器の底に、ほぐした鶏肉とこんがり揚げたトルティーヤの細切り、炒めたトマト、薄く切ったライムを一枚。そこへ煮立ったばかりのスープを注ぐと、湯気と一緒に柑橘の香りがふわっと立ちのぼります。トルティーヤがスープを吸ってしんなりする前に、さくさくのうちに一口。メキシコ南東部、ユカタン半島の州都メリダの食堂で親しまれているライムの香りのチキンスープ、ソパ・デ・リマ(sopa de lima)です。スペイン語で「lima」はライムの仲間の柑橘のこと。日本のスーパーのライムで、すっきりとした一杯に仕上がります。
メリダの食卓で、ライムが香るスープ

ユカタン半島は、メキシコの中でも独特の食文化を持つ土地です。マヤの伝統を受け継ぐ料理が多く、豚肉を香辛料とオレンジ果汁で蒸し焼きにするコチニータ・ピビルもこの地方の名物です。ソパ・デ・リマは、そのユカタンを代表するスープのひとつ。メリダ発のメキシコのニュースサイトPOSTAは、地域を象徴する柑橘リマが、このスープに独特の風味を与えていると紹介しています。
食べ方はシンプルです。器にほぐした鶏肉を入れ、熱いスープを注ぎ、揚げたトルティーヤの細切りとリマの薄切り、刻んだハバネロ唐辛子をのせる。辛さは各自が皿の上で調整します。スープそのものは辛くないので、ハバネロは食卓で好みの量だけ加えるのがユカタン流です。
ユカタンの「リマ(lima)」は、日本で見かけるライムとは少し違う柑橘です。メキシカン・カリブのリゾートを運営するロイヤル・リゾーツは、この地域で使われる「香りのよい甘いライムの一種」と説明し、メキシコのカリブ海沿岸やユカタンの市場で売られているとしています。
名料理人のレシピで、家庭の台所へ

今回のレシピは、メキシコ料理研究の第一人者として知られる料理人リカルド・ムニョス・スリタが、米国のAARPスペイン語版で紹介した配合をもとにしています。スープで鶏むね肉を煮てほぐし、別に炒めたトマトとピーマンを用意して、器の中で一人分ずつ組み立てるやり方です。具を器で合わせ、最後に熱いスープを注ぐので、トルティーヤのさくさく感とライムの香りが、口に運ぶ瞬間まで残ります。
このレシピでは、ライムをスープの鍋で煮込みません。果汁と薄切りは、食べる直前に器に入れます。柑橘の皮は長く煮ると苦みが出やすいので、香りだけを生かすための理にかなった手順です。メキシコの家庭では、ライムの薄切りを鍋のスープに入れて香りを移すやり方もあります。その場合も、香りが移ったら長く煮すぎないようにしましょう。
ムニョス・スリタのレシピでは、スープに「レカド(recado)」を溶かして味をつけます。レカドはユカタンの料理に欠かせない合わせスパイスやペーストの総称で、料理によってさまざまな種類があります。日本では手に入りにくいので、今回は乾燥オレガノとクローブで香りを補う家庭向けの調整にしています。
この料理に使える食材・調味料
ライムの香りを生かし、苦みを出さないコツ

ソパ・デ・リマで気をつけたいのは、ライムの苦みです。柑橘の皮を熱いスープに長く浸けると、白いわたの部分から苦みが出てきます。器に入れるライムの薄切りは1人1枚までにとどめ、食べ終わるまで鍋には入れないのが安全です。
鍋のスープにライムの香りを移したい場合は、薄切りを2〜3枚入れて3〜5分だけ煮立て、すぐに取り出してください。入れっぱなしにすると、時間がたつほど苦くなります。
トルティーヤは、市販のトルティーヤチップスで代用することもできます。ただし、塩気が強いものが多いので、スープの塩はやや控えめにしてください。自分で揚げるほうが、とうもろこしの香りがはっきり出て、スープを吸ったときの食感も軽くなります。
トルティーヤの細切りは、揚げたてより、網の上で5分ほど置いて油が落ち着いてからのほうが、スープを注いでもさくさく感が長持ちします。
もも肉で、野菜を足して — アレンジのしかた

鶏むね肉の代わりに鶏もも肉を使うと、むね肉よりうまみと脂が出て、こってりとしたスープになります。にんじんやセロリを加えて煮ると、野菜のだしが加わってやさしい味わいになります。
辛さを足すなら、ハバネロを薄切りではなく、スープの鍋に丸ごと1本入れて5分ほど煮て取り出す方法もあります。こうすると、辛さを抑えて香りだけをスープに移せます。ハバネロの扱いに慣れていない場合は、別皿で添えるだけにしておくのが無難です。
よくある質問

レモンで代用できますか?
レモンでも作れますが、香りが変わり、酸味もやや強くなります。ライムが手に入らない場合は、すだちやかぼすを使っても爽やかに仕上がります。どれも果汁は少しずつ足して味を見てください。
トルティーヤが手に入らないときは?
市販のトルティーヤチップスを砕いて使えます。塩味がついているので、スープの塩を控えめにしてください。
作り置きできますか?
スープ、ほぐした鶏肉、トマトの炒めものは、それぞれ別の容器に分けて冷蔵します。保存日数のはっきりした目安は示せないので、早めに食べきってください。トルティーヤとライムは、食べる直前に用意します。
辛くないですか?
スープ自体には唐辛子を入れないので、辛くありません。辛さは、別皿で添えるハバネロだけで調整します。
















