石灰岩の白い石垣が続くカルスト台地では、冬になるとブーラ(スロベニア語でburja)と呼ばれる冷たく乾いた北東風が吹き下ろします。この風は、カルストの名産である生ハム、クラシュキ・プルシュト(kraški pršut)を何世紀も前から乾かしてきた風でもあります。石造りの家の台所でことこと煮えているのが、豆とザワークラウト、じゃがいもを合わせたとろりとしたスープ、ヨータ(jota)です。酸っぱいキャベツと豆の、冬のスープ。スロベニア西部の食卓には欠かせない一皿です。
材料は日本のスーパーでほぼそろいます。瓶詰めのザワークラウトと乾燥のうずら豆、燻製ベーコン、じゃがいも。豆をひと晩水に浸しておけば、あとは1時間ほど鍋で煮るだけです。
カルストの台所に、酸っぱいキャベツの鍋がある

スロベニアは、アルプスとアドリア海、パンノニア平原とカルスト台地が出会う小さな国です。スロベニア政府観光局は国内を24の美食地域に分けて紹介していて、その案内書『Taste Slovenia』では、カルスト地方の代表的な料理としてクラシュカ・ヨータ(kraška jota)が挙がっています。説明は短く、「カルストでは、ヨータは酸っぱいかぶかザワークラウトで作るが、必ずじゃがいもも入れる」。じゃがいもが入るかどうかが、カルストのヨータを見分けるいちばんの目印です。
名前の由来は、スロベニアの西隣にあるイタリアのフリウリ地方にあるといわれます。スロベニアの料理を英語で紹介しているSlovenian Kitchenのサラ・カリシュニクは、フリウリで「ヨータ」はミネストローネの一種を指す言葉で、そこから東や南へ広がったと説明しています。スロベニア語でスープを意味する「ユーハ(juha)」とも語源がつながっているそうです。案内書『Taste Slovenia』も、ヴィパヴァ渓谷のヨータを「もとはカルニア(フリウリ北部の山地)の料理の地方版」と紹介しています。
ヨータはスロベニアだけの料理ではありません。イタリアのトリエステでは「トリエステ料理の代表」とされるほど親しまれ、イストリア半島やゴリツィア、クロアチアのリエカ周辺でも食べられています。国境線が引き直されても、台所の鍋は国境をまたいで受け継がれてきました。
カルストの料理には、冬を越すための保存食の知恵がそのまま詰まっています。秋に漬け込んだザワークラウトや酸っぱいかぶ、乾燥豆、燻製や塩漬けの豚肉。どれも寒い季節に台所に残っているものばかりで、それをひとつの鍋で煮て、豆とじゃがいもでとろみをつけるのがヨータです。中央ヨーロッパのザワークラウトと、地中海側の豆とオリーブオイルの食文化が、ちょうどこのあたりで混ざり合っています。
谷を越えると、ヨータの中身が変わる

ヨータは、谷や半島をひとつ越えるだけで中身が変わります。カルストのヨータはザワークラウトか酸っぱいかぶに、必ずじゃがいもを入れます。南のイストリア半島のヨータはザワークラウトと豆で作り、じゃがいもを入れません。北のヴィパヴァ渓谷では、ブドウの搾りかすで発酵させたかぶを使うヨータが知られていて、スロベニア政府観光局のレシピでは、つぶしたじゃがいもと豆に、その発酵かぶを合わせています。
カルストには「甘いヨータ」と呼ばれる特別な一皿もあります。つぶしたじゃがいもと豆に、にんじんとスパイス、少しの酢を加えるもので、酸っぱいキャベツを使わないぶん、やわらかな味になります。どのヨータにも共通するのは、豆とじゃがいもを煮崩して、さらりとしたスープではなく、ぽってりとしたとろみに仕上げることです。
スロベニアのイストリア地方では、ヨータにトウモロコシ粉のポレンタを添えることも多いといわれます。パンを浸して食べるか、ポレンタと一緒に食べるかで、同じスープでもずいぶん印象が変わります。
途中で見つける、味の決め手
パンと一緒に、深皿で

ヨータは深皿にたっぷり盛り、厚切りのパンを添えるのが基本の食べ方です。Slovenian Kitchenのサラ・カリシュニクは、自分の家ではマッシュポテトを添えて食べるとも書いています。豆とじゃがいものスープにさらにじゃがいもを合わせるのは意外ですが、冬の寒い日の一食としては十分に理にかなっています。日本の台所なら、バゲットやライ麦パンがよく合います。
ベーコンのかたまりを一緒に煮込み、厚めに切って盛り付けの上にのせるレシピもあります。肉を主役にしたいときは、豚のスペアリブや燻製のソーセージを一緒に煮込むと、ごちそうらしい一皿になります。同じザワークラウトを肉と一緒に煮込む料理なら、ポーランドのビゴスも作ってみてください。酸っぱいキャベツの使い方が国によってどう違うかがよく分かります。
ベーコンを入れずに作れば、菜食向けのヨータになります。その場合はスモークパプリカを甘口のパプリカと半量ずつ合わせると、燻製の香りを補えます。オリーブオイル大さじ2で玉ねぎを炒めると、イストリア寄りの軽い味わいになります。
よくある質問

ザワークラウトが手に入らないときは何で代用できますか?
キャベツの浅漬けや、塩もみしたキャベツに酢を少し加えたもので近づけられますが、発酵による酸味とうまみはザワークラウトほど出ません。できれば輸入食品店や通販でザワークラウトを用意するのがおすすめです。
圧力鍋で豆を煮てもよいですか?
使えます。ひと晩浸した豆を、圧力鍋の取扱説明書にある豆の加圧時間に従って煮てください。やわらかさの目安は、指で押すと芯がなくすっとつぶれる状態です。
作り置きはできますか?
ひと晩おいたほうが味がなじむので、作り置きに向いています。粗熱を取ってからふた付きの容器に移して冷蔵庫に入れ、早めに食べきってください。温め直すときは、湯を少し足してから弱火で全体をよく温めます。
じゃがいもを入れないと、どうなりますか?
イストリア風のヨータに近くなります。豆とザワークラウトの味がはっきりして、とろみはやや弱くなります。とろみが欲しいときは、豆の一部をつぶして加えてください。












