濃い青菜のスープをお玉ですくって器に注ぎ、その上に炒め玉ねぎをのせ、温めた油で香りを出した乾燥ミントを回しかけ、最後に白く酸味のある乳製品をひと匙落とす。イランの家庭で見られる、器の上で香りを重ねていく手つきです。アーシュ・レシュテ(آش رشته / Ash-e Reshteh)は、豆と青菜と麺の濃いスープ。豆と青菜・ハーブに小麦の麺が加わり、深い緑色の鍋になります。
この記事では、日本の台所で作れる4人分の配合を紹介します。下準備は20分、加熱は約80分で、合計約100分。水煮豆を使うので、乾燥豆の浸水はいりません。仕上がりは、普通の澄んだ麺つゆとはまるで違います。豆と青菜がひとまとまりになり、お玉からゆっくり流れ落ちる濃さです。専用の麺が手に入らなければ、乾麺うどん120gで代用でき、乳製品は濃い無糖ヨーグルト100gを使います。ただし、元の料理と味が同じになるわけではありません。そして、麺は最後に入れるのがこの鍋の段取りです。
新年の食卓で、青いスープの鍋を囲む
ノウルーズは、春分の頃に祝うイランの新年です。西暦の日付が毎年同じというわけではありません。Ayeh Manfreが自分の家族の習慣として紹介しているのは、新年を迎える前の火の祭り、チャハールシャンベ・スーリー。そして新年13日目に屋外で過ごすスィーズダ・ベダルで、そこで食べるのがアーシュ・レシュテです。もちろん、これは彼女の家族の話で、家庭や地域によって習慣は違います。全国民が必ずそうする、というものではありません。それでも、屋外に人が集まる日に大きな鍋が真ん中に置かれる光景を思うと、新年の集まりの鍋というこの料理の顔が見えてきます。
春の祝い料理というと華やかな一皿を想像しますが、アーシュ・レシュテは寒い季節に温かく食べる濃いスープとしても紹介されています。ハーブをたっぷり煮込むので、鍋の中は深い緑色。豆と麺が同じ鍋に入っているため、汁物でありながら、一皿でしっかりした食事になります。祝いの席の料理であることと、普段の空腹を満たしてくれることは、この鍋の中で無理なく両立しています。栄養や健康への効果を語るより、湯気の立つ器を両手で包む場面のほうが、この料理には似合います。
「レシュテ」は、この料理に入れる麺のことです。英字では Ash-e Reshteh、Aash-e Reshteh などと書かれ、ペルシャ語では آش رشته と表記します。「アーシュ」は濃いスープを指す言葉として説明されます。厳密な語源や古代にさかのぼる起源までは、はっきりしていません。
テヘランから北へ、現地の山道で食べる一杯
料理家のHami Sharafiは、家族旅行の記憶としてこの料理を紹介しています。テヘランからイラン北部へ向かう途中、Kandovan Roadの長いトンネルの手前に、アーシュ・レシュテを出す小さな食堂があり、家族で立ち寄ったと本人が記しています。山間の空気は冷たく、そこで受け取る器の温かさが、いっそう身にしみたことでしょう。山道の食堂の温かい一杯は、祝祭の日だけでなく、旅の途中の体を温める食事としてもこの料理が親しまれてきたことを思わせます。
この鍋に、ひとつの決まった配合はありません。確認した家庭レシピでは、ひよこ豆、赤いんげん豆、ピント豆、白いんげん豆などの組合せがそれぞれ違い、ほうれん草、パセリ、パクチー、チャイブや青ねぎの取り合わせも異なります。Hamiのレシピには任意の骨髄が、Ayehのレシピには野菜ブロスが登場し、肉の有無も調理例によってさまざまです。州ごとに配合が決まっているわけではなく、家庭ごとに違う豆と青菜があると考えるほうが実態に近いでしょう。
Hami Sharafiは、母親がカシュクよりも酢を添える食べ方を好んだと記しています。これはあくまで特定の家庭の好みです。乳製品を別添えにしておけば、それぞれの器で酸味を調整できます。なお、酢を使うからといって、全材料がアレルギー対応になるわけではありません。
日本でそろえる麺、ハーブ、白い仕上げ
レシュテは、小麦でできた平たいスープ用の麺です。専用品を探すなら、アーシュ用と書かれたものを選んでください。米料理に使うレシュテとは別物なので、取り違えないようにします。日本向けの基本配合では、乾麺うどん120gを3等分に折って使います。ゆでうどんは水分量も工程も違うため、同じ量で置き換えることはできません。リングイネ120gも代わりになります。どちらの乾麺も、乾麺の表示時間を確かめるところから始め、スープの中では芯まで柔らかくなるまで煮ます。
青菜は量が肝心です。ほうれん草200g、パセリ60g、パクチー60g、青ねぎ30gで、合計350gを使います。ほうれん草は葉と柔らかい茎、パセリとパクチーは硬い茎を除いた重量です。青菜とハーブは合計350gあって、はじめてあの深い緑色になります。薬味として数枚そえる程度では、ハーブの量は再現できません。パクチーが苦手なら、その60gをパセリ30gとほうれん草30gに替えられますが、香りの種類は変わります。
白い仕上げに使うカシュクは、塩気と酸味のある発酵乳由来の食材で、液体や乾燥など形がいくつかあります。無糖ヨーグルトとは同じものではありません。基本の配合では、濃い無糖ヨーグルト100gとレモン汁10mlをそれぞれ別添えにして、酸味を各自の器で調整します。カシュクに替えるなら、液体50gを出発点にしてください。塩分、加熱、保存は商品表示に従います。代替品である以上、重量も塩も一律には決められません。
買い足す乾燥食材にも役割があります。レンズ豆は皮付きの緑か茶を選ぶと、粒の食感と煮汁の濃さが残ります。皮を除いた赤レンズ豆は崩れやすく、同じ食感にはなりません。ターメリックは、玉ねぎの油で短く温めて使います。乾燥ミントは、温めた油に香りを移して仕上げにかけるもの。生ミントだけでは、乾燥葉ならではの香りの強さや、油で温めた状態が変わってしまいます。なお、店名や国内の在庫、価格については確認できていないため、ここでは触れません。
基本レシピの乾麺は小麦を、ヨーグルトとカシュクは乳を含みます。乳アレルギーの方は乳製品を使わず、別添えのレモン汁を少量ずつ使ってください。乳糖不耐と乳アレルギーは同じ扱いにできません。輸入麺、乳製品、加工豆は、原材料とアレルゲン表示を確認しましょう。また、乾燥いんげん豆を水煮豆と同じ加熱時間で使うのは避けてください。
途中で見つける、味の決め手
濃すぎる、薄すぎるときの戻し方
完成時より冷めた器や、翌日の鍋は濃くなりやすくなります。具がまとまる濃さならよいのですが、へらを入れても動かない塊になってしまったら別です。麺と豆が十分に柔らかければ、加熱を引き延ばさず、濃いときは熱湯を足すのが近道です。熱湯を100mlずつ入れて、全体を均一に温めてください。
| 困った状態 | 戻し方 | 次に作るとき |
|---|---|---|
| 汁がほとんどなく固まる | 熱湯100mlずつを加え弱火で混ぜる | 麺の吸水後と盛り付け前に濃さを確かめる |
| 麺を入れる前に薄い | ふたを外し弱火で5〜10分煮てから麺を入れる | 調整用の水は最初に全部足さない |
| 麺が入った後も薄い | 豆を大さじ2すくってつぶし鍋へ戻し3分温める | 麺を長く煮てとろみを出そうとしない |
| 塩辛い | 無塩の湯を100mlずつ加える。乳製品・塩の追加を止める | 塩は麺が煮え、乳製品の塩分を確かめてから |
| 底が焦げる | 混ぜず、焦げていない上部だけ別鍋へ移す。苦味が広がったものは戻せない | 弱火と厚手鍋で、底から定期的に混ぜる |
| ミント油が苦い | 鍋へ入れず作り直す | 加熱20〜30秒後すぐ容器へ移す |
酸味についても同じ考え方です。レモン汁は4人分で10mlを別添えにして、一度に鍋全量へ入れないでください。酸味は器ごとに足すものです。酸味が強いと感じる器には、乳製品を食べられる場合に限り、無糖ヨーグルトを少量足します。全量に砂糖を入れて隠す方法は採りません。
同じ鍋から広がる五つの食べ方
豆の入れ替えや酢を添える食べ方は、現地の料理家の家庭レシピに見られるものです。一方、下の表にある具体的な置換量は、日本の台所向けの提案であり、特定の地域の伝統配合ではありません。豆は水煮の同じ重量で替えるのが基本です。
| 食べ方 | 4人分で替えるもの | 変わるところ |
|---|---|---|
| 白いんげん豆版 | 赤いんげん豆100gを白いんげん豆水煮100gへ | 色と豆の口当たりが変わる |
| パクチー控えめ版 | パクチー60gをパセリ30g・ほうれん草30gへ | 青菜の量は維持し、独特の香りは弱まる |
| リングイネ版 | 乾麺うどん120gをリングイネ120gへ | 平たい麺の形を残せる。表示時間を確認 |
| 乳製品を添えない版 | ヨーグルト100gを省き、レモン汁10mlを別添え | 乳のコクは減り、青菜と豆の味が前に出る |
| 冷凍ほうれん草版 | 生ほうれん草200gを冷凍200gへ | 洗って切る手間を減らす。加熱・解凍は商品表示に従う |
カシュクと乾燥ミントが台所に残ったら、なすを使うカシュケ・バーデムジャーンへ。ハーブをたっぷり使う別の煮込みに興味が向いたら、ゴルメ・サブジも覗いてみてください。どちらも味や材料が同じ料理ではありません。仕上げを別添えにするという点で、アーシュ・レシュテと並べて楽しめます。
保存と温め直し
大鍋が余ったら、食べない分は浅い容器に小分けして、速やかに冷蔵します。室温で鍋全体が冷めるのを何時間も待つのはやめましょう。目安は、4℃以下で、2時間以内に冷蔵すること。室温が32℃を超える日は1時間以内です。米国の公的食品安全サイトFoodSafety.govは、スープの冷蔵保存を3〜4日としています。家庭で温度や扱いを保証できないときは、早く食べ切ってください。まずは浅い容器に小分けするところからです。
| 保存方法 | 目安 | 温めるとき |
|---|---|---|
| 冷蔵 | 4℃以下で3〜4日以内 | 食べる分だけ鍋へ。水を少量足し均一に十分加熱 |
| 冷凍 | -18℃以下で品質目安2〜3か月 | 冷蔵庫で解凍して再加熱。麺は柔らかくなりやすい |
| 仕上げの乳製品 | スープと別に保管し商品表示に従う | 食べる直前に添える |
保存しているあいだにも麺は水を吸います。温め直しは、1人分につき水30〜50mlから始め、足りなければ加えてください。これは日本向けの提案です。作り置きを主な目的にするなら、工程4で食べる分と保存分を分けておき、保存分には食べる日に麺を加えます。麺を入れる前に取り分けるわけで、麺もそれぞれの分量に配分します。
冷凍したものを室温で長く放置して解凍しないでください。解凍は冷蔵庫で行います。電子レンジで温めるときは途中で混ぜ、中心が74℃以上になったことを確認します。鍋で温める場合も、全体を混ぜて十分に熱くしてください。保存日数だけで安全が保証されるわけではありません。保存条件を外れたものや、異常のあるものは食べないでください。
よくある質問
乾麺うどんを使っても作れますか
はい、乾麺うどんでも作れます。レシュテの代わりとして、基本配合は120gを3等分に折って使います。ただし、レシュテと同じ味や食感になるわけではありません。麺の塩分が煮汁へ出るので、塩は最後に少量ずつ加えてください。
カシュクがないと作れませんか
作れます。濃い無糖ヨーグルト100gとレモン汁10mlを別添えにしてください。プレーンで甘くないものを使います。カシュクならではの発酵した香りと塩気までは、再現し切れません。
辛い料理ですか
基本の配合に唐辛子は入りません。黒こしょう小さじ1/4の刺激と、ミントやターメリックの香りが主役です。辛さを足したいときは、完成した自分の器にだけ加えてください。家族全員の鍋へ一律に足すことは避けましょう。
レンズ豆は先に浸水しますか
今回の基本配合では、洗った緑または茶の乾燥レンズ豆80gを、そのまま20〜30分煮ます。製品が浸水を指定している場合は、そちらを優先してください。乾燥のいんげん豆やひよこ豆は、別の下処理と十分な加熱が必要です。水煮豆の工程で代用しないでください。
ヨーグルトが分離してしまいました
基本は器に別添えして、鍋で煮立てないことです。分離したものを、もとの乳製品の状態へ完全に戻せるとは言えません。見た目の粒が気になるときは、次回、温かいスープを少量加えて先にのばしてから使ってみてください。
前日に作れますか
作れます。豆と青菜を煮る工程4までを作り、安全に小分けして冷蔵し、翌日に十分加熱してから麺を入れます。翌日は麺を後から加えるのがこの方法です。麺入りで保存した場合も食べられますが、麺は柔らかくなり、水を吸います。味や食感が必ず良くなるとは言えません。
栄養の目安
全量を4等分した、無糖ヨーグルト版の1人分は、概算で410kcal、たんぱく質17g、脂質14g、炭水化物57gです。これは豆、麺、油の量から見積もった編集部の概算で、実測値ではありません。市販の麺や乳製品の種類、取り分け方によって変わります。カシュク版や乳製品を省く版には、同じ数字を当てはめられません。全量を4等分した概算として見てください。
豆と麺が入る一皿ですから、これだけで食事として成り立ちます。パンや米を添えるなら、主食がその分加わります。盛り付ける量で、食べる量は調整してください。なお、この栄養の数字から、病気の予防や改善、体重の変化を約束することはできません。












