日曜の昼、アルゼンチンの家の裏庭では、レンガを組んだパリージャ(焼き台)の炭がようやく赤くなったところです。肉が焼けるまでには、まだしばらくかかる。待ちきれない家族や友人のために、焼き手がまず網にのせるのが、厚く切った円盤形のチーズです。表面がじゅっと音を立てて縁からこんがり色づき、オレガノと粉唐辛子をぱらりとふれば、中はとろりと柔らかい。アサードの始まりを告げる焼きチーズの前菜、プロボレタ(provoleta)です。
材料は、プロボローネというイタリア系のチーズ、オレガノ、粉唐辛子、オリーブオイルだけ。炭火がなくても、鋳鉄のグリルパンやスキレットがあれば、日本の台所で10分ほどで焼けます。崩さずに焼くための下準備がひとつあるので、そこだけ押さえてください。
カラブリアの移民が、アサードにチーズを持ち込んだ

プロボレタは、アルゼンチンで生まれたチーズです。スペイン語版ウィキペディアによると、生みの親はイタリア南部カラブリア州ロッサーノ出身のナタリオ・アルバ(1902〜1983年)。若くしてアルゼンチン中部コルドバ州の村アロージョ・アルゴドンに移り住み、乳製品の仕事に就きました。アルゼンチンにはイタリア系の住民が多く、アルバは二つの国の食習慣をひとつにしたいと考えたといいます。チーズはイタリア料理に欠かせず、肉はアルゼンチン料理の中心。それなら、イタリアのチーズをアルゼンチンのアサードに加えればいい、という発想でした。
スペインの食の専門誌エクセレンシアス・グルメによると、アルバが試行錯誤の末にこのチーズを完成させたのは1940年代のことです。円筒形のプロボローネを炭火にのせると、外側はかりっと、内側はやわらかくなる。名前はイタリアのチーズ「プロボラ」を小さく呼んだ形で、1955年には「プロボローネ・イラード(糸状に練ったプロボローネ)」としてアルゼンチンの食品規格に載りました。アルバは商標と製法を登録しましたが、2008年に「プロボレタ」は一般名として扱われることが決まったといいます。
プロボレタが炭火の上でも溶け流れないのは、「イラード(糸状に練る)」という製法のおかげです。スペイン語版ウィキペディアは、熱い湯の中でチーズの生地を練って伸ばすこの工程(イタリア語でパスタ・フィラータ)が、焼いても形が崩れないための欠かせない条件だと説明しています。モッツァレラやカチョカヴァッロも、同じ仲間のチーズです。
食べ方も決まっています。エクセレンシアス・グルメによると、昔ながらのプロボレタは家族で囲む日曜のパリージャで焼き、味付けはオレガノと粉唐辛子だけ。いまでは店ごとにハムや卵、ソースをのせた創作版も出ていますが、基本はオリーブオイルを少したらし、焼いたパンを添えるというシンプルなものです。スペインでアルゼンチン式の出張バーベキューを営むブラサス・イ・サボレスは、アサードを待つあいだの「胃をだますための一品」として、アルゼンチンの人たちが肉の前にプロボレタを楽しむ様子を紹介しています。
途中で見つける、味の決め手
焼き崩れを防ぐコツ

プロボレタづくりでいちばん多い失敗は、焼いているうちにチーズが溶け広がって、形がなくなってしまうことです。防ぐ方法は3つあります。表面を乾かしておくこと、グリルパンを十分に温めておくこと、焼いている間は触らないこと。ブラサス・イ・サボレスは、表面を乾かしておくと薄い膜ができて形を保ち、かりっと焼けると説明しています。チーズを網に張りつかせない工夫として、表面に小麦粉をまぶす方法も紹介しています。
炭火の網で焼く場合は、網に直接のせると溶けたチーズが下に落ちやすいので、小さな鋳鉄のスキレットや、アルミホイルを二重にして縁を立てた皿にのせて焼くと安心です。エクセレンシアス・グルメも、鉄の器にのせて焼く方法を挙げています。
チーズは冷蔵庫から出してすぐに焼くと、中心が冷たいまま表面だけ焦げます。焼く30分前に出しておくと、表面がこんがり色づくころには中もちょうどとろりとします。
ハムや卵をのせた創作版

エクセレンシアス・グルメによると、いまのアルゼンチンのバルやレストランでは、ソースや野菜、ハム、卵をのせたプロボレタも出されています。家で試すなら、焼き上がりに生ハムを2〜3枚のせたり、焼いたピーマンやトマトを添えたりすると、前菜からひと皿の料理に変わります。
同じ記事は、ペストソースと若葉、低温で火を通した卵を添えたレストラン仕立てのプロボレタも紹介しています。日本の台所では、半熟の目玉焼きをのせ、黄身を崩してチーズにからめるだけでも十分ぜいたくです。
よくある質問

モッツァレラやほかのチーズで代用できますか?
水分の多いフレッシュなモッツァレラは、焼くとすぐに溶け広がるので向きません。同じ糸状に練るタイプで熟成させたカチョカヴァッロなら、プロボローネに近い焼き上がりになります。
フライパンで焼けますか?
フッ素樹脂加工のフライパンでも焼けますが、熱の保ちがよい鋳鉄のグリルパンやスキレットのほうが、短時間でこんがりとした焼き目がつきます。フライパンの場合も油はひかず、しっかり温めてからのせてください。
辛さを抑えるには?
粉唐辛子を省き、オレガノだけで焼いてください。辛さが欲しい人は、食卓で各自がふりかけます。
アレルギーで気をつける材料は?
乳(チーズ)と、まぶす薄力粉に小麦を使います。小麦は省いても焼けます。添えるバゲットにも小麦が含まれます。













