れない皿も作れます。赤ワインビネガー10mlは4皿分の出発点で、全量を鍋に入れるという意味ではありません。レモン汁は同量から代用できますが、香りが変わります。辛さは黒こしょう0.2gだけで、唐辛子は使いません。黒こしょうを省いても、工程は同じです。
食物アレルギーで気をつけることは?
材料の包装表示と、それぞれのアレルギー対象を確認してください。付け合わせのパンには小麦が、追加するフェタには乳が含まれます。レンズ豆のスープが全員にとって安全とは言い切れません。トマトペーストや酢といった加工品も、原材料を確認しましょう。アレルギーについて、個別に食べてよいかどうかの案内はできません。











