湯気の立つ深皿に、ごろりとしたラム肉、四つ割りのじゃがいも、にんじん。煮汁をたっぷりまとって、上には刻んだパセリが散っています。アイリッシュ・シチューは、肉とじゃがいもと玉ねぎをひとつの鍋でゆっくり煮て、できた煮汁ごと食べる家庭料理です。ひとつの蓋付き鍋で静かに煮る。それがこの料理の骨組みです。
蓋をした一鍋で、ラムとじゃがいもがなじんでいく
この鍋で目指すのは、芯まで柔らかいラム、形が残るじゃがいもとにんじん、そして濁りすぎない煮汁です。味つけは、だしが働いた最後に整えます。
このレシピは、アイルランド西部のCounty Mayoの地域情報サイト「Mayo Ireland」が掲載している4人分の配合をもとにしています。同サイトは、この料理のアイルランド語名を Stobhach と紹介しています。この配合では、ラムを先に焼いてからじゃがいも・玉ねぎ・にんじんと蓋付きのキャセロールに重ね、牛だしを注いで180°Cのオーブンで煮ます。
ただし、これは数ある地域のレシピのひとつで、「唯一の正しい形」ではありません。肉を焼かずに煮る家もあれば、だしではなく水を使う家、加える野菜が違う家もあります。違いについては後半でまとめます。
アイルランドには、ソーセージとベーコンを煮込むダブリンの名物料理、ダブリン・コドルもあります。同じ一鍋でも別の料理で、このシチューの変形ではありません。
アイリッシュ・シチューに「ひとつの形」がない理由
アイリッシュ・シチューに、決まったレシピはありません。 Associated Pressは、基本形を肉・じゃがいも・玉ねぎ・水を使った素朴な煮込みと説明し、肉を焼かずにそのまま鍋で煮る作り手もいると伝えています。同じ記事には、にんじん、パースニップ、かぶなどの根菜を加える人がいることや、鍋に入るものが作り手ごとに違うことも書かれています。
Mayo Irelandのレシピは、その幅の片側に位置します。にんじんと牛だしを使い、ラムを焼き、コンロではなくオーブンで仕上げます。さらにEU「Europe on a plate」シリーズのアイルランドのページには、ラム、じゃがいも、にんじんに、セロリ、キャベツ、リーキ、パールオニオンを加え、肉と野菜を段階的に煮るレシピが載っています。
どれが「本物」かを決めるより、肉・じゃがいも・玉ねぎという同じ芯を持つ、家ごとの鍋の違いとして読むのがよさそうです。この記事ではMayo Irelandの分量をそのまま守り、ほかのレシピの分量や材料は混ぜません。発祥の時期や歴史上の出来事、社会史にまつわる話は、今回使った資料では確かめられないので、書いていません。
ラム、じゃがいも、だしの選び方
ラム。 「骨を外したラム800g」で、これは実際に食べる肉の重さです。入手しにくいときは、精肉店で煮込み用のラムを探し、可食部で800g必要だと伝えて相談します。骨付き肉を同じ800gで買うのは避けてください。骨を除くと肉の量が減り、じゃがいもやだしとのバランスが変わります。
じゃがいも。 品種は問いません。一般的な調理上の違いとして、粘質で煮崩れしにくいじゃがいもは長く煮ても形が残りやすく、粉質のものは角が崩れて煮汁に軽くとろみが出やすい傾向があります。形をはっきり残したいか、煮汁に少しとろみがほしいかで選べば、どちらでも作れます。
牛だし。 固形ブイヨンや濃縮タイプは、表示どおりに溶いて使います。市販品は塩気にかなり幅があるので、塩は最後に加えます。
牛肉で作る場合。 牛肉でも同じ手順で作れますが、料理の味の中心が変わります。Mayo Irelandの配合でも伝統的な形でもなく、家庭でのアレンジとして楽しんでください。
用意する道具
- 大きめのフライパン
- 蓋付きの耐熱キャセロール、または厚手のオーブン対応鍋
- オーブン
- 包丁とまな板(生肉用を分ける)
- トング
- 熱湯を注ぐやかんまたは計量カップ
- 調理用温度計(ラムの中心温度の確認用)
うまくいかないときの見直し方
| 状態 | 考えられる原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 上の層が煮汁から出ている | 煮汁が減った、または鍋が広くて浅い | 熱湯を少し足して具を覆い、蓋を戻す |
| ラムに焼き色が付かなかった | 一度に入れすぎた | 手順2のとおり半量ずつ、間をあけて焼く |
| ラムがまだ固い | お使いのオーブンと鍋では煮る時間が足りない | 蓋をしたまま煮続けて、また確かめる。掲載時間は目安で、保証ではない |
| 柔らかいが、温度を測っていない | 柔らかさだけで判断した | いちばん厚い部分の中心が75°Cで1分以上になっているか確かめる |
| じゃがいもが崩れた | 粉質の品種、または混ぜすぎた | 鍋をそっと扱い、おたまで盛る。次回は形を残したいなら煮崩れしにくい品種を選ぶ |
| 煮汁がしょっぱい | だしの塩気が強い、または味つけが早すぎた | 塩は最後に、味を見てから。次回は塩分の控えめなだしを使う |
| 煮汁がさらりとしている | もともとスープに近い煮込みである | 小麦粉やコーンスターチでとろみを付けない。粉質のじゃがいもなら自然に少しとろみが出る |
食卓へ、そして残ったら

深皿に煮汁をたっぷり入れ、ラム、じゃがいも、にんじんが一皿に揃うようによそいます。添えるものは自由で、料理に欠かせないものではないので、好みで決めてかまいません。羊肉の煮込みは冬やセント・パトリックス・デーの食卓になじみのある料理ですが、特定の日だけの料理ではありません。
残った分は、厚生労働省の家庭向けの一般的な案内に沿って扱います。浅い容器に小分けにして早く冷まし、室温に置いたままにせず冷蔵庫で保存します。温め直すときは中心が75°C以上になるまで加熱します。これはこのシチュー専用の基準ではなく一般的な案内で、保存できる日数はこの記事では示しません。
ほかのアイリッシュ・シチュー
ここで挙げるのは、上の分量の調整ではなく、それぞれ別のレシピです。試すなら別の鍋として作ってください。
| 違い | 資料 | このレシピとの違い |
|---|---|---|
| 焼かない素朴な煮込み | Associated Press | 肉・じゃがいも・玉ねぎ・水が芯。肉を焼かず鍋でそのまま煮ることもある |
| 根菜を増やす | Associated Press | にんじん、パースニップ、かぶなどを加える作り手がいる |
| 野菜の種類が多い型 | EU「Europe on a plate – Ireland」 | ラム、じゃがいも、にんじんに、セロリ、キャベツ、リーキ、パールオニオンを加え、段階的に煮る |
| ビールを使う | 別の型 | だしの全部または一部をビールに替えると風味が変わる |
| 牛肉で作る | 家庭でのアレンジ | 味の中心が変わる。Mayo Irelandの配合でも伝統的な形でもない |
もっとも素朴な形に近づけたいなら、このレシピから焼く工程やだしを抜くのではなく、その作り方を載せた資料のレシピを最初から別の料理として作ってください。違うレシピの手順を混ぜると、どれにも当てはまらない味になりがちです。
よくある質問
このシチューでは、ラムとマトンは違いますか?
どちらもアイリッシュ・シチューに使われますが、同じ肉ではなく、火の通り方も味も同じではありません。このレシピは骨を外したラムを使います。マトンやほかの部位で作る場合は、時間ではなく、柔らかさと中心75°Cの確認で判断してください。
ラムは焼かないといけませんか?
このレシピでは焼きます。2回に分けて焼くのがこの作り方です。焼かずに鍋で煮る作り方もありますが、それは別の型のシチューで、このレシピの省略版ではありません。
にんじんは入れるものですか?
にんじんはこのレシピに入っています。パースニップやかぶなどを加える人もいます。肉・じゃがいも・玉ねぎだけで作る型もあり、どちらかだけが正しいというわけではありません。
牛だしの代わりにビールを使えますか?
ビールを使う作り方もありますが、このレシピは牛だしだけで、ビールは使いません。だしの全部または一部をビールに替えると風味が変わり、別のレシピになるため、ここでは材料に入れていません。
ダブリン・コドルとの違いは何ですか?
アイリッシュ・シチューはラム(またはマトン)、じゃがいも、玉ねぎが軸で、このレシピではにんじんと牛だしも使います。ダブリン・コドルは、ソーセージとベーコンが中心のダブリンの料理です。別の料理です。
なぜオーブンで煮る時間をはっきり書かないのですか?
Mayo Irelandのページは調理2時間20分と載せていますが、作り方の本文は「蓋をしてオーブンで煮る」とだけ書き、時間を示していません。オーブンの性能、鍋の大きさ、ラムの部位で所要時間は変わります。掲載時間は目安として、柔らかさとラムの中心75°Cの確認で判断してください。












